第六話 理想と現実
ニーベ行路にある砦制圧は終局を迎えようとしていた。400騎もいた軍勢は数が減ると撤退し始めたのだ。
「逃げる者も遠慮はいらん。残ってる兵も撤退しる者も速やかに一掃せよ」
敵軍の士気が落ちてる隙を突こうとギュスターヴが命じる。
「待ってください。撤退してるならこれ以上、戦う必要はありません」
しかしアルスがその命に異を唱えた。
「アルス殿、此処で叩かねば後々厄介な事に……」
「会議の時にも話しましたが、それではバルマーラとなんら変わらないっ!」
ギュスターヴの言葉を遮り叫ぶ。
「それは理想だと……」
「うわぁ!」
ギュスターヴと話してる最中に叫び声が聞こえた。
「なんだ?」
アルスは直ぐに聞こえてきた場所に急行。
「ようやく現れおったな……アルスエード王子」
其処にはライアーラ騎士を薙ぎ倒した指揮官らしき男が立っていた。
「このっ!」
別のライアーラ騎士が斬り掛かる。
「うっ!」
だがあっさり返り討ち。
「ザコはいらん。アルスエード王子、貴様が来いっ!!」
指揮官が叫び、アルスは指揮官に歩み寄って剣を構えた。
「ガキめが、バルマーラに楯突いた事を後悔させてやるっ!」
指揮官は、手に持つ槍をアルスに向ける。次の瞬間……。
カーンっ!
指揮官の突き込みを行い、それをアルスが剣で払った。
「なかなかやる。だが貴様の進撃も終わりだ。死ね王子っ!!その亡骸は槍に架けて見せしめとしてくれる。貴様の父ガイルバッハと同じようになっ!!」
槍を振り上げる。
「……父上が!?」
「ザーゼヴ様に敗れたガイルバッハは、イクタベーレ城に晒された。民衆の反抗心を抑える為に俺がやったのだ」
槍を振り下ろす。
突如眼付きが殺意あるものに……アルスは指揮官の言葉によって憎悪に心が支配された。
そして槍が当たる瞬間、後ろに跳び槍が空を斬る。後ろに下がった直後、右上から左下に剣を振り槍を叩き斬った。
バキっ!
更に剣を持つ手を返し、間合いを詰めつつ右上に斬り払う。
ザンっ!
「がはっ!」
バタンっ!
腹部を斬られた指揮官は絶命した。
「ジャイロ、砦の敵兵に投降を呼び掛けてくれ。戦いは終わった。これ以上の流血は必要ない……それと逃げる者は無理に追わなくて良い」
「はっ!承知しました」
相変わらず、敵を斬った後のアルスは遠くを見てるかのようで哀しい眼をしていた……。
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制圧した砦の屋上で思いに耽ってるアルスの姿があった。彼の瞳には虚しさしか映していないように見える。
「アルス殿」
そこにやって来たのはギュスターヴだ。彼は屋上に向かうアルスを追い掛けて来て後ろから声を掛けた。
「ギュスターヴ王子……確かに私の言ってる事は理想に……奇麗事に過ぎないのかもしれない」
アルスは振り返らず話始める。ギュスターヴは黙って聞き、アルスの隣に並ぶ。
「憎しみに突き動かされては何も生まれないと言いつつも、一時の憎しみに駆られて己を失う……」
ギュスターヴはアルスの方を向きゆっくり口を開く。
「いや、それで良い。安心した。今、この大陸に必要なのは、理想を現実にする過程の様々な矛盾に全身でぶつかっていける純粋差を持つ人間なのかもしれない」
「ギュスターヴ王子」
アルスもまたギュスターヴの方を向いた。
「アルス殿にはそれがある」
この後、ギュスターヴとアルスの衝突はなく、ギュスターヴはアルスの良き仲間、良き相談役、そして素晴らしき友になっていく。
これは哀しき因果を持つ戦争の中で輝かしき光になったと言えた……。




