現代2
カナデはフルートとピッコロをケースごと取り出し、エアキャップに包んで3個目の段ボールに優しく入れた。今後使うことはあるかわからないが、高価なものなので、大切に取り扱った。そういえば大学を卒業してから8年近く経つが、取り出したのは数えるほどしかない。友達の結婚式を祝う時に使ったが、今思い返せば、学費数百万円に対して、余興をとして数分使える技術を入手したと考えると、全然元を取っていない。
そんなことを考えているとドアのチャイムが鳴った。
ピンポーン
カナデ「はーい」
男「おーい、入れてくれ」
2番目の兄のケンジがやってきた。引っ越し用に余っている梱包資材を届けてくれることになっていた。鍵を開けてケンジを迎え入れた。小さな段ボールに布団を小さく縮められるビニールやガムテープ、梱包用のビニール紐が入っている。
ケンジ「さっき起きたばかりか?」
カナデ「うん。中々途中でゲームをやめられなくて、ついつい夜更かししちゃうんだよね」
年が一回り近く離れていることもあり、特に仲が良いわけでもなく、かといって、こういう時には何かと世話してくれる。カナデはこの関係性が心地よく、度々ケンジを頼ることがあった。
ケンジ「そういえば、先日実家に帰った際、面白いものを見つけたんだけど・・・。これ使うかな?」
そういって持ってきた段ボールの中から、クッキー箱くらいの大きさの綺麗に彫刻された木のケースを取り出した。開けてみせてもらったところ、アンティークのお香立てとわかった。
カナデ「昔は良くやったんだけどね、片付けるの面倒で今はあんまり使わないかな・・・。あ、そうだ」
何かを思い出したか、カナデは隣の部屋に駆けて行き、棚を開けて目的のものを探し始めた。ケンジは何も言わずにコートを椅子にかけ、買ってきたホットコーヒーを開けて飲み始めた。飲みながら、あったかいお茶を向かいの席に置いた。すると、ハンガーがケンジの体に当たった。
カナデ「これ使って」
そう言ってカナデはまた捜索に戻った。ケンジがハンガーを使ってコートを入り口に掛けた時に、カナデはお香を持ってダイニングに戻ってきた。
カナデ「湿気っているかもしれないけど、引っ越し前に使い切っちゃおう」
随分前に買ったと思われるお香を机の上に置いた。