第四話 無敗女王敗れる
『ライザーガっ!!』
ズドドォォォッ!!
蕾龍煌めく。シャルス城の屋上で轟音と共に激しく閃光していた。
クラヴィスによる雷系上級だが、セイラのそれとは比ではない。
「があっ!」
甚振るかのようにセイラへの直撃を避け、周囲を焼き付くす。
「ボクを殺すなんて無理なんですよ。そんな事は誰にもできない」
邪悪に満ちた笑みを浮かべる。
(だ、駄目だ…こいつは……本当に悪魔なのか)
胸中ごちる。セイラはもう万策尽きていた。いくら悪魔的細心差で臨むセイラでも本物には勝てなかった……。
「そろそろ終わりにしましょう」
クラヴィスが右掌をセイラに向ける……。
だがその刹那。
「セイラ様ーっ!!」
何処からか彼女を呼ぶ声が響く。
「っ!?」
クラヴィスは声の方向に視線を向け時には何かが横切っていた。ソレは、白き大鳥に股がりし者。大鳥と共に戦いし戦士、バードだ。
「み、ミクか……」
セイラが口にしたのは、マルストルーンナイツの一員ミク。愛鳥の名はチカ。幼少時代より過ごしてきた仲間、いや相棒だ。
彼女はチカに股がり、着地と同時にチカがセイラを銜え上に放り投げた。それをミクが抱きかかえる。
セイラは重症だったがクラヴィスから直ぐに逃げるには手荒にせざるを得なかった。
そして即座に白き翼を大きく広げる。
「行くよ!チカっ!!」
「ピーィ」
ミクの掛け声で、空高く羽ばたく。白き翼は美しく大空舞い駆けて行った……。
「まあ…良いでしょう。流石に疲れました」
クラヴィスはそれを見送る。
「セイラ様っ!セイラ様っ!確りしてくださいっ!!」
チカの背中でミクが叫ぶ。
「……ミク…すま…ない」
そのままセイラの意識が暗闇に呑み込まれた。
「セイラ様っ!セイラ様っ!」
・・・・・・・・・・・・
アルス達解放軍は、野営地で、相変わらず城攻めを棚上げ状態にしていた。
「さーて、この先どうするかだな。さっきので出鼻砕かれたからな」
ホリンが呟く。
空気が重い。未だガイアエンプレンスを引きずっていた。
「敵の追撃はありません。今のところ新しい動きはないようです」
リビティナの報告を行う。
「ま、そうだろう。敵ちゃんもかなり痛手を喰らってる筈だからな」
「だが、敵にかなりの魔導士がいるのは事実だ」
とイスカ。
「お手上げだな」
ジェリドが続く。
「いいえ。魔法はそんな便利じゃない。どのくらいの魔導士か知らないけど、かなり無理している。そう易々とあんなの使える筈がない」
ユーリは大分落ち着いたようだ。冷静に分析していた。
「にしても、アルスはどうした?アイツがいないと、何にして話にならねぇ」
ホリンがボヤく。そう彼がいないと、コトが進まないのだ。
「アルス様なら外の空気をお吸いになると、出られました」
それに応えたのはジャイロだ。
「無理もないか……新兵とはいえ、これだけの犠牲を出したのは初めてだ。アルスが平気な筈はねぇ」
ホリンが呟く。
・・・・・・・・・・・・
アルスは、野営地の近くにある河辺にいた。ただじっと水面を見つめる。
【クラヴィスは、本物の悪魔だ】
彼の頭に助けてくれた、天空の貴公子の言葉をよぎり苦痛の表情を浮かべていた。
(くっ!……私は…私はどうすれば……?)
そんな彼が心配になり、一人の少女がやってきた。まだ幼さが残るが、どこか気品がある姿。タルミッタの王女ディーネだ。
しかし、彼女より先にアルスの安否を気遣っている者がいた。その者は少し離れたとこから、アルスを見つめる。
「……ソラ」
ディーネが声を掛けた。
呼ばれたのは、イクタベーレ騎士団の一人、ソラである。彼はディーネに視線を向ける。
その瞳は、危なっかしさを入り混じっている。しかし、彼女にはそれを読み取る事は出来てなかった。
相棒だった同じくイクタベーレ騎士団の一人、リュウザンを亡くしてしまった事により、荒んだ眼をしてると、ディーネにはそう感じた。
ソラは、直ぐにディーネから視線を外し、何処かに去っていく。彼女はそれを見届けると、アルスの傍に歩み寄った。
ディーネを確認したアルスは無理に作った笑みを見せる。
「ごめん……いつも心配させて。でも大丈夫だよ。大丈夫……」
「アルス様……」
「ギュスターヴ王子が言っていたんだ……戦いには犠牲が必ず付いて回る。だから、それを最小限に抑えるやり方を取れって……」
そう現実問題、戦には犠牲がでる。しかし、あくまでも理想を追うアルスにとっては耳の痛い話なのだ。
「だけど駄目だ。私にはそこまで割り切れない。でも、やはりそれではいけないのかもしれない……」
「……ロッカ様は……ロッカ様が何故アルス様にルンゲンの腕輪をお渡しになったか、おわかりでっ!?」
何処かに寂しげな表情をするが、それでも彼女は、気丈な……いやツンツンした態度をしていた。
「……ディーネ?……ん?バード!?」
上空を駆け此方に向かってくるバードにアルスが気づく。
「えっ!?」
「あれは……マルストルーンナイツのミク?……それにセイラ王女っ!?」
アルスの視界に、傷だらけのセイラを抱きかかえるミクの姿が飛び込んだ。
「セイラ王女っ!!……一体何が?」
「アルスエード様お久しぶりです」
チカが着地すると同時にミクが元気良く敬礼した。
「えっ!?」
あまりにも場違いにアルスもディーネも固まってしまう。
「……あ~もう。えっと挨拶じゃなくて……あ、あのセイラ様の治療をお願いします」
相変わらず天然が入っていた。
「ああ……ディーネ!」
アルスは直ぐ様、我に帰りディーネを呼ぶ。
「あ、はい。直ぐに応急処置を」
ディーネも我に帰り、セイラに歩み寄ると、眼を閉じ、大きく息を吸った。
『精霊達よ御身の呼び掛ける。彼の者に安らぎと祝福を与えん。願わくば再び立つ力を』
空間が蠢く。精霊の騒めきだ。そして、大きく瞳を開いた。
『キュアメントっ!!』
両手をセイラに当て、回復系中級魔法を唱えた。
「うぅ……王子、すまない」
多少回復したのか、セイラが眼を覚ます。
「喋ってはダメです。今のは応急処置です」
いくら中級でもはそう便利なものじゃない。ちょっとしたダメージなら直ぐに回復するが、今回のような重症の場合、生命の危機を脱するのが精一杯。
「そうですよ。セイラ様、安静にしててください」
ミクはセイラを抱きかかえたまま声を掛けた。
「城の魔導士は…これ以上何もしない……今なら…城を……」
それだけ言うとセイラは再び気を失ってしまう。
「セイラ王女っ!」
アルスが叫ぶ。
「大丈夫です。生命の危機は脱しました。私が何とかしますから、速くテントへ」
「ああ」
・・・・・・・・・・・・
「みんな今から城に向かい、これを陥とす」
野営地にある一つのテントの中でアルスは、重要メンバーだけを集め作戦会議を開いていた。
「簡単に言うけどなぁ…アルス!あの魔導士が本当に何もしないかわからないんだぞ」
とホリン。
「今は、セイラ王女を信じるしかない」
「まぁそう言うと思ったぜ」
頭をポリポリ掻きながら了承していた。
「城攻めの人員はどう致します?」
ジャイロが話を進める。
「ユアンとサラ…あとラクームはディーネの護衛で残ってくれ」
「承知しました」
「わかった」
「わーたでぇ」
「あとは……」
「ジャジャーン♪マルストルーンナイツの最大の英傑ミクちゃん只今参上っ!」
と、いきなりミクが場違いな声を上げテントに入っ来た。
「はっ!?」
場が凍る。突然のミクの登場で、全員固まっていた。
「ダメだっつってんだろっ!今は会議中だ。アルス様すんません」
会議中のテントにイスカまでやって来た。
「コレ渡したら消えるから」
と言うとアルスの目の前に立つ。
「えっへん!」
アルスに鞘に収まったままの剣を突き出す。その剣は鍔も柄も鞘も全て真っ青だ。
「大陸七大秘宝の一つ、水の力を宿した“水剣アクリス”ってスッゴい剣なの!所有者がいないので保管されてたマルストからわざわざ奪取してきたのよ。手ぶらでは合流できないもんね。これもセイラ様の指導の賜物よねぇ~♪」
ミクが饒舌を並べる。なお七大秘宝とはその昔、星々が人に与えたと言われる七つの武器の事である。ちなみに、風弓フージンはジェリドが、光の超魔法ゼクトはユーリが。そして、本物かどうか定かではないが、星剣ベーレシオンはアルスが、それぞれ所持していた。
「はいっ!」
スットンとアルスの手に剣を置く。
「でもでもアルスエード様が所有者に選ばれるかわかりませんよぉ?まぁとにかく渡しましたからね」
アルスの顔を覗き込むように微笑む。
「え…はぁ…どうも」
渡された本人は素っ頓狂な声を上げる。
「じゃ!ばっはは~い♪」
ミクは手を振り、テントを後にした。
「………」
場が凍ったままだ。ミクがいなくなると嵐が過ぎたような静まりかえりようだ。
「あ、あのアルス様」
その凍りついた場を溶かしたのはイスカだ。流石は炎系を得意とする魔導士だけはある。無論関係無いが……。
「どうした?イスカ」
「俺様とユーリは、この場所に残しといてくれないか?」
「どうしてだ?」
「ユーリは、たぶん普通の魔導士より感知能力が高い……あのド派手な魔法の跡地に行くと、彼処に渦巻く怨念をモロに受けるようなんだ」
「そうか…で、君は」
「俺様は…その…心配なんだ」
頬を少し赤らめそっぽ向く。
「セイラ王女の事か?」
「ああ」
「幼馴染だしね。わかった……君達はここを死守してくれ」
「ああ!」
・・・・・・・・・・・・
ススッス、ススッス……。
忍び足でセイラの休むテントに入ってくる者がいた。
「ミクか、どうした?」
「あははは……起こしちゃいました?」
申し訳なさそうなから笑いが響く。
「起きてたよ……で、何だ?」
「そうでしたか。あははは……」
陽気に笑っていたが、急に真顔になる。
「セイラ様にお願いがございます」
「ん?」
「セイラ様ご愛用のマルスト王家の家宝をお貸しください」
ミクにしては珍しく、真剣な眼差しをセイラにを向けていた……。




