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戦慄のイクタベーレ ~敗退せし者達の母国奪還の軌跡~  作者: ユウキ
第五章 聖王国ユグドラシル
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第二話 魔導士ユーリ

 聖王国ユグドラシルの首都ニーベでは、アルス達同盟軍が向かって来ているという噂で持ち切りになっていた。

 人々は噂にしか過ぎないのに表情が晴れやかだ。それもその筈、ロッカの帰りを持ち望んでるからである。


「すんなり入り込めたな」

「そうだな」


 イスカが呟き。それにアルスが応えた。彼等は既にニーベに到着していたのだ。

 ただ二人だけである。しかも二人共みずぼらしい平民の服装をしていた。


「じゃ、さっさと合流しちまおうぜ」

「そうだな」


 二人はニーベを歩いて移動している。そんな彼等になのか……にこやかに優しそうな顔をした老婆が手招きしていた。


「あのババァにこやかな顔して、いけすかねぇ匂いがプンプンするぜ」

「ああ。私も感じた」

「どうする?」


 相談していたら、後ろから一人の少年が老婆に向かって行った。


「どうやら手招きされたのは、私達ではないようだな」

「じゃ、ほっといて俺様達は合流を急ごうぜ」

「いや……あの老婆の後を追う」

「んだとぉ!?何でそんな面倒な事を?」

「あの老婆はユグドラシルの盗賊団“ザーズの爪”の一味のが可能性がある」

「だから?」

「奴等が我々の行動に介入してきたら。何かとまずい。よって今の内に本拠地の目星は付けておく」

「は~……てめぇは言い出したら聞かないからな。わーったよ。後つけりゃあ良いんだな?」


 イスカは溜息を溢し嫌々承諾し、老婆と少年を追い始めた。

 ほどなくして老婆の仲間らしき男が後ろから大きな袋を少年に被せて、少年はすっぽり入ってしまい袋の口は絞められてしまう。


「何て酷い事を」


 アルスが影から老婆を睨み付ける。

 老婆は仲間の男と歩き出し、しばらくすると人気の無い路地裏で不自然な鉄格子があり、捕まえた少年をその中に放り投げる。

 そして老婆はお金を受け取っていた。


「こりゃ奴隷商人だな」

「奴隷商人!?」


 人の売り買いをしてるのを見てイスカが奴隷商人と気付きアルスが聞き返す。


「ああ。適当に捕まえたガキを売り捌いてる連中だ」

「なんて酷い事を……イスカあの牢屋みたいなのを魔法で壊せるか?」

「無理だな。あれは俺様が捕まっていた場所にあったのと同じ結界張られていやがる。中から破壊もできなきゃ外からも干渉できねぇ」

「なら本拠地を諦めて奴等から牢屋の鍵を奪う」

「やれやれ」


 イスカは本拠地とかではなくアルスの行い(・・・・・・)を諦めて苦笑し肩をすくめた。


「彼等を開放しろっ!」


 真っ先に飛び出したのはアルスだ。


「なんだ貴様等はっ!?」


 少年を鉄格子に入れていた男が叫ぶとぞろぞろと三人増えた。


「解放するんだ」

「誰かするか馬鹿なのか?」

「仕方無い……イスカ!」

「はいはい……『ファイ』」


 ボォっ!


 イスカの掌から解き放たれた炎系初級魔法(ファイ)は、奴隷商人の頭に飛び髪を焦がす。


「あちちちち……」

「魔法を使うのか……クソ!逃げろ」


 焦げた一人の男を見て他の男が毒付き鉄格子の鍵を捨てると一目散に逃げる。頭を焦がされた者や他の二人をそれに続く。

 アルスは鍵を拾い、それで鉄格子を開けた。

 それにより奴隷にされそうになっていた少年少女が逃げだす。しかし一人のターバンを巻いた少年だけ残った。


「君は逃げないの?」


 アルスがその少年に声をかける。

 少年はターバンを巻いており髪が見えない。服は少し高級そうだが、捕まっていたせいか薄汚れていた。


「僕は良い。奴等はザーズの爪だ。直ぐに大人数で帰ってくる。直ぐにまた捕まるのが目に見えてる」

「やっぱりザーズの爪か……ならしばらく私達と来ないか?ザーズの爪とやり合うかもしれない。そうなれば君を相手にしている余裕はなくなる。だからその時に機を、見て逃げれば良いよ」

「おい良いのかよアルスおう……アルスさんよ」


 イスカは王子と言いそうになり、言い直した。だが既に遅く、少年の耳に確り届いていた。


「アルスおう?……もしかしてアルスエード様?」

「えっ!?……うんそうだよ」


 一瞬肯定するのを迷うが、一緒に来るとなればバレてしまうと思いアルスは正直に答る。


「ではロッカ様は、今どうしていらっしゃるかご存知ですか?」

「……」


 なんて答えるべきか悩む。勿論一緒に来るとなればロッカにも会うだろう。しかし問題は其処ではない。

 真剣な眼差しをしている彼の眼だ。その眼はただの期待というものではない。

 ロッカの帰還となれば民衆は歓喜するだろうし、それを期待する。それに対するものなら普通に答えれば良い。

 しかし彼の瞳の奥には期待というよりは喜び、不安、焦りがあるような複雑な心境を現してるようにアルスは感じた。故にアルスはそれが気になってしまった。


「君は何者なんだい?」


 不安、焦りがあるように見えたのでロッカに仇名す事も考慮され率直にそう聞く。


「僕は……」

「てめぇら!ただで済むと思うなよっ!」


 少年が何かを言おうとしたら奴隷商人……いやザーズの爪達が大人数でやって来る。


「何だよ!あの数は」


 イスカが数に驚く。三桁は行かないだろうが二桁の人数は確実にいた。


「ザーズの爪のは思ったより対応が速い」

「どうするんだ?アルス王子よ。此処は街中だ。下手な魔法は使えねぇ」

「此処は()に任して」


 アルスとイスカが思案してると少年が名乗りを上げる。そしてターバンを脱ぎ捨てた。


「えっ!?」

「あっ!?」


 アルスとイスカが少年の容姿に驚く。


「君は女の子?」

「て、てめぇ魔導士か?」


 アルスが少年ではなかった事に驚く。ターバンの下から現れたのは中分けされた腰まである長いオレンジの髪。

 そして額にはパールが埋め込まれているサークレット。宝石は魔導の媒体になる。その効果は劇的とは行かないが無いよりは有った方が良いという代物。

 それを見てイスカは魔導士と問うた。


「そうよ」


 彼女があっけらかんと答える。少年と見てしまうとかなり若く12,3歳と言った所だが、実際には女性であり、その歳は18だ。


「この魔導士ユーリが取っておきの魔法で歓迎してあげるから感謝しなさいね」


 ユーリと名乗った彼女はザーズの爪にそう言い放つと左手から何処に収納していたのか、魔導書が一冊握られていた。



『魔は光に輝かん……』



「な、なんだっ!?一体何の魔法だ?」


 イスカが驚くのも無理ない。彼女の周囲の空間が蠢く。魔導士に言わせるとそれは精霊のざわめきだ。

 しかし彼女の場合はそれ(・・)だけではない。光の粒子が舞い始めた。



『……我が力となりて闇を消しさらん。輝け、浄化の光輝よっ!!』



 詠唱が終わると同時に右手の人差し指と中指を立て前に突き出す。指の先に舞っていた光の粒子が収束し出した。



『光の超魔法ゼクトっ!!』



 その指先の収束した光の粒子が空に上がり、やって来たザーズの爪達の頭上で球体化。その大きさ半径1mに及ぶ。

 そして彼女は指先で光の粒子を操るかのように上下に動かす。


 ヒュンヒュンヒュンヒュン……ブスブスブスブスっ!!


「うわっ!なんだこの魔法は?」


 光の球体から光の矢が降り注ぎザーズの爪達が逃げ惑う。更に彼女は指先だけではなく右腕を一気に振り下ろした。



 ドゴォォォンっ!!……シュィィィンっ!



 けたたましい音が鳴り響く。光の球体本体が落ちて来たのだ。地面を大きく抉り光の柱が(ほとばし)った。


「す、凄いっ!!」


 アルスが呆気に取られる。


「めちゃくちゃだっ!!」


 しかしイスカは頭を抱えた。それもその筈。彼は街を破壊しないように大きな魔法を使うのを躊躇ったのに彼女は平然と光の矢で地面に無数傷を作り、しまいには地面を大きく抉ったのだから。


「き、君は一体?」


 アルスは再びユーリと向かい合い再び先程と似た質問をする。しかし今の魔法に呆気に取られ警戒心は無い。


「それにさっきの魔法何なんだよっ!?」


 街を破壊した事にイスカは少しキレていた。


「私はミンシアの娘、ユーリです。今の魔法は母から受け継いだ光の超魔法ゼクトよ……もっとも加減してるんだけどね」


 ユーリが二人の質問に答える。しかも確りアルスには丁寧語、イスカにはタメ語と使い分けていた。

 また彼女の手にはもう魔導書はない。


「あれで加減してんのかよ?」


 イスカが呆れる。加減しても地面を抉ってるのだから。


「ええ。本気で使ったらどうなるか私も見当つかないわ」


 それをわかってて無視してるのかさらっと答える。


「でたらめだ」


 イスカは最終的そう吐き捨てた。


「それでミンシアってまさか大司祭ミンシアっ!?」


 アルスはミンシアの名に驚きつつも聞く。

 司祭とは回復系魔導士の上位版で攻撃魔法能力を捨てる変わりに回復特化になった魔導士である。

 そしてミンシアとは大陸一、二を争う程の魔力を持った司祭なのだ。

 アルスはそんな高位の司祭だから驚いたわけではない。実はロッカから聞いていたのだ。行方不明になっているミンシアの娘を出来れば見つけて保護したいと。

 代々弟子に受け継がれる七大秘宝の一つゼクトの使い手だったがザーゼヴの手で亡くなってしまったのでその愛娘のユーリを保護しようとしたが、当時の聖王国ユグドラシルにそんな余裕はなかった。

 その娘が目の前にいる事に驚いたのだ。


「はい。そうです」

「君が大司祭ミンシアの娘……でも、どうして男装を?」

「母にゼクトを守るように言われザーゼヴから身を隠す為、男装しガンダーラで息を潜めていました」

「ガンダーラ?じゃあ其処で奴隷商人に捕まったのかい?」

「いえ。アルスエード様が決起されロッカ様と首都ニーベに向かって来てると耳にしまして此処に向かう途中にです。ゼクトを隠す為、大人しく捕まる事にしました。でも今使ってしまいましたけどね」


 いたずらな笑みを浮かべ舌を出した。


「そうだったのか」

「それでアルスエード様、先程もお伺いしましたがロッカ様はどうしていらっしゃるのですか?」

「安心して。ロッカ様は私達の元にいる。君の事もロッカ様から聞いている」

「本当ですか?」


 ユーリがパーっと明るくなる。


「ああ。これからは私達が君を守るから」


 アルスはユーリの肩に手を置き力強く言い放つ。


「いいえ」


 しかしユーリは首を横に振り……。


「私も戦います。母から受け継いだゼクトが、アルスエード様やロッカ様のお役に立つ筈です。きっとザーゼヴも倒して見せます!」


 気丈に言い放つ。


「わかった。しかし私の一存では許可できない。まずはロッカ様にその顔を見せて安心させてあげて。その時に改めて言って欲しい」

「はい!」


 彼女は満面な笑みで応えた。


「じゃあロッカ様の元へ行こうか」

「あ、すみません。忘れ物があります。先に行ってください。場所さえ教えてくだされば、後で合流します」

「う~ん……」


 アルスはしばらく考えイスカの方を向く。


「イスカ悪いけど、ユーリと一緒に行ってやってくれ」

「は?何で俺様が?ふざけんなよっ!」


 しかしイスカは食ってかかる。


「一人では危険だ。それに君がいてくれた方が彼女も合流しやすい」

「ちっ!わかったよ」


 舌打ちしつつも了承した。


「宜しくね」


 ユーリはイスカを下から覗き込むようにして微笑み掛ける。


「ふん!」


 そっぱ向くが、その顔は少し赤くなっていた……。

アルス軍に初の七大秘宝持ちが仲間になりました

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