第二話 悪魔
森の中で戦う解放軍は、またもやアルスがいない為に士気が低下し、苦戦を強いれられていた。
またユグドラシル騎士団新兵数百名の参加により、初めての大軍による戦闘……統制が取れないでいた。
「畜生!アルスはまだ見つからねぇのか!?」
ホリンが嘆く。
「わかりません。何せ今や混乱の極みですから……」
リビティナが答える。
「ちっ!こりゃ早くなんとかしねぇとマジでやべぇのに」
「えっ!?」
「奴らの眼を見てみなよ。あれはティアの嬢ちゃんと同じで、イッちまってる眼付だぜ。どう考えても尋常な敵じゃない」
「ティア?……それよりどういう事なんですかっ!?」
(くっ…セイラ姫さんも帰って来ないし、シャルスのジキルスってのはそんなに肝っ玉の座った男だったのかい?何か変だぜ、こいつはよ)
・・・・・・・・・・・・
シャルス城の牢獄に一人の男が訪れていた。筋肉質のガタイの良い男だ。腰には剣、背には斧が携われていた。逆立った青い髪をしており、歳は28だ。ガタイが良いだけにがっちりとアーマーで身を固められていた。
「マルストの無敗女王はこの中か?」
牢屋の門番に問掛けた。
「はっ!」
「わかった。私はこの中の者と少し話がしたい。お前は外してくれ」
「え?でもそれでは……」
「良いから外してくれ。何かあれば私、リオンが責任を取る」
「はっ!」
門番は敬礼し去っていく。
「かつて大陸中を震え上がらせたルーンナイト…マルストのセイランローヌ殿が今では反乱軍に身を置いているとは……」
リオンと名乗った男は牢屋の中でまるで眠っているかのように眼を閉じ曷黙しているセイラに話掛けた。
「……貴公に伺いたい。イクタベーレのアルスエード王子は、それほどの人物なのか?貴公ほどの者が国を捨てて身を寄せるまでに……」
「知ってどうするのだ?其方には関係あるまい……」
眼を閉じたまま応える。
「それに知りたければ、その眼で確かめるが良い。王子は直ぐ近くまで来ているのだからな」
「……そうだな。確かにそうだ」
「話はそれだけならもう放っておいて欲しい」
「いやまだある。むしろこちらの方が本題だ。私は貴公を解放するっ!!」
「な、何っ!?」
セイラは驚きに眼を見開いく。
そしてリオンはセイラを牢屋から出し地下から外に通じる抜け道を通って行った……。
「今この城を動かしているのは、あの魔導士だ……陛下ではない。とにかく気を付けるんだな」
抜け道で忠告を行うリオン。
「……其方の真意は何処にあるのだ?何を考えて私を助ける?」
「私はただ気にいらないだけだ。こんな戦いは納得できない。納得できなくても戦わなければならないが……でも、つまり……」
「ふふふ……」
セイラは微笑を浮かべた。優しい感じの笑みだ。
「其方は真面眼過ぎるようだな。とにかく助けられた事には礼を言う」
「……此処だ」
ギィィ……バタン!
鈍い音共に扉が開く。外への扉が開いた。
「世話になったな」
「待て」
「?」
「これを持っていけ」
セイラは牢屋に入れられる前、持っていた剣を取り上げられていたので、リオンは腰に携われていた剣を彼女に渡した。
「し、しかし、貴公の武器が……」
「大丈夫だ。俺の得意分野はこれでね」
そう言い背中の斧に親指を差した。
「そうか……いろいろすまない」
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「アハ…この城にもいろいろいるのですね」
セイラが外に出る所をクラヴィスが城の屋上から見下ろしていた。
「これじゃあ、どの道持たないでしょう。でもまあ、ボクには関係ないですがこの国の運命など……王子も誰かに助けられてしまったようだし……だが今回はこれからが面白いのだよ……アハハハハハハ……」
クラヴィスは邪悪に満ちた高笑いを上げる。それは傍に誰かがいればその者はおぞましいと感じる程のものだ。
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シャルス王国の森の中、アルスは謎の男の肩を借り、木を背に座らせられていた。
「シャルスと講話か……」
男は応急処置をしながらポツりと話始めた。
「なるほど。意表をついて面白いが残念ながら今は無理だな」
「何故です?」
「城にはバルマーラからの使者がいるからだ」
「えっ!?」
「名はクラヴィス……ザーゼヴの弟子にあたる魔導士だが、こいつはかなり厄介な男だ」
「魔導士?」
「そう…この混乱を演出してるのはその男だ。クラヴィスは悪魔だっ!!……奴にとって自分の軍や大義や勝敗などどうでも良い。重要なのは自分が勝つ事なんだ。あくまで自分の勝利にだけ興味がある」
応急処置が終わると立ち上がり……。
「……これがどういう事かわかるかね?」
と問い掛けて来た。
「……バルマーラでさえ制御できない」
アルスは少し悩みおずおず応える。
「そうだ!しかも手口は周到かつ徹底している……そんな奴があの城にて君達を待ち構えているんだ」
「魔導士クラヴィスか……」
「とりあえず応急処置は済んだ。早く隊に合流してきちんと手当てをしてもらいなさい……王子を欠いて士気が下がっているだろうからね」
優しいげな笑みを浮かべていた。
「ありがとう……でもそこまでご存知な、貴方は一体……?」
「人はその人生において何度も過ち犯し、大切なもの失う。そのいくつかは取り戻せるが、やはり取り返せないものも多くあるんだ」
遠くを見つめるように語る。
そんな彼をアルスは静かに見つめた。そしてまた男は語る。
「……私はそうした過ちをただ精一杯償ってみたいと思ってる男だよ」
「………」
「仲間を大切に。もう誰かを失うのは君も嫌だろ?」
「えっ!?(仲間を失う……リュウザン?でも何故それを……)」
「貴方は……まさか……っ!?」
「また会おうアルスエード王子!きっとまた会う事になる。それまで無事でいて欲しい……さあ皆が待ってる筈だ。行きなさい」
男はアルスの言葉を遮った。一瞬戸惑うがアルスは笑みを浮かべ……+
「……貴方こそ、どうぞご無事で」
アルスには、もうこの男か誰かわかった。だからこそ、次は戦場で出会う事になる彼には、もう言葉はいらない。お互い背を向け歩き出した。
しかし、それでもアルスは言葉は続ける。
「でもどんな過ちもきっと何かの形で償えると私は信じてます……」
男は振り返り、アルスもまた振り返る。
「……そうでなければ哀し過ぎますから」
男はアルスの哀し気な、それでいて真っ直ぐな瞳に一瞬引き込まれていき大きく眼を見開いた。
(アルス王子……)
(さようなら。またお会いしましょう天空の貴公子……)
そして、再びそれぞれの道を歩み始めた……。
・
・・
・・・
「まったく大胆なお忍びをなさる方ですね将軍」
「……スーザンか」
男の目の前に部下のスーザンが立っていた。男はスーザンに背を向け語り始める。
「二年前……私はシャルス王に暗黒魔王軍に付くよう勧告した……その結果、シャルスは裏切りイクタベーレは陥落した」
「でも、あれは暗黒魔王軍側の強硬な指示で……それにそうさなければ我が国王の立場が……」
スーザンは真剣な眼差しで弁護した。
「それは理由ならない。やってしまった事には変わりない」
「っ!」
スーザンは言葉を詰まらせる。
「……しかし、あのアルスエード王子を見ていると心が落ち着くのだ。おかしな話だが、あの者なら何かを変えられるかもしれないと思った」
男は空を見上げた。
「……本当に不思議な男だった……リュウザンがあんな無茶な事をやった理由が今なら良くわかる」
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シャルス城の屋上でクラヴィスは優雅に紅茶を口にしていた。
「お呼びでしょうか」
そう言ってやって来たのはリオンだ。
それを見て無言でクラヴィスは紅茶をすする。
「……申し訳ございませんが作戦中です。急な御用でなければ失礼させて頂きます」
リオンは頭を垂れ踵を返した。
「貴方は面白い人ですね。この作戦の指揮官たるボクが呼んだのに……作戦を理由に去るつもりですか?赤い髪の客人を牢からだしたり興味がつきない人だ」
ビクっ!!
リオンは一瞬固まり、恐る恐る振り返る。
「……それで……私をどうするつもりですか?」
「別にどうもしません。ただ会ってみたかっただけです」
満面な笑みを浮かべた。
「はっ?」
「ボクは不幸な境遇な人が大好きなんですよ。特に力及ばず不本意な行動を取る人を見るのがね……貴方は母国ユグドラシルに仇なす今の立場に苛立ちを感じている。それがボクを惹き付けるんですよ」
背筋が凍る。ニッコリ微笑んでいるが、その笑みには邪悪なものをリオンは感じずにはいられなかった……。
「だけどもう結構です。下がって良いです」
クラヴィスはリオンに向けてホコリを払う仕草をした。しかし、リオンは下がろうとしない。
「ん?どうしたのですか?下がりなさい」
「……確かに私にはシャルス王にも自分の立場にも苛立ちを感じる……だか一番苛立っているのは貴方に対してだ!」
クラヴィスを強く睨み次の言葉を繋ぐ。
「私は貴方を……貴方のやり方を許さない!!」
「アハハハハハハハ……」
クラヴィスは高笑いをし、リオンに今まで以上の邪悪な眼差しを向けた。
「これは良い。ますます気に入りましたよ……貴方は馬鹿がつくほど正直だ。だけどそれでは殺されても、文句は言えませんね」
「なら……そうすれば良い」
リオンは最後にそう言い残し去っていった。
・・・・・・・・・・・・
「どうした?何故攻撃が急に止んだ?」
ホリンが疑問を持ちかけた。
「わかりません……どうやら敵は撤退を開始したようです」
それに対しリビティナが応える。
何故かシャルス軍は撤退を始めたようだ。
「へっ!メシでも食ってるのか……どのみちこっちは有難い話だ。新兵中心にかなりやの被害が出ているしな……」
ホリンは軽口を叩きつつも今の状況を把握しているようだ。新兵達はバテた様子で木を背に座り込んでいた。
「よぉ!新兵さん達よ、あんま人の前をチョロチョロすんなよ。敵兵かと思い斬り殺すとこだったじゃねぇか」
「すいません」
新兵達はホリンの言葉に頭を垂れた。
「あ~あ…こっちも散々やられているわね」
其処に現れたのはユーリだ。
「よぉ!魔導士の嬢ちゃん!……調度良かった、こっちにも魔導士を回してくれ……なんならあんたがこのまま残って良いぜ」
「それって口説いてるの?」
悪戯な笑顔を浮かべる。
「かもなぁ……もしそうならどうする?」
ホリンが仕返しと言わんばかりにおどけた。
「それはお生憎様。私のタイプは、お母様みたいな人なの」
「マザコンかよっ!」
思わずホリンが叫んでしまう。
「ち、違うわよっ!お母様みたいに強くて、優しい人って言ってるの。というか何であんたにこんな恥ずかしい話をしなきゃいけないの?」
負けじと叫んだと思ったら今度は頭を抱え始めた。
「さいで……で、どうした?」
「あっ!そうそう」
顔を上げ手をポンっと叩き次の言葉を繋ぐ。
「アルス様が見つかったわよ」
「えっ?ほんとか!?……で、大丈夫なのか?」
「ええ。今、ディーネ様が治療しているわ……命には別状ないみたい」
「そうか」
ホリンをホッと胸を撫で下ろした……。
・・・・・・・・・・・・
解放軍が構える森の外側にある野営地のテントの中でアルスはディーネに治療を受けていた。
「応急処置が的確だったから大丈夫です。しばらく違和感はあるけど、すぐ治ります」
治療をおえたディーネが語った。
「ふぁぁ~……良かったぜ」
それを聞いたイスカは、その場に崩れ落ちる。
「ところで、何処にいらしたのですか?」
ジャイロが真剣な眼差しでアルスに向ける。
「突然衝撃波みたいのが来て気付いたら、此処から随分離れた森の中にいんたんだ……そこで敵兵に囲まれて……でも危ないところをコリンに助けられた」
「コリンってまさか……グルノニアの?」
「ああ」
「「「………」」」
全員に沈黙が走る。何故敵の将軍が?っと言った感じだ。
「よぉ!アルス無事か?」
だがその沈黙は長くを続かなくホリンが突然テントに入って来た。
「ああ大丈夫だ!心配させてすまない。ところで状況は?」
「何故か敵軍は撤退を開始した。今、新兵を中心に追撃しいる……」
「撤退……だとっ!?(何か気になる……何か大切な事を……なんだっ!?)」
アルスは顎に人差し指をあて思考を廻らす。
【クラヴィスは悪魔だっ!!……奴にとって自分の軍や大義や勝敗などどうでも良い】
やがてコリンの言葉を思い出す。
「………」
「おい!どうした?てめぇ顔色が悪いぞ」
「何考えるのよっ!アルス様」
「如何なさいましたか?アルス様」
「おい!アルス」
イスカ、ディーネ、ジャイロ、ホリンの順で四者四葉呼び掛けるが、それが届いていないのかアルスの顔は徐々に青ざめていく。
そして突然立ち上がり……。
「アルス様!まだ寝てなさいよねっ!」
ディーネの言葉は耳に入らない。そのままホリンの肩を鷲掴みにした。
「……駄目だ!……深追いは駄目だ!ホリン止めてくれっ!!」
「お、おいアルス!落ち着け」
「誰か止めてくれ!」
アルスは半狂乱に叫びテントを飛び出す。皆も後に続く。
「敵の後ろに“悪魔”がいるんだ!早く止めてくれっ!!」
誰にとなく叫ぶが……。
ゴゴゴゴゴゴ……。
間に合わず大地が震え出した。
「何だっ!?」
ホリンが叫ぶ。
「あ、あれは?」
イスカが指差す。
指の先には火柱が上がっていた。
「こっちも」
ジャイロが指差した先にも。
いや、次々に火柱が上がっているのだ。
そして……。
ドッカーーンッッ!!!!
森の中心部に大爆発が起きた……。
・・・・・・・・・・・・
「なっなんだ?この揺れは!?」
「あの火柱は?」
新兵達が口々に騒ぐ。
ドッカーーンッッ!!!
森の中心部が爆発した。
「ぐわぁ!」
「あぁ…ああぁぁ……!!」
「うぁぁぁぁ」
その騒いでた新兵達が悲痛の叫びを上げ出した……。
・・・・・・・・・・・・
ゴゴゴゴゴゴ……!!
未だ収まらない揺れ。
「ま、魔法?でも、この威力反則じゃねぇかっ!!」
イスカが騒ぐ。
「これは……駄目だ。深追いした新兵は全滅だな」
冷静に呟くホリン。
「敵も…味方も…全部…酷い」
青冷めていくユーリ。それぞれの想いが揺らぐ戦場……。
ゴゴゴ……!!
未だ収まらない揺れ……。
大地だけでなく想いもまた揺れる。
(全滅……敵を追った我が軍が……全滅……)
【……この先、また何度でも辛い選択が貴公に迫られるだろう。成し遂げるべき大望の為に、あえて犠牲を出せねばならぬ事がある】
【……少数の兵を効率よく犠牲にする事で守らねばならない時がある。それに貴公は、耐えられるか?】
ギュスターヴの言葉が蘇る。
(……私の責任だ……全て…すべて…スベテ……)
スベテ、スベテ、スベテ、スベテ、私が……
「うわぁぁぁぁぁーッ!!!」
アルスが喉が張り裂けんばかりに吠えた。
彼は理想主義者……悪く言えば飴玉のごとく甘い人間。そんな彼が悲しき現実に直面する。今回の失態。指揮官たる自分を……誰にでもなく自分を責め続けた……。




