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戦慄のイクタベーレ ~敗退せし者達の母国奪還の軌跡~  作者: ユウキ
第三部 第八章 憎しみと理想
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第一話 アルスエード再び行方不明

 アルス達解放軍は、順調にシャルス王国に向けて歩を進めてきた。

 だがギュスターヴ率いるライアーラ軍は、シャルス王国を目前に引き返す事になる。突然のクーデターにより、ライアーラ城が制圧されたのだ。

 この時期にいきなりクーデターが起き、誰もが焦りと不安を胸に抱いていた……。

 しかしそんな中でもギュスターヴはリビティナを残していった。三年アルス達と共にいたのだ。連携が確り出来てるだろうというのと、これからの戦いにマルストのバードに欠かせないと判断したからだ、

 一方、風系上級の飛行魔法ウイングで先行したセイラは、シャルスに到着していた。そしてマントを翻し叫ぶ。


挿絵(By みてみん)


「私はマルストのセイランローヌである。アルスエード王子の使者として参上した。速やかにシャルス国王、ジキルス陛下にお取り次願いたい」


 衛兵の一人は城の中に入り、確認を取るとセイラが望んだ通りジキルス王との謁見の為、ジキルスの部屋に案内された。


「わしに話とは?」

「アルスエード王子の解放軍は現在、国境を越えて此方に向かっている。その事は、既にご存知かと思う」

「ふん!知っておる。大軍を率いて国境を破る等、侵略行為だと言わざる得ん」


 強気であるがジキルスの態度に焦りが見える。それに比べ、セイラは冷静に話しを続けた。


「アルスエード王子は、ロッカ王女にルンゲンの腕輪を託された認められし者。従って、その行動の全ては、聖王国ユグドラシルの名の元に承諾されたものだ」


 ジキルスを凝視。その鷹の眼を思わせる眼差しで鋭いものだ。眼光から発っせられ気迫に気圧されジキルスは後退る。


「くっ!」

「……とはいえ、これを不服とするのも無理なからぬ事。だからこうして私が先行し、口上を述べる事になった次第である」

「……戯言を……その方らの手口は見えておる。こうして時間を稼いでいる内に、まんまと布陣を整えるつもりであろうがっ!」


 ジキルスは、脅えているかのようにまた後退る。


「アルスエード王子はこう言っている。解放軍は、シャルス王国に対し、講和を呼び掛ける。無益な戦いを回避し、共に解放への道を選択される事を望むものである!!」

「こ、講和?……講和だとっ!?」






 ・・・・・・・・・・・・


 シャルス王国に馬で進行するアルス一行。

 リビティナはアルスの馬と並べると一つ訪ねた。


「あの…セイラローヌ王女の事ですがこれで宜しかったのですか?」

「何故だい?」

「あの日、自分もいました。イクタベーレ城はシャルスの裏切りにより陥落してしまった。それなのに講和……」


 アルスの表情が曇る。


「これは失言を……申し訳ございません」


 彼女は慌てて頭を垂れた。


「いや良い……確かにシャルスの裏切りによりイクタベーレは陥落した。でも私は武力ではなく話し合いで解決したい」


 アルスの顔は決意の表情をしてるように見えた。


「アルス様……」

「私は……私はね。この戦いは起るべきして起こった一つの試練だと思うんだ。この大陸がどのように進むか……」


 遠く見つめ一呼吸おいてリビティナを見つめる。


「……この大陸をより良い方向に進めるには武力だけに頼るの良くないと思うんだ。戦いは戦いしか生まない。憎しみは憎しみしか生まない。この哀しみの連鎖を何処かで断ち切らなければいけないと私は思うんだ」


 リビティナはアルスの考えの深さに驚き歩みを止め、しばし固まっていた。三年前の当時者なのだから尚更だ。


「おい!弓兵の嬢ちゃん!なにボサっとしてんだ?」


 咄嗟ににホリンに声を掛けられた。


「いや…アルス様って凄い方だなと……」

「あ~ん?」

「目の前の事に捕われず、先を見据えているので……」


 リビティナの言いたい事を察したホリンは、溜め息を一つし、呆れた表情をした。


「あんまアルスを聖職者に祭り上げてやるな」

「えっ!?」

「あいつに憎悪が一切ないと思っているのか?あいつは……この二年間、シャルスの事を忘れた事はないぞ。それこそ、腸煮えくり反るような憎しみがあった筈だ」


 ホリンは真剣な眼差しで語った。

 そう彼はこの二年間、アルスに剣を教えてたからこそわかるのだ。


「でも、表にはそのような事……」

「だから危険なんだ。いつ爆発するかわからねぇ(あんま一人で抱え込むなよ。アルスよ……)」








 ・・・・・・・・・・・・


「そんな事が信用できるかっ!!ガイルバッハの子倅(こせがれ)が講話を望んでる等と……」


 シャルス王国のジキルスの部屋で罵声が響く。

 ジキルスがセイラと対峙していた。


「もし仮にそうだとすれば、何故あれだけの大軍を率いているのか?」

「王子は同盟軍に欠く事のできない大切な方だからだ。だが案ずるな、そちらから仕掛けぬ限る攻勢にはでない」

「ぅむ~…信用できん」


 唇を鳴らし呟いた。

 それに対しセイラは……。


「信用?」


 ジキルスを嘲笑いゆっくり口を開く。


「信用を随分と口にされるが、二年前その信用を裏切ったのは其方ではないか」

「……何!?」

「王子は必要あらばお一人で来られるだろう。だが私としてはその前にまず其方が信用に足る事を確認せねばならない」

「勝手な事を……」

「あくまで其方は戦う所存か?バルマーラの軍門に下ってまで、我が身を守ろうとしているが、貴方はそこまでバルマーラを信用できるのか?」

「そう言う貴様の故国も同じくバルマーラの威光を頂いてるではないか!」


 セイラを指差し怒鳴る。

 彼女は無言で睨むしばしの沈黙が続く。

 その沈黙を先に破ったのは、セイラの方だった。


「バルマーラの支配に国の行方を託し、少しばかり生きながえとて、なんの意味があるのか?」


 セイラは一呼吸置いた。


「……アルス王子はかつて父王を殺され国を奪われた。それでも尚其方との講話を望まれる。王子はご自身の感情を押さえ、これからの事に眼を向けようとしているのだっ!!私はその王子の“甘さ”信じている。こんな時代だからこそ、その“想い”は貴重なものだと信じる」


 やがて一歩、歩み寄る。


「それを聞けぬと言うのであれば……それがわからぬのであれば……」


 言葉一つ一つを力強く吐き、それに気圧されたジキルスは恐怖していく。


 そして……。


「その首…この場で叩き斬るっ!!」


 彼女の怒りが爆発した。

 セイラはアルスの“想い”をくみ、講話を促したきたがついに剣を抜こうとした。


「くぅぅ……だが、もう遅い…既に計画は進んでる……」

「……何?」

「困りますよジキルス国王!」


 突如セイラの背後から声が響く。今まで気配すらなかったのに……。

 咄嗟にセイラは振り返った。その瞬間……。


 バンッ!


 彼女の目の前で何かが爆発する。直ぐ様首を引き直撃を避けた。


「セイランローヌ王女!お初にお目にかかります。ボクはクラヴィスと言います」


 其処には不敵な笑みを浮べたクラヴィスが立っていた。

 ザーゼヴやガディウスの前に現れたクラヴィスは十二歳前後。しかし此処にいるクラヴィスは二十代中盤は行ってる容姿はしていた。

 突如現れたクラヴィスはセイラに歩み寄る。


「残念ですがジキルス国王は既に決意されています。何があっても反乱軍を此処で潰すと……そしてそれはもう始まっている筈ですよ」

「なん……だと?」

「当然でしょう…国境を侵し明白なる敵意を見せる相手に対して攻撃するというのはね。それと申し訳ないですが貴女はお帰しできません」


 右掌をセイラに向けた。


 キィィィ~ン


 鈍い音が響く。


(……体が…動かない。これは風魔法上級か?だが凄まじい威力だ)


 セイラの耳から入って来た不快な音は感覚器官を狂わせて動きを封じられたのだ。


「アハハハハハハ……せっかくいらしたのですから、ゆっくりしていってくださいね」


 クラヴィス満面な笑みを浮かべ、セイラの肩にポンっと手を置いた。




 ・

 ・・

 ・・・



 国境を越えた森の中、アルス軍は激しい戦いを仕入れられていた。


「くそっ!状況を教えろ!敵はどういう陣形で攻撃してきてる?何処に隠れてやがった?」


 ホリンが怒鳴った。


「わかりません!なんの前触れもなく前から、背後から、それに側面の三方に敵兵が突然……」


 答えたのはリビティナだ。


「何だと!?そんな馬鹿な!シャルスにそれだけの策略があったというのか?(……アルスよ…講話なんてとんでもない。こいつら周到に歓迎の用意をしてくれてたみたいだぜ)」


『ゼクトっ!!』


 ユーリが広範囲を薙ぎ払う。

 だがその直後……。


「うっ!」


 口元を抑え、うずくまった。


「おい!てめぇどうした?」


 異変に気付いたイスカが駆け寄る。


「っ!?」


 しかし、彼にも異変が訪れた。


(…なんだ?この感じ……この凍り付くような……これは魔導の力?しかも半端ねえ……)


「アルスっ!!そういえばアルスは何処だ!おい誰かアルスを見なかったか?」


 今度はホリンがアルスがいない事に気付く。


 ザンッ!


「いや見てない」


 ゼフィロスが応戦しながら応えた。








 ・・・・・・・・・・・・


「はぁはぁ……」


 少し離れた森の中にアルスがいた。だが傷付きあっちこっちからおびただしい量の血が流れている。特に右腕は動かなくなっていた。

 その右腕を左手で押さえなが木に持たれ掛かる。


「はぁはぁ……(不意に…体が飛ばされるような感覚があって、気付いたら此処に……一体…何が……)」


 ザッザッザッ……。


「っ!?」


 敵の気配に気付き腰に目をやる。


(……剣を……ない!?何処に落としたんだ?)


 ヒューン……カっ!!


 今度は矢が走って来る。とっさに首を曲げたので矢は木に刺さった。


(とにかく…今は此処を抜け皆と合流しなければ……)


 アルスが走る。


「はぁはぁ……」


 だが前に敵が待ち構えていた。


「どけぇぇ!!」


 ドンっ!!


 傷付いた身体で思いっきりタックルをしてやり過ごす。


(やはり変だ…さっきの感覚といい。今の兵士の目といい)


 敵兵達の眼付はおかしかった。放心状態のような何処を見ているかわからない虚ろな眼だ。ホリン曰くイッちゃった眼付である。


 ザッザッザッ……。


「はぁはぁ……くっ!囲まれた!?」


 次の瞬間……。


 バァァーンっ!!


 物凄い閃光が走る。


「うっ!」


 あまりにも強い光に視界が遮れた。


「早く!この隙に脱出しないさい」


 何処からか声が聞こえる。


「……誰だ?」

「急ぎなさい!この光もあまり長くはもたない。さあ早く此方に」

「わかった……すまない」


 アルスは声がする方へ走った。

 しばらく走ると視覚が元に戻り知らぬ男の背中が目の前にあった。男はゆっくりと振り返る。


「此処まで来ればひとまず安心だ」

「くっ!」


 ズキッと右腕が痛む。


「大丈夫かアルスエード王子?」

「貴方は……一体?」

「心配要らない。とりあえず今は君に敵対する者ではない」


 そう言った男はアルスの知らぬ者だった……。

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