ジェリドvsミク
ジェリドとミクの戦いが始まった瞬間、物凄い速さで弓を連射し出した。
「す、凄い」
リビティナは唖然と見ていた。
それもその筈、連射を行なっているのは、ジェリドだけ。ミクは応戦で精一杯。飛んでくる矢を躱したり、時には剣で斬ったり、チカと分離したりと、巧みに躱す。
だが攻撃の隙が貰えず、逃げ回るのが精一杯なのだ。
「バードを単純に倒すなら、これで充分だ……」
ジェリドは矢を放ちながら、話始めた。
「いくら心が通じ合った相棒がいても、体力が尽きれば終わりだ」
「確に」
リビティナが感心する。
「だが、このやり方には三つ弱点がある……」
まだ連射を止めずに話を続ける。
「これはお前には無理だ……お前の連射最大数は?」
「五連が精一杯です」
「これは永久連射ができる者だけの技だ。次に一対一の時にしか使えない」
「なるほど」
「そう…同じ奴ばかり相手にしていては、他の敵の餌食になるからな」
まだ矢の連射を止めない。話をしながら良くこんな事がとリビティナは思った。
「そして、最大の弱点は……ミク何だと思う?」
ジェリドは上空に向かって問い掛けた。
「え?矢に限りがあるね」
ミクはミクで応戦しながら平然と答える。
「そう…矢には制限があるからな」
ジェリドがそう言うと弓を降ろした。
リビティナがジェリドの持つ矢筒に眼をやり、13本しか入っていない事に気付く。
つまり、あと13本で決めなくてはならないのだ。
「よし、じゃあ今度はこっちの番だねー♪」
ミクは矢の連射された時にチカに肩を捕まれ、飛んでいる形になっていた。また手は剣のままだ。
「チカ!」
「ピ-ィ」
相棒の名前を呼ぶとミクが落下してきた。肩を掴んだ足を離して貰ったのだ。着地と同時に剣を振り。続けざま更に振り続けた。
「はぁぁはっ!」
だが全て躱される。また躱しながら、矢を一本取り出し、ミクに突き刺す。間合いから言って、これは完全に入ったと思いきやミクは右手で剣、左手でチカの足を掴み上昇。
しかし、ジェリドに背中を見せていた。その隙を彼が見逃さない。先程突き刺そうとした一本を弓に装填し放った。残り12本。
その一本も虚しく空を切る。狙ったのか、それともたまたまなだったのか……チカの足を掴んだミクは逆上がりの要領で、チカの真上へ、そして股がるように座った。
矢はミクが先程までいたチカの真下を通過して行った。そしてチカに股がった瞬間、チカは右旋回をして、ミクは剣から弓へと持ち替えた。
その持ち替えのスピードは一秒に満たない程速い。更にミクは弓に持ち替えた瞬間、四連射した。
(あれは……)
胸中呟いたリビティナは気付いた。あの矢は逃げ道を無くすものだという事に……。
ジェリドも矢の軌道くらい読める。無駄には躱さないだろうとリビティナが予測した。
「っ!?」
だが、半身を右にずらしながら一本放った。残り11本。それにリビティナは驚いた。
ヒューン……カツンっ!
ミクの矢を1本だけ弾く。その後、ミクが急降下・急接近。いつの間にか手には槍がある。ジェリドは左に一歩ずれる。
シュ~っ!
一筋の風が走る。ジェリドの手には確り弓があった。ミクが放った矢は前後右に刺さり、左に刺さる筈だった矢はジェリドに弾かれていたのだ。ジェリドは、こうなるのを予測していた。
ジェリドは振り返った瞬間矢を放った。
「えっ!?」
リビティナがまた驚く。人差し指と中指の間に一本、中指と薬指の間に一本、薬指と小指の間に一本、計三本同時に矢を放ったのだ。
それだけではない、ミクの位置を目視する前に放った。だというのに矢は正確にミクを捉えている。
「やる~」
と言いつつ横一文字に並んだ矢を、ミクは更に上昇する事で躱した。これで矢は八本。
しかし、第二波がやってきた。次の矢は縦一文字。
「げっ!!」
慌てた声を上げ、右旋回する事で躱した。
「ふ~あぶないあぶない」
そして、ジェリドを見るとあの三本射ちをし、続けざまに二本射ちという二連射していた。それだけではない、二連射目を強く射つ事で、最初に射った矢に追い付かせミクの所で全て並ぶようにしていた。
単発の連射でも、このように標的に同時に当てるなど難しい荒業。だというのにジェリドは三本射ちと二本射ちの連射で、やってのけたのだ。
流石は大陸一の弓騎士といったところだろう。リビティナは、もう違う世界のレベルに呆然とするしかなかった。
ミクの前に五本の矢が同時にくる。最初の横一文字に上下を加え、十字を描いていた。
「こんなの無理ーっ!」
そう左か右に旋回して避ける事は出来ないし、上昇下降も不可能。
加えて上昇下降がダメなのでは分離なんて以ての外だ。そしてミクは矢に当たる覚悟をした。
下手に避けるとチカに当たる恐れがあるからだ。彼女に取ってチカは大切な相棒。その相棒が傷付くのは見たくない。だが、それはチカも同じなのだ……。
「ピーィ」
ブスっ!
「えっ!?チカ?チカー!」
上空でミクが叫ぶ。
ミクは十字を描いた矢の真ん中のに当たるつもりでいた。しかし、チカが急下降。下段の矢にミクを庇うようにチカに当たる。矢は羽根を貫いていた。
ヒューン……ドーンっ!
そのまま落下。
「チカ!大丈夫っ!?」
地上に落ちたミクが叫ぶ。
「おい!大丈夫か?」
その場にジェリドが走って来た。
リビティナが後に続いている。ミクは念入りに羽根の状態を見た。
「う~ん!大丈夫かな……応急処置をして、後でディーネ様に回復魔法かけて貰うか」
とミク。
「悪りぃ……やり過ぎた」
「良いって良いって……それよりジェリドには、やっぱり敵わなかったなぁ」
ミクが苦笑を浮かべる。
「お前が本気を出していれば、殺られていたのはこっちだったかもな」
「それはお互い様♪」
「えっ!?えっ!?二人共、あれで加減してたのですか?」
リビティナが驚く。
「まぁ模範戦だからねぇ」
ミクが答える。
「というかミクさんは謙遜し過ぎですよ。あれだけ強いのに弱いだなんて」
「あははは……ほんと弱いんだってばぁ」
再び苦笑。
「確に弱いな……」
ジェリドがポツリ。
「えっ!?」
それにミクは平然としているがリビティナが反応した。
「ミク、お前の剣や槍は、ホリンやサラのそれと比べたら赤子同然だろ?」
「まぁね♪」
あっさり認める。
「弓もリビティナの半分にも満たない」
「まぁね♪」
「それは嘘ですよ……かなり鋭かったです」
すかさずリビティナが反論。
「それはスピードが、そう錯覚させてるんだ」
ジェリドが説明する。
「チカさんとの連携ですか?」
「それもある。大鳥との連携は完璧だ。だが、それだけではない、武器の切り替えがピカイチだった」
ジェリドは冷静に分析していた。
「……お前、武器を使いこなす鍛錬より、切り替えの方の鍛錬を多くやっていただろ?」
「あははは……バレちった」
舌を出し苦笑いを浮かべる。
「そういう事だったのですか」
リビティナが納得した。
「それに、ミクの使用武器三つ……俺達みたいに一つを極めようとしてるわけじゃないからな」
「なるほど」
「だから弱いって言ったのよ」
ミクが繋ぐ。
「そんな事も見極められないようじゃ弓兵としてまだまだな」
「……すみません」
リビティナは頭を垂れる。
「ま、良いさ。それより、俺に付き合え」
「わかりました」
「っとその前に俺達は行くが良いか?なんならディーネ様呼んでこようか?」
「大丈夫大丈夫。お構いなく」
そうしてジェリドとリビティナはその場を後にした。
一人残ったミクはチカの応急手当を行う。
「ふ~…終わった」
応急手当が終わると額の汗を拭う。
その後、チカの羽根を撫で始めた。普段は白く輝く美しい羽根だ。しかし、今は赤く染まっている。
応急処置が施されたとは言え、羽根の上に巻いた包帯に血が染み付く程に重症のようだ。
「あれ?ミクじゃねぇか」
其処にイスカがやって来た。
「あっ、イスカ様……おはようございます」
頭を垂れるミク。
「だから、その呼び方止めろと言ってんだろっ!!」
「あははは……セイラ様の幼馴染を呼び捨てになどできませんよ」
ミクはから笑いをしながら答えた。
「あいつは王族、俺様は一般人だって何度言わせるんだっ!!」
「すみませんクセで。あははは……」
「敬語も止めやがれ、燃やすぞコラ!で、何やってんだ?」
「チカが羽根を痛めましたので休ませているのです」
「ふ~ん」
興味無さそうに返して来た。
「イスカ様は?」
ミクも訊き返す。
「見回りだ。まあもう終えるがな」
「アルス様にコキ使われているのですね」
「ちげぇーよ!あいつは、俺に何も命令してこねぇ……」
遠くを見詰めるような眼差しで返して来た。
「えっ!?」
「大方、どっかの大ボケと一緒でセイラの幼馴染っつー事で、気ー使ってんだろ」
「あははは……耳が痛いっす」
ミクは反省している様子もなく、ヘラヘラ笑っていた。
「それでなんだ……その…自主的に見回りをしていたってわけで」
顔を赤くに染める。それを隠すかのように、そっぽを向き、人差し指で頬を掻いていた。
「流石、セイラ様の幼馴染っス……尊敬します」
ミクが敬礼をする。
「うるせーっ!!燃やすぞコラ!それより待ってな……回復できる奴を連れてくる」
「そんな……イスカ様にご足労かけられないですよ」
慌てて両手をブラブラ振りだす。
「その呼び方と敬語止めろっつってんだろっ!!」
そう言って走り去って行った。
「あ……行っちゃったよ」
しばらくするとラクームがやって来る。
「おっ!いなはった」
相変わらず変わった口調をし、商人ならではの揉み手をしていた。また眼を細くしている。
「あっ!ラクーム……も~かりまっか♪」
「ぼちぼちでんな」
意味のわからない会話を交わす。
「いなはったって……あたしを探していたの?」
ミクは怪訝そうに首を傾げた。
「そや」
「あたしに何か用?」
「何ゆーてはります?アンはんがワテによーがあるんやろ?イスカはんから聞いているでぇ」
「えっ!?イスカ様からって……」
ミクの言葉を最後まで聞かず、チカの傍まで行った。そして、一瞬だけ瞼を開く。
「これは酷いなぁ」
チカの羽根を見てそう言った。
「矢が貫通したからね。あははは……」
またカラ笑い。
「ほな行きまっせぇ」
「えっ!?」
『精霊の名において癒水にて邪を流し賜えー』
「えっ!?まさか……」
ミクが驚く。
『ヒールっ!』
シュイィィン!
水系中級回復魔法でチカの傷が見る見る癒えていった。
「回復魔法なんて使えたんだ」
ミクが感心する。
「ワテがいつ使えないと言いはりまった?」
「いや~水系しか使えないって聞いていたから……あははは……」
再びカラ笑い。
「何ゆーてはります?これ水系の回復魔法でっせぇ」
「そんなのあるんだ」
知らなくて当然だ。ミクは魔導を学んだ事がないのだから……。
「まだ完治したわけではあらへん。しばらく無茶させたらアカンでぇ」
ラクームがチカの傷の具合を見ながら言って来た。
「わ-たでぇ……ラクームはんおおきになぁ」
ミクはラクーム口調で返し、頭を垂れる。
「ええって……そげんこつより、ワテのマネせんといてー」
「は~い♪」
手を挙げて返すが反省の色無し。
「ワテはもう行くでぇ。搬入のチェっクがまだ残っとるんやぁ」
ラクームは解放軍の全ての武具の管理をしているのだ。
「うん…忙しい所ありがとうね」
満面な笑みを浮かべるミク。
「ほなさいなら」
「ばっはは~い♪」




