エピソード ユーリ
PCの場合、拡大率200%をオススメします
背景が200%ですと光の柱っぽいものが1つになり、ユーリのイメージ通りになります
それと背景の問題で拡大しないと読みづらいかもしれなません
そうなっていたら申し訳ございません
私はシャルスの眼の前の森があった荒地……クラヴィスの放った大地系魔法の跡地に訪れた。
「うっ!」
口元で手を抑え膝を付く。魔導士は普段精霊と交信しているからなのか、死者の怨念とか、そういう不可思議なものの影響を受けやすい事がある。
私は、特にはそういったものを感知する能力が高い。故に此処で死んでいった者達の深い絶望や哀しみ、憎悪といったものをモロに受けてしまったのだ。
「おい!大丈夫かっ!?」
直ぐ傍にいたイスカが駆け寄った。
「ぅぅう……い、イスカっ!?」
イスカの声で私は、ゆっくりと顔を上げた。
「えっ!?……なんて格好してんのよ?」
イスカの魔導士のローブはボロボロだった。所々線切れいて右腕と左足の部分なんて吹き飛んでいる。また身体中から夥しい量の血が流れていた。
私には理解出来なかった。目の前で、自分を気遣う人物が何故ボロボロなのか。いや、正確には理解しようとする思考を持ち合わせられない。
私の全神経は意識を保つ方に集中していた。吐き気がする、眩暈がする頭痛がする。それらを必死に堪えていた。
ただ一つ理解したのは、また自分より私を心配していてくれている事。いや、そういう風に妄想しているのかもしれない。
詰まる所、そうであったら良いなという願望が私にはあった。母の幻影に見せた、あの優しくて包みこむような彼の背中が脳裏に蘇る。
今のこの瞬間だけでも自分を見てくれている。セイランローヌ様ではなく自分を……。
そう考えると愛しく思える。そんな気持ちで溢れる。仄かな想いを胸にしているからだ。だからこそ身体を震え立たせた。
フラフラしてようとも。再び崩れようとも。それがみっともなかろうとも。何故なら私はこう思っていた。
―――だって、此処で立ち上がらなけゃ、彼の背中に対する甘えだから……。
あの時あの瞬間、イスカが現れて、私を庇ってくれたから、今の私がいる。司祭になろうと決心した私がいる。
「おい!てめぇ大丈夫か?」
口は悪いけど私を心配してくれる。本当に優しい人。つい甘えたくなる。
でもダメっ!
此処で彼に甘えたら後悔する。彼にはセイランローヌ様がいるから。彼を望む事は叶わない。それに自分が嫌いなる。
そんな私を彼はきっと見てくれない。セイランローヌ様の事を想ってくれてても良い。私は見て貰うだけで良い。それ以上は望まない。だから……。
そして何より一度決めた事を投げだすなんて嫌っ!!
「だからっ!!」
全身に力を入れる。
「くぅぅぅあ゛ぁぁ」
崩れ落ちてしまう。
「無理すんじゃねぇーよ!ほら掴まれ」
手を差し伸べられる。イスカの手が目の前に……私の心は不意に揺らいだ。この手を握れば、どんに楽になるか。どんなに幸福だろうか。
吸い込まれるようにイスカの手に自分の手が伸びる。後少し。後もう少し。後は触れるだけ。だというのに手が止まった。
あとは触れるだけだったのに。欠片だけ残っていた自制心がフル稼動を起こした。
【お母様ーっ!!】
次の瞬間、脳裏に蘇った。これは誰でもない私の言葉だ。
「くっ!」
目の前に伸ばした手で頭痛がする頭を抱え込んだ。母の散っていく瞬間が脳裏に蘇った。次に母とイスカが被る。
【お母様ーっ!!】
あの時、私は確かにそう言った。あの時、目の前にいたのは母ではなくイスカだった。
横眼で此方を見る彼の姿がはっきり脳裏に焼き付いてる。その時、正直ガっカリした。でも、それ以上嬉しかったというのもある。
あの横顔に魅せられた。あんなにボロボロになりながらも見せた笑顔は今でも鮮明に覚えている。
安戸感、寂しい思い、哀しい思いが入り交じったような、あの笑顔は決して忘れない。
それと同時に二度と見たくない。二度と私なんかの為に、傷付いて欲しくない。だからっ……。
―――負けられない!何より自分自身に……負けてらんないのよーっ!!
再び自分の身体に鞭を打った。再び身体を奮い立たせる。こんなんでつまずいていたら、きっと司祭なんてなれない。何よりお母様に会わせる顔がない。
イスカの心配そうに伸ばす手も借りずに私で立ち上がる。それだけのものが私にあるのだから。そう譲れない想いが……。
その想いが強くなればなるほど、身体に打ち込む鞭も威力を増した。強くなればなるほど、力強く奮い立たせた。
「おい!大丈夫かよ」
「こんな……事で…」
フラ付きながら私は応える。
「立ち止まってらんないのよっ!!」
それでも、次に繋いだ言葉は力強く発した。
その瞬間……。
ブォーンっ!!
私の真っ下から上昇気流が立ち昇るかのように風が吹き荒れる。いやこれは風どころの騒ぎではない、突風だ。そして私を中心として光の柱が建つ。
私のローブに入った大きなスリットは舞い、私の腰まで届く長い髪は天高く羽ばたいた。
「えっ!?何?」
これは私の意思ではない。故に今、自分に起きている現象に驚いた。
「な、何なんだっ!?」
イスカも驚いていた。いや驚くどころではない、腰を抜かし尻餅をついていたのだ。
そして私の体が光輝く。それと同時に……。
「うわっ!何だ?」
彼の描いたと思われる魔法陣も風が吹き荒れ光輝き、柱が建っていた。背中の方で風が激しく吹くのに気付きイスカは振り返って驚いたのだ。
前では私が、後ろでは魔法陣が、このような現象が起き困惑するイスカ。いやそれ以上に自分自身に起きた事に私が一番戸惑っていた……。
「な、何なのよこれっ!?……あつっ!!」
今度は左腕が熱くなった。私は突然の熱に右手で左腕を抑える。左腕には先程ロッカ様が部屋に届けてくれた司祭になる為の触媒である司祭の腕輪が嵌められている。
「と、とりあえず……」
イスカが立ち上がる。
「魔法陣の中に入れ」
私の後ろに回り、背中を押す。
「あっ…うん」
―――あ~あ…結局また貴方に助けられるのね。
私達は後から知った。この現象が何なのかを……。
イスカは魔導学校にまともに通わない、ザボり魔だったから、私はお母様から魔導の基礎しか教わっていなかったから、知らなかった。
でも、イスカは魔導士としての直感から魔法陣に入る事を咄嗟に促してくれた。
私が魔法陣に入ると一際大きな風が舞い上がり、私を包む光も徐々に薄らぎやがて消えていった。
そして、司祭の腕輪がパリーンと綺麗な音色を奏で砕け散る。
「一体何だったんだ?」
イスカが聞いて来た。
「私……私、司祭になれた……」
こんなあっさり?まだ信じられないっといと呆然と立ち尽くしてしまう。
「はぁっ!?言霊無しにか?」
「うん……そう…みたい」
自分の両手を見詰め呟く。魔導士は魔法の習得、またランクアップに必要なのは五芒星による魔法陣と契約の呪文。
この場合、明らかに私は契約の呪文を唱えてなかった。後から知ったが、この呪文はいらないみたい。
では、なんの為に呪文だったかというと、精霊と契約しようと意思付かせる言霊だったみたい。
契約とは精霊と交信し、気に入られると成立する。魔法陣とは精霊を交信する媒体。故に必要不可欠。
しかし、その言玉とは自分が今から精霊と契約するんだと意識を集中するものなので、なくても契約は成立する。余程の集中力があればの話であるが……。
逆にいくら言玉を唱えようが雑念があれば意味が無い。今回の場合、幸か不幸か、辺りに怨念が渦巻き、司祭になる事だけを意識せざるを得なかったからのようね
「きったねぇーっ!!俺様なんかこんなボロボロになってやっとの思いで大魔導士になれたっていうのによー」
一際大きな声を上げイスカがグチる。
「えっ!?じゃあこの魔法陣は?」
私は真っ下の魔法陣を見ながら呟く。
「ああ……俺様が描いたやつだ」
更に偶然が重なり、イスカが魔法陣を描いていたのね。これも後から知ったのだけど側に魔法陣があれば契約まで至らないが精霊と交信はできる。
だから、私は魔法陣に立つ前にこのような現象が起きたのね。
「つ、ま、り…私の下着を見る為に描いたのね」
私は悪戯な笑みをして下から覗き込む。
これをするとイスカは顔を真っ赤にしてそっぽ向くのよね。
それが可愛くて、たまにしたくなってしまう。これくらいなセイランローヌ様も許してくれるかな?
「ば、バカ!風が強過ぎてそれどころじゃなかっただろ?てめぇのピンクのなんて見てねぇよ」
そっぽ向きながら答える。
あら、見たって言ってるようなものじゃない。恥ずかしかったけどイスカの可愛いとこ見れたから良いっか。
でも、チクリと胸に刺さる。少し罪悪感。
「そ、それより、てめぇもうなんともないのか?」
イスカが心配そうに私を見詰めて来た。
恥ずかしいから、まじまし見ないで欲しいな。でも今は私だけを見てるのが嬉しいというのもあるな。
というか今、誤魔化したよね?
「は?何が?」
意趣返ししよ。
わざとあっけらかんと答える。
「だぁかぁらぁこの辺の怨念だよ」
「うん?何か平気みたい」
私は先程の様子とは打って変わって平然と立っていられた。
「平気みたいってなぁ……」
首がガクっと落ちる。だが直ぐに次の言葉を繋ぐ。
「魔力が増幅したお陰か?」
「うんたぶん。此処の怨念は変わらずヒリヒリ感じるけど……でもさっきみたいな吐き気とかなくなった」
私は司祭になれた事により、新たな魔力が全身を覆い怨念を遮断してるように感じた。
「ところで……」
私はイスカの顔を下から覗き込む。
「な、何だよ?」
イスカは顔を真っ赤にし一歩下がった。うんやっぱ可愛いな。ついこうしたくなってしまう。
「イスカは何してたの?」
察しは付いていたし、先程イスカ自身が言っていたけど、にんまり笑い問い掛けた。
「真っ下見てわかんねぇのかよっ!!」
魔法陣を指差し怒鳴る。
私はイスカと魔法陣を交互に見て再び悪戯な笑みを浮かべた。
「ああ~魔法を契約しようとしてミスったんだね。だからボロボロなんだ」
「ばっ、バカ!ちげーよ。大魔導士になるのに手間取っただけだよ」
「大魔導士になったんだ?」
「まぁな」
「そ ありがと」
―――今回も助けてくれて。
「はっ?なんだよ急に」
イスカが首を傾げる。
「何はともあれ、この魔法陣のお陰で、司祭になれたから」
「ただの偶然だろ」
「うん!でもありがと♪」
満面な笑みを返した。
「あ…え…偶然なんだから気にするな」
頬を赤く染めそっぽを向く。
「お礼したいから、ちょっと待ってて」
「お礼なんかいら……」
私は最後まで聞かず五芒星の魔法陣の上で詠唱を始める……。
やっぱりイスカは噛ませ犬臭しかしませんね(笑)




