第一話 友好国タルミッタ
ユグドラシル大陸から南東に位置する島国、イクタベーレの友好国タルミッタ。イクタベーレ城から逃げ延びたアルス一行が身を寄せる。そして二年後、アルスの本当の戦いが始まる……。
タルミッタのとある広場にアルスの姿があった。ただみすぼらしい平民の恰好をしている。
カーン!
カン!
カンカンカン!
「はっ!」
アルスが剣を打ち合う。
相手は茶色っぽい金髪で7,3分けの後ろに軽く流してる剣士。また右頬に少し弧描くように横一文字に斬られた傷跡があった。
「左側がガラ空きだっ!」
キーン!
「切り返しが遅えぞ!(最初に比べたら大分良い動きになって来たじゃねえか。ならこれはどうだ)?」
剣士は少し大振りに剣を右に流す。わざと一瞬の隙を見せたのだ。
すかかさずアルスは左側から剣を振るう。
ギーーーンっ!
剣士を即座に剣を翻し受け止めた。
「ふん…ちった腕上げたじゃねぇか」
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・・
・・・
「ふー」
アルスは鍛錬で流した汗をタオルで拭く。そうアルスは剣の鍛錬をしていたのだ。あの敗退の2年前からずっと……。
今まで碌に鍛錬をしてこなかったが、あの敗退で次は皆を守りたいという感情が生まれてきたのだ。
「いつも悪いねホリン。二年前よりは大分上達したと思うよ」
剣士の名はホリン。タルミッタに流れて来て王の眼に止まり雇わていた。歳は35で卓越した腕前であり、おそらくリュウザンとソラの2人がかりでも敵わないと思われる実力だ。
「ああそうだな。二年前は何の冗談かと思う程、酷いもんだったな」
「ははは……耳が痛いよ」
「坊主、剣を習ってなんに使うだ?」
「……もう誰も失いたくないから」
坊主呼ばわりされた事を気にもせず、少し俯き答える。ホリンにはイクタベーレの王子だとは言ってないのだ。
「まあイクタベーレから流れて来たんだ。いろいろあったんだな。じゃあな坊主」
深く聞こうとせず踵を返す。
「ホリンこの次は……」
「残念だが今日で終わりだ。俺は今月限りで国の剣士としての契約期間が終わる」
首だけ振り帰り答える。
「ホリンっ!?」
「更新はしない事に決めたのさ。やがてここにも暗黒魔王軍の軍勢がやって来る。そうなりゃまた戦争だ。俺は戦いにゃ飽きた。どこか別の大陸にでも渡って静かに暮らすさ。元気でな坊主」
ホリンは、そう言ってそのまま去って行った。
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・・
・・・
ホリンが小道を歩いてると前方からジャイロがやって来た
「坊主のとこの爺さんか。お迎えか?」
「はい。ところでホリン殿、アルス様の剣は如何でしょうか?」
「大分サマになって来たんじゃぇか?」
「貴殿のお陰です」
「ニ年前にタルミッタ王に頼まれた時にゃどうずれば良いのか正直途方に暮れたもんだが……確か坊主はタルミッタ王の縁戚にあたるんだったな?」
「ええ、まあ」
ジャイロは心苦しい思いをしつつ答える。
「ま 後は実践を積むこった。まだあの坊主は人を斬った事ないんだろ?」
「……いや」
「ほーあるのか?」
ホリンが感心した声を上げる。
「二年前にイクタベーレが陥ち逃げ延びる途中で襲ってきた盗賊を……」
遠くを見つめるように語るジャイロだったが一旦言葉を切り、真面目な面持ちでホリンに向き直る。
「ところでホリン殿はタルミッタを去られるというのは本当ですか?」
「ああ」
「貴殿程の方が一体どうしてです?」
「別に……ただ戦いに疲れただけだ」
「剣士ホリンの噂は色々聞いております。大陸で一・二を争う名うての大剣豪。だが数多の誘いを断り主君を持つ事はない。ホリン殿、貴殿は自分が本当に仕えるべき者を探しておられるのではないですか?」
図星を突かれて、顔に出てしまうが一瞬の事でジャイロには気付かない。
「ふん。買い被り過ぎだ」
「そうですか……老婆心ながら余計な事を言ってしまいました。申し訳ありません」
「じゃあな爺さん。坊主に宜しく(そう言えばイクタベーレの王子もあの坊主と同じくらいの筈だが…)」
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・・・
その夜、城から北西に位置する離宮にてアルスは椅子に腰を掛けて窓から空を眺めていた。
今宵は紅い満月、それは美しく見る者を魅了する。だが同時に不吉を連想させるのもまた事実。
この満月を眺めていたアルスはホリンにもう教して貰う事はないと知り、そろそろタルミッタを離れるべきだとジャイロに言った。
「まだ早過ぎます」
しかしジャイロが止める
「早くない。私は二年待った。その二年の間に暗黒魔王軍は大陸を制圧し尚も侵攻の手を緩めない。やがてそれはこのタルミッタにまで及ぶだろう。私はタルミッタをイクタベーレの二の舞にはしたくないっ!!」
感情を露にするように悲しげな眼差しをジャイロに向けた。
「アルス様……」
ジャイロは何を言えば良いか迷ってしまう。
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・・
・・・
早朝を迎えると海賊達が城に押し寄せてきた。島国なので海賊が蔓延っているのだ。しかし本来なら直ぐに逃げられる港町を襲うのだが今回は何故か城を攻めてきた。
「おーら」
ブッシャー!!
海賊が斧を振り城の兵を叩き斬る。
「国王を探せーーーっ!」
海賊の頭が叫ぶ
「何事よッ!?」
ベッドの中で寝ていた少女が城での騒ぎに飛び起きる
バーンっ!
その部屋の扉が勢い良く開け放たれた。
「ディーネっ!!」
タルミッタ王妃が部屋に入ってくる
ディーネと呼ばれた少女はこの国の姫で水色の髪をしており長さは肩の下辺りまでで、歳は16。
「お母様っ!?」
「今直ぐこの城からお逃げなさい。暗黒魔王軍に加担する海賊達が攻めて来たのです」
「お母様、でも私は……」
「良いから早くお行きなさい。離宮にいるアルス殿と合流するのよ。私達なら大丈夫だから」
「姫様!お急ぎください」
侍女もディーネの部屋にやって来た
「ディーネをお願いね」
「かしこまりました」
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・・・
「さーてどうしたもんか。再度攻めるても今朝の二の舞だしな」
ホリンが城下より離れた所にある砦から城の方見ていた。
「おい!こっちは何人残ってる?」
「10人ちょいです」
部下が答える
「けっ!情けねぇな。だいたい何で今日の早朝に限って兵が誰もいなかったんだよ?」
「はあ……それが昨夜、城下町の方でも海賊騒ぎがありまして、それの鎮圧にほとんで出ていました」
「バーカ。それは敵の陽動だったんだろうぜ。そんなものに引っ掛かりやがって」
「そういう隊長だって酷く飲酒されて朝起きなかったでしょう?」
痛いとこを突かれホリンがガクっと首が落ちる。
「そんなこたぁどうでも良いっ!何か手はないのか?」
失態を誤魔化すようにまく舌立てた。
「隊長!アルスと名乗る若者が隊長を訪ねて来ています」
別の部下から声が上がる。
「アルス?……ああ、坊主か!」
ホリンは許可を出し部屋に招き入れた。
「坊主どうしたんだその恰好は?」
ホリンに見せるアルスの普段の恰好は平民を思わせるみすぼらしいもの。だが今は戦をすると言わんばかりの騎士のような恰好していた。それも高貴な者が着用するような立派なやつだ。
「タルミッタ城を取り戻しに来た」
「城を?何言ってるんだおめぇ」
「イクタベーレが陥ちて逃げ延びた我々を国王と妃殿下が暖かく迎えてくださった。その恩をイクタベーレの王太子である私は決して忘れない」
「王太子ィィ!?(確かに生きていればこの歳だろうが、坊主が……いやまさか)」
アルスの後ろに並んでいた者達がザっとアルスの左右に付く。
ジャイロ、リュウザン、ソラ、そして紅一点のリビティナ。
アルスと逃げ、生き残ったのはこの4人だけなのだ。
リビティナは薄い緑色の髪でショートのストレート。歳若く14。イクタベーレが陥ちた時は12で見習いである。実力もまだまだだが弓兵なので後方支援という役割だった事、他にも理由があるが運良く生き残った。
ただ正確にはイクタベーレの宮廷騎士団ではないのだが……。
「何だコイツらは?」
ホリンはジャイロとしか直接顔を合わせた事がなかった。勿論町ですれ違う事があったかもしれないが。
「イクタベーレの宮廷騎士団。二年前共にタルミッタに逃げ延びた私の仲間だ」
「宮廷騎士団!?それじゃおめぇ……」
「二年間黙っていてすまなかった」
「マジかよ……坊主がイクタベーレの王太子」
驚きのあまり大きな溜息と共に下を見下ろす。そしてフッっと笑いアルスに向き直った。
「OK。じゃあおめぇの命令に従うぜアルス」
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