エピソード ティア
「ぅ……ん?……此処は何処?」
目を覚ますと真っ暗で何も見えない場所に私はいた。
「確か私は……野盗に襲われて……うぅ頭が……」
頭痛がする。思い出せない。
「……此処は汝の心の世界」
突如声が響く。辺りを見回すが、やはり暗闇で何も見えない。
「心の……世界?……一体何なの?それに貴方は?」
意味がわからない。
「順を追って語ろう。まず我の名は白銀波。汝の魂に作り出されし存在」
「……私の魂?」
「左様。汝は力を求めた、故に我は生まれた」
「何それ?わけわかんない」
「汝は剣人族の末裔。剣と共に生きる者だ」
「けんじ…ん……族?」
「左様。そして剣人族が力を求めた時、我のような意思を持つ剣が生まれる」
「つまり、確かあの時……私は野盗を憎んだ……だから貴方が生まれたの?」
「如何にも。あの時、我は汝によって目覚めた」
「ふ~ん」
にわかに信じ難い話だったが今の私には信じる事しかできない。いや少し違うか……。
暗闇の世界で私と白銀波と名乗る者の声しかしない。だから成り行きに身を任すしかない。
そして何よりも私には何もない。全てを失った。はっきり言って何もかもどうでも良い。
「そして此処は汝の心の世界」
再び声がする。
「いやそれが良くわからないんだけど?」
「汝は大切な者を二度も失った哀しみを暗黒魔導士に漬け込まれ操られてしまった」
「操られた?私は今、自分の意思で話してるよ」
「それは我が分離させた本質の汝」
「はぁ?」
言ってる事が全くわからない。
「我は汝が完全に操られないように本体の汝から本質の汝を分離させ心の奥底に隠した」
「本質?本体?わけわからないよ」
全くわからない。
「これを見ろ」
ボワンっ!
目の前に光が灯った。とても大きい……人が十人集まっても隠れないような大きさの長方形の箱にだ。
其処から徐々に光が鮮明になり、やがて一人の剣士らしき姿が見えた。
何これ?
それは映像というべきか……その映像は人の視点から見た感じのもので、その剣士と剣を交えているように思えた。
「戦ってるの?」
「左様。これが本体の汝が現在行ってる行動」
「戦ってる?私が?」
「左様。これが操られし汝、そして本質の“意思”を持つ汝は此処にいる」
「なるほどね。私の意思に反して戦ってる私が本体で、此処にいる私が意思を持った本質の私ね」
「左様」
映像の剣士は、本体の私に押され、気付くともう一人剣士が増えていた。
「それで私はこれからどうなるの?」
「汝の思うままに」
「どういう事?」
「このまま操られていたければ、それも良し。暗黒魔導士の呪縛を解き放ちたければ、それも良し」
「解き放つって……できるの?」
「汝が強く望むなら」
「良いわ。このままで……もう辛い想いはしなくて済むし」
そう三度目は絶対嫌だ。
「左様か……」
何故か白銀波の声音が寂しそうに聞こえた。
「白銀波って言ったわね?貴方はそれで良いの?」
だから訊いてみた。
「我は汝の魂により目覚めし存在。故に全て汝の望むままに」
「そう」
寂しそうに聞こえたのは気のせいだったのかしら。
でも仮に別の答えが聞けても、今の私には現実に立ち向かう勇気はない。
目の前の映像は三人目の剣士が現れていた。
「あれ?この人どこかで見た事がある気がするわ」
『ん?……お、お前!あの時の嬢ちゃん……ティアじゃねぇか』
この声、この口調、聞き覚えがある。あれは四年前……いやここに囚われてどのくらい立つのかわからないからもっとかな?
「ホリンさん……」
私は恩人であるホリンさんに刃を向けてるの?
「白銀波!何とかならない?ホリンさんは命の恩人なのっ!!」
気付くと私は叫んでいた。
「強く望め。あるべき場所に還りたいと」
「ホリンさん」
強く望む……強く強く……私はホリンさんを傷付けたくない。私のあるべき場所……本体の私も私のもの!
私は強く望んだ。すると身体がスーっと何処かへ引っ張られる錯覚を覚えた。
というのも今の私に肉体はない気がする。今の私は今までの生活で培った感覚で疑似的に身体があると錯覚してるように思える。
それでも本体に還ろうとしてる事がなんとなくわかった。しかし引き戻される。
【どうせ戻ったって、辛くなるだけだよ】
身体を掴まれ引き戻される感覚、そして邪悪に満ちた声が響く。
頬が濡れる。実際に頬どころか肉体はないけどそう錯覚する。
「ダメ!白銀波……ダメだよ」
瞳から大量の雫が零れる。
「もっとだ!もっと強く望むのだ。邪悪な力を打ち破る程……」
ダメだよ……。
「ホリンさん……ごめんなさい」
私は泣きながら謝り続け、ホリンさんと戦わない事を強く強く望んだ。
そして本体の私がホリンさんから離れて行くのが目の前の箱に映っていた……。
四章終了
短かったです
五章は長くなる予定です




