エピソード ティアⅡ
此処は私が以外誰もいない私の世界。私は、私本体ではない。此処にいるのは、本質の私。
言い変えるなら本質の私とは私の心。本質故に肉体は無く、有ると錯覚だけはしている。
この世界は真っ暗で何もない。唯一あるのは、人が十人集まっても隠れないような大きさの長方形の箱。
その箱には、本体の私が見てるものが映し出されていた。本体の私とは、私の身体の事。つまり、私は心と身体が離れた状態になっている。
そうしてくれたの白銀波。白銀波は、私の魂が呼び出した私に従う、意思を持った剣らしい。
本体の私が持つ、白い剣がそれだ。本来なら、大切な者を二度亡くした哀しみを暗黒魔導士に漬け込まれ、私は操り人形になっていた。
その私は、操られる寸前に本質の私と本体の私の二つに白銀波が分離させてくれた。
そうする事により、完全に操られなくて済むからだと白銀波は言う。そして、私が望む事で本体に還る事ができる。
でも、そうする気になれない……。
はっきり言って何もかも、どうでも良いと感じていた。
箱には、何人もの人が血を流し、生命を落とすところがよく映し出されていた。
本体の私が幾人もの人を殺めているようだ。それすらどうでも良い。今の私はただの傍観者に他ならない。
私がこの世界で目覚めて何日目だろう……。
時の流れがあっとういう間で、もうよくわからない。
そんなある日、再び本体の私の前にホリンさんが現れた。前にも会ったが、その時は何一つ決断できず逃げ出した。
本質の私の意思で逃げだした。だけど、今はもう私の心は何を望むか決まっている。
どうでも良い世界など終わらせたい。そう思うようになってから、再びホリンさんに会うなんてなんて幸運なんだろう。
風の噂によると、ホリンさんは、百戦連魔の剣士。この人に勝った事がある人はいないらしい。
ああ…この人なら……。
それに私はホリンさんに生命を救われた。その上、無償で仕事ができるようにしてくれた。この人なら……。
殺されても良い―――。
貴方に拾われた生命、貴方になら……。
だって、生きている意味なんてないもん。ねぇ…エルク!もうそっちに行って良いよね?
『嬢ちゃんよー!俺がわからないのか?ホリンだ。ダメなのか?お前さん、もう正気に戻らないのか?』
箱の向こうで、ホリンさんが語り掛けてくれていた。ごめんなさい。私……私はもう良いです。疲れました。
何合か打ち合いをしホリンさんが私が元に戻らないと悟り眼付が変わった。本気でやってくれるのかな?
そう思った瞬間、白銀波は弾き飛ばされていた。流石ホリンさん。もう良いよ……貴女も疲れたでしょう、本体の私。
さあ、人思い……。
これで、これでやっと……お願いします、ホリンさん。
『ちょっと待てーっ!!』
えっ!?この声……。
『てめぇ!ティアに何しやがるっ!?』
私の事を知っている。まさか……まさか……。
『エルク殿っ!!』
やっぱり。誰が彼の名前を呼んだのかわからなかったけど、確かにエルクって。
『風よ!力をっ』
『うぉぉー!!』
彼がホリンさん吹き飛ばすと私の肩を鷲掴みに……。
『ティア、生きていたのか!?俺だよ俺っ!!エルクだよ。わかるか?』
うん。勿論わかるよ。
「エ、ル、ク」
『え、エ、ルくぁぁぁ~っ!!』
私は彼の名を呼んだが本体の私が苦しみ出す。本質の私が本体の私の意思に逆らったからだ。
エルクがいるなら、還らなきゃ……。
「白銀波!私、私…本体に戻りたい……力を貸してっ!!」
私の心の世界で叫ぶ。
「御意!では汝よ…強く望むのだっ!」
白銀波は応えてくれた。
強く……私は本体に還りたい……貴方がいるなら。
『おい!どうしたティア?』
私を案じてくれる声がする。
『ティア大丈夫か?確りしろっ!』
今、貴方の元へ……。
浮遊する感覚を錯覚がする。身体に戻ろうとしているんのがわかる。
「ああ…生きていたの?……なら直ぐに戻るから……」
『あぁぁ…エ、ル、ク……ハァハァ……生きていたの?』
本体の私は最後まで、私の言葉を言えなかったようだ。
『なんとか生きていたぜ』
『嬉しい……』
涙が溢れる錯覚がした。それに本体の私も、それに呼応しているようだ。
目の前に光が見える。彼処まで行けば……。
ああ……後少し。
しかし、前回と同じくアレがやってきた……。
私の足が引っ張られるような錯覚。
【どうせ、戻っても苦しむだけだよ…止めておきな】
あの邪悪な声も……。
『あぁぁ……』
『おい!ティア!!』
エルクが力強く呼んでくれる。
「もっと強く望まねば邪悪な力を打ち破るぬぞっ!!」
白銀波も応援してくれる。だけど……。
【どうせ戻ったって、辛くなるだけだ】
先程と同じ声がした。だが、先程より更に邪悪に満ちて響いていた。
光が遠ざかる。後少しだったのに……。
やっぱり私には無理なんだわ。頬に雫が流れるような錯覚がした。
「エルク…ごめんね……せっかく生きていてくれたのに」
『あぁぁ……ご、め、ん、ね……ハァハァ……せっかく生きて、いてくれたの、に……うわぁぁ……っ!!』
【もう帰っておいで!其処にいても苦しむだけだよ。今から魔法で回収してあげるね】
ダメーっ!!
私を連れて……行かない……で。
私は、もう強く想う事ができなくなっていた……。
『待て、ティアっ!!』
引き止めようとするエルクがいるのに……。
「ご、め、ん、な、さ……」
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
エルク……弱い私でごめんね。貴方だけでも強く生きて……。
サ…ヨ……ナ………ラ。




