第七話 サラvsゼフィロス
港町マークスからライアーラ領に続く、スパイシーロードでは激しい死闘が繰り広げられていた。対峙するは冒険家サラと謎の剣士ゼフィロス。
ゼフィロスを雇ったと思われる盗賊達は巻き込まれまいと離れた所から見物する。
そしてマンデと名乗る謎の少女も離れ木の陰から目尻を吊り上げサラを見守っていた。
(あれを使うしかないか)
サラが胸中呟くと大きく息を吸って吐き出した。
『星々よ、我が呼び掛けに応えよ!闇をも凍り付かせる……』
「魔法の詠唱か?そうはさせん!」
ゼフィロスが間合いを詰める。それに対しサラは魔法の詠唱をしつつ剣をぶん投げながら後ろに下がる。
ヒューン……カーンっ!
「くっ!」
ゼフィロスが飛んで来た剣を弾くが詠唱する時間を与えてしまう事になる。
『……鳥魔よ!我が力とならん!……ダイヤモンドダストーっ!!』
サラは両掌を前に突き出す。
「ダイヤモンドダスト?(そんな魔法あったか?)」
ヒューンっ!!
ゼフィロスが疑問に思った事で対応が遅れてしまう。
サラの両掌から人が3人乗れそうな大きさの氷鳥が解放され、鳥は真っ直ぐゼフィロスに向かった。
「(……ってこれはレイザバルだろ!?)しまったー!!」
ゼフィロスが胸中呟いた通り、これがレイザバル。氷系最強の上級魔法。
魔導士は本来、魔法の名前は変えない。名前を変えてしまうと、これもまた身体に負担が来るからだ。まあ詠唱破棄よりは全然マシだが。
しかし、わざと魔法名を変える者もいる。それは魔法を少し齧った者に使う事により、一瞬怯ませる効果があるからだ。今のようにそんな魔法あったのか?といった感じで。
という理由は述べたが実はサラは、ただ単にダイヤモンドダストのが格好良いからという実にくだらない理由で魔法名を変えていたに過ぎない。
ヒューン……ピキピキ……っ!!
レイザバルの氷鳥が判断が遅れたゼフィロスを貫き、彼を凍り付かせた。
「ハァハァ……くぅー……ハァハァ……」
未だに肩で息をするサラの視線は凍り付いたゼフィロスから離れない。
「何あんなのに手こずってるのよ!?」
マンデが走ってサラの元へ駆け寄ってきた。
「……まだだ」
サラがマンデに来るなと言わんばかりに右手を翳す
「えっ!?」
「こんなもんで倒せる相手ではない!」
「その通りだ!」
氷の中から声が響く。
「くっ!やはり……」
『ファイ』
シュゥゥゥ~……!
「こやつも魔法を使えたか……」
サラが言った通り、ゼフィロスは魔法を扱えた。このファイと呼ばれる初級炎系魔法で氷を溶かす。しかも詠唱破棄だ。
つまり、中級や上級を扱えると予想される。まあ実際にはゼフィロスは炎系と、後もう一つの系統の初級しか扱えない。だが中級を覚えるより、その初級を使いこなす鍛錬をしていた為に詠唱破棄しても身体にさほど負担は来ない。
やがて氷は溶け、ゼフィロスがその姿を現す。
「良いものを見せて貰った。今度はこっちが良いもんを見せてやる……『ライ』」
詠唱破棄で雷系初級魔法を唱える。
「くっ!」
サラが雷が頭上に落ちて来る事に備え身構える……が、
ズドーンっ!
雷が落ちたのはサラの頭上ではなく、ゼフィロスの紅い刀身の剣にだ。そして落ちた魔法が吸収される。この剣は魔法剣を可能にする特殊な剣だったのだ。
『靁鳳の太刀よッ!!』
ズビューンっ!!
「ギャーっ!!」
ビリビリ……バタンっ!
靁鳳の太刀など大層な名を付けているが、これは雷鳴剣と呼ばれる闘気による斬撃に雷を乗せて飛ばす技。
その直撃を受けてサラは倒れてしまい、そのまま気を失った。
「サラーっ!!」
マンデが駆け寄りサラの肩を抱き揺さぶる。
「ちょっとサラ、起きなさいよ。ねーサラってば……」
やがて吊り上がっていた目尻が和らぎ、マンデは微笑を浮かべる。
「此処まで、こんな私を良く逃がしてくれたねサラ。礼を言います……ありがとう。でももう良いのです。さようなら」
彼女の眼差しは慈愛に溢れ、美しい瞳だった。これが本来の彼女なのかもしれない。
『星々よ……彼の者を彼の地に誘いたまえ……ソウテン』
マンデが転移魔法を唱えるとサラの下に魔法陣が浮かび上がる。その魔法陣が徐々に上に昇り、サラを包み込みと彼女は消えていなくなった。
「サラとか言う女は一体なんだったんだ?」
盗賊達が寄ってくる。
「知るかよ。まあ良いじゃねえか。この女を連れ戻せるんだから」
「にしてもこの女、妙な技使ってたな」
「バーカ!あれはソウテンっつってな。対象あるいは自分を転送する時空魔法だよ…って言ってる場合じゃない。さっさと魔法を封じる枷をハメないと。サラが外すから余計な手間が増えた」
盗賊はマンデの腕に魔法を発動できなくする枷を嵌める。
盗賊が言った通り、ソウテンは時空魔法。それも初歩で極僅かにしかいない時空魔法の使い手以外でも使えるとされる……と言ってもやはり習得するのは困難な魔法。
「へえ~…ってゆかなんでその魔法で2人で一緒に逃げなかったんだ?」
「知るかよ。まあ大方魔力が足らなかったんだろ?だがそれなら自分だけ逃げれば足枷のないサラとか言う女は一人で勝手に逃げられだろうに……」
残念ながらマンデにはそこまで頭が回ってなかったのである。
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・・
・・・
マンデを連れ戻した盗賊は彼女を牢屋に放り込み一息付く。
しかし、それも束の間。日が沈みかけた頃、一人の盗賊がアジトに飛び込んで来て叫ぶ。
「おい!イクタベーレの王太子御一行がこっちに向かってくるぜ!」
「ほんとか?」
「ああ、スパイシーロードを通って来てる」
「ククク……奴をバルマーラに売れば良い金になるぜ。行くぞ野郎共っ!!」
「「「「「おおーっ!」」」」
「おい!ゼフィロス行くぞ!!」
「先に行け……俺は後から行く」
「けっ!読めねぇ野郎だぜ」
盗賊達は、数人の見張りを残し出て行った。
マンデは相も変わらず目尻を吊り上げている。まあ捕らわれの身なのだから当然なのかもしれないが、これから先を考え恐怖するという事は彼女にはないのだろうか?
彼女が囚われている牢屋にゼフィロスがやって来た
チャリーン!
と金属が落ちる音がし、マンデは視線をそこにやる。
「はっ!?」
床には鍵が転がっていた。牢と手枷の2本の鍵が輪っかに括り付けられている
「あんた、なんで私を助けるのよー!?」
それが助けてもらう態度かよと言いたくなる程キツイ口調だ。
「逃げたければ、勝手に逃げろ」
「あんた!あの盗賊に雇われていたんじゃないの?」
「ああ…だが俺は本業に戻る。よって此処ともおさらばだ」
それだけ言い残すとゼフィロスはさっさと去って行った。
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「あの女がまた逃げたぞー」
「追えーっ!」
「頭にバレたら大変だぞ。早く捕まえろーっ!!」
見張りに残っていた盗賊が慌ててアジトを飛び出し再び脱走劇が始まる……。
う~む。
主人公たちがなかなか登場しないですね。




