第十二話 アルスの婚約者
「ん?何だ君達は?」
サラ達に気付いたアルスが寄って来た。
「ハァハァ……あ、アルス…様」
マンデは息が整わぬうちにゆっくり顔を上げる。
「ディーネ?でも何でディーネが?」
「なんだって?姫さんが見つかったのか?」
少し離れたとこにいたホリンが驚き皆して集まってきた。
(ディーネ?それがマンデの本当の名前?ディーネとなるとタルミッタの王女か?)
サラが胸中呟いた通りタルミッタ王女。本名はユリアン=ディーネ=タルミッタ。
(まさか王女だったとはな)
ゼフィロスも胸中呟く。
「ハァハァ……何!?私が此処にいたら悪いの!?」
ツンツンな態度でアルスを睨む。
「いや悪くないけど……」
額に汗がつたり一歩下がり両掌をマンデ、いやディーネに向けた。
「海賊から此処の盗賊に売られただけよ」
「そうなのか……ところで君は?」
アルスはサラに視線を向ける。
「私はサラ」
「盗賊から助けてくれたのよ!文句あるっ!?」
一回一回つっかかるディーネ。
「最も王女なんて知らなかったですが」
「悪かったわね!……今まで黙ってて」
(それが謝る態度かよ……)
と胸中呟くが……。
「まあ事情が事情だからな」
と収めた。
「そうだったのか……ありがとう。タルミッタで海賊に連れて行かれた後の足取りか確り掴めてなかったから助かったよ」
とアルス。
「(こっちは礼儀正しいな。本当に王子か!?)気にする事はないです。どうせついででしたので」
「にしても良かったなお前さんの婚約者が見つかって。相も変わらず口は悪いが美人な姫さんだしな」
ニヤニヤしながら言うホリン。
「「婚約者!?」」
サラ、ゼフィロスが驚くのも無理無い。
「キャー美人だなんてーホリンったら相変わらず口が上手いんだからー」
ディーネはディーネでデレデレが始まる。
ヒュー!
一同固まり、風が吹き抜ける。これはまるで枯れた花に囲まれ、気持ち悪く奇麗に咲く一輪の花。勿論その花はディーネ。
ただアルスだけは固まるを超え、かなり沈んでいた。それを見たディーネはデレデレがピタっと止まる。
「……相変わらずなんだね」
俯き口を開くアルス。
実の所。二年間アルスはタルミッタにいたがあまりディーネとは関わっていなかった。自分の正体を隠していたのもあるが、一番の理由はどんな顔でディーネと話して良いのかわからなかったからである。
「文句ある!?あーまだあの事を自分の責任だと思っているのね!好い加減にしてよっ!!」
今までにないくらい目尻が吊り上がり不機嫌だ。
「別にそんなわけじゃ……」
と言ってるわりには顔を上げない。
「じゃあ何よ!?」
空気が重くなる。一同はこの二人の事を知らないだけにどうしたら良いかわからないでいた。いや正確にはシャイロ、リュウザン、ソラは知っている。
「お、お久しぶりです。ディーネ王女」
空気を変えようと声を掛けたのはリュウザンだ。彼……いやアルスとジャイロ以外はタルミッタに落ち延びた日以外ディーネに会っていない。
「誰よ?あんた」
「リュウザンでございます」
「ああ!あの青二才ね」
「えっ!?青二才?」
「違うの!?」
「いえ、それで構いません」
リュウザンは青二才と言われたのに気にした様子もなく話す。
「で、何よ?」
「宜しければ私めの未来を見て頂けますか?」
ディーネは希少な時空魔導士。他者の未来を見る事が可能。ただ見える時と見えない時があるので、その魔導を使いこなせていない。
「しょうがないわね!ほら顔出しなさい」
「はい!」
リュウザンが顔を差し出すとディーネは彼の頬に右手で触れゆっくり眼を瞑る。
しばしの沈黙。
(こ、これは……ウ、ソ…っ!?)
何かが見えて眼を開ける。
「如何でしたか?」
「えっ!?……あ、あー見えなかったわ」
「そうですか。ありがとうございました」
目尻が吊り上がっていなくそれどころか下がっていたので、それが嘘だとリュウザンは気付くが何も言わずお礼を言い頭を垂れた。
「あ、アルス様はこれからライアーラへ?やっぱりロッカ様にお会いに?」
ディーネも触れられたくなくて話題を変えた。
「あ、うんそうだね。ライアーラで匿われているロッカ王女をにお会いし聖王国ユグドラシルを奪還する」
「そ!じゃあ私も行くから」
「はっ!?ダメだよ危険だよ」
「何?私の回復魔法は役に立たないと!?」
下がっていた目尻が再び吊り上がり不機嫌になる。
「そんな事はない。回復魔法があれば助かる。でも君はタルミッタの王女なんだよ?」
「つまりアルス様は私に子を成す道具でいろと?」
「お、おい……」
サラが流石に聞き捨てならなくて口を挟もうとする。
「そうだ!」
とアルスがそれを遮る。
「お言葉が過ぎますアルス様」
ジャイロから非難の声。
「ふ~ん。アルス様って二年前に父を亡くしていますよね?母も存命か不明……」
「ディーネ様もお言葉が過ぎます」
「……いや良い。何が言いたいの?」
アルスはジャイロを止めるがその瞳が沈んでいた。
「つまり親通しが決めた婚約に何の意味があるの?」
「破棄したいと?」
「ええ。そしたら私は自由。別にライアーラに言っても構わないでしょう?」
「……好きにすれば良い」
苦渋の顔で、それだけをなんとか絞り出しアルスは去って行く。
「ディーネ様、アルス様は本当にディーネ様を心配していらっしゃるのです。子を成す道具等と決して思っておりません」
「わかってるわよっ!アルス様が本当に優しい人だって元婚約者なんだから当然わかってるわよっ!!」
ジャイロがフォローするが、この上なく不機嫌になって行く。口を挟めない一同。
「は~……じゃあ先にライアーラに行くからアルス様に伝えておきなさいよっ!」
『神々よ、我が身を彼の地に誘いたまえ……』
ディーネは溜息一つ溢しそう言って魔法を詠唱した。
「行くの……行かれるのですかマン……ディーネ王女」
とサラ。
「何その態度?」
「はっ!?」
「だぁかぁらぁ!散々一緒に逃げ回ったでしょう?」
と言うとディーネの不機嫌な顔が和らぎ……。
「ね?サぁラ!」
満面な笑みをサラに向ける。
「ふふふ……」
サラを釣られ笑みを溢す。実の所ディーネに見せる初めての笑顔だったりもする。
「そうだったな。またなディーネ」
「うんまたねサラ」
(久しく見たなディーネ様の本当の笑顔)
胸中呟くジャイロ。
『ソウテン』
(バカ!三年ぶりにまともに話すってのに、そんな顔見たくなかったわよ)
ディーネの目の前に五芒星の魔法陣が現れディーネ向かって行きディーネはそこに吸い込まれるように消える。
この時、ディーネの瞳から一滴の涙が……それに気付いたのは一人しかいなかった。
(私を助けたのはこの魔法だったのか?しかしあの涙は……やはりあの言葉は本意ではなかったのだろうな)
サラは胸中呟きジャイロの方に視線を向ける。
「アルスエード王子と少し話したいのだが良いだろうか?」
「ええ構いませんよ。ご案内致します」
ジャイロは野営で張ってたアルスが使用してたテントに案内した。襲撃に合い少し焦げている。
「こちらです」
ジャイロはテントの入り口の前に立ち、どうぞお入りくださいと言わんばかりに道を開けていたのでサラは中に入った。
「アルスエード王子」
「ああ。君はサラ!お恥ずかしいとこを見せたね」
「いえ……まあ込み入った事情があるようですから深くお聞きしませんが、ただ一つやはりディーネの事が心配だったのですか?それなら何故最後までお止めになられなかったのですか?ディーネは先にライアーラに行くって言って転移魔法で行かれてしまいましたよ」
「うーん。私には彼女を止める言葉がなかったからね、残念な事に。それにその資格もない……ああこれは昔に色々あってね。今の彼女をああしてしまったのは私の責任なんだ」
「そうですか……(ディーネは貴方の責任ではないと遠回しに言ってただろうに)」
「ところで普通に話して良いよ。それと私の事はアルスで。アルスエードだと長いでしょう?」
「(ほんと変わった王子だな)……ではそうさせて貰うアルス王子」
「それでサラはこれからどうするの?」
「私はディーネに一度命を救われた。まだ礼をしていない。なのでライアーラに行くつもりだ」
「なら私達と共に来ないかい?」
「良いだろう」
「ありがとう。宜しく頼む」
こうしてアルスはスパイシーロードでゼフィロスとサラという新た仲間を加えライアーラを目指すのであった……。
長くしてしまいましたがこれで2章終了でキリが良かったのです




