第五話 ホリンVS覇気の無い女剣士
「(くっ!なんて力だ。女とは思えない……はっ!?)おいソラ、この女の眼はなんだ?」
リュウザンが少女の放心状態のような眼を見て驚く。
「ああ。眼だけじゃない。いろいろおかしいんだよそいつ」
ソラは薬草を左肩に擦り込みながら答えた。
「ちっ!お前と組むのは癪だが……準備は良いか?」
「ああ……良いぜ」
擦り込み終えたソラはリュウザンの後ろで構える。
「行くぜっ!」
ガっ!
女剣士の腹部に蹴りを入れる。女剣士は先程と同じくダメージを軽減する為に後ろに跳んだ。
「はぁぁ……っ!」
リュウザンは間合いを詰めながら剣を大きく振り上げる。だが隙だらけだ。それを彼女は見逃さない。
シュっ!
横に薙ぎ払うが、空を斬る音が響く。女剣士が剣を振るった瞬間しゃがみ込んで躱し、彼女の剣がリュウザンの頭の上を走った。
そしてリュウザンの手には“剣”がない
「はっ!」
ソラはしゃがんだリュウザンの肩を踏み台にして彼女の頭上から斬り下ろす。
その手には剣があった……。
しかし彼女は即座に後ろに跳び避けられてしまう。
リュウザンが斬り下ろすフリをして後ろにいたソラに剣を渡し目くらましのような攻撃をする絶妙なコンビネーションだったが彼女には通じなかった。
「おりゃぇっ!」
それでもソラは直ぐ様、次の攻撃に移り、足元を斬り払った。だが上に跳ばれ躱されてしまう。
しかしソラ達の攻撃はそれだけではない。後ろに控えていたリュウザンがいつの間にか手にしているナイフを投げ付けた。
ヒューン……カスン!
それでもあっさり彼女の持つ剣で弾かれてしまう。空中にいるというのにこのコンビネーションも通じなかったのだ。
更に……。
バコっ!
ソラは蹴り飛ばされてしまった。
「ぐはっ!」
ソラは吹き飛ばされリュウザンにぶつかり二人共倒れてしまう。
そして女剣士は着地と同時に追撃に出た。
「万事休す」
リュウザンは終わったなと感じた。
「なんて奴だ!」
ソラも吐き捨てる。
だが彼女が斬りかかったその刹那!
ギーンっ!!
金属がぶつかり合う音が響く。間に入って来た者が剣を防いでくれた。
「気になってアルスに許可取って来てみりゃあ、なんだこのザマは?」
間に入ったのはホリンだ。剣を交えつつ横目でソラ達を見る。
「ホリン!奴の眼を見ろ」
ソラが叫ぶ。
「あ~ん?」
視線を女剣士に向ける。
「な、なんだ!?このイっちゃった眼付は?それに覇気が全く感じられねぇ」
ホリンも相手が異常な者だと気付く。
「そうなんだ」
とリュウザンが言い……。
「そいつ感情がないっぽいんだ」
ソラが畳みかける。
そしてホリンは剣を交差させたまま、もっと詳しく彼女を観察した。
「ん?……お、お前!あの時の嬢ちゃん……ティアじゃねぇか」
ホリンの知り合いだったらしく驚きの声をあげる。
「知ってる奴なのか?」
とリュウザン。
「昔にちょっとな」
横目でリュウザンを見ながら答え女剣士と向き直した。
「おい!ティアっ!!一体どうした!?」
ホリンが先程より強く声をかける。
「……ホ…リン……さん」
途切れ途切れだが初めて彼女が口を開いた。またホリン曰くイっちゃた眼から人間らしい眼に変わりつつあった。
「ホリンさん……」
今度ははっきりホリンの名を呼ぶ。だが眼付はせっかく人間らしいものに変わりつつあったのに直ぐに最初の眼に戻る。
それでも彼女は自分の意識を保とうとしてがごとく、人間らしい眼に変えようと抗ってるように見えた。
「ティア、一体どうした?」
くるくる変わる眼付を見つめていたホリンが努めて優しく声をかけた。しかし未だ剣を交えたままだ。
「ホリンさん……ごめんなさい」
眼から涙が溢れ、そう言った彼女は剣を捨て走り出した。まるでホリンから逃げるかのように。
「ティアーっ!」
去り行く背中を見ながら叫ぶが、振り返る事もせず雪のような真っ白な剣を残していなくなってしまった。
ホリンはその剣を拾おうとする。
「っ!?」
だが掴めない。まるで立体映像がそこにあるかのように虚しく指が空を切った。
「なんだこの剣?」
異変にリュウザン達も気付く。
やがてその剣は、ス~っと消えた。幻がそこにあったかのように。
「何なんだよその剣。それに誰だよあいつ」
ソラがホリンに声をかけたがホリンは何も答えず去ろうとする。
「待てよ!」
ソラが後を追い掛けた。
「止めておけ」
リュウザンが静かに言い放ち、ソラの肩にポンと手を置いた。傷を負っていない右肩だ。
「明らかに可笑しいだろあれ!一体何なんだっ!?」
リュウザンの言葉を無視し叫ぶソラ。ホリンは立ち止まり、振り返りもせず……。
「俺が知るかっ!!」
怒鳴りつけ再び歩き出した。
残った二人はビクっと肩をすくます。
「だから止めろと言ったんだ。お前にはデリカシーがないのか?」
「俺に何を届けろと言うんだ?」
「……それはデリバリーだ。は~……馬鹿にもわかる言い方をすると気配りや気遣いをする繊細さはお前にないのかって言ってるんだよ」
リュウザンが溜息と共に呆れたように言った。
「なにおう!」
「あのな……お前の知り合いが豹変して目の前に現れたらどうする?逆の立場になって考えろ」
「っ!!」
言葉を詰まらせる。流石にソラも今ので理解できたようだ。
「今は、そっとしてといてやれ」
「……わかったよ」
この女剣士……ティアと呼ばれた者との戦いは、なんとも後味の悪い形で幕を閉じた……。




