ユーリの決意
「ふー良い汗かいたぜ」
ホリンが一息付く。此処はシャルス城の目の前の広大に広がる森の中。その森も無惨にも三割が荒野と化していた。
クラヴィスの大魔法による被害だ。無事だった部分も一部焼き崩れていた。
それをやったのはこの男……。
「……ああ」
ゼフィロスである。
「にしてもお前さんのセンスには驚かされるものがある」
「お前もな」
男同士で気持ち悪い笑みを交わす。この二人は新必殺技の特訓をしていたのだ。
だからといって、森を破壊するのは、いささかやり過ぎ感がある。
「そう言えばお前さんこれから、新兵どもの受付をするんだったな」
「……ああ」
「いきなりテストとか言って攻撃仕掛けるなよ」
ニヤニヤとホリンが笑う。
「お前と一緒にするな。ふふふ……」
再び男同士で気持ち悪い笑みを交わす。
ちなみに森の破壊活動は、この二人だけではなく、リビティナやジェリドなど他にもやっている者がいて、お影で無事な森が少なくなってきていた。
無事な森を大切にしようと、荒野化した森を利用する者もいるのだが……。
「おっ!この辺りが良いじゃねぇか……此処なら魔法陣を描き易いぜ」
いや、ただ単に利用しやすいからのようだ。イスカは荒野に棒っ切れで魔法陣を描き始めた。
彼は新たな魔法の契約をしようとしているのだ。皆、それぞれ新たな力を手に入れようと努ている。
これから先、さらなる強敵が現れ、今のままでは行き詰ってしまう。皆、薄々そう感じているのだ。
何故なら次の目的地はイクタベーレ。此処を越えれば、遂にバルマーラの三国同盟の地に足を踏み入れ事になるからであった。
・・・・・・・・・・・・
シャルス城の書庫にも、今のままではダメだと感じずにはいられない者がいた。
彼女の名はユーリ。大陸中に名を響かせた、大司祭ミンシアの娘であり、七大秘宝の一つである光の超魔法ゼクトの現所有者である。
その彼女は書庫に置いてある魔導に関する本は一つ一つに眼を通していた。
魔導の本とは、魔法の契約に必要な事が書かれた魔導書が大半なのだが、魔力の増幅の仕方、マナの高め方等もある。
中に魔導士から大魔導士や司祭へ、ランクアップする方法が書かれた本もあるのだ。
バシっ!
勢いよく本を閉じる。
「よし!決めたっ!!」
グっと握り拳を作ったユーリが立ち上がる。その瞳は決意に満ちていて、研ぎ澄まさていた……。
書庫を出たユーリはある人物を探しシャルス城を歩き周り程無くして、その人物を見つけた。
「ロッカ様、おはようございます。探しましたよ。ディーネ様もご一緒なんですね。おはようございます」
軽くを頭を垂れながら挨拶をした。
ユーリが探していたのはロッカで、前日行ったシャルス城制圧の直ぐ後にディーネの転移魔法で、やって来ていた。
今はそのディーネも、ロッカと一緒にいる。
「おはようございます。ユーリ」
「あら、おはよう」
ロッカ、ディーネの順番で朝の挨拶をした。ちなみに今は正午である。
「それで私を探していたのですか?」
「はい…部屋に行っても、おられませんのでしたので」
「テラスでディーネとサラと朝食を摂っておりました」
「……このような時間に朝食でございますか?」
「話込んでいたのっ!文句あるっ!?」
すかさずディーネがいつものツンツンで突っ込んで来た。
「これは失言でした。申し訳ありません」
再びユーリが頭を垂れる。
「私は夜遅くまで政をしておりまして、朝遅くに起きましたので、このような時間でございますわね」
ロッカがおどけたように言った。
「……それで私に何か御用でございますか?」
「ロッカ様が司祭の腕輪をお持ちなら頂きたいと……また司祭になる事をお許し頂きに参りました」
「司祭?」
ロッカは怪訝そうに首を傾げた。
司祭は回復魔法に特化した職である。また司祭の腕輪とは魔導士から司祭にランクアップする触媒だ。
「はいっ!」
ユーリが力強く発した。
「ミンシア大司祭を継がれるのですか?」
「いいえ…母は関係ありません」
眼を瞑って、首を横に振り、眼を見開き次の言葉を力強く発する。
「これは私自身の意思ですっ!!」
その瞳に迷いはない。ロッカは彼女の眼をじっと見詰めた。
「……わかりました」
眼を瞑り、静かに答える。
「わーありがとうございます」
ユーリに笑みが溢れ、先程より大きく地面に頭を付けるかのように頭を垂れた。
「ですが、その前に理由をお聞かせてください」
「私は……」
ユーリの顔が再び真剣なもの変わる。
「私は今までずっと復讐の為に生きてきました……ザーゼヴをこの手で必ずぶっ殺すんだって」
「………」
その言葉を静かに聞きながら思い出す。ミンシア大司祭が彼女の目の前で殺された事を……。
どんなに哀しんだだろうか。どんなに絶望したのだろうか。どんなに憎しみという刃でユーリを苦しめたのだろうか。
想像しただけでロッカ自身の胸も痛む。何故なら、その結果を生み出したのは、彼女の血筋なのだから……。
それは分家であるディーネも同じ気持ちだった。
しかし、目の前にいるユーリは深い絶望や腸が煮えくり返る怒りで支配されたものではない。ロッカとディーネの瞳には、彼女はもっと先を見据えた姿に映った。
「イスカに憎しみに駆られて殺されたら、お母様が悲しむって言われて気付かされたのです」
ユーリは胸の前に右手で握り拳を作り、真剣な面持ちで話始める。
「……お母様は、私を生かそうとしてくれたって事…その為命まで賭けたんだって事…その思いを無駄するような事ばかり私はしてきました。だから今度は私が誰かを守りたいのですっ!!」
「そう…貴女の気持ちは、前にお聞きしましたので、よくわかっております。しかし……」
ロッカは鋭い眼差しでユーリを見詰め、次の言葉を繋ぐ。
「司祭になれば、攻撃系魔法を捨てる事になるのですよ?その覚悟は、おありですか?」
ユーリは眼を瞑り、一呼吸して見開く。
「承知の上ですっ!!」
司祭とは回復魔法に特化した反面、攻撃魔法の伸びなくなってしまう。それどころか、新たに攻撃系魔法を契約する事すらできないのだ。
ユーリはそれを覚悟の上でロッカに申し込んだ。彼女には一寸の迷いもない。何故ならイスカの言葉が彼女の心の奥底まで響いたからだ。
「わかりました」
「それにしてもユーリは余程イスカが惚れ込んだのね」
ロッカは頷き、横で聞いていたディーネは悪戯な笑みを浮かべた。
「はいっ!普段は口荒い人ですが……その…とても優しい方です。しかし、彼にはセイランローヌ様がいますから……」
と力強く答える。が、見る見るうちに顔を朱く染めていく。自分が何を言っているのか気付いたのだろう。
「……って、私の恋ばなをしに来たのではありませんっ!!」
姿勢を前のめりにし、顔を真っ赤にさせて怒りを露にした。
「ごめんごめん」
「もーっ!!」
ディーネが微笑み。ユーリを頬を膨らます。
「あらあら…うふふ。でもそういう相手に巡り合えた事は素敵ですね」
ロッカはそれを微笑ましく見てそう言った。
「……確かに幸福だったのかもしれません」
再び顔を朱くし俯くユーリ。
「では、私はディーネとセイランローヌ王女の回診がありますので、終わりましたら、司祭の腕輪を持って貴女の部屋に行きますね」
「はい!ありがとうございます」
最後にもう一度、頭を垂れユーリは去っていった。
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