第四話 ジェリドとヤザン
出逢いとは突然にやってくるもの……。
私がライアーラ王国より西の方をを旅して時だった。
弓使いジェリドと剣士ヤザンと出逢った。
とある街道を歩いていると、一人の男が大勢の山賊と戦っていた。
数を考えて男の方が不利だ。
私は気まぐれで、その男に加勢した。
そもそもこれが間違いだったのだ。
この男がヤザンである。
私が加勢しなくても、ジェリドが現れて問題無かった……。
余計な事をしてしまったと思う。
◆◇◆◇◆◇◆
「では、六年前にジェリドと旅をしていたのでございますか?」
ロッカ様がサンドウィッチを何口か食べた後、訊いて来た。
「大体そのくらいになりますロッカ様」
「ロッカ」
また拗ねたようにそっぽ向く。
「意外に子供っぽいのですねロッカ様」
「はい私は、まだまだ子供です。それよりロッカとお呼びください」
「ロッカ様はサラを困らせ過ぎですよ」
ディーネが横から口を挟む。確かに困る。
「は~……わかりました。ではロッカと呼ばせて頂きます」
溜息混じりに私は応えた。
ロッカは再び此方に向き直す。
「それとこれは命令です。今だけは、その丁寧な物言いを止めてくださらない?」
「はい?それはいくら何でも……」
私は戸惑う。いくら何でもそれは出来ない。
「昔の話を語ってくださるのは嬉しいのですが、丁寧な物言いで語り易いですか?」
「……いえ」
ほとんど私が一方的に話す事になるのだ。丁寧に話してるのは確かに面倒である。
「なら今だけで構いません。出来れば友人となり、ずっと普通に話して頂きたいとこですが」
「わかりました」
子供じみてるとは思ったが、友人になれと命令しないだけ分別はあるようだ。
「それなら友人になれと命令すれば良いのに……」
ディーネのが子供だった……。
「アルス様のお言葉を拝借させて頂くなら、それではバルマーラと何ら変わりません」
確かにそうだが、極論過ぎないか?ロッカ。
「……そうですね」
しぶしぶ納得したようだ。
「では続きを話しします…いえ話す。あいつとは唐突な出逢いだった……ライアーラより西のとある街道を歩いている時だ……」
――――――
ライアーラ王国より、西にあるミスリル街道と呼ばれる道を通っていた。ミスリル街道は、ライアーラ王国のスパイシーロードと同じく治安が悪く無謀地帯だ。
もっともスパイシーロードの治安が悪くなったのは、この戦争が始まった時からだが。
この地域は山々に囲まれていて、山賊がのさばり、ミスリル街道を通る旅人や商人はその山賊に、よく襲われていた。
私はその事を知らずに通っていた。そういう情報は一切聞かないようにしている。何故なら……。
―――それが冒険だからだっ!
だが、もし知っていたなら、あいつに加勢しなかっただろう。そんな街道を通る奴が悪いのだから……。
そう知らないが故に私は加勢してしまった。ただの気まぐれでもあったが。
一人の剣士の男が大勢の山賊に囲まれていた。私はその中に割って入った。
「楽しそうな事やってるな……私も混ぜてくれないか?」
私は確かそんな一言を言っていた筈である。
「よーねぇちゃん!ちょっと待ってな……後でじっくり相手してやるから…ヒッヒヒヒ……」
山賊の一人が、嫌らしい笑みを浮かべ、そう言ってきた。虫唾が走る。
ブスっ!!
真っ先にそいつを槍で突き刺していた。
「ぐはっ!」
バタンっ!
そのまま伏してしまう。
「てめぇ!何しやがる」
山賊達が私を睨みだす。
「最初に混ぜてくれと言った筈だけど?」
私はそう答えた。
「舐めてんのかっ!!」
「それ汚いから」
「うるせーっ!!」
ブスっ!!
鬱陶しいので黙らせた。
「てめぇっ!!」
次々に山賊が襲いかかってきた。剣士は唖然とその光景を見ている。
「……加勢してやる」
山賊に応戦しながら、声を掛けた。
「えっ!?あ…助太刀感謝致します」
なんというか硬い物言いだ。
そして、二人で山賊達を相手にする事になった……いや、三人だった。
ブスっ…バタン!
ブスっ…バタン!
ブスっ…バタン!
ドミノ倒しをするかのように、遠くの方から此方に向かって山賊が倒れてきた。
と言っても次々に押されて倒れたわけではない。一人一人順番に射ち倒されていったのである。
ただそれが早過ぎて、まるでドミノ倒しに見えたのだ。
そして、倒れた山賊の向こうに弓を構えた一人の男が立っていた……。
「なーに楽しそうな事やってんだ?俺も混ぜろよ」
山賊達をドミノ倒しにした弓使いが私と似たよな台詞を言いながら、微笑を浮かべていた。
「ジェリドさん!遅いですよ」
と剣士。
「わりぃな……で、そっちの槍使いのねぇちゃんは?」
なんというか、こっちは軽い物言である。
「はっ!…助太刀してくれてるんですよ」
剣士が山賊の一人を斬り倒しつつ言った。
「そいつは、ありがとうな」
と言いつつ矢を射抜く。
「……気まぐれだ」
私はそう答える。にしても数が減らない。既に十は倒したというのに、私や剣士を囲んでいる。弓使いが倒した一列を除いて……。
「ふん!」
私は弓使いが開けてくれた道に走り込み、途中で槍を地面に突き刺した。
そして、槍を掴んだ手で体を支え、回転しながら蹴りを繰り出す。
「がはっ!」
「ぐほっ!」
群がった山賊を一気に蹴散らした。
「ほー」
弓使いが感心している。
「くっ!こいつら強過ぎだ」
山賊の一人がボヤく。
「てめぇらは下がっていろ」
「か、カシラ!」
山賊達が下がりだす。どうやら頭のご登場だな。
「俺様が相手になってやるよっ!!」
それは大剣を持った大柄な男だった。
「はっ!」
真っ先に私が突き刺した。手応えあり。右肩に突き刺さる。だが……。
「効かねぇーな!」
確かに今突き刺さった。出血もしている。だというのに一歩も引かない。
それどころか、大剣を振り降ろしてきた。とっさに真後ろに飛ぶ。
次の瞬間、それを狙っていたのか、弓使いが矢を射抜いた。
数は二本。同時射ちである。同時射ちなんて、そうそうできるものじゃない。さっきのドミノ倒しといい、こいつはかなりの手練れだと感じた。
その二本の矢は左と右、両方の肩に刺さる。右肩は私が初撃を与えた所だ。
だが、まともや出血しているというのに効いている様子がない。
「効かねぇっつってんだろ!」
そう言いつつ両肩の矢を引き抜く。私はその隙を見逃さない。
「はっ!」
再び突き刺しに……。
次は頭部だ。しかし一歩下がられ、ギリギリの所で避けられた。私はその槍を真下に降ろす。
「死ねぇっ!!」
頭はチャンスだと言わんばかり、踏み込んで同時に大剣を振り降ろした。だが、残念ながら隙を見せたわけではない。
槍は地面に突き刺し、棒高飛びの要領で真上に飛ぶ。次の瞬間、剣士が斬り掛かりに行った。私の行動は目暗ましだ……。
「はぁぁぁっ!!」
私に気を取られている山賊の頭に剣士が斬り掛かり。
プシューンっっ!!
手応え有りだと見た。左肩から腹部にかけてばっさり。
ブスブスブスっ!!
ダメおしと言わんばかりに弓使いが三本射ち。胸部に刺さる。
「くっ!鬱陶しいーっ!!」
だと言うのに頭は立っていた。なんという身体をしているのだ。そして、大剣を振り降ろした。
ギーンっ!!
剣士は自分の剣で防ぐ。しかし、剣の重みが違い過ぎる。
「うおっ!!」
弾き飛ばされてた。続け様にその大剣を弓使いに向かって投げる。
当たりはしなかったが、避けさせる事で、攻撃の手を止めさせた。
標的を私に絞ったのだ。この山賊の獲物は二つ。一つは、たった今投げた大剣。もう一つは背中に槍が携わっていた。
その槍を抜くと真上に突き出した。真上には私がいる。
風系上級という空を飛ぶ魔法があれば良いが残念ながら、私には風系の才が無く契約できなかった。まあ六回程度失敗しただけで諦めたのだが。
そして、私は真下に落下するしかない。その時に突き刺そうという魂胆だろう……。
しかし、私も黙って落下するつもりもない。私には切札がある。
『星々よ、我が呼び掛けに応えよ!闇をも凍り付かせる……』
空中で槍を脇に挟み詠唱を始めた。
「な、何っ!?」
頭は慌てて、その場から離れ始めた。初級や中級ならそれで逃げられる。
だが、私は逃げようとする事を予想していた。
『……鳥魔よ、我が力とならん!……ダイヤモンドダストーっ!!』
私は範囲の広い上級を使っていたのだ。尚、これは氷系最強の上級魔法だが、名前を変えた。
名前を変えるとマナの消費が激しくなる。だと言うのに変えた。何故ならダイヤモンドダストの方が格好良いと思ったからだっ!!
シュィィ~……ピキピキっ!!
レイザバルの効果で頭は凍り漬けになった。
「はっ!」
そして、着地の瞬間、凍り漬けになった頭を槍で突き刺した。
パリィィンっ!
良い音色を奏で頭ごと砕け散る。
「……やり過ぎではないのでしょうか?」
引き気味に剣士が呟く。当然無視。
「容赦無いねぇ」
弓使いが呟く。こっちはニヤニヤしている。当然無視。要は倒せれば良いのだ。
「か、カシラが殺られた!」
「こんな奴ら勝ってっこねぇ」
「ずらかるざかぞっ!!」
盗賊達はボヤきなかだら、一目散に逃げて行った。
「ハァハァ……」
そして、私は槍を杖代わりにして肩から息をした。この頃の私は上級魔法を一つ放つだけでマナが枯渇する。
ましてや名前を変えてたのだ。ただじゃ済まない。私は疲れ切っていた……。
そんな私の元に剣士が向かってきた。
「あ、あの大丈夫ですか?」
「ふぅぅ!」
「ひぃぃぃっ!?」
剣士が後退る。別に睨んだわけではない。だと言うのに脅えた様子だ。私に出逢う者は皆こんな感じである。
「上級を魔法名変えて使うから……」
弓使いもやってきた。弓を使う者なのに魔法にも精通しているのだな。
「そっちのが楽しそうだと思ってな……」
「楽しそうって……山賊の頭を粉砕するくらい、他の手でも……」
「違うっ!!」
思わず遮る。
何をバカな事を。山賊をいくら倒したところで冒険にはならないだろうが……。
「ひっ!」
剣士はもう一歩後退る。今は明らかに睨んでいたと思う。
「えっ!?」
弓使いは普通に疑問の眼差しを向けていた。ほーこいつは脅えないんだな。
それにさっきのが上級だと見抜いていたし、相当な修羅場を通ってきたんだろうな。
羨ましいー。いろんな冒険をして、羨まし過ぎると感じてしまった。
「自分を窮地に追い込む事になりそうだったから、楽しそうと言ったんだ」
「はっ!?何で追い込むんだ?」
流石にこれは引いた。弓使いの眼が引き攣っている。そう私と絡む者は皆そうだ。脅えるか引くか……。
どっちにしろウザい。人は皆一緒だ。恐い奴には脅えまくり、弱い奴がいれば脅し、足元すくおうとする。
変わり者を見れば、影口を叩く。あいつああだの、こうだの。そうやって自分を立てようとする。
<俺はあいつより強い><私はあんな事しない>等と……。
結局人は他人を卑下する事でしか、自分の存在価値を見出せない愚かな者ばかり。もうウンザリだ。
「そっちの方が冒険だからな」
先程の弓使いの質問に答えた。
「ぼ、冒険ねぇ……」
更に眼が引き攣る。引きたかったら、勝手に引いてろ。そして、さっさとどっか行ってしまえ。そう思っていた。いつもそうなっていたからだ。
「あ~…え~っと、俺はジェリド!お前さんは?」
だというのに話を続けてきた。
「……サラ」
と答え、立ち上がろとした。
「くっ!」
ちょっとキツイ。
「まだ無理するなって」
ジェリドと名乗った男が、私を抑える。仕方無くその場に座った。
「で、こっちは相棒のヤザン!一緒に旅をしてんだ」
ジェリドが親指を後ろに向け剣士を差す。
「よ、宜しく」
まだ脅えていやがる。
「もう会うかどうかわからいのに宜しくって……」
意味がないと言おうとした。だが……。
「一緒に行かないか?」
ジェリドに遮られる。しかも今なんて言った?
はっきりと聞こえた。だが自分の耳を疑ってしまう。片方に脅えられ、お前には引かれたのだぞ。
「はっ?」
思わず間抜けな声を上げてしまった。
「だから一緒に行かないか?って言ったんだ」
弓使いがまた同じ事を言う。今度確り脳内に刻まれた。だが何故と私は驚く。
「あ、あのジェリドさんマジですか?」
驚いていたのは私だけではなく、ヤザンという男もだった。
「ああ…助けて貰っておいて、はい、さようならってわけにはいかないだろ?それも疲れ切ってる女性だぞ!」
ヤザンのいる後ろに振り向き答える。ああそういう事か。同情してんのね。
「はっ!」
槍を杖代わりに立ち上げる。
「お、おい…だから……」
再びジェリドが止めようとする。
「煩いっ!!」
だが怒鳴り返した。
ビクっ!
ヤザンが一瞬震える。
「だからやっぱり止めましょうよ」
ヤザンの方は余程、私が恐いみたいだ。
「いきなり何怒ってんだ?俺何か悪い事言ったか?」
ジェリドはヤザンを無視して私に訊いてきた。
「同情などいらん」
同情され足元すくわれるなど真っ平だ。どいつもこいつも下心が必ずあるんだ。
「同情?ああそうか、そいつ悪かった……じゃあ本音を言おう」
「本音?」
やっぱり別の魂胆があるんだな。
「俺はお前が欲しいっ!!」
「はっ!?」
思考が停止する。何を言ってんだ?
「ジェ、ジェリドさん!欲しいって……それヤバいっすよ」
相方も唖然とした様子だ。




