第七話 ヤザンの死
徒歩数時間で聖王国ユグドラシルという所で、ヘルヘイムという小さな村に立ち寄った。
「俺達の旅も明日で終わりですね」
しんみりヤザンが呟く。
「ああ……半年なんてあっという間だな」
ジェリドが返す。
「でも、サラさんに俺の気持ちに応えて貰えなかったのが心残りですが」
「ん?」
「もう一度言います。貴女が好きです」
凄い真剣に言ってきたな。前回はさらっと言って来たのに。
「私は熱血アホーが嫌いだ」
「はっはははは……熱血アホー」
ジェリドがまたツボにハマってるよ。
「だからさ何で俺がいるとこで言うかな」
そしてボヤく。
「いや、流れ的にそうなりました。にしてもやっぱ振られましたか」
「これはこれは旅の方ですかね?」
と話していたら村の老人が話し掛けて来た。
「そうですが?」
ヤザンが返す。
「一つ頼みを聞き入れて頂けぬかのぉ?」
「何ですか?」
「あの山に……」
北の山を指差す。
「……盗賊集団が住みつき、山を降りてはこの村を襲うのです」
「本当ですか?」
ヤバいヤザンの奴、病気が始まる。
「ええ……」
「それを退治して欲しいのですね?」
やっぱり……病気が来るよ。
「頼まれてくれんかのぉ?」
「わかりました。任せてください」
ほら来た。
「は~」
私は溜息を溢し頭を抱える。態々自ら厄介事に首突っ込むなよ。ジェリドも同じ事を考えていたらしく、顔が引き攣っていた。
「じゃがのぉ……」
老人が話を続ける。
「まだ何か?」
ヤザンが訊き返す。
「旅の方らが山に行かれている間、入れ替わりに盗賊が来られたら、困るのじゃ」
「でしたら、一人残りましょうか?」
もう私やジェリドは蚊帳の外だ。口を挟む隙もなく、話が進められてく。
「おぉ…ではお主がその間、村を守ってくれぬか?」
「はい!命に代えましてもっ!!」
力強く応える。
この熱血アホーには困ったものだ。そして、ヤザンが此方に振り返った。
「……というわけで、お二人さん盗賊退治宜しくお願い致します」
頭を垂れて来る。
「ふざけるなっ!」
――お主が勝手に決めたんだろうが。
「はいはいわかったわかった……じゃ早速行って来ますよ」
行くのかよっ!?
ジェリドは了承し出す。
「お、お主……」
「サラ、愚痴なら後で俺が聞いてやるから、さっさと片付けて来ようぜ」
微笑しながら言ってきた。
「くっ!仕方無い」
「では宜しくお願い致します」
再びヤザンが頭を垂れる。
「じゃ俺らの荷物宜しくな」
ジェリドが自分の荷物をヤザンに渡す。続けて私も自分の荷物を渡した。
「ではお預かりします」
かくして盗賊集団の退治をする事になり、私とジェリドは西の山を登る事になった……。
「全くお主は、よくこんな一方的な依頼を受けたな」
早速愚痴を飛ばす。
「ん? ああ……あの熱血アホーを説得するのと盗賊を片付けるの、どっちが楽だと思う?」
あれからジェリドも時々、ヤザンを熱血アホーと言い出す。余程ツボにハマったのだろう。
「ヤザンを黙らせる方」
「ほーどうやってやるんだ?」
興味津々な態度で訊いてきた。
「特大の氷で眠らす」
「………」
一瞬で無表情に変わり黙り込む。
「これが一番手っ取り早い」
「あのーサラさん……それ説得と言いませんよ」
苦笑を浮かべながら返してきた。
「あんな熱血アホーなど説得する価値もない」
「身も蓋もねぇな……まぁ一理あるな。サラお前戻るか? 俺一人でやるよ」
「此処まで来たのだ付き合ってやるよ」
「……ほんと素直じゃねぇな」
ジェリドがボソっと呟く。
「ぅんっ!?」
すかさず睨む付ける。
「げっ!? ……え~お付き合いお願いします。サラさん」
未だに私を怖がっている様子だ。半年前の氷系中級が堪えたようである。あの後、炎系初級で氷を溶かしてやったのに……。
「言われなくても付き合ってやるよ…どうせ明日までだしな」
そう明日でこの二人ともお別れ……。
元の一人旅に戻るのだ。最後くらい我が儘に付き合ってやるよ。
「寂しいねぇ……明日で終わりなんて」
「そうか?」
「相変わらずクールだねぇ……ちっとは名残惜しめよ」
「生憎そんな思考回路は持ち合わせていない」
本当の事だ。私は目先の事が冒険かどうかで動く。こいつらといようがいまいが、目の前に冒険があればそれで良い。
「そいつは残念だ」
それっきりジェリドは口を閉ざし、淡々と山を登り続けた……。
やがて頂上に到着する。
「頂上に着いたが……おかしいな……」
ジェリドが呟く。
「ああ」
「盗賊集団どころか人っ子一人いやしねぇ」
「ああ……それに此処をアジトにしていた様子もないな」
そうこの山の頂上は木々で埋めつくされていた。アジトがあるなら、それなりの人工処理が施されている。
最低限木の上に家がある筈だ。だというのに、人工処理が施された形跡一つ見つからない。
「山…間違えたか?」
ジェリドが訊いてきた。
「あの老人は確かに、この山を差していたぞ」
「だよな……一度降りるか?」
「ああ」
△▼△▼△▼△
「よーにぃちゃんよ……荷物置いて失せな」
「貴方達は誰ですか?」
「うるせーっ!! さっさと荷物置いて失せねぇかっ!!」
「そうはいきません」
「んだとォ!……野郎共殺っちまえっ!!」
・
・・
・・・
「ハァハァ……手古摺らせやがって。ハァハァ……化物かっ!? 子分を半分以上失ったじゃねぇか!」
△▼△▼△▼△
私とジェリドは山を降りて村に戻って来た。
「……様子がおかしいぞ!」
ジェリドが異常な気配を察知する。私も感じた。村に入った瞬間、異臭が漂って来たのだ。血生臭い。
「サラ!あれを見ろっ!!」
ジェリドが村の奥を指差す。
「なっ!!」
人の死体が多量に転がっているのだ。直ぐにその場所へ向かい死体を確認する。
その数、ざっと見て二十は越えていた……。
そしてその中には……。
「ヤザンっ!!」
彼の死体もあった……。
それにジェリドが気付く。
「ヤ、ヤザンっ!! ……一体何があったんだっ!?」
私もヤザンの元に駆け寄った。
「どうやらヤザン一人相手に大勢で襲ったようだな」
ジェリドが冷静に分析している。今まで旅して来た奴が死んだというの、全く取り乱さない。
普段私にクールだと言ってるクセに、どっちがにクールなんだか。正直、この時の私は少々冷静差が欠落していた。
一面死体の山。その数、ざっと見て二十あると思われる。吐き気がする光景。吐き気がする異臭。常人では発狂する状況だ。
その光景を幾度と見てきた私は慣れてはいたが、一つだけ違っていた……。
其処にヤザンという今まで旅をしてきた者も混ざっていたのだ。私は呆然と立ち尽くしてしまった。
「おい!サラ」
ジェリドの言葉が私に届かない。否、届いているが反応できない。
「おい!サラ……何ほーけてやがる」
私の肩を鷲掴みして体を揺らす。それで、ようやく反応できた。
「あ…ジェリド……すまない」
「まっ!無理もないか」
ジェリドが肩を竦ます。
「一体誰が殺ったんだ?」
「おそらく此処にいる全員でヤザンを襲ったんだろうな」
「何故そう思う」
「こいつらを見ろ!全員斬られた跡がある。それに対しヤザンは斬られた跡、挿し跡、打撃跡様々だ」
「つまりヤザンはこいつらと乱闘したと?」
「たぶんな」
「よくまぁこんな人数を……」
つまりヤザンは一人で二十人倒したのだ。魔法が使える私なら別だが、彼には大勢に対抗する術はない。だというの良くこれだけ奮闘したと思う。
「少なくても三十は相手していたな……」
こいつはこいつで冷静に判断しているし。良くもまあこんな状況下で……。
「だが何故こんな事に?」
「まだそこまではわからない……とりあえずヤザンを葬ってやる」
そう言うとヤザンが抱え、村外れに移動した。そこでヤザンを一旦降ろし、穴を掘り始める。
私はその間、村の者達から情報を集める事にした。あれだけの乱闘があったのだ。目撃者がいる筈。
だが、ジェリドは……。
「無駄だと思うがな」
とポツリ呟いていた。
そんなの聞いてみなきゃわからない。私は村に戻った。
「彼処で何故乱闘が起きたか知らないか?」
適当な村人に声を掛けた。
「乱闘? なんのはな……うわっ!なんだあれはっ!?」
死体の山を見て大げさに驚く。しかも言葉が棒読みだ。
あれだけの乱闘があって、気付かない筈がない。気付かなかったとしても、これだけの異臭がすれば異変が起きてる事がわかる筈だ。だというのに白を切る。
「……何か知っているのだな?」
私は村人を睨み付ける。
「いや…そんな怖い顔されても知らないもんは知らないんだよ」
また棒読みだ。こいつと話して無駄だと思った。そう判断した私は次の村人に話かける事にした。
「乱闘? 何のはな……うわっ!なんだあれはっ!?」
次の村人も死体の山を見て大げさに驚く。しかも先程の村人と同じ事を言い尚且棒読みだ。
一体何なんだこいつらは? 再び次の村人に聞いても、同じ答え、同じく棒読みで返ってきた。
それと途中で気付いたが私達に依頼してきた老人の姿がない。何処にもいないのだ。
一体どうなっているのだっ!? ヤザンの死もあって、私の冷静差は欠け、思考回路が上手く回らなくなっていた。
やがて頭に血が昇ってしまう……。
「お主らぁー!あれだけの乱闘があったというのに気付かぬ筈がなかろーっ!!」
遂には槍を抜き突きかかろうとする。
「止めとけ」
後ろから肩に手を置かれる。とっさに振り返り、突き指す。
バシっ!
零距離だというのに、その槍が捕まれた。しかも素手でだ。何奴? そいつ顔を見る。
「あ、ジェリド……」
「あ、ジェリド……じゃねぇよ。お前らしくもない。落ち着けよ。いつもの氷のようなクール差はどうした?」
「いや……すまない」
私とした事が……何故こんなにイライラしてしまったのだろう?
「とりあえずこれしまえ」
ジェリドが槍から手を離す。
「ああ……」
槍を背中に携える。それにしても、こいつ一体何者なのだっ!?
平然とした面持ちで私の槍を掴み上げて。しかも零距離だぞ。例えド素人でも零距離となるとそれを掴むのは難しい。
私も例え素人相手でも、無理だと思う。このジェリドという男には驚かされてばかりだ。
「じゃ…村を出るぞ」
「し、しかし……」
「さっきも言ったが無駄だよ」
「なっ!? 何故そんな事……」
言葉に詰る。そんな事はもうわかっている。先程からの村人の態度見ていれば直ぐにわかる事だ。
だが、納得いかない。おかしな話だ。私の心はとうの昔に凍り付かせた筈なのに……。
「わかるよ……後で教えてやるから、とりあえずこの村から離れるぞ」
私の手を掴み引きずるように引っ張る。そうして私達は村を出て街道を歩き出す。
「旅人を襲う村があるっての知っているか?」
しばらく歩いているとジェリドがそう訊いて来た。
「いや」
「俺も噂でしか知らなかったんだが、村ぐるみで旅人を襲う村があるんだってよ」
「それがあの村だと?」
「恐らくな」
なんて村だ。今までいろいろ汚い事をやっている者を見てきた。だが、此処まで酷いのは今回が初めてだ。まさか村ぐるみでやるとは……。
地図は大体の目安です




