サラの心
ユーリはイスカの助けもあり、無事司祭になれて五芒星の魔法陣の上で詠唱を開始する。
『荒らぶる魂達よ、闇より舞い、永眠を……浄化の光あらんことをっ!!』
魔法陣から光が沸き出る。その上に立つ彼女が神々しく輝く。また魔法陣により、魔力が増幅され、より一層輝いた。
「なっ、何だっ!?」
イスカは、あまりにもの眩しさに手で視界を遮った。その光はやがて森全体を包む。
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「えっ!?」
見回りをしていたユアンが眼を見開いた。
「何なの?この光は?」
魔導の知識が全くない彼女に何が起きたのかわからなく、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
「……でも…この光……暖かい」
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「っ!?」
裏口で志願兵の受付をしていたゼフィロスにも光が届いた。
(浄化の光か……)
魔導を少し齧っていた彼にはなんとなくわかったようだ。
輝く光は煌めく。ソレは邪を退く。故に暖かく心潤われる。
ソレは森全体を包む。魔導士なら感じる事ができる邪が取り除かれる。
まるで母体のようにソレは包む。また栄気を与える。邪によって活力を失った草や木々といった、植物を新たなに息吹かせるかのように……。
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「凄いなこの光……私には眩し過ぎるくらいだ」
城の屋上で一人見張りをして呟いたサラが、自分の劣勢感を感じているかのような面持ちでいる。
彼女が過ごしてきた人生、決して誇れるものではないと思っている。常に闇を見てきて、心を閉ざしてきた人生……。
その氷の心を持つ彼女は、いろんな人に罵られて来た。故に常に彼女は一人で旅をして来た。
常に傍観者で居続けようとして来た。そんな自分にソレは似つかわしくない。
勿論、彼女に当てられたものではないとわかっている。目線を少し下ろすと見える森に発せられものだとわかっている。
それでもソレは確り彼女のところに届いているのだ。まるで彼女を見透かすかのように。まるでの心を覗くかのように。まるで心の氷を溶かすかのように……。
ましてやソレを発しているのユーリなのだから尚更だ。ディーネだったなら……。イスカだったなら……。無理な話である。ディーネは未だ魔導士。イスカは大魔導士。
この二人にはどうあがいてもソレを発せられなのだから。司祭になった時から司祭のみが使える“浄化魔法”なのだから。
常人なら不可能な事だが、彼女になら森で誰が何をしているのかを全て垣間見る事ができるのだ。その彼女にはユーリが光輝いて見えた。
ソレの発生源なのだからと当然と言われれば、それまでなのだが、サラは内面見ていた。
彼女は気付いていないが、サラとユーリ、二人は少し似ているのだ。
故に彼女はユーリを無意識に意識してしまっていた。もしかしたら、それも見抜いていて、今朝、共にテラスで食事をしていたディーネがユーリの話をしたのかもしれない。
ユーリの心は闇に包まれていた。その闇が除去された時、彼女の持つ光が増幅されたと言っても過言はない。その内面をサラは見ていた……。
サラは氷。ユーリは闇。まったく別のモノではあるが、心を覆うという点では同じである。もし、自分も氷を溶かしてしまえば……?
無意識化に意識を向けた結果、そんな事を考え、首を左右に振った。
「……あり得ない」
たがこの一言で彼女は全てを蹴散らしてしまう……。
彼女の人生は本当は良いものだったのかもしれない。彼女の人生は決して闇ばかりではなかった。彼女の人生では良き者とも沢山出逢っていた。
確かに人の闇を沢山見てかたかもしれない。確かに沢山うんざりな気分になり、憂鬱な想いをしたかもしれない。
だから、否…だからこそ見極められるのだ。本物と偽物を……。
出逢いも常に悪しき者ばかりではない。最初は拾われた孤児院の院長。彼女がいたから彼女は一命を取り留めた。彼女がいたから、色んな考えができるまで成長した。
次に槍の師である槍使いハイマン。彼がいたから彼女は槍を扱えるようになった。後々彼女に取って重要になってくる言葉を残した。
次に共に旅をしたジェリドとヤザン。彼らとの出逢いは外面的ものではなかったが、彼らがいたから己れを知る事ができた。認めるかどうかはともかくして。
またその出逢いで彼女の心に火が付いた。決して付く事がなかった火が……。
だが、あまりにも小さかった。それでも彼女に影響を与えた。氷と火は相反するもの。故に火があれば、それに負けまいと氷が増幅される。
それは内面に止まらず外面にも現れた。魔法という力で。また、彼女は火を起こせる事を知った。いや彼女の精神が……。
そしてディーネと出逢えた。初めて友と呼べる者に。それは、やがて濁流から流れて来た彼女が大河に向かわせる事になる。
こうやって彼女に取ってプラスになる者達と出逢えた事は、誇れる人生であった筈。
それは会うべきして会ったような、彼女に取って都合良き時に都合良き者と出逢っていた。それが運命と言わんばかり……。
いや、もしかしたら女神は彼女に微笑んでいたのかもしれない。
さて、あり得ないと一言で蹴散らしたサラは、思考を別の方向に巡らせていた。
見張りって事もあり、森の中に眼を向けていた彼女は、ホリンとゼフィロスが新必殺技を編み出した瞬間を垣間見る。
またイスカに続きユーリがランクアップした所も。それらを目撃した彼女はこう思った。“皆成長している”と。彼女もこれから戦いは、より一層厳しくなる事は重々理解している。
だから自分も、もう一段階先に行かなければならない。だが、彼女は気付いているのだ。もう限界が来ていることを……。
師であるハイマンの言葉を思いだす。もう一段階先に行くには“他者の介入によって心か揺さぶれた時”。正直、未だ彼女はその意味を見い出せないでいた。
サラは答えまで後一歩だった。だが、彼女の心がそれを許さなかった。凍り付いたその心では、それ以上の思考を拒絶していたのだ。
頭では理解できている。要はその氷を溶かせば良いのだ。だが、どうやって?
サラは終らぬ思考繰り返していた。それは出口の無い袋小路に迷ったかのように……。
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「はい…お待たせ!」
魔法陣に立っているユーリが微笑んだ。
「てめぇ何してやがんだよっ!!」
イスカは怒りを露にしていた。その対象は他でもない目の前にいるユーリだ。
「へっ!?」
悪びれた様子もやく、間の抜けた声を上げる。
「司祭になった途端、いきなり浄化魔法唱えやがって」
イスカが怒鳴った。ランクアップとは、新たな力を手に入れる事になる。その代償という大袈裟なものでもはないが、体力やマナを著しく消費してしまうのだ。
魔法の契約も同様の事が言える。にもかかわらずユーリは浄化魔法を唱えた。浄化魔法のマナの消費量は、一般魔法のそれとは比べものにならない程、大きい。
イスカもランクアップをした身、どのクラスになるかを選ぶ為、事前に調べていたので、よくわかっていた。
「まずかった?」
例えば、光の超魔法ゼクトや炎系上級のファイゴルといった高等魔法のマナ消費量を10とするなら、ユーリの使ったそれは100は消費する。
ましてやランクアップ後だ。常人なら立っているのがやっとである。
だというにユーリはあっけらかんとしていた。
「まずかった?じゃねぇ。マナ使い過ぎじゃねぇかっ!!」
より一層怒りをだす。それだけ彼女を心配しているのだ。
「……その上、更に契約しやがって!」
とイスカが続ける。
そうユーリは、司祭になった途端、早速と言わんばかり、魔法の契約を行なっていた。
「あら私のマナがその程度で枯渇すると思っているの?」
髪を掻き揚げ、上から目線でイスカを見詰める。
「なっ!」
口をポカーンと開け言葉に詰まる。
「はい!そういう事で、お礼するね」
「………」
あまりにもピンピンしているユーリの様子を見て固まっていた。
『キュア』
たった今、契約した魔法をイスカにかける。これは回復系初級魔法だ。というか、初の魔法だというのに詠唱破棄。
ユーリのマナは底知れぬと言わんばかりだ。そして、見る見るイスカの傷が癒えていった。
「私ね…私、決めていたの」
ユーリは遠くを見詰め、誰に言うのでもなく呟き出した。
「司祭になったら、真っ先に此処を浄化してやるんだってっ!!」
彼女の顔が徐々に強張りだす。
「だってムカつくじゃない。人の目の前で、あんなものぶっ放して……それに何十、何百の人が散って行って……許せない」
弱々しく語る。彼女は知っていた。家族を失う辛さを……。
目の前で母を失った彼女には誰よりも辛い想いをした。そして深く憎んだ。昔は母を殺したザーゼフを。しかし、今は少し変わった。魔法をそういう使い方した者に怒りを覚えるようになった。
魔法とは元々、暮らしを豊かにするもの。それがいつの間にか戦に使われるようになった。時代の流れから仕方無いもの。だが、あのような大量殺戮の為に使うのはユーリは許せなかった。
そして昔のユーリと大きく違うのは、もっと周りを見れるようになったこと。今まで自分しか見えてなかった。だから、此処で散っていった者達を思うと辛かった。
もしかしたら帰りを待つ者がいたかもしれない。もしかしたら家族がいたかもしれない。もしかしたら最愛の人がいたかもしれない。そう考えるとやりきれないもので一杯になっていた。
従って彼女は司祭になったら真っ先に散っていった者達に成仏させてあげようと心に決めていたのだ。
「だから浄化したかったの」
イスカに視線を向け満面な笑みを見せた。
「それじゃもう行くね。イスカありがとう」
そして、最後にお礼を言うと髪を翻し去っていった。
「で、でたらめだっ!」
一人残されたイスカが吐き捨てた。
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「ハァハァ……ごふっ!」
ユーリは森の中で膝と手を地面に付き、激しい息切れを起こし吐血までしていた。
「ハァハァ……やっぱキツかったな」
ユーリは本当は無理していたのだ。司祭になると急激に体力やマナを消費したというの浄化魔法を唱えたのだ。
いくらゼクトを連発できる彼女でも、身体にくる負担は半端ない。ましてや更に魔法の契約をし、その魔法を詠唱破棄したのだ。
こうなるのは当然である。それでもイスカの前では強がらなければならない理由があった。
「ハァハァ……ゲホゲホ……ハァハァ……もう…あんな顔見たく…ない……(でも、私の為に怒ってくれてありがとう。やっぱり貴方で良かった)」
そう彼女はあの時、イスカが見せた顔を二度と見たくと思っていた。あんなどこか寂しそうで、どこか悲しそうに見えた、あの笑顔を……。
自分のせいで彼が傷付いて欲しくないのだ。だからイスカの前では強がって見せていた……。
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・・・
日が沈み夜を迎える。シャルス城の屋上では、サラがまだ見張りをしていた。
「ん?」
何か陰が動いたのでサラは眼を凝らす。
サラは眼が良く500m先に人がいれば顔の判別が出来るくらいだ。それが夜でも関係無い。
「んっ!?ディーネ?」
鳥に掴まれたディーネが確に前方にいる。いやあれは鳥じゃないとサラは感じた。
「なっ!?何なんだ、あのバケモノはっ!?」
最後のOne day終了
今まで出なかった言葉や人名等あったと思います
元々第九章、第十章から抜き出したOne dayだったのでそうなってしまいましたが、第九章、第十章の一種のフラグになると思い一部残しております
まったくわけわからないだろうなと思ったのは削除しているつもりです




