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戦慄のイクタベーレ ~敗退せし者達の母国奪還の軌跡~  作者: ユウキ
第九章 Cool of Minerva
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第六話 ヤザンの決意

 眼が覚めると、夕日が沈もうとしていた。ジェリドは既に起きていたらしく、弓の手入れを行なっていた。ヤザンは……熟睡中。


「起きたかサラ!おはよさん」


 弓から私へ視線を移し、にこやかに言ってきた。


「……ああ」

「ほんとお前愛想ねぇな」


 苦笑を浮かべ、弓に視線を戻す。


「それが私の性分だからな」

「ちっとクール過ぎると思うが……まぁ良いや、昨日はサンキューな」


 弓に視線を向けたまま言ってきた。


「ん?」


 ――何の話だ?


「ヤザンへのレイス(氷当て)だよ……お陰で盛り上がった」


 弓を空にかざし、絃を引きながら言ってきた。絃の張り具合を見ているようだ。


「よく言う……お主、全部計算済みだったろ」


 今思えば、私の行動も全て計算されていたと感じた。

 ジェリドがチラっと此方を見てくる。弓を降ろし絃を張り直す作業に移り出す。そして微笑を浮かべ……。


「いいや…ヤザンのアレは長年の間柄から、わかっていたがサラは別だ。むしろ不確定要素……場をぶち壊すじゃないのかとヒヤヒヤしたぜ」

「では聞くがお主は、私がヤザンを止めなかったら、どうしていた?」

「射抜く予定だった……だがお前が止めてくれた。弓だと、ちっと芸がない上に下手をすると、致命傷を与えてたかもしれんからな」

「だが、よくもまぁあんな事を……」


 ――大騒ぎさせる事で人間らしい感情を取り戻そうとするとは……。


「ああ……絶望の淵に立たされ時は、あれが一番なんだよ」


 絃を張り直しながら語る。


「そうじゃないっ!!……何故あんな弱者(・・)等の為にって言っておるのだ!」


 つい感情的になり、怒鳴ってしまった。

 ジェリドを驚き、作業を止めて此方を見てきた。そして真剣な眼差しに変わる。


「じゃあ何でお前さんは、その弱者を助ける為に海賊を一掃(・・)した?」

「それは……くっ!」


 唇を噛閉める。言い返す言葉が見つからない。

 何故?ああわかっている。あの時に気付いたではないか。私もコイツらと同類(・・)だという事を……。

 だけど認めたくない。所詮人間は自分が一番可愛いんだ。そんな事を言って偽善者を気取りたくない。

 私は……私は、常に“傍観する冒険者”でいたいのだから……。


「ん?騒がしいですね」


 今の騒ぎでヤザンが起きた。


「さっきの話はヤザンにはするなよ」


 ジェリドが耳打ちをしてきた。


「ジェリドさん、サラさんおはようござ……つーっ!!」


 ヤザンが突然頭を抱え込みだす。二日酔いだな。バカな奴だ。


「……昨日は飲み過ぎました」

「ホレっ!」


 ジェリドが水筒の水を差し出す。ほんと気が効く奴だ。


「あっ!すみません。にしてもサラさん酷いですなー…あんなに連発する事ないでしょう」


 ……コイツちゃんと覚えてたんだな。少し驚いた。


「ったく…お前がアホな事やるからだよ」


 呆れた口調で言うジェリド。


「まぁそれもそうですね……お恥ずかしい所をお見せして申し訳ありませんでした」


 私に軽く頭を下げてきた。


「そう思うなら二度とするな」


 そっぽ向いて返した。


「で、今はもう夜になるとこなんですね?」

「ああ…そうだな。じゃあ町の様子でも見に行くか」


 ジェリドが立ち上がる。


「そうですね」


 ヤザンも立ち上がる。仕方なく私も立ち上がった。

 町の人々は、ぶっ倒れるように寝ていた。ヤザンがどこからか、毛布を持ってきて、一人一人に掛けていた。

 恐らく燃え残ったのがあったのだろう。大半が一部コゲついていた。にしても律義な奴だ。

 ジェリドはというと、瓦礫の掃除を始めていた。そろいもそろって……バカな連中だ。

 しかし、認めたくないが私もコイツらと同類なんだよな……。

 所詮こんなの偽善だってのに。そう思いつつも、私はジェリドの手伝いを始めた。

 コイツらと旅をしてから、自分の嫌な一面を見るとはな。これじゃ傍観なんてできやしない……。

 そんな事を考えながら、瓦礫の掃除をしていると、町の人々が眼を覚ました。


「皆!もう過ぎ去った事だ!辛いだろうが、また一から始めよう」


 町民の一人が皆に声を掛ける。


「そうだな……よしやろう」

「旅の者達に次々に押し付けちゃ悪いしな」


 ジェリド効果ってやつか。自分で言っておいて笑ってしまう。本当に凄い変わりようだ。あんな絶望していた連中か……。

 結局、次の日の朝まで町の復興を手伝う事になった。変な時間に寝直した為に夜通しでだ。その間ずっと、何で私までと胸中ごちっていた……。


「にしても酷過ぎでしたね」


 町を出た後、街道を歩いているとヤザンがポツリ呟く。


「ちっとやり過ぎだね」


 ジェリドが賛同する。


「……仕方無いんじゃないか」


 だが私は違う。


「あれが仕方無い状況なのですか?」


 ヤザンが食い付く。


「人は皆、自分が可愛いのさ……自分の欲望のまま動く」


 私は常に一歩引いた眼で物事を見ていた。疾うの昔に私は知ってしまったから。人間の醜さを……。

 平気で子供捨てる。平気で人を裏切る。平気で人を卑下する。平気で弱者を痛め付ける。平気で……援助金を減らす。くっ!嫌な事を思い出した。


「理屈はわかりますが、俺は……俺の心が許しません」

「偽善だな。それに襲われる……いやなんでもない」


 弱者が悪いと言おうとした。ジェリドに言うなと言われたから止めたわけではないが、コイツにそれを言ったら面倒な事になりそうだ……。


「途中で止めないでくださいよ」


「いや……確に襲われ方が酷かったな……それだけだ」


 そう言って誤魔化した。


「ですよね……」


 バカで良かった。ジェリドが横で苦笑していた。


「で、なんですけど」


 ヤザンが真面目な顔になり続ける。


「ん?」

「どうした?」


 ジェリドも私も訊き返した。


「俺、騎士団に入団しようと思います」


 力強く言い放つ。


「はっ!?」


 また突拍子のない事を……。


「少しでも多くの、ああいう人達を守って上げたいんです」


 熱血ウザっ!ああ寒気がする。此処まで偽善の塊だったとは……。

 ああ頭痛い。眩暈もする。最悪だ。


「良いじゃないか」


 良いのかよっ!胸中ジェリドに突っ込んだ。


「やっぱりジェリドさんはわかってくれる思いましたよ……ありがとうございます」

「お前が決めた事だ……やって見れば良い」


 ジェリドがヤザンの肩を叩く。熱血コンビうざっ!


「サラさんはどう思いますか?」

「勝手にしろ……私には関係無いっ!」


 きっぱり言い放つ。


「相変わらず冷たいですね」

「で、何処の騎士団にするんだ?」


 とジェリド。


「それはやっぱり大陸の中心の聖王国ユグドラシルすね」

「おっ!デカくでたねぇ」


 ああ確かにコイツの()()()はデカいな……。


「そこまでお付き合い願えますか?」

「俺は良いが……サラは?」

「異論は無い……だが今まで来たルートを戻るのは止めろ。つまらん」


 私達は南下して来た。つまり大陸の中心に向かうには、北上しなければならないのだ。


「ユグドラシルまで約半年かかる……俺達の旅はそこまでだな」


 とジェリド。

 この大陸もそれなり広い。端から中心を目指すとなれば、それなりに時間がかかる。

 馬を使えば一、二ヶ月で着くかもしれないが。


「結構遠いですよね」


 ヤザンが呟く。


「ああ……サラとも其処で別れよう。元々一時的に旅してただけだからな」


 とジェリド。


「ああ…後半年、お前らに付き合ってやるよ」


 乗りかかった船だって奴だな。


「とかなんとか言って、本当は俺らと、ずっと一緒にいたいんじゃないんですか?」


 ヤザンがニカニカ笑いながら、戯けた事を言い出した。


『レイス』


 ドゴォーン!


 すかさず顔面に拳サイズの氷をぶつけてやった。


「すみません……でも、俺は一緒にいたいですよ」


 顔を赤くしながら謝りながら、何か言ってる。


「バカな事を言うなら相手考えろよ」


 ジェリドが苦笑しながら言った。


「本当の事ですよ。俺は何だかんだ言ってもサラさんが好きでしたから」

「はっ!?」


 思考が停止した。何を言ってるんだ?さっきから。


「……俺がいないとこで言えよ」


 ジェリドが呆れている。


「いや、流れでつい」

「残念ながら私は熱血は嫌いだ」


 とりあえず返事しておくか。まさか私を好きとか言う愚か者がいるとはな。


「……だろうな」


 ジェリドがボソっと何か言ってる。


「……Cool of Minerva」


 今度はヤザンが何かを呟く。


「ん?」


 今なんか言ったか?


「何だ?」


 ジェリドも首を傾げる。


「いや、サラさんの二つ名ですよ。Cool of Minerva……氷の女神。戦闘は可憐で美しくて強い。得意魔法は氷系ですし、更に本人、かなり冷たい人ですからね」


 また何戯けた事を……。


「ば、バカっ!冷たいな……」

『レイスっ!』


 ジェリドが言い終わらないうちに今度は拳二つ分サイズをぶつけてやる。


 ドゴォーンっ!!


「……言ってるとまた……って遅かったか……」


 ジェリドが呆れる。


「サラさんすみません……でも今の酷いです」


 顔を擦りなから言ってきた。


「誰が悪い?」

「はぁ…では、もっとまともなのを考えます……冷徹女神」


 だからそれを止めろって言うのに。


「おい…れ、冷徹って余計酷くなってんぞ」


 すかさずジェリドが突っ込む。


『レイス』


「わわわ……すみませんすみません」


 顔を背けながら謝ってきた。だが私は、今回はぶつけてない。


「えっ!?」


 ぶつけてない事に気付き、此方を見てきた。


「えぇぇぇぇっ!」


 驚愕の驚きを見せる。恐らく彼の視線の先は、私の左掌だろう……。

 私の左掌の上でフヨフヨ浮かぶ氷がある。だがその大きさは先程の3倍だ。


「す、すみませんでした。では、気高き女神。これならどうですか?」


 それを止めろというのがわからないのだろうか?


「相当焦ったな……サラには似合わない名を」


『レイス』


 コツンっ!


「いてっ!」


 ジェリドに右手から出した子石サイズの氷をぶつけてやった。そのサイズにしてやったのは似合わないというが事実だからである。

 だがヤザンにぶつける予定のは違う。左掌に浮かぶ氷は更に二倍サイズになっていた。


「げっ!え~っと……優しき女神……なんだかんだ言って優しいですよね」


 ヤザンは、冷や汗を滝のように流れている。


「確かに優しいかもな……でも甘く(・・)はないぞ」


 そう言いながら、左掌に魔力を籠める。人間やればできるもんだな。流石に自分でも、このサイズになるとは思わなかった。

 今まで大きさには拘っていなかったからな。私の左掌の上に浮かぶ氷が人間(・・)サイズになっていた。


「え~サラ様……その氷どうするのでしょうか……?」


 冷や汗の滝の流れが更に速くなる。()まで付けたって無駄だ。お前の運命は変わらない。


「……こうする」


 その氷をヤザンの足に落としてやった。


「いって~っ!!」


 氷が当たった右足を手で抑え、もう片方の左足で跳ねる。良いざまだな。


「ふっ……ではお主にも良い名を付けてやろう。……熱血アホーだっ!」

「はっははは……」


 突然ジェリドが爆笑し出す。


「当ってる当ってる……ピッタリだぜ」


 ジェリドが涙目になりながら、腹を抱えている。熱血アホーがそんなにツボにハマったか?わからん奴だ。


「二人とも酷いですよ……サラさん、そんなに気にいらない二つ名でしたか?」


 ようやく痛みが引いたのか、足から手を離していた。


「ああ……後半がな」


「へっ!?……後半って女神?」


 ヤザンが間の抜けた声を上げる。


「ああ」

「「そっちかよっ!」」


 二人のツッコミがハモる。


「氷やら冷徹やら、ピッタリじゃないか」

「いやサラ、女神も結構似合うと思うぞ」


 ジェリドまで。


「ですよね」


 ヤザンが頷く。

 こぉいぃつぅらぁーっ!!

 私はヤザンの腕を掴む


「へっ!?」


 続けてジェリドの腕を掴む。


「えっ!?」


 その二人の腕を交差させた。


『レイガ』


 ピキピキ……!!


「「げっ!!」」


 二人の腕が凍り付きお互いの呻き声がハモる。


「しばらくそうしてろ!」


 にしても中級魔法を詠唱破棄して疲れた。








 ―――――


「サラ……やり過ぎだよ」

「……容赦がございませんね」


 ディーネとロッカが呆れた口調で言ってきた。


「そっか?」

「二人共可哀想だよ」

「戯けた事を言うからだ」

「そうかな?氷の女神ってサラにピッタリじゃない……なんで女神をそんなに嫌うの?」

「嫌ってるわけではない。女神だの大層な名は私に似つかわしくない」

「は~……似てる似てないではなくイメージの問題よ」


 溜息一つ溢し、更に呆れた口調で言ってきた。


「女神とは崇められる存在だ。私は崇められるような大層な人間じゃない……むしろ逆だ」

「そっかそっか……サラがそう考えるのは当然かぁ」


 何かを悟ったかのように納得するディーネ。


「それにしてもサラも隅に置けませんね。ふふふ……」


 ロッカが扇子を口元に当て優雅に笑う。


「そうだね。サラでも好きって言ってくれる男がいるなんて」


 ディーネもそれに乗っかってる。


「それはどういう意味だディーネ?まあ確かに私は人とあまり関わらないようにしてたけど」

「ごめん。でもサラの良さを知ればきっと誰もが好きなってるよ」

「言ってろ」

「それでヤザンって方は我がユグドラシルの騎士団に入団する事を決意するのでございますね」


 ロッカが話題をがらりと変えてきた。


「……ああ」


 少し歯切れが悪く言ってしまう。何故ならその後の彼の事を知っているから……。


「しかし、五年前くらいに剣士が入団したって話は聞いた事がございませんね……確かあの時、ジェリドが入団して……はっ!?」


 ロッカは気付いたようだ、

 ディーネも同じく気付いたようで見る見る顔が青冷めていく。


「……恐らくお主らの考えている通りだ」

(わたくし)はあの時は“友の意思を継いで入団した”とお伺いしました」


 ロッカは顔を歪ます。


「……ああ」


 私は眼を瞑り静かに答えた。


「それってやっぱり……」


 ディーネの顔が陰る。


「ディーネも知っていたのか?」


 ディーネはタルミッタの王女だ。ユグドラシル騎士団の事まで知ってるとは思わなかった。


「ええ……私はユグドラシルの分家という事もあって、度々ロッカ様にお会いしていたので、その際にお伺いしていたわ」


 顔を青冷めたまま言う。


「サラ、最後までお聞かせて頂けますか?」


 ロッカもディーネ程でもないけど、少し青冷めていた。


「宜しいのですか?」

「丁寧な言葉は止めてくださいと言いましたよね?」


 こんな時まで……。


「良いのか?ロッカ」

(わたくし)はジェリドに何度も支えて貰いました。それなのに(わたくし)が彼の事を何も知らないというわけには参りません。彼の抱えているモノを(しか)と見て、彼と向かい合う責任がございます」


 気丈にそう言った。


「わかった。だが、ディーネは……」

「サラ、私にも最後まで聞かせて」


 まだ青冷めているだろうに。


「良いのか?」

「昔の話を聞かせてって言ったのは私よ?」

「ふ~……わかった」


 息を一つ吐き静かに応える。

 そして、コーヒーで口を湿らす。


「あれは……奴が入団を決意してから半年後の事だ。聖王国ユグドラシルが目前に迫っていた……」

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