第六話 破滅の序曲
バルマーラ地方は極寒の地。悪雲そびえ立ち、雷が止む事なく大地を打ち付ける。まるで、地獄を思わされる光景が広がる死の大地。
そのバルマーラに暗く不気味な城がそびえる。その城の一室に誰かと話しているザーゼヴの姿があった。
「アルスエード等は、ガンダーラを発った。奴らすっかり救国の英雄気取りだ。民衆もそれを歓迎しておる。どうする?これは由々しき問題だ」」
ザーゼヴの眼の先に長く上に続く階段があり、その上に人らしき影が見える。
「このままでは、帝国を足元から崩す事になりかねん。早急に反乱軍を叩き潰し、大陸全土に……」
《くくくく……》
ゴオオォォォ……!
上にいた者は、薄ら笑みを浮かべた。
「どうした?」
《いや、貴様がそれほど真剣に帝国の安泰を願ってるとはな……魔導士の小娘一人にやられ逃げ帰って来た事が悔しいと見える》
ゴオオォォォ……!
この者が口を開くと地響きが起こる程、凄まじいものがあった。この者こそ、暗黒魔王ガディウスなのだ。力は、完全ではないにしろ、既に復活を遂げていた……。
「うぬっっ!」
ザーゼヴは、苦虫を噛み締めた顔になる。
《しかし、貴様の言う通りではある。人間共に、これ以上増長させる訳にはいかぬ》
ゴオオォォォ……!
「と言うと?」
《それについてだが、自分で、やりたいと名乗りでた者がおる。この反乱を鎮めてみせるとな……誰だと思う?貴様も良く知る男だが》
ゴオオォォォ……!
「はっ!?ま、まさか……」」
《くくく…そうだ!クラヴィスだ》
ゴオオォォォ……!
「クラヴィスーっ!?」
ザーゼヴは、その名に絶叫した。
「あんな奴に任すのか?あんな、信用ならぬ男に……忘れたのか?あいつのせいで、この戦いの初期、どれだけの犠牲が出たかを……!」
《フッ……》
ゴオオォォォ……!
「あいつは、バルマーラのニーベ攻略戦の折、自分の仕掛けた魔法陣に敵軍のみならず、自軍までも引き入れ、双方を全滅せしめたのだぞ?しかも、あいつはそれをわざとやりおった……奴にとって敵も味方も関係なかった。ただ血を欲しておっただけだ!!」
「酷い言い草ですね……」
「っ!?」
「かつての愛弟子に対して、あまりと言えば、あまりな言葉ではありませんか?ザーゼヴ師匠」
「………クラヴィス!
クラヴィスと呼ばれる男……いや少年がザーゼヴの前に姿を現した。白きローブを身に纏った容姿で、歳は十二歳前後といったところだろう……。
頭に被ったフードから、覗かせる顔は、まだ幼さが残るが邪悪に満ちていた。
「こいつに任せるなど、承服できん。こいつのやり方は、帝国に対してさえ、仇をなす危険なものだ」
ザーゼヴは、必死にガディウスに進言した。
「随分嫌われたものですね。僕は師匠を尊敬申し上げておりますのに……」
「確かに貴様程、魔導の才に長けた奴をわしは知らぬ……が、貴様はその才を自分の欲望の為だけに使う事を止めようとせん」
「アハハハハハハハ……これは異な事を……自分の欲望の為に力を使う事にどんな問題がありますか?ガディウス皇帝もザーゼヴ師匠も、そうやって、現在の立場を勝ち取ってこられた。今それと同じ行動して、なんの不都合があるのです?」
「うぬぅっ……!」
「それとも、その事で帝国が崩れるのですか?ならば反乱軍を待つまでもない!僕がこの帝国を潰してごらんにいれましょう。アハ、アハハハハハハハ……」
「貴様…!」
ザーゼヴは、何かの魔法をクラヴィスに放った。
ゴォォォ…!
が、指ニ本でかき消されてしまう。
「不意打ちとは、卑怯ですでね」
クラヴィスは、スーっと宙に浮いた。クラヴィスの身体中でバチバチ、音がなり、何かの魔法が渦巻く。それを両掌に集中させた。
「お返ししますよ!」
ズッドォォォン……っ!
これは、一点集中型のファイゴルだが、身体中でバチバチと魔力が、渦巻く程、超強力なものだ。
「ぬうっっ!」
バリバリ……っ!
それをザーゼヴは、ユーリと同じように障壁を出し掌で押さえ込んだ。
《やめんか!!》
ドゴォォォォン……ッ!
このガディウスの一言に双方気圧された。ガディウスの言葉に先程からのより、凄まじい地響きが起きたのだ。
《あまり調子に乗らない事だ……でなければ、貴様も消さなければならなくなる》
ゴオオォォォ……!
「わかりました。まあご安心ください。師匠はお忘れですか?僕のもう一つの才能を」
「……頭」」
「そう。戦を制するのは、魔導でも絶対多数の戦力でもありません。究極の魔法……それは此処です」
と言って頭部を指差した。
「……頭脳です。力任せの戦いで、惨敗を重ねてきたのです。そろそろ学ぶべきですよ。大軍を持って当たるだけが能では、ありません。それに無策でゼクトに挑むのも愚かです」
「ぬぅぅぅ……」
《大した自信だな。何か策があるのか?》
ゴオオォォォ……!
「いかにも策があります。相手は人間なのです……哀しみ、憎しみ。そういった感情にかられた人間は、モロいものです。そういった人間は、僕の術に簡単に落ちるものです」
《それで策は?》
ゴオオォォォ……!
「はい、こちらご覧ください……ティア!おいで」
クラヴィスに呼ばれ一人少女が歩いて来た。しかしその眼は虚ろだ。
《ほう……これは珍しい。剣人族か……》
ゴオオォォォ……!
ガディウスは、剣を持ってない状態でも、ティアが剣人族だという事を一目で見抜いた。
「いかにもそうです。ティアは、僕の術に落ちた剣人族です」
《確かに剣人族は、特有の剣を扱い、なかなかの戦力となるだろう……だが、果たしてそれだけで、反乱軍を止められるかな?》
ゴオオォォォ……!
「ご心配には及びません……実は更に既に最初の一手を打っておきました。此処に来る前にね。アハ、アハハハハハハハ……」
と言ってクラヴィスは、不気味に高笑いを上げた。




