第一話 赦されぬ罪は城と共に消ゆ
星空は知っていた。
己らの流す星々よりも、その者が流したものの方が多いことを。
星達が流していったものは、自分自身であった。
“城”の中で、ただただその“姫”は自分を流す。
可憐なる、白鳥の如き肌を濡らして。
赦されぬ、罪と共に。
自分の心を打つのは、遠くで感じる――愛おしき存在と、近くで感じる忌々しき痛み。
生ける世界が異なっていたとしても、この想いは城ごと持っていかなければならぬ。
誰にも、許されるものでないのだから。
薄れていく意識の中で、自戒の思いを鮮血へと変え、“最期の自分の城”の中に溺れる。
時代が違えば、世界が違っていたなら、自分が――――違っていたなら。
貫かれていく痛みと一緒に、その姫は苦悶に震え、妄想へと助けを求める。
鈍痛の後、退廃的な美を放っていた肉体は灼熱に放り込まれていく。
灼熱が、華奢な姫の体を灰へと還すのに時間はかからなかった。
焦げた灰になってなお、その灰すら残すことは許されず、灰は川へと流される。
やがて、姫は流されていく川の中で――自分を想う者の姿を思い浮かべた。
たったひとつの願いを、託して。
(私の愛すべき、ローラ。あなたは私のことなど忘れて、どうか幸せに――――)
幻想を生きた姫のその生は、受け入れがたいものであった。
それは、姫の末路が物語っていた――――。
太陽に照らされた、地図に無い町の、片隅にある学校。
チャイムが鳴り響くと、金髪の少女は欠伸をこらえながら椅子に座る。
時計は、午後一時を示していた。
学校の、昼休みの時間だった。
金髪の少女は、笑みをたたえながら後ろの席で眠っている、青白い肌の少女の額をデコピンする。
「ていっ」
突然迸った痛みによって、少女は目を覚ました。
「あにやっ!?」
反射的に頭を起こすと、少女は頭にのせていた一冊の本を指先に落とす。
「いたぁっ!」
「ふふふ、いい加減起きなよミラ」
どこか満足げに見える顔で、ミラに呼びかける少女。
「うぅ、ひどいよローラぁ、ご飯行くわけでもないのに起こしたりしてぇ。小指打ったし」
若干の涙目になったミラの頭をローラは手で口を抑えて笑った。
「ごめんねっ」
謝るローラの姿を見て、ミラは両手を擦り、頬を赤らめて言う。
「………ホットチョコレートと、毎日の登下校一緒でゆるす」
「いつものじゃん…………わかった、じゃ決まりね」
少し腫れた指先を絡め、ローラとミラは笑顔を浮かべた。
それは、二人が一時の幸福を噛み締めていることは、語るに及ばずであった。
“吸血鬼”、なんとも耽美的で悲哀に満ちた生き物なのでしょう。
多くの者が見るであろう、朝日に姿を現すこともなく、夕暮れと共にその幻想美の象徴たる不老の肉体を露わにする。
実に神秘的なヒールではありませんか。
息抜きがてらに、ゆるりと連載していく所存ですので何卒宜しくお願い致します。