第三話 必ずゼクトでぶっ殺すんだ
「お~い!ユーリあったぞ……盗まれてなかったぞ!」
イスカが建物の中から出てきた。
「ん?ユーリ?……ま、まさかあいつ結局一人で行きやがったか!?」
ザザザ……。
とその時、邪悪な衣邪悪な衣を纏った魔導士達が現れ彼を囲んだ。
「くっ!こんな時に現れたか」
・・・・・・・
一方ユーリは、ザーゼヴがいると思われる大聖堂に訪れていた。
(申し訳ありませんアルスエード様……でもザーゼヴをぶっ殺すのは私がっ!!)
彼女は目尻を吊り上げ怒りを露にしている。
「いい加減に姿を見せたら?さっきからいけすかない臭いがプンプンしているんだから……忘れたくたって忘れられない臭いがね」
彼女の目の前で空間が歪み、黒きローブを纏った老人が現れた。
「ククク…強い魔力を感じる。優秀な魔導士は私の好むところ……どうだワシの力にならぬか?ククク……」」
「貴方の力?……そうね貴方をぶっ殺して、これ以上悪行を重ねず済むという力にならなるわ」
「面白い事を。ククク…名を聞いておこう」」
「“あんたに殺された”ミンシア司祭の娘ユーリ……」
「ほうミンシアの娘か」
「あんたはお母様の弟子だったんでしょう?いろいろ聞いてる。だけどそんな事は良い。とにかく今はあんたをぶっ殺す事さえできれば……」
彼女の表情は更にきつくなり、戦闘体制に入った。
「……母から受け継いだ光の超魔法ゼクトで、その身体……散々に引き裂いてあげるわっ!!」
ザーゼヴ……暗黒魔王軍魔導士団の法王にして、暗黒魔王ガの側近中の側近。そして見た目は、ただの老人だが、七大秘宝の内、一つである暗黒魔法ダークライの扱う魔導士……いや大魔導士だ。
対するユーリは、まだ未熟にせよ、此方も七大秘宝の内、一つである光の超魔法ゼクトを扱う魔導士。
このユーリはザーゼヴによって母ミンシアが殺され、復讐心だけが、彼女を突き動かしていた……。
「ククク…ミンシアめ自分の娘にゼクトを授けたか……だがお前にそれが使いこなせるのか?」
ザーゼヴは、ローブからチラチラと不気味な顔を覗かせユーリを嘲笑っている。
「ご心配なく…今すぐ見せてあげるわっ!」
そう言ってユーリは右掌を中に向けた。
『ゼクトっ!!』
ゼクトを詠晶破棄で唱える。そして彼女の掌から光の球体が浮かびあがる。
「はっ!!」
人差し指と中指の二本の指を立て、一気にザーゼヴに向けた。
ヒューン……ズドォーンっ!!シュィィンっ!!
この前とは違い光の球体がそのままザーゼヴに落ち、光の柱が迸り大聖堂が半壊した。
だが半壊の際に出た砂煙の中にザーゼヴの姿はなかった……。
「っ!?」
ただならぬ気配を感じ、咄嗟にに横に飛んで地面に伏せった。
ズドォーンっ!!
横に飛んだユーリをかすめ正面に炎の塊が飛び、無数に並んだ聖堂の椅子が吹き飛ぶ。ザーゼヴいつの間にか彼女の背後に周っていた。
「ククク…狙いが甘かったようだな」
「これはこれは、健脚なお爺さんね(あの時と同じ魔法名破棄とはやってくれるわね)」
身体を起こし、背後に振り返り言った。ユーリの視界に入ったザーゼヴは、宙に浮いている。
それよりもザーゼヴが放った炎の塊……おそらく炎系中級ファーガや、風系上級の飛行魔法ウイングを詠晶破棄どころか、魔法名を言わずに使っていた事にユーリは内心驚いていた。。
『ゼクトっ!!』
ドゴォーンっ!!
それでも躊躇わずゼクトを放った。しかし光の柱が迸る前に右掌一つで受け止められてしまい、その余波で聖堂正面にある調度品の銅像の破壊しただけに終わってしまった。
「ゼクトのようなマナの消耗が激しい魔法を連発するとは…ククク…愚かな奴だ」
そうザーゼヴが言った通りゼクトはマナの消耗が激しい。ましては詠晶破棄など、やってしまうと身体にかかる負担が半端無い筈なのだ。
それを言ったら魔法名破棄を平然とやってのけるザーゼヴは異常なのであるが。
「決めてたのよ。あんたと戦う時は、他の魔法を一切使わない……必ずゼクトで、ぶっ殺すんだってね」
ザーゼヴを睨み付けた。
ユーリのその顔、その眼、殺意以上のものを感じる。しかし、ザーゼヴは顔色一つ変えずユーリを嘲笑っていた。
「それは光栄だ。ククク……」
右掌をかざした。其処からファーガが放たれる。またもや魔法名破棄だ。
シュインっ!!
ユーリの目の前で光のバリアが現れ、ファーガが掻き消された。
これはラクームお得意の水系中級防御魔法とは違い、自身だけを守るバリアだ。
魔導士が普通の人間より、魔法に対する耐性があるが、更にその耐性を鍛えた者ならそれが可能にできる。
『ゼクトっ!!』
ファーガが完全に掻き消されると再びゼクトを唱えた。
ヒューン……ズドォーンっ!!
しかしまともや右掌で防がれた。
(くっ!何故効かないの?)
「ククク…どうした?魔力が弱まってきてるぞ。そんなもんでは、ミンシアの仇など討てはせぬぞ。ククク……」
「貴様ぁ…っ!!」
「ミンシアは、善き人間だった。それ故、ゼクトに選ばれたのであろう。だが善き人間は無力だ……大義に敷かれ体制に呑まれ、あげくに自分の娘を守る為に死んだ。ミンシアにはゼクトは宝の持ち腐れというヤツだ」」
「くっぅぅ!!」
ユーリの手が震える。母の事を言われ、怒りに駆られた。唇を噛み締め、ザーゼヴを睨み付ける。
「善き心とは即ち弱き心、そんなものなど恐るるに足りん。現にミンシアは果て、今もまたその娘もゼクトを使いこなせてはおらん。ククク…これではミンシアも浮かばれぬな」
ザーゼヴは変わらずユーリを嘲笑う。
「ぅぅおのれぇーっ!!」
ユーリの眼が血走る。
「赤子のお守りは飽きた。ここまでだ!わしの最高の奥義で死をくれてやるから、感謝するが良い」
ザーゼヴの回りの空間が動めく。それに加え、邪悪な闇がザーゼヴを包む。
『最高位暗黒魔法……ダークライ!!』
・・・・・・・
此処魔導都市ガンダーラ…魔導を学ぶ場として栄えていた。しかし、それは三年前までの話し……。
三年前に勃発した、後に第二次暗黒戦争と呼ばれる事になる、この戦の開戦の幕開けとなったのがガンダーラなのだ。
と言っても、ザーゼヴによる一方的支配。逆らう者は皆殺しにし、力で支配した。
ガンダーラの大半の者は、ザーゼヴに従い一部の者は、虚しく散る。
そしてこのガンダーラでの戦いで、ラクームの父、母、そして兄までもが帰らぬ人となってしまった。
よって今では、ガンダーラにいる者は皆、ザーゼヴの配下なのだ。
イスカを含む魔導学校に通っていた者達は、成り行きに身をまかすしかなかった。
そのイスカだが、ガンダーラの魔導士に斡旋苦闘を強いれられている。イスカは七人の魔導士に囲まれては為す術無し……遂には立ち並ぶ家の外壁に追い込まれていた。
『精霊達よ、御身に呼び掛ける。雷をも焼き尽くす爆炎となりて我に力を与えよ』
イスカの右掌に炎が宿る。
『ファーガ!!』
左手を添えて炎系中級を放つ。
ボォォォ……バタン!
だが一人の倒すのがやっと……。
(くっ!やっぱり中級じゃ……)
『ファーガ!!』
そして今度は敵魔導士が一斉に炎系中級を唱えてきた。イスカは両掌を前にか翳し抑えこもうとする。
ドォォォーン!!
しかし、数が数だけに弾け飛んでしまった。
(くっ!こんな所でてこずっている場合じゃねぇ……ユーリを探さないと。こんなことなら、さっさと雷系を覚えておけば良かったぜ)
地面に這いつくばりながら胸中ボヤいた。イスカはユーリを助ける為の余力を残しながら戦っている。炎系上級なら、これくらいの相手一掃できるのだが、あえて温存していた。またもし雷系の中級を使えたなら広範囲を薙ぎ払えていた。
そして敵魔導士達が一歩一歩イスカに迫る。もう彼には立ち上がる力もない。
「相変わらず物騒でやなぁ……実に嘆かわしいでっせぇ」
その時、突如聞き覚えのある声が響いてきた。イスカは顔を上げる。すると前方からプロテクトシェルを展開したラクームが歩み寄って来ていた。相変わらず眼を細くし商人らしい揉み手をしながら。
「てめぇラクーム?どうして此処にいる?」
「ただのホームシックでっせぇ」
此処はラクームの故郷なのだ。
そしてラクームはイスカの前にくるとプロテクトシェルを解き……。
『ヒール』
イスカに水系中級回復魔法をかけた。
「てめぇ回復使えたのか?」
「はて?ワテがいつ使えないって言いはりまった?」
「……水系しか使えないって言ってたじゃねぇか!」
「何を言ってはります?これは水系の回復魔法でっせぇ」
「……はぁ?そんな魔法あったのか?」
彼は知らなかった……いや魔導学校のサボリ魔故に勉強不足なのだ。
『プロテクトシェル!!』
ラクームは回復を終わると直ぐにシェルをかけ直した。
「おいっ!ユーリ知らないか?いなくなったんだっ!!」
シェル内でイスカが怒鳴る。
「なんやて!?」
ラクームが聞き返した。
「だからユー……」
「さっきまで、おったんか?」
「ああ……」
「まずいでぇ……此処におらんちゅー事は大聖堂や」
「じゃあ大聖堂にザーゼヴが?」
「そや……ほな、この怖いにぃはん達おっぱらって、さっさと聖堂に、ユーリはんとこ行くでぇ」
ラクームは、シェルを解除した。だがその瞬間、
「じゃ、此処は任したぜ」
イスカは、ラクームを残して大聖堂に向かってしまった。
「まてや、ワテ一人じゃ……」
イスカに向かって手をのばすが、間に合わない。
『ファーガっ!!』
その隙を突いて敵魔導士が一斉に炎系中級を唱えて来た。
ボォォォ……っ!!
「あちち……最悪やぁ」
炎系中級は、ラクームに直撃。
『プロテクトシェルっ!!』
彼は慌てて再びシェルを張った。
「参ったぜぇ。どげんしよ!?」
『ファーガっ!』
再び一斉放火。
「くっ!シェルがもたへん(ワテ一人では、どうにもならへん。とりあえず逃げへんと)」
ボォーン!ボォーン!ボォーンっ!
次々にファーガがシェルに炸裂。
(逃げるにしてんも、どないすれば?)
ボォーン!ボォーンっ!
(イスカはん恨むでぇ)
ボォーン……ピキピキ……っ!
(しもーった!もうシェルがもたん!!)
ラクームは、ガンダーラの魔導士六人と対峙する事になり、はっきり言って不利なのだ。
彼が扱う魔法は、攻撃というより、補助向きの水系のみで、またイスカがいなくなった為に厳しい状況になる。
(相手が放っておるんは炎系……そやっ!!)
『精霊の名において、光をも流す濁流となりて、我に力を与えよ』
バリーンっ!!
彼が詠晶を終えると同時に響き渡る音でシェルが砕け散った。
『アクアスラークっ!!』
プシュゥゥゥっ!!
彼が両掌から、敵魔導士達に放ったのは、ただの水系中級。直撃しても吹き飛ぶ程度にしかならない……。
しかし、相手は炎系中級を放っていた。つまり水と炎が、ぶつかり蒸発、辺り一帯は凄まじい霧に包まれた。
「上手くいったでぇ…今の内や」
ラクームをほくそ笑みその場を後にしようした。
【逃げちゃアカン時があるんや】
(……オトン!?)
だがその時、ラクームに頭に父の言葉がよぎった……。




