第三話 弓騎士ジェリド
首都ニーベの街でフードを被った男が八百屋でリンゴをいくつか買っていた。
リンゴが入った紙袋を受け取りリンゴを一つ取り出しその場を後にする。
その足で路地で向かうと彼を待ち受けていたのは、ごろつきの風貌をした三人の男だ。彼等はフードの男の前に立ちはだかる。
「どいてくれないか?先を急ぐんだ」
フードの男がそう言ってリンゴを齧った。ごろつき達は不気味な笑みを浮かべ道を開けるようとしない。
「……それで何のようだ?」
言葉を変え、またリンゴを齧る。
「お前二日前に俺達の仲間を随分と甚振ってくれたそうじゃないか」
やっとごろつきが口を開く。
「さぁ記憶にないが?」
また齧る。齧る。齧る。齧る。齧る。齧る。その行動が余計ごろつきをイラ付かせていた。
「とぼけるっ!てめぇのお陰で仲間が二人、半死半生の有様だ。忘れたとは言わせんっ!!」
別のごろつきが怒鳴る。
「忘れた」
表情一つ変えず言い、最後の一口を齧って、次のリンゴを取り出した。
「なにっ!?」
「良い度胸だ!俺達をザーズの爪と知らぬわけではあるまいな?」
「殺るぞ?」
ごろつき三人が順番に喋り、嬲り殺しにしてやると言わんばかりの不気味な笑みで三人は剣を抜き放つ。
「ザーズの爪だの仲間だの……ガキの遊びだろ?もっと自立した生き方を心掛けなよ」
平然とした顔で次のリンゴを齧る。
「てめぇ!」
ごろつき……いやザーズの爪の一人が動く。
バンっ!
それより早く一口齧ったリンゴを顔面に投げ付けた。それによって一瞬怯む。
ドーンっ!
その怯んだザーズの爪の腹に掌打を入れる。当然それによりリンゴが入った袋は放り投げていた。
「ぐはっ!」
バタンっ!
たったそれだけでザーズの爪の一人が泡を吹き倒れた。
「やれやれ……体術は俺の得意分野じゃないんだぜ」
「くそっ!」
もう一人が剣を振り上げ斬り掛かる。
バコンっ!
剣を振り下ろすより速く顔面に拳がめり込んだ。
「隙だらけだったぜっ!」
「がはっ!」
バタンっ!
これであと一人。だがその一人は一瞬で二人やられた事でビビって壁側に寄り、凭れ掛かって震えながら剣を構えている。
「な、何なんだよ。お、お前は?」
「おっ!」
それを無視し、倒したザーズの爪が持っていた弓を拾い。弦をキュッキュと軽く引く。
「手入れが行き届いていないな……弦の張りが甘い」
矢を一本拾い装填し弓を構える。
「俺の得意分野はこっちだぜ」
弦を引き絞り離す。
ヒューン……ブスっ!
放たれた矢は残ったザーズの爪の顔の真横を通り凭れていた壁に突き刺さった。
「ヒィィ……」
弓を放った彼はフードを外し顔を晒す。
「俺の名はジェリド。ま、覚えておいて貰う必要はないけどな」
そう名乗った彼は黄色の7,3分けされた髪で肩の下辺りまであり、首の後ろで束ねている。また右の髪が7の部分で前髪にピンクのメッシュが入っていた。歳は25だ。
そしてジェリドはフードを被り直す。
「ジェリド?この国の弓騎士ジェリドか……!?」
「あ~あ。リンゴが散乱してる。もうダメだな。ま、一個袋の中に残っていたから良っか」
もうザーズの爪に眼もくれずそのリンゴを取り出し齧りながらその場を後にした……。
(さて、遊んでる場合じゃない。イクタベーレのアルスエード王子一行がこの地に向かってるんだ。どうやって合流したものかな?期待を裏切らんでくれよ……イクタの子孫とやら)
・・・・・・・
首都ニーベのとある民家には解放軍の何人かの姿があった。メンバーはリュウザン、ソラ、ディーネ、ロッカ、サラ、ラクーム、リビティナだ。
ただラクームは商人らしい服装だが、他の面々は戦をするような服装、装備ではなくアルスと同じみずぼらしい平民の服装をしている。
ガチャっ!
民家の扉が開く。扉を開け中に入って来たのはアルスだ。
「ご無事でしたかアルス様。あまりにも遅いので心配しておりました」
ソラが安堵し声を掛けた。
「心配いらないよソラ。皆も無事で良かった」
アルスもまた皆の無事を喜び笑みを浮かべる。
「アルス様、意外に似合ってるじゃないっ!」
ディーネは相変わらず目尻は吊り上がってるが声音、言葉は前より柔らかくなっていた。
「そ、そう?」
少し照れている。
「ほんま上手く化けておりまっせぇ。王子に見えへんなぁ」
この口調と言えばラクーム。いつものように商人がやる揉み手をしており眼を細めていた。
「しかし、ニーベの検問を突破する為とは言え、こんな格好をせねばならんとは……」
自分の服を見てボヤくソラ。
「いや、お前はなかなかハマってるぜ」
ソラに嫌味を言うのは毎回の事ながらリュウザンである。
「へんっ!お前だって」
負けじと返す。
「残念ながら俺はどう取り繕っても育ちの良さと品格の高さを隠す事は出来ないからな」
「……言ってろ」
自意識過剰な発言に呆れそれ以上返せなくなるソラ。
「アルス様がご無事で何よりですわ。私安心致しました」
扇子で口元を隠し大人びた振る舞いをするロッカ。
「ご心配をお掛けしましたロッカ様。それとロッカ様には伝えておきたい事がございます」
「何でございましょう?」
不安げに口を開く。
「ユーリが見つかりました」
「えっ!?」
ロッカが驚く。こういうとっさの反応は歳相応の感じがあった。
「用事を済ませて合流するって言ってましたのでイスカを案内と護衛を任せました」
「ユーリ……ああ良かった」
肩の荷が一つ降りて余程嬉しかったのだろう。ロッカが泣き崩れてしまった。
「イスカの姿が見えないと思えばどおりで」
サラ以外には忘れられていたが、彼女だけがイスカがいない事を不思議に感じていたのだ。
さて彼等がすんなり集えたのは、ギュスターヴ達が囮として東の山脈を目立つように進軍していたからである。
わざわざこんな手の込んだ策を取ったのは二つ理由がある。
一つはアルス達は平民に扮してが先に首都ニーベに入り聖王国ユグドラシル攻略の準備を整える事。
もう一つは旗頭であるロッカを安全にニーベに入れる事。いつものように何処かで待ってるという事も考えられたが、本人が自分の国なのだから先陣を切ると言い出したのだ。
士気が上がるメリットもあるので反対する者も少なかった。
しかしだからと言って囮部隊に入れるのは危険なので攻略準備組に混ざったのである。
それなら時空魔法ソウテンで跳ばす方法も考えられたが、残念ながら首都ニーベはそれの対策がしてあり外からの転移を阻害する結界が張られていた。中に入ってしまえば自由に使えるのだが……。




