エピソード 異国の麗豹③
マルストに所属し、数日が過ぎたある日、マルスト国境付近にある砦に訪れていた。団長の指揮の元、これを陥とす戦だ。
「先方のバード部隊突撃っ!! 騎馬部隊はバード部隊の撹乱後に突入っ!!」
団長が叫ぶ。だが……そんなものは無視だ。俺は一気に戦場を駆け抜け砦に突入した。
「貴様! 何をしているか!? 単独行動許さんぞ!」
団長が俺の後を追って来る。
「煩いっ!!」
振り返り、そう返すとザコをすり抜け中核を目指し突っ込む。
「また貴様か…新入り! 作戦に従え! いくら陛下の信頼を勝ち得ていようが……」
必死に団長が俺に喰い着いて来る。だがもう遅い。
ザンっ!
もう既にコトは終わっている。団長は目の前に転がるソレを見て唖然としていた。
(な、何だ今のは……? なんて早い剣捌き)
「モタモタしてると犠牲が増えるだけだ。敵の中核を叩く! それが俺やり方だ」
そう発すると振り返り、団長を睨み付けた。
「……邪魔をするなっ!!」
そして、そう続けた。
「ぬぅ……」
△▼△▼△▼△
「……全く肝を冷えました。私も色んな戦場で戦って来たつもりですが、あのような男を見た事がありません」
王室で団長がリュウザンの報告していた。
それを聞くマルスト214世は椅子に腰を掛け、ワイングラスを揺らす。
「あの男は命令に従う様子はありませんし、隊に馴染もうともしません。今回もまた……」
「だが結果として作戦は成功したのだろう?」
団長の言葉を遮ると、立ち上がり窓辺に向かう。
「し、しかし……」
「ならば何も問題は無い」
マルスト214世はチラっと団長に視線を送ると窓辺から外を眺めワインを口にする。
「……ですが陛下…今回の作戦が万が一バルマーラに漏れたら我が国の立場が微妙に……バルマーラの拠点を叩き潰したのですから……」
団長の顔が険しくなる。
「……ただでは済みません」
団長からでは見えないが、マルスト214世は薄く笑い出す。
「奴らはどのみち全てお見通しだ。国境付近に我が国を監視する拠点を設けたんだ。奴らだって俺が黙って見てる筈がないことくらい承知してる。同盟国といえども監視の眼は欠かさない。見上げた心掛けだ。人間外生物の親玉もな。くくく……」
遂にはマルスト214世の口から微笑が漏れる。
「………」
冷や汗を流し、それを静かに聞く団長。
団長はわかっているのだ。窓辺に立ち、此方に背を向けているが、今の王はゲームを楽しむかのような残忍な顔をしている事を……。
「しかし、敵の中核を叩くのが自分のやり方だと?」
いきなり、マルスト214世の声色が変わり、普段の感じとなった。
「……そう言ったのか? あいつは?」
マルスト214世が振り返る。
「あ……? は、はい……」
「分かった……じゃあお前はこれ以上口を出すな。あいつには俺から話す。此処へ呼べ……ふふふ…」
再び窓辺に視線を戻し、微笑を浮かべる。先程の残忍なものではないが、団長には危険なものに感じていた。それ故、咄嗟に反論の言葉が口から出てしまう……。
「しかしそれでは……」
「二度は言わん…下がれ」
窓辺から外を眺め団長に背を向けているが、反論は許さないと言わんばかりの威圧感を放っていた。それでも団長は喰い付く。
「くっ……ですが陛下はあの者に格別な関心を寄せておられるようですが、信用できるのでしょうか? あの男は元々反乱軍に与していたとの事ですが、そのような者を傍に置かれますと……」
「勘違いするな…俺は貴様に意見など求めていない」
振り返り鷹の眼による眼光で睨み付ける。
「……し、失礼しました」
流石に鷹のような鋭い瞳の眼光に気圧され頭を垂れてしまう。
団長は頭を上げると出入口に向かい扉を開ける。そしてこう呟く。
「先程…あのような男を見た事がないと言いましたが……」
「……ん?」
「一人だけおりました。何事にも動じないあの姿勢……あれはマルスト陛下そっくりでございます」
振り返り、再び頭を垂れると、王室から退室して行った。
「くっくくく……」
一人残ったマルスト214世の部屋では不気味な笑い声が響いていた……。
△▼△▼△▼△
「本当にいずれわかりますか?」
期待に満ちたような輝かせた瞳で少年が俺を見て来る。
「……ああ」
そう答え、前方を見ると団長が此方に向かって来ていた。
「マルスト陛下がお呼びだ! 直ぐに来るようにと」
そう言われ俺は立ち上がる。
「リュウザンさん……何処か別に所に仕えていたんでしょう? それどんな人だったんですか?」
少年は下から俺を除き込む。俺はそっと少年の頭に左手を置いた。
お前みたいに真っ直ぐな瞳をしてるお方さ。そう真っ直ぐで純粋なお方……。
理想論ばかり言うクセに、それを成し遂げてしまうかのような魅力を感じるそんな人だ。
胸中イラつく。もう振り切ったつもりなのに。過去の俺は死んだ筈なのに……。
全く滑稽だ。何が俺の戦い方だ。たぶん俺は、あの方を忘れられないから、あの方の戦い方に拘っている。
あれは俺の弱さを象徴した戦い方だ。もうこれ以上、俺の口から言葉が続かない。
それ以上口にすれば、更に俺の弱さが浮き彫りになる気がする。だから俺は、それ以上何も告げず、その場を後にした……。
コンコンっ!
マルスト殿下の部屋をノックした。
「誰だ?」
中から殿下の声がする。
「リュウザンです」
「入れ!」
「失礼します」
部屋に入室した。
マルスト殿下は椅子に腰を掛けている。
「お呼びですか? 殿下」
そう言ってマルスト殿下に歩み寄った。
「どうだリュウザン? 俺の国…マルストには慣れたか?」
「お陰様で……」
「そうか……ところでリュウザン! お前は、この国の歴史を知っているか?」
「殿下の祖先であるマルスト一世が暗黒魔王からこの土地に住む者の為に勇敢に戦った事……またユグドラシルからの支援はグルノニアへの牽制の為であって、この国の為にではなく、長年虐げられて来た……そのくらいなら」
「ほう……それなりには知っているのだな……この国はかつて人間外生物共の領地だった……」
マルスト殿下がゆるりと昔話を語り始めた……。
「人間外生物共は、未開のこの地に住む人間を虐げて来た。その時に生き絶えた者もいる。そんな悲惨な状況で立ち上がったのが、お前が言ったマルスト一世だ。そいつは不死鳥フェニックスに股がり此処に住む者達の為に戦いを続けた。その時にユグドラシルに支援を要請……だが、支援は受けられたが、それは今言った通りグルノニアへの牽制の為だった。こうして興した国がマルストという訳だ。その後、その時の戦いを理由にユグドラシルは我が国を虐げて来た……もう200年も前の話だ」
語り終えると殿下は窓辺に向かい、外を眺め始める。
「今、マルストとバルマーラは同盟を結んでいる」
そしてまた語り始めた。
「だが奴らは依然この国を監視し続ける……お前達が潰したアレもそうだが、奴らはまた直ぐに別の監視拠点を設けるだろう。要は何一つ信用してないのだ。そして、それは正しい。盟約や種族意識や国籍だけの主従関係…そんなものは信用に足らない。本当に信用できるのは、己の力で奪い取ったモノだけだ。だから俺は欲しいモノは必ず自身の力で手に入れる」
マルスト殿下が振り返って此方に視線を向けて来た。野心に燃える瞳で……。
「………」
本当に信用できるのは、己の力で奪い取ったモノだけ……昔の俺なら同じ考えをしていただろう……。
だけど今は……。今は……。今は…何なのだ? この話は肯定できる。なのに……。どこかで否定している。何故だ……?
マルスト殿下は再び椅子に腰を掛けた。そしてワインをグラスにコポコポと注ぐ。
「お前もいるか?」
ワイン瓶を此方に向けて来た。
「いえ…私は結構です」
「そうか……リュウザン! 俺はこの大陸を手に入れる」
ワイングラスを揺らす、中で揺れる液を見詰め、まるで俺が世界を回すと言わんばかりに。そして再び語り出す。
「その為にはバルマーラも利用する。だが、人間外生物がのさばるのをいつまでも見てるつもりもない」
野心に燃える眼光を放ち出す。
「この地上から奴らの生きる場所など俺が消してやる」
マルスト殿下の強い意志がビリビリ肌に感じて来た。しかし、それは一瞬の事で、ふとワイングラスから此方に視線を向けて来た。
「敵の中核を叩く…か。イクタベーレの小僧が好んでる戦法らしいな。気に入らない……気に入らないぜっ!!」
不敵に笑った思うと、鋭い眼光で俺を睨んで来た。
「……リュウザン! お前は俺と来い!」
未だ過去の君主を忘れずにいる俺の内心を見抜いていたのだろう……。
恐らく俺が呼び出された本題はこれだな。
マルスト殿下は、ワイングラスをコトとテーブルに起き、立ち上がると真剣な眼差しで俺と向かい合って来た。
「お前は俺のものだ。俺と共に来て、この大陸を手中に収める俺の力となれ! お前は俺の為に剣となり、俺の為にその血を流せっ!!」
「……私はニーベで一度死んだ身です。今の私は昔の私ではありません。私の剣は、疾うに殿下に捧げております」
軽く頭をを垂れた。
「私の剣は……か。ふふふ…ならイクタベーレに援軍に行くか?」
「はっ!? ……どういう事でしょう?」
「実は……」
と言いながら再び椅子に腰を掛け、ワインを口にする。
「……イクタベーレのアルスエードが、とうとう故国奪還に乗り出したって訳だ。既に戦は始まっている」
「そう…なんですか……なら、ご命令とあらば」
「ふふふ……バルマーラから要請があってな。イクタベーレに援軍を出せ…とな。興味あるだろう? お前の故国でもあるイクタベーレに、あの小僧が帰って来たのだからな」
俺をからかうかのような、不敵な笑みで俺を覗き込んで来る。
「一つ勘違いされているようですが、私の故国はイクタベーレではありません。グルノニアです」
どうでも良い事を訂正してしまった。
「ん? …そうなのか?」
「はい……それで援軍を出されるのですか?」
「出す! ただし天候の回復を待ってからだ」
「……天候?」
「南から雷雨が北上しているとの報告がある。嵐の中では俺のフェニックスも役に立たん。それにバード部隊にいらぬ被害が出るからな。援軍は嵐が過ぎ去るのを待ち、それからだ。もっともその頃には、もう一つの嵐も収まっているかもしれないがな。ふふふ……」
マルスト殿下が不敵に笑いワインを口にした。
「いずれにしても、お前には別任務がある。俺と共にグルノニアへ来て貰う。今後の事をリーアスと話したいのだ。よって援軍には加わらない」
「……なら、どうしてそのような話を私にしたのですか?」
「言っただろう? 興味があると思ったからだ」
ワイングラスを口に当てたまま、俺を覗き込む。
「……失礼します」
これ以上話す事を無いと感じ俺は退室した。
マルスト殿下の部屋から出てから、暫く歩いた通路の途中で、俺は立ち止まる。
チャキっ!
金属が擦れる音を立て、剣を抜いた。
「ぅおぉぁぁぉぉ……!!」
ずざざぁぁぁ……っ!!
通路にあった国旗の布を斬り付ける。
「ぬぉぉぉ……っ」
次に通路にある柱をぶった斬る勢いで力を籠め柱に斬り掛かった。
が、柱の半分の辺りで刃先が止まってしまった。
「ハァハァ……くっそー!」
そのまま地べたに座り込んでしまう。
「俺は……おれは……っ!!」
その後、俺は中庭にマルスト殿下を呼び出した。
「何だ? ……話があるというのは……ん?」
マルスト殿下の視線が地面へと行く……二本の剣がクロスされた形で刺さっている地面へと。
「どういうつもりだ? リュウザン」
あれこれ考えても仕方無い。
「殿下……いやマルスト214世! 俺はイクタベーレへ行く。お別れだ!!」
はっきり言い放った。
「……なるほど。冷徹な閃豹が情に揺れたか。だが言った筈だ。お前は俺の為に生き、俺の為にその血を流せ……と。よって、お前を帰す訳にはいかない!」
そう言ってマルスト214世が剣を抜いた。俺も続いて剣を抜く。
何故なら、俺には終生仕えると誓ったお方がいたのだから……。
「随分と原始的な解決策を持ち出したものだな……だが、俺もそういうの嫌いじゃない」
マルスト214世が剣を構えた。
俺を肯定……そんなものどうでも良い。
ギーンっ!!
鈍い音を響かせ剣が交わる。あれこれ考えるくらいなら……。
「そうだな…失うくらいなら自分の手で始末を付ける。それが俺の性に合ってる!」
余計なプライドなんて捨てちまった方が良い。俺の家名がメタリッカだろうが、そうじゃなかろうがもう関係無い。
なぁ…そうだろ? ソラ―――――。
◆◇◆◇◆◇◆
「行ったか?」
「たった今、イクタベーレに送ったとこじゃ」
「これでアルスエードの小僧と再会できるな」
「無事生き延びる事ができればじゃがな」
「ふふふ……問題無い。あいつは生き延びるさ。この俺から一本取った男だぞ。このマルスト214世からな」
「………」
「あいつの眼は真っ直ぐ一点を見詰めていた。そして、その視線の先にはイクタベーレの小僧しかいなかった。その強固な意志に俺は負けた。剣ではなく、小僧への想いの強さにな」
「そうじゃな……最初からアルスエード王子しか見ておらなんだ」
「以前ニーベにいた占い好きな草人が言っていた。バルマーラに反旗を翻したら、生涯良き部下に恵まれぬ…それが運命だと。運命……胸糞悪い言葉だ。そんなものは弱者の言い訳に過ぎない!」
「左様…運命は人の意志が切り開くものじゃ」
「ふん…あんたも随分変わったものだな。大賢者リャーム様は人に関わらないのではなかったのか?」
「わしにもどうしてかわからぬのじゃ。ただ、見ていたいのじゃ。今暫くアルスエード王子や、あ奴がやる事をじゃ……そして其方もじゃ」
「ふふふ……言ってくれるぜ。まぁ良いさ。グルノニアのリーアスと会見し、俺は俺のやり方を続ける。この大陸の未来を決めるのはこの俺だ。その邪魔になるのであればイクタベーレの小僧も叩き潰す。勿論リュウザンもな」
「ふむ…どうなる事やら」
「……にしてもあいつ機械人だったとはな。くっくく……これから面白くなって来るぜ」
????も含めるとリュウザンのエピソードが一番長くなりましたね
きっとミクのせいです(爆)
それとマルスト214世の出番終了です
お疲れ様でした(笑)




