第九話 リビティナの戦い
正面からギュスターヴが率いる囮部隊が暴れている隙にアルス達は、裏手からバルバルディ要塞に侵入していた。
侵入したのはアルス、ゼフィロス、リビティナだ。
「すんなり、潜り込めましたね」
とリビティナ。
「ああ。ギュスターヴ王子達が派手にやってくれているからね」
とアルス。
それでも裏手側には確り敵兵は配置されていた。一人だ。だがその者は他の者とは違う、ホリンと似た強者が放つようなオーラを放っていた。
かなりの手練れ。武器が剣である事を見ると剣士だと推測される。ゼフィロスのような例外もいるが。
その者の足を引っ張らないように一人しか配置しなかったと考えられる。
その敵兵に真っ先に気付いたのはゼフィロスだ。彼は、前を歩いていたリビティナの襟首を掴み後ろに引き戻す。
「えっ!?」
バンっ!!
尻餅をついてしまう。
「痛いですよ。ゼフィロスさん!いきなり何を……はっ!?」
遅れてリビティナも気付く。
ギーンっ!
いつ動いたのか、いつの間にか二人は剣を打ち合っている。その剣戟はリビティナの眼にはおえない程、恐ろしい速さだ。
「此処はゼフィロスに任せよう」
「(落ち着いている、アルス様には見えているの?)……はっ!承知しました」
カーンカンギンギーンっ!!
彼女等の横で打ち合うゼフィロス。
(笑っている?)
リビティナが胸中呟いた通りゼフィロスの口は笑みを作っていた。まるで戦いを楽しむかのように。
「よし!入るぞ」
「はっ!」
アルスは裏手側にある入り口から突入。
「此処には、誰もいない?」
とリビティナ。
「いや、いる」
アルスは気配で察知していた。
「来るっ!」
アルスはリビティナのお腹に腕を回し脇に引き寄せる。その刹那。
ヒユーン……ブスっ!!
先程までリビティナがいた足元に矢が刺さる。
「弓騎士か?厄介だな」
アルスが呟く。
(凄い……アルス様も日々成長しておられる。二年前とは大違いだ。それにゼフィロスさんも……それに比べ自分は…くっ!)
リビティナは胸中、己の無力に嘆いていた。
弓騎士……実力があるものに与えられる称号のようなもの。弓使いから始まり、国家等どこかに仕えると弓兵と呼ばれ、その中で経験を積み実力がそなわると形式美で洗礼され弓騎士と呼ばれるようになる。
弓騎士の実力となると、その狙いは正確無比。味方にいれば、心強いが敵に回るとアルスが呟いた通り厄介なのだ。
「アルス様は、別ルートからイスカ様を……此処は自分がっ!」
「しかし、弓騎士が相手では……」
「問題ありません。自分もライアーラ騎士団の一人。それにアルス様と共にイクタベーレを負われた身。その後何もしなかったわけではありませんよ?アルス様と同じように」
リビティナが軽く微笑む。
彼女は滅多に笑わない。だが今は精一杯の強がりで笑った。当然アルスにはそれが理解できた。
「そうだったね。君も私と一緒にタルミッタに身を置いたね。じゃあ任せるよ。でも目的はイスカの救出。無理はしないで、足止めだけしてれれば良いからね」
「承知しました」
アルスは別ルートでイスカが捕らわれていると思われる場所に向かう。
(とは言ったものの二人に遅れを取ったのが悔しかっただけなんだけど)
ヒューン……ブスっ!
再び矢が飛来。
(くっ!危なかった。今は集中しないと。今の自分では、この距離から射抜くのは不可能。もう少し距離を……)
立ち並ぶ柱にリビティナは身を隠しながら少しずつ接近していった。
しかし柱から柱に移るのも簡単ではない。その間に矢が次々に飛んでくる。
ヒューン……ブスっ!
ヒューン……ブスっ!
ヒューン……ブスっ!
ヒューン……ブスっ!
(次から次へと……余程軍資金に余裕があるようだな)
「逃げてばかりで、弓兵の風上にも置けない奴だなっ!」
(まだ距離を詰めないと……)
彼女は、矢を躱しながら少しずつ少しずつ弓騎士に接近して行った。
そして調度品の壺の裏に隠れながら壺を軽く叩き微かな音を鳴らす。
「そこかっ!?」
敵弓騎士が弓の弦を引き絞る。
しかしリビティナは調度品の壺の裏に隠れており、敵弓騎士からでは死角だ。
「……気のせいか?」
弦を緩めてしまう。その隙をリビティナは見逃さない。
「そこっ!」
パッリーン……ヒューン……ブスっ!
壺の裏から射抜き壺を破壊しそのまま矢が敵弓騎士の腕に刺さる。
「ぐっ!弓兵……ごときに」
腕が使えなくなり、弓が構えられないので直ぐ様、柱に隠れようとするが、それよりも速く……。
ヒューン……ブスっ!
バタンっ!
リビティナは第二射を放っていた。脳天に直撃し敵弓騎士は絶命した。
彼女はまだまだ未熟だが、普段怠らない鍛錬のお陰で至近距離とは言え、自分より上位の弓騎士を打ち倒す事ができた。
「さてアルス様を追わないと。王子が護衛無しというのも危険過ぎる」
リビティナは弓騎士を倒せた余韻に浸る事なく走り出す……。




