探されものの猫
あっ!待って待って、置いていかないで!!
抱っこして連れてこられたホームセンターの床で叫びましたが、カートに乗せられ興味津々で回りをキョロキョロしている持ち主にただの猫のぬいぐるみの声は届くはずもありません。
あっという間にカートは見えなくなってしまいました。
僕は「ねこ君」ハチワレ猫のぬいぐるみ。
持ち主はサキちゃん、今3歳のサキちゃんの1才の誕生日プレゼントとして僕はやって来ました。
それから僕は何処へ行くにもサキちゃんと一緒でした。
今日はお父さんとサキちゃんと一緒にホームセンターに来たのですが物珍しいネジや工具に夢中な二人は、僕を落としたことに気付いてくれません。
気付かないまま二人はどこかに行ってしまいました。
僕はどうなるのかな?どうしたら良いのかな?
あちこち見て二人を探したいのに僕はぬいぐるみだから今見てる方しか見れません。
今見えている視界には二人の姿はありません。
心細い気持ちで横たわっているとふと誰かに持ち上げられました。
「猫のぬいぐるみを落とされたお客様ー?
猫のぬいぐるみを落とされたお客様ー?」
持ち上げたのはこのホームセンターの店員さんでした。
店員さんはしばらく探してくれましたがサキちゃんとお父さんは近くにいないようでした。
「大丈夫、きっと探しに戻って来てくれるからこっちで待っててくださいね」
そう言うと店員さんは僕をサービスカウンターに連れていってくれました。
以前、違うお店でサキちゃんと一緒に迷子になった時はサービスカウンターで迷子の放送を掛けてもらえましたが、今日は僕一人、放送など掛けてもらえません。
僕を探してくれるかな?ちゃんと僕を見つけてくれるかな?
財布やハンカチと一緒にサービスカウンターでサキちゃんを待ちました。
サキちゃん、サキちゃん、サキちゃん、サキちゃん。
しばらくすると遠くから女の子の泣き声が聞こえました。
「ねこ君、ねこ君、ねこ君、ねこくーん」
サキちゃんが僕を呼ぶ声です。
ここにいるよ!サービスカウンターだよ!
叫びたい気持ちでいっぱいでしたがやっぱり猫のぬいぐるみからは声は出せません。
そわそわと待っているとサキちゃんとお父さんがサービスカウンターに来てくれました。大泣きしながらこちらを指差すサキちゃんに店員さんが僕を手渡しました。
落とし物の受け取り手続きをするお父さんを横目に僕とサキちゃんは抱き締め合いました。
もう泣かないで。こうしてまた一緒にいれるんだから。
「うん、もう泣かない。ずっと一緒だよ!」
そう言って涙をぬぐうサキちゃんの手を僕はぎゅっと握りしめたのでした。
店員としてこの体験をしました。
お話に出来るかな~と思い、少し盛りましたが書いてみました。
ぬいぐるみと心が通じたような気がする瞬間てありませんか?
感想よろしくお願いいたします!