エピソード リオン
「これは決定事項だ」
「もう一度お考えください陛下」
「リオンよ…!わしを許せと言わん。だがこれは国が唯一助かる道だという事を理解してくれっ!!」
「理解できません。侵略国と組むなど……ましてや同盟国であるイクタベーレを裏切るなどっ!!」
「くぅぅ……え~い!もう良い……お前などいらぬ……即刻シャルスの騎士団から出ていけっ!!」
「っ!?」
「おい!誰かそいつを摘み出せっ!!」
「し、しかし」
「わしの言う事が聞けぬのか!っ!?」
「は、はっ!承知しました」
「陛下お待ちを……もう一度……もう一度だけお考えを……」
「リオンさん!残念ですがあきらめましょう」
「陛下陛下陛下ーっ!!」
◆◇◆◇◆◇◆
「クソっ!俺は今まで何の為にシャルスに仕えていたんだよ……せっかく副団長まで上り詰めたってのに!……ヒック……」
俺は自暴時期に陥り、酒に溺れていた。
「お客様悪いけど、そろそろ店を閉めたいんだけど……」
店主が俺をおっぱらおうとする。
ったくケチケチすんなよ。
「………」
無言で立ち上がり、出口を目指した。
「お前さん、毎日来てくれては朝から晩まで飲んでくれるのは嬉しいんだが、良い歳してんだから、あんまりプラプラするなよ」
うるせーよ。お前に何がわかる?と内心思ったが何も言い返さず酒場を後にした。
最近は毎日この酒場に来ている。その度に店主の小言を言われる事があった。
だが俺には言い返す気力がない。もうなんもかんもどうでも良いのだ。俺にとって、かつて親父のいた騎士団に所属してる事が生き甲斐だったのだから。
ははは……これじゃあユアンに会わせる顔がないな。騎士団を追放されて直ぐにユアンに探しにユグドラシルに向かった。
でも、どうも途中から足が進まない。情けないこの姿を見られたくないという余計なプライドが出てきてしまったのだろう……。
それと同時に俺の中で深い憎悪が渦巻いていた。シャルス国王陛下は暗黒魔王軍と組み、同盟国であるイクタベーレを陥落させる作戦を練っているのだ。
俺は何度も止めた。そんなの絶対間違っている。あげくには、今まで必死にお仕えしてきた俺を切った。同盟国を切り、いつ切られるかもわからない暗黒魔王軍などと組んで……。
バカらしい。ははは……一体俺は何の為に騎士団に入ったんだろうな……。
・
・・
・・・
そんなある日だ。いつものように酒場に訪れていた。其処で他の客が変わった事を話していた。
「………したって話だぜ」
「怖いねぇ~。だが此処でドンパチしてなくて良かったぜ」
「ああ…そうだな」
「これも……」
「おい!その話は本当か!っ!?」
俺は思わず店の客の胸ぐらを掴んでしまった。
「おい!今の話は本当か?」
「てめぇ何をしやがる」
ツレの二人が立ち上がり、俺を囲む。
「くぅぅ~。一体……何の話…だよ?」
胸ぐらを掴まれた男が何とか言葉を発する。
「だからユグドラシルだよ!」
俺はつい怒鳴ってしまった。
「ぐっ…あれか……ほんとだよ」
「な、何っ!?」
「わかった…ら……離せ……よ」
俺は手を離す。男はストンと落ち尻餅をついた。
「ゲボっ!ゲボっ!……普通に聞けねぇのかよ?てめぇは!!」
「詳しく教えろ!」
「はぁっ!?ワリィけど知らねぇよ…あくまで噂だからな……どうしたんだい?そんな慌てて」
「………」
「おい!どうした?お~い!」
俺は一瞬放心状態なった。ゆ、ユアン……。
話を聞けば一年前の話じゃないか。陛下はこれを伏せていたのか。余計に許せない。
バンっ!
店主の目の前に適当な金を起き、店から一気に飛び出した。
ザーザーザ……。
酒場の外は雨が降っていた。服が体に張り付く。だが気にせず走った。
ユアンユアン……彼女の事を一心に考えながら……。
途中つまずく。真っ黒に汚れる。それすら気にせず走った。やがて目的地に到着した。
「ハァハァ……」
「貴様!何をしている?」
城の門番が立ちはだかる。雨の中、カっパで身を包み役割を徹する。ご苦労な事だ。俺は顔を上げた。
「リオンさん?どうしたんですか?」
門番が驚く。
「せ、聖王国ユグドラシル」
「はい?」
「聖王国ユグドラシルが陥落したって本当か?」
「え?はい!一年くらい前に陥落したと聞きました」
「ユアンは……ユアンはどうした?ユグドラシルの部隊長だっ!?」
一気に心につっかえてるものを吐き出した。
「確かリオンさんの大切な方でしたよね?」
「ああ」
「そのユアンって方は……」
門番は口を苦す。
「はっきり言えっ!!」
気持ちが先走り、つい怒鳴ってしまった。
「ユグドラシル陥落の最後の最後まで懸命戦い……そして散っていったと聞いております。すがこれはあくまで噂です」
俺の気持ちを理解し、噂という曖昧な言葉使った。はっきり死んだとは、言いづらかったと俺にもわかる。
「くっ~……ユアン」
リオンの顔が沈む。
「心中お察ししますが、あくまで噂なので」
最後まで聞かず目の前に広がる森へずぶ濡れのまま入っていった。
「ユアンユアンユアーーンっ!!」
森に俺の絶叫が何度も何度も木霊して森に響き渡っている。
俺は背中に抱える斧を掴み取る。
「うぉぉぉぉ……っ!!」
それを振り回した。森の木々が崩れだす。
「クソーっ!」
力の限り俺は暴れた。シャルスが暗黒魔王軍と組まなければ、こんな事はなかったかもしれない。
心中に怒りが溢れる。今まで仕えていたシャルスに。侵略した暗黒魔王軍に。
いや違う。時期的にシャルスと暗黒魔王軍が組む前だ。キナ臭い情勢になった時にユグドラシルに行けば良かったのだ。
もしユグドラシルに向かっていれば……。
シャルス国王陛下をもっと早い段階で説得しておけば……。
後の祭りだ。そんな事はわかってる。それでも次々に後悔の念が浮かんできた。
降りしきる雨は俺の哀しみの心を映してるようじぇねぇか。無惨に切り崩された木々は、俺の憎しみの心を映してるように感じる。
【腕をあげたなユアン】
【ふふ…リオンのお陰よ】
【じゃあ次はコイツだ】
【えっっ!?】
【たたた…手が痺れた】
【ははは……ユアンにはまだ早かったかな?】
あの懐かしき日々が蘇る。俺の頬が緩む。暴れながら、思い出に浸っていた。
もう戻る事のできない時間。ユアンと過ごした日々。もう還ってこない時間。それがわかっているから、尚哀しい。
口元が揺るんでいると同時に眼元も揺るんでる気がする。もう雨なのか涙なのかわからない雫が頬を伝う。
そして、休む事なく俺は斧を振り回した。
【俺は親父がいたシャルスの騎士団に入団する】
【えっ!?】
【お前は十分強くなった……もう俺は必要ないだろ?】
【でも、まだリオンには敵わない】
【だが、既に常人の域を越える程に強くなった。その力、………へ使え】
【……わかったわ。じゃあ私は、ユグドラシルの騎士団に入団する】
【ユグドラシルかぁ……また大きくでたな。じゃあお互い騎士団でもっと腕を磨き、また剣を交えよう……っと言っても俺は斧だがな。ははは……】
何が親父のいた騎士団に入るだ。まともに勤まってねぇじゃんか。ユアンなんか騎士団の部隊長まで張れるようになったってのに。
俺は副団長止まり。挙げ句に追放か。笑いが止まんないぜ。
身体中から汗が吹き出る程に斧を振り回した。いつの間にか傷を覆い血が流れる。だが、それすらも全て雨が洗い流していた……。
【まだまだだなユアン】
【でも直ぐにリオンに追い付くから】
【俺達は親譲りなのか、常人より力がある。………使おうな】
【ええ……でもその前にリオンを負かすからね】
【ははは……望むところだ】
もう俺を打ち負かす事は永遠に無くなったな。打ち負かすその日が来るのを俺は待っていたんだが……。
ユアン!お前が成長していく姿を見るのが、俺にとっての最高の楽しみだった。
【でも直ぐにリオンに追い付くから】
【俺達は親譲りなのか、常人より力がある。………使おうな】
【ええ……でもその前にリオンを負かすからね】
【ははは……望むところだ】
振り下ろそうしていた斧をピタっと止めた。
待てよ……俺はあの時、何を言ってたんだ?
ふと疑問に思う。
【俺達は親譲りなのか、常人より力がある。この力、……モノに使おうな】
【ええ……】
斧を振り下ろそうとした構えからピクリとも動かなくなった。確か俺は大事な事を言っていた筈だ。何だ?思い出せ。
【俺達は親譲りなのか、常人より力がある。この力、より…モノに使おうな】
【ええ……】
そうだ。俺はあの時……。
【この力、より良きモノに使おうな】
と言ったんだ。
あの時、約束したじゃねぇか。何故忘れていた。この力、より良きモノに使う為に騎士団に入ったんだ。
俺はいつの間にか、それを忘れていたのか。バカな話だ。俺は、この為に騎士団に入ったのに、それを忘れる等と。これじゃあユアンに顔向けできないな。
「はっははははは……っ!!」
俺は高々と笑った。俺はこの力をより良きモノへ使う。それはお前との約束だよな、ユアン!
シャルスが暗黒魔王軍と組むなど間違ったやり方をする国だったってなら、内部から変えるまでよっ!!
俺は再び誓いを胸に刻んだ。雨がより一層激しくなる夜の森の中で、天に向かって俺は大きく斧を掲げる。
「もう俺は迷わないっ!!」
・
・・
・・・
翌日俺はシャルス城へ、陛下に会いに行った。
「なんだ貴様!その格好は何なのだ?」
陛下が驚く。無理もない。俺の格好は前日のまま。泥だらけ、血だらけなのだから。門番も同じく驚いていた。
「申し訳ございませんでした」
俺は深々と頭を垂れた。
「はっ!?」
「陛下は正しかったです。眼が覚めました」
これは本音だ。昨日の晩、冷静になった頭で考えてみた。町は平和なのだ。暗黒魔王軍組んだお陰で。
もし、暗黒魔王軍と手を結ばなければ、町は無事ではすまなかった。陛下は民の事を考えた上での行動だったという事に俺は気付いた。
これが本当に正しかったのかまではわからない。だが、最善手だったには間違いないだろう。
「何を今さら」
「追放され、町を見て気付きました。シャルス王国は陛下がお守りした事により平和のままなんだという事に」
「やっとわかったか」
「もう一度、私に機会をお与えください。再び騎士として、この国を守護したいのです」
「良かろう……ただし末端からやり直して貰うぞ!」
「はっ!!陛下の慈悲、痛み入ります」
右手を拳にし、左胸に当て、再び深々と頭を垂れた。
ユアンよ!今度こそお前との約束を守るからな―――。




