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戦慄のイクタベーレ ~敗退せし者達の母国奪還の軌跡~  作者: ユウキ
第十章 呪われし血筋
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第二話 救いの女神

ブクマありがとうございます

 隅々まで清掃が施された王宮と比べ埃だらけ。


 隅々までピカピカな王宮とは大違いで黒々。


 内壁は所々ひび割れている有り様。


 私は父に手を引かれ、見知らぬ所を歩かされていた。


 普段暮らす王宮とは別の場所と錯覚してしまう場所。


 普段暮らす王宮と言うのは、此処も王宮で地下深く。


 しかし、時の彼方に忘れて去られたかのように感じた。


 母は言う。此処は王族しか知らぬ場所。


 そして父が繋ぐ。


 決して他の者には、教えるではない……と。


 幼い私にはわからなかったが、この時の彼等の表情は重苦しかったと思う。



 一歩一歩……また一歩と歩くその通路は、徐々に寒気を感じさせた。


 むせるような臭気は、喉をも侵し、吐き気が徐々に強くなる。


 ドクンドクンと心拍数が上がるのが、耳に届くかのようにハッキリわかった。


 第六感が叫ぶ。それ以上近付くな、それ以上近付くなと。


 それでも父は私の手を引き、拒む事が叶わない。


 やがて大きな空間に差し掛かった。


 臭気と寒気がより一層ヒリヒリと感じた。


 パチンと灯りが点灯する。誰かが部屋の灯りを付けた。



 その瞬間、膝がガックリ落ちる。今朝食べた物が逆流を起こす。


 嘔吐を繰り返し、遂には胃液まで吐き出す有り様。


 此処から逃げ出したい。


 今すぐ逃げたい。


 逃げたい逃げたい逃げたいにげたいにげたいニゲタイニゲタイニゲタ……イ。



 ドンッ! 



 肩に痛みが走る。


 上を見上げた。


 涙で霞む視界には、鬼の形相をした父が私の肩に手を置いているのが見えた。


 眼を背けるなっ! 確り見据えろっ! 


 普段は優しい父が怒鳴る。


 身震いした。かなり恐い。


 だけどその父より、この光景(・・)の方が恐ろしかった。


 ドス黒い血飛沫が広がった光景。


 話に聞く戦場のような光景。


 見た事がないが、その戦場より遥か地獄のよう感じる。


 血が乾き、黒ずんでいる。


 それだけではない蒼い(・・)のもある。



 また人が三人は入りそうな割れたカプセルのようなものがズラリ並ぶ。





 これは我が家系が抱え続ける十字架よ。


 と、母が言った……。








 ◆◇◆◇◆◇◆


 うつらうつらする中、次第に意識が覚醒した。


「くっ!」


 顔を歪ます。真っ先に感じたのお腹の痛みだ。


「何…こ…れ?」


 次に思ったのは手の痛みだ。天井から伸びる鎖に両手を拘束されていた。鎖の長さから座る事も叶わない。

 それどころか足も地に付いておらず、ぶら下げっている。地面から2mの高さがあった。

 ディーネはその格好があまりにも屈辱的だと感じた。


「ようやく眼を覚ましたか、姫さん」


 声が木霊する。何かの建物の中のようだ。

 天井から吊り下げられた鎖に両手を拘束され、背を壁にしたディーネが声の主を睨み付けた。


「グハハハハ……そんなに睨んで、恐い恐い」


 人を馬鹿にした高笑いが、また腹立たしいと彼女は感じた。ガーゴイルの喋る声が一つ一つ木霊しているのだから尚更だ。

 彼女はあの後、腹に一撃を食らって意識がなくなった。その後、見知らぬ所に連れて来られこの有り様。


「つくづくあんた馬鹿ねっ! さっさと私を殺せば良いものを」


 精一杯虚勢を張った。


「あんまり俺を挑発しない方が身の為だぞ」


 ガーゴイルの腰に携えている剣を抜き、切っ先を彼女の首もとに当てた。


「ふん! 殺りたければ殺れば良いでしょう」


 眉がこれまでかと、言わんばかりに吊り上がる。こんな時でも彼女のツンツンは健在。否、こんな時だからこそかもしれない。

 彼女は幼少の頃にゴロツキに拐われ、好いていたアルスが散々傷付くところを見てしまった。だから、もう自分の目の前で誰も傷付いて欲しくない。

 そんな想いが彼女に虚勢を張らせツンツンな態度にしてしまった。それがきっかけで、ツンツンが地になっいる。

 まあ今では彼女(・・)との出会いで少しずつ本来の自分を取り戻しつつあるのだが……。

 またツンツンのギャップでなのか、デレデレしだす一面を持つようになったのは、些か不明ではある。


「この状況では、死より辛い思いさせる事も可能なのだぞ」


 ペロリと自分のクチバシを舐め、嫌らしい眼付きで彼女を見詰めるガーゴイルは、剣をスーッと下に走しらせる。

 そのたどった軌跡に赤い液体が浮き出てきては、衣服を朱に染めた。


「くっ!」


 思わず顔を歪ます。痛みからではない。屈辱のあまり歪ませたのだ。衣服の谷間にあたる部分が少し斬られ、あと少し斬られてると露になってしまう。

 誰にも…アルスにすら見せた事のない神秘の部分が……。

 初めての相手が、よりによって青く光る気持ち悪い舌をベロベロするこんな奴に……。

 ディーネは激しく嫌悪の眼差しを向けた。


「姫さんの考えている事はわかるぞ」

「………」


 沈黙しガーゴイルを睨み付ける。


「この舌が青くて気持ち悪いと思っているのだろ?」


 ディーネの谷間に流れていく赤い雫を下からペロリと舐め上げた。全身に鳥肌が立つ。もう止めて欲しい。さっさと殺して欲しいと彼女はそう思い始めていた。


「……しなさいよ」


 ガーゴイルから眼を背け弱々しい声で呟く。


「何か言ったか?」

「…ろ…なさいよ……殺しになさいっ!!」


 言葉を一気に吐き出す。だが、その声は震えていた。


「グハハハハ……これからがお楽しみだろ」


 ガーゴイルは高笑いをしてディーネを嘲笑う。禍々しい瞳は、より一層彼女を恐怖させた。

 勿論殺されてる恐怖ではない。それ以上の苦痛にだ。彼女は必死に眼を背けるが、その度にガーゴイルは視界に回り込んできた。


「グハハハハ……そんなに、この舌が気持ち悪いか?」


 ベロリと彼女の頬を舐め回す。


「いやっ!」


 嫌悪のあまり、瞳に涙が溜まる。


「そうよ……」


 再び呟きだす。


「ん?」


 真正面から聞いてやろうとガーゴイルは一歩退いて剣を収めた。


「それが気持ち悪いのよっ! やめてくれないっ!!」


 精一杯強がり、ガーゴイルをキィ! っと鋭く睨み付けた。


「グハハハハ……気持ち悪いか……」


 更にガーゴイルの瞳が禍々しくギラつかせる。


「だがな……この俺が態々この所に来たのは、姫さん! 貴様の一族(・・)のせいだという事を忘れるな」


 淡々と語り聞かせる。


「なっ!」


 遂に彼女の瞳から雫が溢れた。屈辱や嫌悪からではない。

 彼女が……彼女等が代々背負っている十字架(・・・)からだ。それを今この場で、むざむざ思い出される。


「……何が目的よ」


 もう全てを諦めたかのように呟く。身体を脱力させ、視線をガックリ落とし、もう前を見る事も叶わぬかのように堕落していた。まるで抜け殻のように……。


「いささか遊びが過ぎたようたようだな……」


 哀れむような目線で彼女を見詰める。そしてゆっくり彼女から視線を外し語り始める。


「俺の目的は、貴様を拐う事でアルスエードどもが貴様を血眼になって探させる事だ……その為に態々貴様の護衛を生かしておいたのだ」

「……それでどうするつもり?」


 視線を上げず掠れた声で返す。


「探す際に隊はバラバラになるだろう……」


 瞳をギラ付かせ、ディーネを真っ直ぐ見詰める。


「其処で皆殺しにする……グハハハハ……グハハハハ……」


 邪悪なオーラが吹き出てきてるような錯覚がした。


「……狂ってる」


 呟くように吐き捨てる。


「そうはさせるかっ!!」


 その時、力強くそして心強い声が、この建物に木霊した。


(この声……)


 聞き覚えのある声にディーネは遂に視線を上げた。


「わぁー」


 パーっと彼女の表情が一気に明るくなる。救いの女神(・・)が現れたのだ。


「何奴だっ!?」


 ガーゴイルが驚き上がる。この場所がわかる筈がないのにと……。


「サラ? ……サラなの?」


 ディーネはまだ信じられないかのような面持ちで呟く。


「ああ……待たせたなディーネ!」


 ディーネに優しく微笑む。またそれが心強く感じた。


「サラぁー!!」


 嬉しさのあまり泣き叫んでしまう。ボロボロと涙が頬つたう。


「ディーネを……ディーネを泣かす者は誰であろと、この私が許さぬっ!!」


 キィ! っとガーゴイルを睨み付ける。


「ディーネだと? この女はロッカ姫さんではないのか?」


 サラの登場では驚いたが、それよりも、本来捕まえたかった相手ではないと気付き驚く。


「今更気付くのが遅いのよ。髪の色なんかんで判断するからよ」

「……まあ良い。タルミッタの姫さんでも分断してくれるだろう……それより貴様! 何故此処がわかった? この砦は結界が張ってあるのだぞ……易々と見つけられる筈がないっ!!」


 ガーゴイルがサラを怒鳴り付ける。


「感だっ!」


 キッパリ答えた。


「な、何?」

「あえて言うなら……貴様がシャルスの森をディーネを抱え飛んでいるのが、シャルス城の屋上より見えた……後は貴様が向かって方向に真っ直ぐ来ただけだ」


 そう彼女の瞳には、遥か向こうにいたガーゴイルを映していた。


「ば、馬鹿なっ! あの距離から見えるものか」


 ガーゴイルが吐き捨てる。


「馬鹿ねぇ……サラの視力は人間じゃないのよ」


 誇らしげにディーネが語り聞かせる。


「何っ!?」

「人間じゃないは余計だろ」


 サラが肩を竦めた。


「あら? サラは女神様じゃないの。人間じゃないわ」


 ディーネがにんまり笑いおどける。それだけの余裕が戻って来た……と言うより、それだけサラの存在が大きいのだ。


「くぅ!」


 サラはディーネを睨む。当然ガーゴイルに向けるそれよりは柔らかい。


「う、煩い!」


 と吐き捨てた。


「グハハハハ……」


 ガーゴイルが高笑いをし出す。二人共ガーゴイルを直視。


「まぁ良い……所詮は一人。片付ければ良いこと」


 再び瞳を禍々しくギラ付かせる。


「はっ!?」


 その瞬間、ユアンとガーゴイルの戦いがディーネの脳裏に蘇る。

 ガーゴイルの圧倒的なスピード、瞬間移動と言った方が良い速さ。ゼフィロスでも敵わないと感じさせる。それとあの超回復力。サラでも勝てないかも……。

 そう考えてしまい見る見る彼女の顔が青冷めていった。


「ん? どうしたディーネ」


 それを気にかけるサラ。


「に……げてサ…ラ」


 ディーネの声が震え出した。


「何を言う? ディーネ」


 サラが怪訝そうにした。


「コイ…ツには……敵わない」


 ディーネの脳裏ではユアンがやられるサマが何度も繰り返し再生されていた。


「グハハハハ……」


 その光景を嘲笑うかのようにガーゴイルは眺めていた。


「ディーネ…お主にとって私は何なのだ?」


 サラはディーネに語り聞かすように優しく話す。


「とも…だち……大切な大切な、掛け替えのない友達よ」


 掠れていたが、最後は力強く発した。心の底から友と思ってるからだ。

 聞き届けたサラは、何か熟慮するかのように眼を瞑る。

 そして、瞳を開き真っ直ぐディーネを見詰めた。


「私もお主を友と思っておる」


 優しく微笑み掛ける。


「うん…でもね。そのサラが傷付くのは見たくないの」

「ふむ…ではお主は私が信じられぬというのか?」


 サラいきなり真顔に変わる。だが、その瞳は真剣にディーネを見据えていた。サラも心の底から彼女を想っているからだ。


「……信じているよ……でも…」


 再び声が震え始め、瞳に涙が溜まり始めた。


「なら、最後の最後まで私が朽ちるその時まで私を信じろっ!!」


 渇を入れるかのように力強く吐き出した。


「っ!?」


 その気迫に気圧される。


「それにディーネ……」


 サラの表情はさっきと打って変わって和らぐ。


「……私がこういうピンチをどう思っているのか、よもや忘れたわけではあるまい?」

「……冒険」

「そうともっ!」


 サラが満面な笑みで笑った。かつて此処まで笑った事が彼女にあっただろうか……。

 否、初めてである。サラはサラなりに友を安心させようとしているのだ。

 いや、それだけではない。もう彼女の心の氷は溶け始めているのだ。あとは本人が気付くか否か……。

 サラは背中に携えてある槍を抜き放ちグルングルンと右手一本で回し、ガシっと掴んで構えた。


「窮地こそ冒険っ! いざ行くぞっ!!」

「グハハハハ……茶番は終わったか? ……まぁ逃げるとなっても逃がさないがな……グハハハハ……」


 瞳を禍々しく光らせ、ガーゴイルもまた剣を抜き放ち戦闘体勢に入った。

 こうしてディーネにとって忘れえぬ戦いの幕が切って落とされた。彼女にとって転換期となり、背負う十字架との向き合う事になる戦いが……。

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