第三話 無敗女王vs悪魔
人差し指をピンっと立てる。それを一気に振り下ろす。
ゴォォォォっ!
シャルス城の前に大きく広がる森で火柱が上がった。
また人差し指を立てる。振り下ろす。計六回繰り返す。全部で火柱が六つ上がった。
行なっているのは、邪悪な輝きを放つ瞳をしたクラヴィスだ。六つの火柱は円を描くがごとく繋り、点と点とを結ぶがごとく六芒星を描く。
六芒星は邪を象徴し、邪を増幅させる魔法陣。クラヴィスは広大な森に作った魔法陣に両掌を向けて突き出す。
『○×●☆□◆……』
言葉にならない言葉を呟く。おそらく魔法の詠唱だろう……。
『ガイアエンプレンスっ!!』
魔法を解き放つ。
ドッカーーンッッ!!!
大地が割れ魔法陣が激しく爆発した。その範囲は通常の魔法を凌駕する広範囲で半径2㎞にも及ぶ。敵も味方も関係無い。全てを呑み込む。
これぞ邪に染まりし者のみ扱える大地系魔法ガイアエンプレンスなのだ。
「アハ……」
クラヴィスの唇の端が吊り上がる。
「アハハハハハハハ……」
高笑いをし出した。
「アハハハハハハハ……」
高笑いを続ける。
「アハハハハハハハ……」
笑う。
「アハハハハハハハ……」
邪悪な笑みだ。
「アハハハハハハハ……」
見てるものは皆思うだろう……おぞましいと。
「アハハハハハハハ……」
笑う。
「アハハハハハハハ……」
止まらない。
「アハハハハハハハ……」
全てを支配した全能感に浸ってるかのように笑う。
「アハハハハハハハ……」
笑う。
「アハハハハハハハ……」
ワラウ……。
「アハハ……ッ!?」
ワラ……ピタッ!高笑いが止まった。
「………」
視線が首元へ。そして背後へ……。
「……おや?お帰りになったとばかり思っていましたが?」
後ろにはクラヴィスの首にナイフを突き付けたセイラが立っていた。
「いや気が変わった……貴様の首は、撥ねておいた方が良いと思ってな」
鷹の眼で眼光を放つセイラがクラヴィスの背後で呟く。
「そうなんですか……アハ……ボクの首を……アハハハハハハハハ……」
「笑うな!耳障りだっ!!」
「なるほど。しかし、丸腰の人間を……しかも背後から斬るのは、騎士の道に外れるのではないのですか?」
「心配するな。私は騎士ではない。騎士だったとしても、それは人間相手の場合だ!貴様は人間ではないっ!!それに……」
一旦言葉を切り力強く次の言葉を放つ。
「例え騎士の道に外れようとも、今の私に躊躇いはない!貴様を殺すッ!!」
「それは恐ろしい……アハハ」
「貴様は自軍の兵を巻き込む事を承知で魔法を仕掛けた……そんな貴様に躊躇いはない!」
鋭くクラヴィスを睨み付ける。
「これは大陸中にその名を轟かせた無敗女王の言葉とは思えない。少数の犠牲を持って効果を上げるのは、いわば兵法の常道。現に貴女もそうなさってきたのではないのですか?もっとも、かのアルスエード王子ならきっと別の手段をお取りになるのでしょうね」
言葉を一旦切り、後ろを向く。
「そうそう。ボクもアルスエード王子に興味があるんですよ。彼の理想主義がどれほどか……彼とその周りが絶望した時に、それでも彼はキレイ事を言えるのか是非見てみたいのものですね。アハハハハハハハハ……」
「おのれぇっ!!」
セイラの眼が血走り、ナイフを持つ手に力が籠る。
たが、クラヴィスはそのナイフにそっと手を添え……。
バリーンっ!
破壊した。
「な、何っ!?」
驚いたその刹那。
ゴォォォ…ドゴォーンっ!!
魔法名破棄の炎系最上級がセイラに直撃し、彼女は吹き飛び階段を転がっていった。
「今のボクにあまり魔法を使わせないでくださいよ。大きいの使ったばかりで少々疲れていますので……」
こんな言葉を吐きながらも魔法名破棄をするクラヴィスは異常だと誰も感じるだろう。
こうして突発的に無敗女王と悪魔の戦いが始まった。
・・・・・・・・・・・・
イクタベーレ領……緑の国と呼ばれ、それはそれは美しい国だ。そのイクタベーレ領もさることなからシャルスも、同じく美しい自然に囲まれていた。
特にシャルス城の周囲は、壮大に森が続く。一度風が吹き抜ければ、木々が葉を擦り合わせ合唱を奏でる。森に足を踏み込ませれば、幻想的な世界に入り込んだ気にさえさせる。
しかし、それは数分前の事……。
今は、森の本来の姿をなくし、奏でる合唱は深い絶望と寂しさを覚えさせる。
中心部から半径2㎞円形上に消滅しまっているのだ。其所には敵も味方もなく、その半径2㎞以内にいた者達を深い絶望に誘った
いや、正確には解放軍の兵達だけを。シャルス兵達はクラヴィスの操り人形化とし、深い絶望を感じる前に消滅して逝った。敵も味方もなく自分の勝利を求める彼は本物の悪魔なのだ。
そして、大打撃を受けた解放軍だが、城攻めは棚上げ状態になり、一時の沈黙を保っていた……。
「おい!城攻めはどうするんだよっ!?」
解放軍が構えた、野営地のテントの中でやや怒り気味にイスカが怒鳴る。
「あれからアルス様が部屋に籠られておられる。アルス様抜きでコトを進める訳には行きません」
座禅を組んでいたジャイロが静かに応えた。
「まぁ、深追いした新兵共が全滅したからな、相当堪えてるだろうよ」
とホリンがつけたす。
「だからってこのまま大人しくしてられっか!セイラだって戻らないんだぞ……これなら俺様も一緒に行けば良かったぜっ!!」
「あんたが言ったからって何にもならでしょうっ!!」
ユーリが噛み付く。しかし、その声は少し震えていた。無理も無い、あんな大魔法を目の前で放たれたのだから。
「ちっ!!」
やり場のない怒りを舌打ちで答える。イスカも同じ気持ちなのだ。同じだからこそ、それ以上口にしなかった。
魔導士は、普通の人以上に感知能力が高い。この二人は、ガイアエンプレンスによって持たされた、深い絶望を感じ取っているのだ。
・・・・・・・・・・・・
シャルス城の屋上は、一部崩壊し瓦礫化としていた。その瓦礫を見つめるクラヴィスがいる。見た目はまだ若く、十二、三歳といったところだろう。
アルスの父を葬った、あのザーゼヴの弟子なだけあり、とてつもない魔力とマナを持つ。ガイアエンプレンスによって森を半径2kmを消滅させた直後に炎系最上級を放ったのだから。
その跡がこの瓦礫だ。ガイアエンプレンスは、暗黒魔導士、しかも高位の魔導士しか扱えない。また一発放てば全てのマナを消費してしまうという代物。その直後に炎系の上級、いや一点集中型とななれば、最上級とされるファイゴルを魔法名破棄で放つなど不可能。
しかし、それが可能なのだこの男は。
カタッ!
瓦礫の小石が転がる。
「アハっ!」
クラヴィスが不敵に笑う。その刹那。
ガタガタっ!!
瓦礫から人影が一気に飛び出す。飛び出したのは、先程炎系最上級を放たれたマルストの第一王女にして、マルストルーンナイツを率いていた無敗女王と謳われたセイラである。
っと言っても、それは少し前までの話。今は、母国に反旗を翻し解放軍に参加した身である。そんな彼女だが、一点集中型のファイゴルを零距離から受けたのだ。無傷といかない。
無惨にも所々、衣服は黒く焦げ、額は流血していた。それでも、腰を低くし戦闘体勢に入る。
クラヴィスは、邪悪な瞳で嘲笑うかのように、それを見つめる。
『精霊の名において、闇をも凍りつかせる……』
セイラが詠唱を始める。しかし、この魔法は……。
「氷系初級ですか?そんなのが通用するとお思いで?」
呆れたように言うクラヴィス。
確かにこの魔導士に初級等やっても無駄なのはあきらか。
『与えよ……精霊の名において、雷をも焼き尽す……』
「何っ!?二重詠唱!?」
セイラは二種類の魔法の詠唱を同時に行なった。二重詠唱も高位の魔導士でも難しいと言われる。この戦いはハイレベルな魔導士の戦いと言っても過言はない。
『与えよ……レイスっ!!』
左手から氷の塊が解放される。だが放ったのは、クラヴィスの頭上。
『ファイっ!!』
続けて唱えた魔法で右手をから火玉が放たれる。
バーンっ!!
同じく頭上。しかし、最初に放った氷系初級にぶつかり、氷が溶け水となった。
「何がしたいのですか?ボクの服を濡らしたいだけですか?」
クラヴィスは水浸し。当然ダメージは皆無。これなら最初から水系魔法を使った方が良い。
クラヴィスも呆れた眼差しでセイラを見つめる。どう見たって、ガキの嫌がらせだ。
しかし、これはセイラの油断を誘う作戦。態々詠唱して見せて初級だと教え、かつ無駄に氷を溶かして油断させるというもの。つまり次が本命。
『蕾龍よ!滅びを与えよっ!!』
短縮詠唱を行う。通常詠唱より、身体への負担はかかるが、詠唱破棄するよりは全然負担がこないというもの。詠唱破棄でも今の彼女なら可能なのだが、更にもう一手先を考えていたので短縮詠唱にした。
『ライザーガ』
グォォーン……ギャーンっ!
龍の咆哮のごとく響き渡る。その天から飛来した靁龍がクラヴィスに直撃。雷系上級魔法である。
「ぎゃぁぁぁぁぁ……っ!!」
地面に落ちた靁龍は四つ股に分かれ、それがまたクラヴィスを襲う。
更に水は電気を通す。先程の水浸しは、雷系上級の威力を増幅させるものだった。それに加えもう一手……。
「はぁぁぁぁ!!」
ザンっ!
セイラはリオンから貰った剣で、クラヴィスを斬る。彼女の職ははルーンナイト。魔導士よりの剣士なのだ。魔導士よりでもセイラの剣の腕は超一流である。
続けて第二撃。
プシューンっ!
「ぐはっ!」
彼女は油断なく、躊躇いなく斬り下げと斬り上げの二撃を放った。通常ならライザーガの時点で、決着はついていたが大地系魔法に続けて炎系最上級を放つ化物。
故に簡単には終わらぬと考え、容赦無く斬り裂いた。どんな戦いでも、悪魔のごとき細心さで臨み、鬼神のごとき大胆さで事を運ぶ。それが無敗女王と呼ばれる由縁なのかもしれない。
「おのれぇぇぇっっ!!」
「な、何っ!?」
ズトォーンっ!!
「ぐっ!」
それでもクラヴィスは、反撃に転じ、炎系最上級を放った。直ぐ様、剣で防御体勢に入るが、刀身が砕けちる。剣で防御姿勢に即座に入る反応は流石と言うべきだが、相手が悪過ぎた……。
「ば、馬鹿なっ!手応え確りあった筈っ!!」
だが、クラヴィスは傷一つない。
「今の少し痛かったですよ」
怒りを露にした眼差しでセイラを睨む。
『ファイゴルっ!!』
ズトォーンッッ!!
「ぐはぁ!!」
刀身を失った剣では防ぎようがない。直撃を受けてしまった。流石のセイラでも、最初の一発を入れて三発をも炎系最上級を受ければ立ち上がるの精一杯。
「ハァハァ……」
「さあ、どう料理しましょうか……アハハハハハハハハ……」
クラヴィスは完全にキレていた……。




