第二話 槍の師匠
村を出る決意をしたが、私一人生きていける程、現実は甘くない。そこで私は、何をどうすれば一人で生きていけるのかを学んだ。
村の本屋で、色々調べたり、時にはライラ院長にサバイバル実習をするようにお願いしてみたりと。
一人で生きていく為に木の実取り、火起こし、魚を釣り、野外での炊事、様々の事を身体に覚えさせた。
また、覚えるだけを行なっていたわけではない。村に来る旅人もチェっクしていた。どんな武器を使用するのかを……。
いくら食べ物の収穫が出来たり、調理出来たとしても、時には金を稼ぎ、その金で食べるしか手がない事もある。
旅人が手っ取り早く稼ぐには、やはり武器を用いての荒事だと判断した。また自分の身も守られなければならない。よって旅人が持つ武器を見て自分に合うものを考えた。
ある時、斧使いがやってきた。斧が自分に合うか考える……いや考えるまでもない。見た目八歳くらいの子供が簡単に振り回せる代物ではない。よって論外。
ある時は剣を扱う剣士がやってきた。これなら私にも使える。早速、手頃な俸っ切れを剣に見立てて、大木を相手に剣士の真似事のように振るう。
途中で思った。やたら接近する。何故か嫌悪が走る。あまり人に近付きない。剣は断念。
ある時、弓使いがやってきた。お、これは遠距離で良いかも。早速、手頃な棒っ切れに糸を通し弓に見当てた。
大木に向けて、矢を放つ。当たらない。弓は器用差を有する。不器用な私には、なかなか的を射止められない。三日頑張ったが上手くいかない。やもえなく断念。
一年後、一人立ちする為に始めた事が、色々とこなせるようになってきた。
そんなある日、槍使いがやってきた。ビビビっと衝撃が走る。まるで稲妻に撃たれたかのように……。
期待みたいのが膨らむ。はやる気持ちを抑え、手頃な棒っ切れを槍に見立てて振るう。この感じ。妙なしっくり感があった。これだ!槍に決めた。私は槍使いになる。そう決意した。
さて、槍使いになると決めたからには、槍を使いこなさなければならない。独学でやっていたら、時間ばっかりかかる。どうしたものか?
そう考えた時、一つの結論に至った……。
「私を弟子にしてくれ」
旅人の槍使いに弟子入りを申し込む事にしたのだ。
「で、弟子って何の?」
旅人は驚いき眼を見開く。
「槍だ」
「ば、バカかっ!!これはガキの遊びじゃねぇっ!!」
怒鳴られた。まあ当然だろう。此方もそれは予測済み。
「お願いだ」
「だからガキの遊びじゃねぇって言ってんだろっ!!」
旅人の行く先々で待ち伏せてしつこく頼みこむ。
「お願いだ」
また待ち伏せる。
「一週間だけで良い」
また待ち伏せる。
「てめぇもしつけーな!しかも一週間だと、ナメてんのかっ!?」
「ナメてない。真剣だ」
「一週間で槍が扱えるようになると思ってんのかっ!?」
「思ってない。だが基礎を教われば、後は自分で何とかする」
真剣に訴えた。私は半端な覚悟で申し込んだわけではない……。
「………」
旅人はしばらく逡巡した。
そして、ゆっくり口を開く。
「無理だな…俺は明日、この村を出る」
「連れて行ってくれ」
「はぁー?俺にガキの御守をしろと?」
「御守は槍だけで良い。後は自分で何とかする」
「何とかってメシは?」
「食べ物の調達や野外での調理はマスターした」
「ほー言うね」
旅人は感心の笑みを浮かべる。
「仮に餓死しそうになっていても無視して良いんだな?」
「ああ」
「俺の足について来れなかったら、置いて行くぞ」
「ああ」
「ほー面白れーじゃねぇか。わかった。弟子にしてやる……俺はハイマンだ」
「ハイマン?」
コツンっ!
こづかれた。
「歳上を呼び捨てにするな」
「ハイマン…さん?」
「宜しい。ついでに口の聞方も教えてやるから、覚悟しとけよ」
「いらない」
コツンっ!
またこづかれた。
「槍教えて貰いたかったら従えっ!!」
「わかった」
「あぁ!?」
睨まれた。
「……わかり…ました」
「宜しい……で、お前名前は?」
「サラ」
「サラか……じゃ弟子入りは明日から、今日は旅の支度しとけ」
「わかった」
コツンっ!
またまたこづかれた。
「わかりました」
「明日、日の出前に村の出口に集合……遅れたらこの話は無し」
「わかりました」
晴れて弟子入りする事になり、ハイマンとの旅が始まった。いや始まらなかった……。
村の出口で落ち合うなりハイマンは、そそくさと村を出て歩き出す。一言も話さなかった。
私は後を追う。勿論、ライラ院長に黙って出てきた。
ハイマンは足が速くなり早足で、どんどん先に進む。着いて行くのが、かなり厳しい。
それでも、一年多少は鍛えていたので、何とか着いて行けた。しかし、ハイマンが速い過ぎて、たまに見失う。
そして、ハイマンは先の方で待っている。と言うより、休憩を取っていたり、食事を摂っていただけだ。
私が追い付くと、また早足で歩き始める。つまり、私は休む暇がない。鬼かこいつは。というか槍を教える気があるのか?
そんなこんなで夜を迎える。ハイマンはハイマンで、私は私はで火を起こす。
食事もハイマンはハイマンで。私はクタクタで直ぐでも寝りたかったが、朝から何も食べてないのはマズイと思い、木の実を適当に取って来た。
はたから見たら奇妙な光景だ。一緒に旅をしているのに、焚火も食事も別々。
「おいサラ」
急に呼ばれる。
「ふぁい?」
木の実を口に入れたまま応えた。
「合格だ」
「は?……ゴクリ…どういう事ですか?」
木の実を飲み込み訊き返す。
「今日はお前の覚悟を見ていた」
「……通りで」
全然槍を教えてくれないわけだ。
「それにメシは本当に自分で、用意できるようだな」
「まぁ」
「サラ…ほら!」
何かを投げられ、それを受け取る。長い木の棒に先端には大きな石がくくりつけられてある。
「これは……?」
「練習用の槍だ。先端に本物の槍と同じ重さになるように石が付けてある」
いつの間にこんなものを……?
あー私が必死に追いかけている時だな。これを作って時間を潰し私が追い付くのを待ったりもしていたのだろう。
「そうですか」
「明日から槍を教えてやる」
「ありがとうございます」
次の日、みっちり槍を教えて貰った。前日の事がウソみたいに、その場に止まり、一日中付き合ってくれたのだ。前日の鬼って言葉は撤回する事にした。
その日の夜、前日と同じように焚火を二つ作っていた。
「なぁサラ」
また急に呼ばれる。
「ふぁい?」
例の如く、口の中には木の実が入っていた。
「焚火が二つってのも妙な感じじゃねぇか?」
「ゴクリ……はぁ」
木の実を飲み込み曖昧な返事を返した。
「明日から一つな……」
「二人で火を起こすのですか?」
「バーカちげーよ。交代制だ。明日はお前。その次の日は俺だ。わかったか?」
「はい、わかりました」
何故急にこんな事を言い出したのか少し疑問に思った。
そして、弟子入りして六日目
「おい!いつものように突き込み千回三セっトやっとけ」
ハイマンはそう言って、村に向かって行った。村外れで、私に突き込み等をやらせ、その間に村に物資の調達や、仕事の依頼に受けに行ってくる。
または、その仕事をこなして来る事もあった。
「1・2・3……」
いつものように言われ事をこなす。
・
・・
・・・
「888・889・900……」
ハイマンが戻って来た。
「952・953・954……」
腕組みをして、此方をじっと見てくる。珍しいな。いつもは、終わるまで、別の事をやっているのに。
「……997・998・999・1000!……ハァハァ…終わりました」
「うむ」
ハイマンは頷くと、私の腕を揉み始めた。そして、腕から肩へ、肩から足へと身体中を揉んできた。
「あの……何を?」
「ふむ……確りやってるようだな、たった六日でこれだけの筋肉がつけば十分だ」
ハイマンは満足そうに笑う。そして……。
「俺の予備だったんだが、貸してやる」
新品の槍を渡された。
重い!確かに重量は、石がくくりつけられた棒と、変わらないが刃物が付いているだけで、気持ちにのしかかるものあった。
それと同時に嬉しさもあった。ハイマンを師事して、やって来た事の大半が突き込みだ。だが、その突き込みをやり続けてきたお陰で認められたと感じた。
「ありがとうございます」
一応お礼を言っておく。
「盗賊共の討伐の依頼を受けてきた。明日はそれをやる……お前も来いっ!!」
一瞬耳を疑った。
「はい?」
「そろそろ実戦経験を積んでも良い頃合いだ」
まさか、こんな事を言われるとは思ってもいなかった。
「はい!わかりました」
・
・・
・・・
次の日、盗賊が寝倉にしている洞窟に向かった。
「此処からは気を引き締めろ!死も有り得るからな」
「はい!」
洞窟に入ると次々に盗賊が襲ってきた。しかし、全てハイマンが薙払う。私は呆然て眺めていただけだ。
二人や三人相手した所で、一歩引かない。はっきり言って強いと感じた。
しかも私を庇いながらだ。実戦経験とは言っていたが、まず見ろという事だったのかもしれない。
洞窟の最奥にさしかかると、目の前で盗賊が三人立ちはだっていた。うち二人がハイマンに斬り掛かる。
今までの盗賊なら、あっさりハイマンに殺られていたが、今回は違った。ハイマンは二人相手に苦戦する。その間にもう一人が私の元に……。
緊張が走る。
ドクンドクン……。
心拍数が上がる。これが実戦ってやつなのか。初めて味わう感覚だ。ハイマンは二人の盗賊に苦戦中。つまり、私一人で対処しなければならない。
汗が一滴垂れる。意を決して、訓練の成果を試す。って言っても、私がやっていたのは、ほとんどが突き込みだ。
よって盗賊を突き刺そうと構える。だが、先にあちらが斬り掛かって来た。上段からの斬りだ。とっさに両手で横一文字に槍を構える。
ギーンっ!
なんとか初撃を防ぐ。しかし、直ぐに第二波が……。
ドンっ!……バーンっ!!
「ごふっっ!!」
脇腹を蹴られ、壁にぶち当てられた。
「うっ!」
吐血する。
その瞬間、脇腹に激痛が走る。ヤバい。ヤバい。ヤバい。ヤバい。かなりヤバい。どうしようもなくヤバい。
来てる。きてる。キテる。たまらなく気持ちぃー。かなり楽しい。相当ピンチなのに、気持ちを抑えられない程に楽しい。
これぞ冒険って感じだ。たぶん私が冒険を楽しみ冒険家になろうと思ったのはこの時だ。
「サラ!大丈夫か?」
どうやらハイマンの方は、二人の盗賊を倒したようだ。
「何とかね」
笑って見せた。
「次は俺が相手だ!」
ハイマンが槍を突き刺すが、あっさりか躱された。
「何っ!?」
今の突き刺しは相当速かったように見えた。だが、盗賊は一枚上手を行っていた。
バキっ!
無防備になった槍が斬られる……正確には折られた。
「終わりだな」
盗賊がそう言うと、剣を振り上げた。ヤバい。そう感じた刹那の時、身体が動いていた。
地を駆ける足は疾風のように速くとは行かないが、速く速く速くとそう思い、突き刺す槍は稲妻のように鋭くするつもりで……。
スっ!
「おっと、あぶねぇ」
それでもやはり、盗賊の方が一枚上手だ。あっさりと躱された。
次の瞬間、脇腹の痛みの為に槍を支え切れず、先端が地面に落ちる。地面に落ちる間は一秒に満たない。
しかし、その一秒に満たない間に次の手が閃いた。いや勝手に身体が動いた。力加減を調整し、槍を地面に突き刺す。
そして、棒高飛びの要領で跳ねる。その時に右足を前に突き出した。
盗賊に蹴りを繰り出したのだ。盗賊はまるで予測してなかったかのように、判断が遅れる。よし、行けるっ!!
ガっ!!
しかし、足を掴まれた。この頃の私は、恐らく十歳にも満たない。その為に足が短い。
「おっと、あぶねぇ」
盗賊は、嫌らしい笑みを浮かべていた……。
盗賊に足を掴まれ、絶体絶命だというのに、恐怖は感じない。楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて仕方ない。
盗賊が剣を振り上げる。さて、どうしたものか……。
と考えていると、地面に突き刺さった槍をハイマンに取り上げられた。
ドンっ!
足は盗賊に掴まれ、槍を掴んだ手で身体を支えてたというのにハイマンに取り上げられてしまい、背中から落下してしまう。
イタい。今のはかなり痛い。脇腹の痛みとダブルで来た。
ブスっ!!
次の瞬間、ハイマンが盗賊を突き刺していた。
「大丈夫か?」
手を差し延べられる。ガシっと、その手を掴む。
「何とか」
手を引っ張られ、起き上がった。
「良くやった……お陰で命拾いしたぜ」
ハイマンがニタニタ笑う。
「……何とか」
スピーカーのように同じ言葉を繰り返した。
「にしても、良い蹴りだったぜ……だが十年早かったな」
「……確かに」
賛同してしまう意見だ。
「だが、槍をあんな風に使うとはな……型に囚われずに良い判断したな」
「何とか」
また、スピーカーのように繰り返す。正直今更ながらにビビっていた。
戦闘中は高揚感で一杯だったが、終わってみると良く生きてたなと恐怖心が溢れて来る。
それにしても、ハイマンはやけに上機嫌だ。
「……で、どうした?」
「いえ、疲れただけです」
「まあ初めての実践経験値だったからな、仕方ねぇ」
にしても、今は恐怖心が溢れたけど、やっぱりかなり楽しかったなと感じてしまう。
少しビっクリだ。命のやり取りが、こんなにも楽しいとは思わなかった。
・
・・
・・・
その日の夜、順番的に私だったので、火を起こし始めた。ハイマンは、依頼金を貰い、直ぐに村を出てしまったのだ。
いつもなら、ハイマンは宿屋で、私は外で夜を過ごすのだが、今日は何故か二人で野外だった……。
火が点くと、私は立ち上がった。
「おい!何処へ行く?」
ハイマンが訊いてくる。
「食料の調達に行ってきます」
「今日はこれを食え」
大きな肉を渡される。たまに狩りしていたので、珍しくないが、加工された肉を食うのなんて久々だ。だが何でまた?
「?」
私は疑問視し首を傾げた。
「今日の依頼の報酬だ」
ああ、なるほど……って私、ほとんど役に立ってなかったじゃん。
「此処にあるもん好きなだけ食って良いからな」
野菜やら、果物やら、刺身やら様々なものが広げられる。ほんとに良いのかな?
「ホレ!ミルク……まだ未成年だからな、酒はやらん」
別にいらん。
「ほら、さっさと食べろ!」
「……はい!頂きます」
まだ、疑問は残るが、久々に食べるまともな食事だったので、少し嬉しかった。
「……最初の約束覚えているか?」
食事を取っていると、ハイマンがポツリと呟くように訊いてきた。
「……一週間って話ですか?」
「そう…今日で一週間なんだよ」
「そうですね」
つまり、今日でハイマンともお別れなのだ。でも、基礎は教わった。もう私一人で充分だ。
ふとハイマンを見ると食事を取っていた手が止まっていた。そして、まるで詩を唄うかのように語り始める。
「お前は素質がある……十年もあれば俺を越えられるだろう……本当に教えがいのある弟子だ。できれば、それまで付き合いたいくらいだが、約束は約束……変な情が沸くのも良くないし、今日で終わりだ。明日から俺達は他人同士になる」
「わかりました……今までありがとうございました」
一応筋を通し礼を延べ、頭を垂れた。
「それに、お前は一人の方が良いだろうしな」
ハイマンがニヤリ笑い食事を再開した。
「何故そう思うのですか?」
「それはお前自身が一番わかってるんじゃないか?お前は他人を寄せ付けない。会った時からそうだ。いや違うな…心の底から人に歩み寄ろうとしない。まるで、心を氷で閉ざしたように……」
見抜かれていたようだ。人に教えられるだけの実力があるから、そういうのもわかるのだろう。
「そうですかね?」
曖昧に応える。
「ああ…それと槍使いを見て、人を拒絶しているのが、はっきりわかる。それに今まで一緒に旅をしてきた俺と槍以外には何も話してこなかったしな。過去に何かあったのだろ?ま、別に訊かないがな」
「はぁ」
再び曖昧に応える。
「だが、最後に一つだけ言っておく……」
再び食事を止め、真剣な眼差しで、此方を見てきた。
「“人は一人じゃ何もできない”」
青臭い言葉が出てきた。思わず苦笑してしまいそうになる。
「はぁ」
それを堪え、更に再度曖昧な返事。
「意味がわからないか?ただ青臭いだけに聞こえるか?でも今は、それで良い…忘れて貰っても構わん。だが、必要な時が来たら、この言葉を思い出せ……」
一呼吸、間を置く。
「人を動かすのは意思ではない“心”だ!」
また、青臭い言葉だ。
「例えば今回、理由は知らんが、お前は強くなりたいと心で感じたから、俺に弟子入りした筈だ」
「………」
確かにそれはその通りかも。
「だが、それではやがて、限界がくる。何故なら孤独だからだ。もう一段階先に行くには、他者の介入によって、再び心から奮い立たされた時なんだっ!!」
やたら力説している。しかも全く意味がわからない。だけど妙な説得力を感じた。
私に、いつかこの言葉がわかる日が来るだろうか……いや、ないな。胸中苦笑した。
私は食事を終え、焚火の後始末をしようとしていた。
「おい!サラ」
不意に呼ばれた。
「はい?」
「これを受け取れ」
槍を差し出される。この槍は、盗賊討伐の際に一度ハイマンが貸してくれた槍だ。
「……何故これを?」
私は首を傾げた。
「卒業祝いだ」
ハイマンがにんまり笑う。
「気持ちは嬉しいですがハイマンさんの槍がなくなりますが?」
「俺は明日、村に戻って調達するから構わん」
「そうですか…では受け取ります。ありがとうございます」
槍を受け取った。その槍は、サンダーランスを手に入るまでの五年間、私の愛槍となる。よくもまあ五年も、持ったと思う。




