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戦慄のイクタベーレ ~敗退せし者達の母国奪還の軌跡~  作者: ユウキ
第十章 呪われし血筋
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第四話 ディーネに魅せられて

 かつて、これほど絶望した事があっただろうか? どんな困難も冒険だと言い笑い飛ばしてきたサラであったが、それは全て自身の手でなんとか出来たからだ。

 いや、失敗した事もある。死にそうになったのも一度や二度ではないが結局サラは一人(・・)だった。


 しかし、今回は違う。自分の力ではどうしようもならない。仮にディーネがいなかったとして、ディーネを庇う戦い方をしなかったら結果は変わってただろうか? 否 変わっていない。あの超スピードでは此方の攻撃が当たらない。

 それどころかあの突風で成す術なく体力が尽きていただろう……。


 得意の氷も効かない。氷系上級(レイザバル)でやっと足止めになったくらい。一つ希望があるとしれば、レイザバルで動きを封じ電光一文字突きで貫く事だが、このまともに動かない身体では無理がある。


 仮に動いたとしても、同じ攻撃は通じないだろう。情けない情けない情けない情けない情けないとサラの中で同じ言葉がスピーカーのように繰り返されていた。

 何が最期の最期まで朽ちるその時まで信じろだ……口だけで結果が伴っていないではないかと、彼女は胸中嘆き続けていた。


 それを他所に彼女の持つ槍をディーネは取り上げた。


「な、何を?」


 突然の事に驚く。


「ん?」


 ガーゴイルも訝しげな眼差し向けてきた。


「……サラは私が護る」


 ディーネが震えた声を上げる。


「む、無茶だ!」


 サラは立ち上がろうとがするが……。


「くっ!」


 身体が言う事を効かない。


「サンダースピアー」


 サラがよく叫ぶ言葉を口ずさんだ。

 槍を腹部の前でガッシリと確り持っていてが、やや引き腰だった。

 刃先から電撃が発せられガーゴイルに向う。それと同時に重い重圧がディーネを襲う。


「がはっ!」


 ディーネが吐血を起こす。思いの外、勢い良く発射されるものだから、彼女の手を滑り、腹部まで下がってきた。その刹那。


「キャー!!」


 叫んだ彼女は後方に吹き飛ばされた。ガンっと激突音を響かせ背部に激痛が走る。


「くぅぅ!」


 悲痛の呻きを上げたディーネは内壁にぶつかり凭れ掛った。放出していた電撃は、内壁にぶつかった辺りでやっと止まる。

 一方ガーゴイルは電撃の直撃を受け、呆然と立ち尽くしていた。

 否 立ち尽くしてなどいない。悠然と歩み寄って来た。電撃の流れに逆らい、自ら電撃の方に向かってくる。

 電撃の光により、より一層瞳を禍々しくギラ付かせ、正面に何も無いかのように歩を進めてきた。

 やがて電撃が止むが、直撃していた腹部は、何ともなっていない。


「バケモノが!」


 それを見たサラは吐き捨てるように言った。


 歓喜したい。

 強くありたい。

 奴を倒したい。

 奴を退けたい。

 ディーネを護りたい。

 もっと抵抗したい。

 もっと抗いたい。

 立ち上がりたい。

 足を動かしたい。

 腕を挙げたい。

 だが、そのどれも叶わない。

 気付くとサラの頬は涙で濡らしていた。


 情けなくて、

 弱くて、

 倒せなくて、

 退けなくて、

 護れなくて、

 抵抗できなくて、

 抗えなくて、

 立てなくて、

 足を動かせなくて、

 腕を挙げられられなくて、

 馬鹿らしくて、

 何もできなくて……。


 彼女は生まれて初めて屈辱を味わっていた。冷めた眼で物事を見ていた彼女が……。

 全てを傍観していた彼女がだ。それは今の彼女が二人(・・)だから……。

 今までは、賭ける生命は自分だけ、それ故、どんな困難も笑い飛ばして来た。

 しかし、今の彼女には賭けている生命が自分だけではない。

 それ故に屈辱の涙に顔を濡らす事になっていた。


「サラは言った……」


 壁に凭れディーネが痛みに堪え、悲痛に歪ませた表情をしながら呟き始めた。

 ガーゴイルは、今だ歩みを止めない。一歩一歩彼女等に近付く。


「私を泣かせる者は許さないと……」


 ユラりと彼女の身体が動く。ディーネは、身体の痛みに耐え一歩踏み出す。


「くぅぅ……」


 再び激痛で顔が歪む。それでも、また足が前に出る。ゆっくり一歩ずつ一歩ずつ、ガーゴイルに歩を進めた。


「でも本当は違う……」


 一つ一つの言葉を確り発しながら、ガーゴイルに近付いて行く。ガーゴイルも、また歩み寄ってくる。


「ほうーまだ動けるのか……」


 ガーゴイルの言葉を聞き流し、キッと睨み付けた。


「サラを泣かす奴は、この私が絶対に許さないっ!!」


 力強く吐き捨てた瞬間、大地を大きく蹴る。疾風のように速くといかないが、それでも力強く踏み込み走り出す。

 横たわるサラの傍らを駆け抜け、サラを想う気持ちが言葉となって……。


「サンダァァァスピアァァッッ!!」

 

 そして、力となる。

 こんな奴に負けたくない。屈辱的な思いをさせ、サラを痛め付けて……。そして、サラを泣かしてぇぇぇっ!! 

 彼女の心を表すかのように、彼女の想いを受け止めるかのように……。

 想いは力となり、爆発的に発せられた。サンダーランスの刃先が発たれるそれは、一際大きな波となる。


「っ!?」


 電撃はサラが今まで発してきたものより、遥かデカく力強い。誰よりも使い手であるサラが一番驚いていた。

 当然それだけ強い電撃となれば、かかる重圧も計り知れなくなる。ディーネは、槍を持つ右腕にありったけの力を籠めた。

 突き出された槍の柄は、ガッシリ彼女の脇に挟み込まれている。同じ過ちをしないよう、サラのやり方を思い出した結果だ。

 サラは必ず、脇に挟み込んでいた。彼女もまた同じ事を実戦する。


「くっ!」


 それをやったからといって重圧がなくなるわけではない。むしろガッシリ固定した事により、その負荷は全て身体に来る。

 それを歯を食い縛り耐える。勿論、歯を食い縛ったからといって耐えられる生易しいものではない。

 故に彼女は走り込みをしていた。身体に掛かる重圧を走り込みで相殺しようとしたのだ。


 だが、重圧の方が強くディーネは一歩二歩と後退ってしまう。其処でようやく電撃が止まる。また、その発せられた電撃はガーゴイルを直撃する。

 しかし、一瞬たりとも怯まない。悠然と歩き続ける。彼女の想いが込められ一撃も、(ことごと)くガーゴイルには効かない。


「ハァハァ……」


 息切れを激しく起こし、その様子を見る余裕はディーネにはない。息を整える方に無我夢中。

 いや、これくらいは何ともないだろうとは、予測していた。故にもう一度叫ぶ。先程より弱々しいが、それでも電撃を発するには十分だ。


「サンダースピアー!」


 それと同時に身体を反転。後ろを振り返る。刃先から電撃が発せられた瞬間、ディーネは跳ねた。

 彼女と同じように。友のサラと同じように……。


「見よう……」


 見よう見真似電光一文字突きと言いたかった。だが、言えない。


「キャーっ!!」


 それどころか、彼女の叫びが砦中に木霊する。電撃で吹き飛んだ彼女は、吹き飛ばされるがまま。サラと同じように前方に向き直し、槍を突き出す事ができない。

 つまり、それだけの風圧が彼女を襲っているのだ。この技はサラだからこそできる荒業なのだ。

 元々回復魔導士で。戦士として身体ができていない彼女には難しい技である。

 それでも必死に身体をもう一度反転させようと藻掻く。

 だが、無情にもガーゴイルを通り過ぎる。ガーゴイルの脇を通り抜け、その向こうにある内壁に激突。


「くはっ!」


 再び背部に激突が走る。その刹那! 


 プシューンっ!! 


 肉を斬り裂く音が響き渡る。ガーゴイルは蒼い血が吹き出した腹部を凝視し、呆然とした。何が起こったのか理解できなかったのだ。

 当事者であるディーネは、背部の痛みでそれどころではない。


 すれ違う時、確り刃先がガーゴイルの腹部を捉えていた。はぼ偶然に達する領域だ。初めて扱うサンダーランスだったのに関わらず……。

 いや初めてだったからこそ、後ろに放ったそれは、確り真後ろ(・・・)に放たれていなかった。


 故に狙いが反れ、ガーゴイルの右脇をすり抜ける事になる。反れていなかったら真っ正面から背面体当たりをしていただけに過ぎない。

 なんという偶然だろうか。なんという奇跡だろうか……。

 否 それは違う。彼女の想いがそうさせた、意思が結果をねじ曲げた、必然だったのだ。


「グハハハハ……」


 ガーゴイルの高笑いが木霊する。しばし呆然としてのに、突如笑い出したのだ。そして斬られた腹部が修復し出した。


「っ!?」


 サラは一瞬、自分の眼を疑う。つくづくバケモノだと感じる。

 決死の覚悟だったディーネの攻撃が意味を成さなくなっていた。凄まじい回復力である。

 それでもサラはそのディーネに魅せられ奮い立たされた。


「姫さんが此処までやるとは思わんかったぞ」


 余裕の笑みを見せディーネのいる内壁の方に振り返った。ディーネは痛みを堪え、毅然とした態度で、睨み付ける。


「では次は此方から……」


 クチバシをペロリと舐めるとディーネに向けて右手を突き出した。


「待てっ!」


 その時、サラの声が砦内を響かせた。


「ぅぅん?」


 ガーゴイルが右手を降ろし、再び振り返る。


「貴様! まだそんな力があったのか?」


 瞳がギラ付く。その瞳の中に、フラ突きながらも、立ち上がったサラの姿があった。立つ力もなかった筈なのに……。

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