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戦慄のイクタベーレ ~敗退せし者達の母国奪還の軌跡~  作者: ユウキ
第二部 第四章 白き剣を持つ少女
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第一話 雪月牙

初の一人称

 夜に輝く銀色の雪原。普段は気にしないが、改めて眼をやると美しく思える。

 また空には赤い怪しき光を放つ月が浮かぶ。満月を見ると不吉を感じるのは、私だけだろうか?

 心の奥で胸騒ぎを憶えて仕方無い。それでも、こんな美しい銀世界に連れ出してくれた、この人には感謝しかない。

 例え仰向けで倒れ動けなくなったとしても……。







 私は朝から熱っぽかった。前日部屋のベッドまで運んでくれたこの人は、ただただ謝っている。

 何故彼は、私にこんなに優しくしてくれるのだろうか?


 そして夜……毎日それはそれは静かな時間が流れる。だけど今日は違った。突如騒がしくなるのを感じた。

 朝から私の看病をしてくれていた彼は、外の様子を見てくると言って出て行ってしまう。

 彼が出て行ってからどのくらい立っただろうか?外はますます騒がしくなる一方。

 それだけではない窓から赤くチカチカと不気味な光が差し込む。私は彼が心配になり熱で重い身体を起こし外に出た。



 えっ!?

 なに…これ?

 わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない。

 思考が回らない。


 外は銀色の雪原の筈……なのに一面どす黒いような赤で覆われていた。また彼がそのどす黒い赤の雪原に倒れていた。

 い、や…いや…いや………いやーーーーーーーーー。

 叫びたいが声が出ない。


「へっへっへ……まだ生き残りがいたか」


 と嫌らしい笑みを浮かべた男が数人、目の前にいる。


 彼を殺したのはこの人達なの?何故彼を殺したの?いや何故この村の人達を殺したの?



 わからない。


 わからない。


 わからない。


 わからない。


 わからない。



 頭が混乱する。でも、この光景を前にも見た気がする。あれはいつだっただろうか?私がこの村に来る前に。


 そう私は……。









 ―――――――


 私はとある村で、平穏に暮らしていた。あの日が来るまでは……。

 私の村は特に国に属しているわけではなく、そのお陰なのか戦争とは無縁の村。しかし何かあった時の保証とかなく、その為に村が山賊や海賊に襲われると無力で仕方無かった。

 それでも活気がある村人達がいて、幼馴染の男の子がいるこの村が大好きだ

 他の国は戦争で滅んだ等、良く耳にしたが自分達には関係無いと他人事のように思っているが、いつこの平和が終わる事になるか怖くてならないのも事実。



 ある冬の事である。一面は銀世界。空には美しいが怪しい赤き光を放つ満月が浮かぶ。

 これを眺める度にいつまでも平和が続くように願わずにはいられない。

 しかしこの満月の夜にこの美しい銀世界に牙が向けられ、どす黒い赤き世界にその姿を変えた……。

 海賊達が村を襲ってきたのだ。普段は村の食糧を奪うだけなのに今回は違った。村人達をが次々に殺されていく。これはあきらかに侵略だ。



 私が幼馴染に手を引かれて逃げた。息が上がろうが、足が痛かろうが、ひたすら逃げ続けた。

 だが、直ぐに海賊達に追い付かれ、幼馴染の彼は逃げろと言って海賊達の前に出る。何故私を庇ってくれるの?

 一瞬の出来事で何が起こったのか見えなかった。いや見えていたが混乱のあまり理解できなかった。彼は目の前でどす黒い赤き雪の上に倒れる。

 何でこうなるの?



 わからない。


 わからない。


 わからない。


 わからない。


 わからない。



 私は……誰?



 この時、私は記憶を無くしてしまった。目の前には横たわる男の子。その前には嫌らしい笑みを浮かべる男達。私も殺されるのかな?

 何もわからないまま死を覚悟した。だがその時……。


「嬢ちゃん一人相手に野郎共数人が何やってるんだ?」


 突如後ろから声が聞こえ、その声の主は私の前でに出る。私を助けてくれるの?

 でも何故?

 そしてその声の主は海賊達を追っ払ってくれた。


「嬢ちゃん立てるかい?」


 と言ってその人は私の腕を掴み立たせてくれる。

 えっ!?私は座り込んでいたの?自分が今どんな状況なのかわかっていなかった。



 美しく降り注ぐ雪。それが地面に溜まり、それはそれは見る者を魅了する銀の世界へ。空に浮かぶ怪しき赤い光を放つ満月が銀世界をより一層輝かせている。

 だが、一度牙が向けられると白く美しい雪はどす黒いような赤き雪と化してしまう。

 私の頭の中も雪と同じように真っ白になり、この世の終わりにも思えたが剣士と思われる一人の男がそんな私を救ってくれた。

 剣士は近くの村まで私を連れて行ってくれて、生きる道を示してくれる。だがこの頃の私は記憶を失い、何もかもわけがわからなくて自分の殻に閉じ籠っていた。

 それでも生きる為に働いた。何故生きなきゃいけないのかわからからない。これからどうすれば良いのかわからない。

 それでも必死に働いた。いや違う……流されていたのだ。きっと成り行きに身を任せていたのだと思う。


 私がこの村の宿屋で、住み込みで働かせて貰って二度目の冬を迎えた。

 今まで働いた甲斐もあって宿屋の店主は、私の為に家を用意してくれた。

 休日の日は特に何もする事なく、その家で一日過ごす。自分が何をするべきなのかわからず、働く時以外は人と関わり合いを持たず寂しい休日を過ごす。

 いや生きながらに死んでる私には、たぶん寂しいなんて感情なかったのだろう……。


 更に季節は二つ分過ぎ夏を迎える。

 ある日、一人の男の子がやって来た。歳は私と同じくらいに思える。

 それから私が休みの日はたまに遊びに来ては話し掛けてきた。その度に私はそっけない態度で返す。それでも彼は嫌な顔一つせずに時々遊びに来た。

 月にだいたい三日くらいだろうか?これが知り合ってから一年半ずっとだ。


 この村に来て四度目の冬を迎え、彼が来ても相手にしない私に何故構うのだろうか?最近はそんな事ばかり考える。

 今日も彼は来ていた。外は真っ白な雪が降り注ぎ、それはそれは美しかっただろうが、私は全く興味を持っていなかった。

 私は何も考えず、ただぼーっと窓から外を眺める。そんな私の後ろで私の背中を見る変わった男の子。

 彼は私の家に来て何もせず帰って行く。いや私が相手をしないから何もしなのだろう。でも何故か飽きもせず私の家に来る変わった人。



「雪を見てるのが好きなのかい?」


 後ろから声がする。


「……別に」


 振り返りもせずそっけなく私は返した。


「でも奇麗だと思わないかい?」

「考えた事ない」


 彼とはこんな会話ばかりだ。それでこの後、いつも沈黙が続く。だが今日は何故か違った。


「勿体無いなぁ」


 と彼が続けて来たのだ。


「えっ!?」


 何が勿体無いのかとは思わなかったが、いつもと違う状況に私は驚き振り返った。

 彼は私の顔を見て、微笑を浮かべ穏やかな口調で……。


「……こんな奇麗なものを見ても何も考えないなんて勿体無いよ。雪だけじゃない。花も木も……世界には沢山奇麗なものがあるんだよ」


 と言って来る。


「そ、そうなんだ」


 戸惑ってしまったが、私はなんて返せば良いのかわからず、いつものようにそっけなく返してしまう。


「そうだっ!」


 彼は何かを閃いたと言わんばかりに満面な笑みで私に歩み寄って来る。


「おいで」


 彼は私の左腕を掴んで来た。


「えっ!?何?」


 いつもと違う展開に驚く。


「良いから良いから」


 私の手を引き外に連れ出して来た。


「外に出てどうするの?」

「雪合戦さ」

「な、なんで?」

「良いから良いから」


 そう言って彼は雪を丸めて投げて来た。私のその場から動かず、顔に直撃。


「ほらほらちゃんと避けないと。どんどん行くよ」


 そう言って次々に雪を丸めて投げて来た。わけがわからず私も雪を丸めて投げ返した。


「そうそうその調子」


 彼が穏やかな笑みを浮かべ雪玉を投げて来る。

 気付くと私も負けじと彼の雪玉を避け、必死に投げ返した。


「ちゃんと持ってるじゃん」


 彼が雪玉とともに言葉を投げ掛ける。意味がわからない。


「何が!?」


 私も雪玉と一緒に返す。彼は手を止め、ゆっくり口を開き……。



 ―――――笑顔っ!―――――



「っ!?」


 えっ!?私……今、笑っていたの?自分では気付かなかった。

 確かに胸の中に暖かいものを感じる。四年ずっと凍っていた心が脈動を再開し出していた。


「せっかく良い笑顔持ってるのに……」


 再び彼から雪玉と一緒に言葉が飛んで来る。


「勿体無いぜっ!」


 また雪玉と一緒に言葉が飛んで来た。その一つ一つが心に響く。


「ほらほらもっと笑って」

「うんっ!」


 今度は自分でもわかる程、満面な笑みを浮かべた。少し顔が熱かったので、もしかしたら照れていたのかもしれない。

 この胸の奥から込み上げる、喜びと懐かしさにひたり、心を四年ぶり動かしてくれた彼に本当に感謝しながら雪合戦を続けた。

 私の投げる雪玉の一つ一つにこの想いを込めて投げる。だが次第に頭がふら付き……。


 バタンっ!


 私は倒れてしまう。顔が熱かったのは風邪を引いてしまったいたからのようだ。






 ――――――


 次の日、一面の銀世界に牙は向けられどす黒いような赤き世界に変貌した。

 目の前に倒れる彼の姿を見て、悪夢が蘇る。失われた記憶が戻ったのだ。

 もう嫌だ。そう頭によぎる。二度も目の前で大切な人が倒れる光景を見てしまい、もう死にたいとまで思った。

 でも、この胸の奥から込み上げるもの何!?深い深い絶望の中にあるどす黒いような赤い感情……これは憎しみ?

 私は死にたいと思ったが、それ以上にこいつ等を憎んだ。深い深い憎悪が心を支配していく。


(憎い。二度も大切な者を奪ったこいつ等は憎いっ!!)


 そう感じたその時である。


【憎むべき者がおるなら我を欲せよ!】


「何!?今の声は」


 突如頭に直接声が響いた。


【我は汝の魂に呼び覚まされし者なり。さあ我を欲せよ】


 悪魔の囁きと感じたが関係無い。声に導かれるまま右手を空に掲げた。

 そして頭上に強い光が現れ視界が遮られる。その光がおさまると私の右手には剣が握られていた。


「こ、これは……?」


【我は汝の力!さあ共に戦わん】


 頭に直接響く声、それは剣から発せられたものだと本能的に理解した。







 ・・・・・・・・


 空に怪しく煌めく赤き満月が浮かび、大地は一面銀世界だが、とある村だけはどす黒いような赤き世界が広がり無数の死体が転がる。

 その中にたった一人の少女が立っていた。少女の手には血で染まった赤い剣が握られている。いや全身血だらけだ。それが本人のものか他者のものなのか……?


「あーーはっはっはっは……」


 天に向かった高笑いが木霊する。少女は無数の死体が転がる中で大笑いし、赤く染まったその額には大量の涙が流れていた……。

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