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戦慄のイクタベーレ ~敗退せし者達の母国奪還の軌跡~  作者: ユウキ
第三部 第八章 憎しみと理想
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第五話 エルクとティア

 怨念渦巻くシャルスの森。あの大魔法によって、無惨に死んでいった者達。そしてえぐれた森は、哀しき跡。

 此処に再び轟音響き渡る。それぞれの想いを胸に、また一人また一人と血を流す。それが戦争……それが哀しき因果なのだ。

 アルス達は、森の出口にさしかかっていた。この森を抜ければ城は目の前だ。

 しかし、アルス達の足が止まる。一人の少女が立ちはだかっていたのだ。眼付は、クラヴィスに操られた兵士と同じ虚ろのような。ホリン曰くイッちゃった眼付だ。

 また、右手には刀身も柄も鍔も全てが真っ白な剣を持っていた。その少女が、一歩一歩確実に近づいてきて来る。


「君は!?」


 アルスが口を開く頃には数歩先まで迫っていた。


 ギーンッ!!


 一気に間合いを詰め、アルスに斬りかかってきたのをいつの間にか馬から降りていたホリンが防ぐ。


「よぉ!また会ったな嬢ちゃん」


 剣と剣を交差させたまま、ホリンが声を掛けた。


 彼女は、前にソラとリュウザンの二人を圧倒した剣人族である。名はティアと言うが今は名など無意味。クラヴィスの操り人間になっているのだから……。


「………」


 ティアは半歩下がると、躊躇いなく白い剣を横に薙ぎ払った。


「っ!!」


 カーンッ!!


 それを防ぐホリン。前回は、ホリンの呼びかけで、一瞬だけ正気に戻ったが、今回は躊躇いが全く無い。


「ちっ!俺の声が届かなくなっているのか」

「ホリンっ!」


 アルスが剣を抜こうとする。


「此処は俺が引き受ける。先行けっ!!」

「わかった!みんな先へ進むぞ」






・・・・・・・・・・・・


 野営地では、ディーネが必死にセイラの看病していた。魔法も万能ではなく二度三度かけても意味がないのだ。それにいざという時の為にマナを残していたいので、手で治療を行っていた。

 その鄰でサラが仮眠を取っている。そんなテントの中にユアンがやってきた。


「サラ殿は、お休みになられたのですね」

「仕方無いでしょうっ!!前線で戦っていた上ににセイランローヌ王女の看病をしてたのよーっ!文句あるのっ!?」


 相変わらずツンケンしていた。


「失礼致しました。私も前線での戦いを強いれていた身、よく存じ上げております」


 普通の者なら、このタルミッタの王女の言動に戸惑うものだが、自然に対応していた。ディーネはユグドラシル王家の分家で時折聖王国ユグドラシルに来ていたので、もう慣れているのだ。


「……それはそうとセイランローヌ殿は、どうなのでしょう?」


 ユアンは彼女を恨んでいた。ユグドラシルが陥落する最後の一手を加えたのは、彼女と彼女が率いるマルストルーンナイツだったのだから。

 一度は、その彼女と決着をつけようと決闘を挑む。結果は、セイラの不戦敗。今はアルスが率いる解放軍に身を投じている。よって無駄な戦いを避けたのだ。

 しかし、それでもユアンの気持ちを酌み、いつでも斬り掛かって来て良いと言った。その時のユアンは、そんな彼女の度量を見せられ不戦勝とは言え負けたと感じていた。

 今回は、その斬り掛かるチャンスだと思い、此処にやってきた訳では勿論無い。


「誰が治療してると思っているのっ!?もう大丈夫よ!熱も下がったし」

「ディーネ様もお疲れの様子。手伝いますので、少し休んでください」


 ユアンは、彼女の看病にやってきたのだ。こんな傷付くまで、アルスの為に戦った。もう認めざるを得ないのだ。彼女が“仲間”なんだという事を……。


「何言ってるのっ!?私は平気よ」

「そうですか……」


 ふとユアンはテントの中の端にある刀身が無い剣を発見した。


「これは?」

「セイランローヌ王女が使っていた剣よ。何故かユグドラシル製だけどね」

(こ、これは聖王国ユグドラシルの刻印部分に入ったこの傷……リオンの剣。何故セイランローヌ殿がこの剣を?いやそれよりもリオンはまだシャルスに!?)


 ユアンは、剣の鍔に刻まれた刻印をまじまじと……特に刻印部分に入ってる爪で引っ掻いたような一本の傷を見つめた。








 ・・・・・・・・・・・・


「一体何を考えているのだっ!!」


 怒鳴り声が響き渡る。此処はシャルス城の主ジキルスの自室。ジキルスがクラヴィスに罵声を浴びせていた。


「敵と一緒に我が軍を犠牲にするなど聞いておらんぞ!どういう事だっ!?」


 物凄い剣幕で怒鳴り散らす。


「まあまあ確にシャルスにも犠牲は出ましたがそれは不慮の事故(・・・・・)です」


 それに対しクラヴィスは嘲笑うかのように語り始めた。


「……それにシャルスの兵士はボクの魔法のおかげで感情がなかったです。つまり恐怖を感じる事なく死んだですよ……幸せじゃないですか?」


 残酷な事を平然と口にしていた。


「き、貴様!!よくもぬけぬけと……もう良い!貴様はこれ以上邪魔をするなっ!それにマルストから増援のバード部隊が先程到着した。以後私が作戦を指揮するっ!!良いなっ!?」

「ガディウス皇帝の勅命を無視なされるのですか?アハ……まあ良いでしょう。お手並みを見せて頂きましょう」


 そう言い残すとクラヴィスはジキルスの自室を後にした。


(哀れな道化師め……種は撒かれた。しかしそれが芽吹くのは此処じゃない……そうでしょうソラ(・・)さん。アハハハハハハハハ……それにシャルスの役目は、もう終わったんですよ……)


 そのジキルスの自室にて横でずっと話を聞いていたリオンが残っていた。


「聞いての通りだ。リオン!貴公には前線をまとめて貰いたい」

「失礼ながら、我が軍はクラヴィス殿の失策はあれど、数は遥かに解放軍を凌駕しております。しかし、士気がかなり低下しております」

「何が言いたい?」

「聞けばアルスエード王子はシャルスとの講話を望んでるとの事……此処は一度お考えになられては?」

「黙れっ!!この恥知らずがめ!その腕を見込んでいまだ“此処に”残して、あまつさえ団長にしてやっているのに……」


 再び罵声が響く。


「くっ!わかりました。前線の指揮を取らせて頂きます」








 ・・・・・・・・・・・・


アルス達が城門に到着すると門を埋める程の敵兵達が待ち構えていた。


「まだこんなにいたのですね」


 とリビティナ。


「……此処を陥とされれば、イクタベーレ城は目前……バルマーラはなんとしてでも王子を阻止したいようだな」


 とゼフィロスが淡々と語る。


「だが、進むしかない行くぞ。皆っ!!」


 そう言ってアルスが剣を抜こうとする、その刹那。


 バフゥゥーンっ!


 一筋の風が通り過ぎる。その風は距離を増す事につむじ風、突風となり、敵兵達をまとめて四方八方に吹き飛ばしていった。

 戦場を走る一筋の風。それはアルスの背後から始まった。アルスは後ろに振り返る。背後では、弓を射ち終えた構えを取っていたジェリドの姿があった。

 彼の手にしてるのは、七大秘宝の一つ風の力を宿した風弓フージンである。今の突風は、このフージンの能力なのだ。

 闘気を媒体にし、周囲の大気を吸収・収束させ、一気に爆発させる。しかし、これは弓もさる事なから、所有者の力でもあった。

 門を被い尽す程の敵兵数を吹き飛ばすには、それ相応の闘気を用する。ジェリドはそれだけの闘気を弓に送り込んだ。

 更にに言えば、それだけの高威力の矢を放つとなれば、反動が大きく狙いもズレる。それを確りと照準を定め、放つのは、一流の弓騎士であるジェリドだから出来る芸当なのだ。


「す、凄い」


 それを垣間見たリビティナは感嘆の声を漏らした。


「とっとと行きな!此処は俺とリビティナに受け持つぜ」


 ジェリドが余裕の笑みを浮かべアルスを促す。


「……ああ、わかった。ゼフィロス行くぞ!」

「……ああ」


 この敵兵達は四方八方に吹き飛ばし、道を開けさせたに過ぎない。つまり、戦闘不能まで至ってないのだ。勿論、打ち所が悪い者は、気絶していたりはしていてるが……。

 だからこそジェリドは受け持つと言ったのだ。


「おい!いつまで放けてる?来るぞ!!」


 ジェリドがいつまでも驚き上がっているリビティナに声を掛けた。


「あ、はい!すみません」


 そしてアルスとゼフィロスは更に先に進もうと足を運ぶ。しかし、シャルスの城門でアルス達に一人の男が悠然と立ちはだかっていた。

 ガッチリした体格をしていて、背中にはそれに似合う真紅の斧が携わっていた。彼は牢屋に囚われていたセイラを助け、剣を渡した男だ。

 名は……リオン。そうユアンが探していた男だった……。


「此処は通さない!」


 リオンは背中に携わっている真紅の斧を手に持ちアルスを目掛けて振りかざした。


 カーンっ!!


 それをゼフィロスが受け流す。


「くっ!」


 直ぐ様、リオンは二人まとめて薙ぎ払おと、真横に斧を流す。

 だが、それより先に剣が頭目掛けて振り降ろされて来た。


「な、何っ!?」


 ゼフィロスの剣は瞬速の剣。早々見切れるような速さではない。だと言うのにリオンは咄嗟に横に薙ぎ払おうとした斧を上に回した。


 ギーンっ!!


 鈍い音が鳴り響く。斧という重く扱いにくい獲物なのに関わらず、この切り返し。かなりの反応だ。ゼフィロスに顔に笑みが浮かぶ。


「……先に行け」


 ゼフィロスはアルスに声を掛けた。


「……すまない(ゼフィロス…それに皆、本当にすまない)」


 アルスはついにシャルスの城門を潜り抜けた。だが此処に来るまでに彼は一人になっていた。

 それに気付いていないアルスは自分の目的の為、皆それぞれの戦いを受け持ち先に行かせてくれた事に内心みんなに感謝を込めて、門を潜ったとこで馬の歩を止める。


「私はイクタベーレ王太子アルスエード!ジキルス陛下にお伝え願いたい。我らは、この混乱を収拾する為に陛下との会見を希望する者である!繰り返すこれ以上の武力衝突は無意味だ!会見に応じて頂きたい」


 城に向かって叫ぶ。アルスはあくまで講話を望んでいるのだ。だが彼は、いや彼等は冷静差に欠けていた。

 あの大地系魔法(ガイアエンプレンス)の影響だろう……。

早期決着を付けなければ、またいつあの大魔法がくるかわからないと思い彼等には焦りが生じていた。

 此処まで来る間にアルスを一人にしてしまったのは、はっきり言って致命的。あの大魔法の跡地にジャイロと大半の兵を残して来た。

 彼処で、もう少し戦力を此方に回せば……。

あるいは、野営地にユーリとイスカを残したのだから、ラクームやユアンを連れてくれば良かった……。

 と言っても、こうなった以上、後には退けない。


 ヒューン……ブスっ!!


 これが会見を望むアルスへの返答だった……。


「っ!?」


 ヒッヒヒーンっ!!


 アルスの馬が暴れだす。何処からか飛んできた矢が馬に刺さっていた。


「くっ!」


 彼は、咄嗟に馬から降りた。


 ヒューン……プスプスプスプスプス……っ!!


 無数の矢が降り注ぐ。辛うじて全てを躱し、飛んできた方向を直視。それは上空……。


「ば、バード部隊!?」


 城より上空、優雅に飛び回るバード六羽の姿が視界に入る。黒き燕、茶の鷲。色は黒だが、ミクと同じ鷹。様々な大鳥が空中で旋回し、それを操る兵達は皆、弓を構えていた。


 ヒューン……プスプスプスプス……っ!!


「くっ」


 再び矢が降り注ぐ。


(なんとしてでも城に……)


 アルスは走り込み、中庭を駆け抜ける。しかし、やがてその足も止まる。


「っ!?」


 城内から無数の兵達が現れた。


「まだ、こんな兵力があったのか!?」


 まさに絶体絶命の危機。








 ・・・・・・・・・・・・


 カーン!キーン!カンカンギーンっ!!


 森の出口付近で、ホリンとティアが打ち合っていた。


「やるじゃねぇか!嬢ちゃんよーっ!!」

「………」


 無言でホリンに斬り掛かる。流石は剣人族。大陸一、二を争うの剣豪と謳われるホリンに一歩も引いてなかった……。

 戦場に鈍い音が響き渡る。白い刃と銀の刃がぶつかり合う。


 カンカンカンキーンっ!!


(速い!あいつらが二人がかりで、手こずるのも納得いく)


 ホリンが胸中呟く。彼女の剣速は速かった。はっきり言ってゼフィロス級だ。だからこそ、ソラとリュウザンの二人がかりでも敵わなかったのである。

 しかし、その剣筋をホリンは完全に見切っていた。


(速いが、アイツには敵わないな)


 ゼフィロスの事を胸中思う。同じような速さでも、ゼフィロスと違う点があった。

 ゼフィロスの剣筋は曲線。彼女のは直線。直線は剣筋が速く繰り出せるが軌道が読みやすいのだ。逆を言えば、どうしても曲線の方が遅れてしまう。だが、ゼフィロスは超スピードで剣線を繰り出せる。

 それは、彼だからこそ出来る芸当なのかもしれない。その彼と長時間に渡る死闘行ったホリンには、ティアの剣線がスローモーションに見えていた。


 カンカンカンギーンっ!!


「嬢ちゃんよー!俺がわからないのか?ホリンだ。ダメなのか?お前さん、もう正気に戻らないのか?(他の兵達は正気に戻った……ならお前も……)」


 ホリンは、言葉で望みを掛けた。正気に戻ってくれと。彼は五年前、彼女と出会った。

 雪が積もる森の中、海賊に彼女が襲われていた。偶然に通りかかったホリンが彼女助けた。

 その時の彼女は、あまりにもの恐怖からなのか、記憶を無くしていた。助けた手前、放っておく事もできず、生活していけるようになるまで、面倒を見てやった。

 そして、再会したらこの有り様。一体お前に何があったんだよと疑問に思う。その白い剣は何だよ?何処でそんな剣術を覚えたんだよ?次々に疑問が頭に浮かぶ。

 それを全て払い、今は彼女が正気に戻ってくれる事だけを望む。


「………」


 だが、現実は無慈悲。彼女はピクりとも反応しない。ホリンの言葉が届かない。


(お前さんだけ特別使用ってやつなのか……なら!仕方ねぇっ!!)


 ホリンの眼付が変わる。本気で殺り合うという気持ちに頭を切り替えたのだ。


「ホリン殿ーっ!!」


 カァァーンっ!!


 一瞬の出来事だった。ジャイロがホリンを呼んだ瞬間、一際大きな音を立て、ティアの白い剣を弾き飛ばしていた……。


「終わりだ嬢ちゃん」









 ―――――



 ジャイロと数人の解放軍の兵達は、大地系魔法(ガイアエンプレンス)の跡地での戦闘を終わらせ先を急いだ。前方で遠目だが、ホリンの姿を見つける。女剣士らしき者と戦っていた。


(あれはなかなかの手練れ……)


 ジャイロが胸中呟く。これは加勢した方が良いと考え、馬の足を更に速めた。


「ホリン殿ーっ!!」


 カァァーン!!


 だが目の前まで到着し、呼び掛けた瞬間に決着がついた。


(見事!!)


 眼にも止まらぬ程の一瞬だった。相手の白い剣は、ホリンの剣に弾かれ地面に刺さる。次の瞬間には、ホリンは敵の首元に剣の切っ先を当て、今にもとどめを刺そうとしていた。


(妙だな……)


 ジャイロが胸中呟く。何故か女剣士は直立し、ピクりとも動いていなかった。まるで死を受け入れるかのように……。


「終わりだ…嬢ちゃん」


 ホリンは、剣を持つ右手に力に籠める。


「ちょっと待てーっ!!」


 ジャイロの後ろから制止の言葉が入る。


「あ~ん?」


 ホリンは、声がした方を視線を向けた。


「てめぇ!ティアに何しやがるっ!?」


 怒りが籠った声で叫ぶ。叫んだのは、聖王国ユグドラシル城の牢屋にユグドラシル騎士団の一部隊長ユアンと共に囚われていたユグドラシルの騎士エルクだった。

 何故か怒り狂い、エルクは地を駆ける。地を蹴る足は爆裂のごとく爆ぜ、宙を跳ぶかのように身体は弾丸のように速い。何故なら彼の職はシーフ。素早さに長けていた。


「お、おい!」


 ホリンは彼の行動に面喰う。


「エルク殿っ!!」


 ジャイロも制止の言葉を掛ける。


「風よ!力をっ!!」


 しかしそれを全て無視し、ホリンの目の前に迫まると、手に持つ短剣を振った。


 バフゥゥーンっ!!


「うぉぉー!!」


 短剣から生まれた突風により、ホリンが吹き飛ばされる。それはほんの一瞬の出来事。

 彼が持つのは、風の力を宿した短剣フーリン。風弓フージンの模造品だが、突風を起こす事ができる短剣なのだ。


「てめぇーっ!!」


 ホリンが直ぐに体勢を立て直して怒鳴る。しかし、彼にはホリンの言葉は届かない。エルクはティアの肩を鷲掴みにしていた。


「ティア、生きていたのか!?俺だよ俺っ!!エルクだよ。わかるか?」


 エルクの眼に涙が浮かぶ。


「おい!何しあが……あ~ん?」


 ホリンはティアの挙動が可笑しい事に気付き訝しむ声を上げた。


「え、エ、ルくぁぁぁ~っ!!」


 ティアは、頭を抱え叫び出す。


「おい!どうしたティア?」


 エルクが呼び掛ける。


「うわぁぁぁ……っ!!」


 しかし、彼女は半狂乱に叫ぶ一方だった……。

 森の木霊する半狂乱に叫ぶティアの声。

 そのティアの肩を抱き、必死に呼び掛ける。


「ティア大丈夫か?確りしろっ!」

「あぁぁ…エ、ル、ク……ハァハァ……生きていたの?」


 彼女の眼には涙が浮かぶ。


「ああ……なんとか生きていたぜ」

「嬉しい……」


 今度は笑みが一瞬浮かぶ。エルクが生存していた事が本当に嬉しい様子だが、それは一瞬だった……。


「あぁぁぁ……っ!!」


 再び半狂乱に叫ぶ。


「おい!ティア!!」


「あぁぁ……ご、め、ん、ね……ハァハァ……せっかく生きて、いてくれたの、に……うわぁぁ……っ!!」


 彼女は頭を抱え、後退りした。そして、彼女の正面に魔法陣が現れる。


「待て、ティアっ!!」

「ご、め、ん、な、さ……」


 彼女は最後まで、涙を浮かべ、魔法陣に吸い込まれていった……。


「誰かに魔法で回収されたようですね」


 一部始終を見てたジャイロが口を開く。


「……ああ、例の魔導士辺りだろうな」


 ホリンが付け足した。


「おい!一体これはどういう事だよ!!」


 エルクがホリンに叫ぶ。


「おそらく、あのふざけた魔法を使った魔導士に操られてたってところだろうよ」


 ホリンがそう応えた。


「さっきの兵士達は正気だったじゃねぇか」

「たぶん特別製なんだろうよ」

「ふざけやがって、やっとやっと会えたってのによーっ!!」

「お前さん……どっかで会った事あると思ったら、あの時、嬢ちゃんと一緒にいたボウズか?」

「えっ!?」


 エルクは鳩が豆鉄砲喰らった顔をし出した。

 五年前、エルクはティアと共に海賊から逃げ、森に入っていった。しかし、彼はティアを守る為に瀕死の重症を負った。

 ホリンは、助ける術がなかったので、仕方無く置き去りにしてしまう。その後、これもまた偶然通りかかった今は亡きユーリの母、ミンシア大司祭に助けられ、一命を取り止めたのだ。

 そして彼は、ニーベ宮殿の方で治療を受け、そのまま聖王国ユグドラシルの騎士団に入団した。今度こそ彼女を守る為に……。

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