第八話 限界を超えて
何処かの砦では、リュウザンが傷付き壁にもたれかかっていた。もう支え無し立ち上がる力が残っていないのだろう……。
いや、それ以前に剣を失ってしまった以上、精神的に参っているようにも伺える。
「フフフ……喜ぶが良い。貴様の仲間どもがニーベ奪還に成功したようだな。フフフ……」
「そうかい……」
リュウザンは笑みを浮かべだした。
「……これであんたも隠居する場所が無くなっちまったっな爺さん(良くやってくれだぜ皆)」
「フフフ……まだそんな減らず口を叩くとはな。だが最初から他の奴など当てにしておらん。アルスエードもそれに従う者どもも、この手で殺してやると決めていたのだから」
不敵な笑みを浮かべている。
「負け惜しみかい?てめぇ一人で、何が出来るというんだ」
負け時とリュウザンも嘲笑ってみせた。
「わしの身体はザーゼヴ殿の魔導の力によって、それ自体が一つの武器となっておる」
「それはどういう意味だ?」
「この力を解き放てば、肉体は滅ぶが、この忌まわしき聖王国ごと吹き飛ばす事ができる。フフフ……貴様は運が良い。その瞬間を間近で見る事ができるのだからなっ!」
「何っ!?」
「ガディウス様に逆らう愚か者どもを、この先何処にも行かせはしないっ!!」
「ハハハハハハ……」
リュウザンが吹き出した。
「……こいつは笑わせるぜ」
「……気でも触れたか?」
「いーや、あんたを尊敬してんだよ。あんた凄いよ……其処までガディウスに忠誠心が厚いとはな。だけどな忠誠心ならこっちも負けていなぜ。アルス王子はガディウスを倒す方なのさ。この大陸に与えられた最後の希望なのさ……そして俺の掛け替えのない主君なんだっ!!」
壁から離れるように一歩前に出る。しかし支えを失い片膝を突く。
「その邪魔をする奴は……殺すしかない!どんな事があってもなっ!!さあ始めようか……これが最終決戦だぜっ!!」
そして最後の力を振り絞り立ち上がった……。
「フフフ……面白い男だ!剣さえ持たぬお前がどうやってわしを殺すといのか?」
「甘く見るなよ。隠し武器くらい確り持ってんだぜ……」
リュウザンは腰に手を回し短剣を取り出した。腰に隠れる程、短い短剣だ。
「な?騎士の心得って奴さ」
その短剣を自分の顔の前に翳して言った。
「ほう……だがそんな短剣で何をするつもりだ?」
「そいつが問題だな。こいつにびっくりして降参してくれると助かるんだが、そうもいくまいしな……なら、やるしかないだろっ!!」
間合いを詰める。
「む……」
左手に持つ杖を振るう……が、右側に回り込み躱す。
「あんたは右腕をなくしてるんだ。こちら側に大きな死角ができてんのさ!接近戦なら頂きだぜっ!!」
「小癪なっ!!」
「おっと!魔法は使わせない」
プシューンっ!!
左肩を斬り裂く。魔法を発する杖を持つのは左手……肩を斬って左腕を落としを使えなくしたのだ。
「ぐおおおお……!」
「こいつで決まりだ」
短剣を逆手に持ち、上から垂直に降ろす……脳天を貫こうとしているのだ。
ガツ!!
だが、短剣が頭に届く前に杖を持つ左手で、杖を持ったまま、手首を掴まれてしまった。
「な、何っ!?」
驚くのも当然。確かに左腕を斬り落したのに、左手が使えるのだから。
「フフフ……」
不気味な笑みをしている。またフードから、覗く眼は、今までにないくらい気持ち悪い真っ赤な瞳をしていた。
「うっ!」
グっ!!
リュウザンの手首を握った手に力が入る。
「ああああ……!!」
絶叫を上げてしまう。そして思わず短剣から手を放してしまった。
ダンっ!!
そのまま投げ飛ばされ壁にめり込んだ。
「うう…う……」
壁にめり込んだ状態で、顔を少しあげると、ジョーゼンの足元に無惨に刀身が無くなった短剣が転がっている。
更に顔を上げ、ジョーゼンを見ると、左手に持つ杖を斬り落された右腕の方に向けている。そして杖が輝き……。
シュルシュルシュル…ゴォーン!!
再び無数の蔦が生えてきて、その蔦が巻き付き巨人の腕とも言える巨大な腕になった。杖により、再生したのだ。
「…そんなの…ありかよ……」
流石にこれにはリュウザンも嘆いた。もう心が折れていると言っても良いだろう。いや、それ以前に戦う体力が残っていない
斬り落とした腕が再生してしまったが、冷静に考えれば再生するのはわかっていた筈……最初に草竜の姿でアルス達の前に立ち塞がった時に、仲間達が大きなダメージを与えにも関わらず、人型になった時には無傷だったのだから。
「本当に面白い男だ。実に楽しい。フフフ……楽しいぞ。フフフ……では次は此方の番だな」
巨大な腕が壁にめり込んだリュウザンを襲う。
ドゴっ!
壁にめり込んでいる為に避ける術無し。直撃を受けてしまった。
「ぐあっ!」
それだけは終わらない。
ガガっ!
ガツっ!
ドゴっ!
バコっ!
巨大の腕の猛襲。ひたすらリュウザンを殴り続けていた。
一体どのくらい殴られただろうか……リュウザンの意識は薄れていく。此処までまでくると残酷過ぎる……地面に這いつくばる事さえも許してくれない。
そしてやっとジョーゼンの猛襲が終わりを迎えた。
「がはっ!」
ガツン!
膝から落ちる。
バタン!!
そして伏した。
(なんてザマだ……ボロボロだぜ……イクタベーレ騎士の名折れだな!)
ジョーゼンの姿がボヤけていく。
(ちっ!眼が霞んできやがった。こんな場所で死ぬなんて俺の予定になかったんだけどな。王子との約束も守れないなんて……それでよく命を賭してお守りするなんて言ったものだ。情けない……俺はこんなに無力だったのか……こんなに……ソラに笑われちまうぜっ!!)
胸中嘆き続ける。
が、それでもリュウザンは限界をとうに超えた力で立ち上がろうとする。彼を最後まで突き動かそうとすのは……。
(何で俺はまた立っちまうんだろうな……)
死に場所に対するこだわりか?
否っ!
イクタベーレ騎士としてプライドか?
否っ!
アルスに対する忠誠心か?
否っ!否っ!否っ!否っ!否っ!否っ!否っ!否っ!否っ!否っ!否っ!否っ!否っ!否っ!否っ!否っ!否っ!否っ!否っ!否っ!否っ!否っ!否っ!否っ!否っ!否っ!否っ!否っ!否っ!否っ!
(ソラ……あいつに笑われてたまるか!……この俺はあいつより先にくたばってたまるかっ!)
友の姿がリュウザンの頭に浮かんだ。彼を突き動かすのは友に対するライバル心だ。この想いが最後の最後に彼を奮い立たせた……。




