エピソード 異国の麗豹②
俺はマルスト殿下に呼ばれ、王室に訪れていた。
「お呼びですか? 殿下」
俺は跪きそう言った。
マルストはワインを一口、口にする。
「悪いがリュウザン! 貴様の素性を調べさせて貰った」
「………」
「貴様はイクタベーレの小僧に仕えていたのではないか?」
「っ!!」
直ぐにわかると思っていたが、こうもあっさりか。
「……なのに何故俺の所に来たのだ? リュウザン」
威圧的な鷹の眼を此方を向ける。
「言った筈です……私は自分を肯定してれる者なら誰にもでも仕えます」
再びワインを口にし、何かを熟慮してる感じだ。
「肯定ねぇ……俺が貴様を肯定したら、自分の君主を裏切るって事か?」
マルスト殿下の瞳がより一層鋭くなる。
「イクタベーレの私は死にました……今の私はマルストの私です」
そう…イクタベーレの俺は、もういないんだ。
「ふふ…ははは……ますます気に入ったぞ! リュウザン」
マルスト殿下はワイングラスを回し、不気味に微笑む。
「良いだろう…俺に着いて来い」
そして鋭い鷹の眼による眼光で俺を見詰める。
「元より、そのつもりです殿下! 我が剣は殿下に捧げました」
俺は頭を垂れる。
「では、早速だが反乱鎮圧に俺と来て貰う……お前のその力、見せて貰うぞ」
「はっ!」
立ち上がり、右手で握り拳を作り左胸に当てた。
コンコンっ!
その時、部屋中にノックの音が響く。
「ん? 空いてるぞ。何の用だ?」
「はっ!」
ガチャっ!
衛兵が王室の扉を開ける。
「陛下! 城に賊が侵入しました」
「そうか……では直ぐ行く」
そう言ってマルスト殿下は王間に向かう。俺も後を追った。
・
・・
・・・
「久しぶりだなミク」
マルスト殿下が微笑を浮かべる。賊というのはミクの事のようだ。俺は物陰から、その様子見ていた。
「ど、どーもです。マルスト殿下。ははははは……」
相変わらず能天気な発言をするミクだが、流石にその顔は引き攣っていた。
「お前はセイラと共に反乱軍に身を寄せていると思っていたが、盗賊にでも転身したのか?」
前にやる事があるから、まだ合流出来ないと確か言っていたな。つまり、マルストの家宝を手見上げにしようとしたわけか。
「え~~えと、その……」
ミクが言葉に詰まる。
「それにしてもマルストの剣を持ち出そうとするとは、相変わらず遠慮のない奴だな…」
「遠路はるばるー♪」
またアホくさい事を……。
「……なんてね。とほほほ……」
自分の言葉に勝手に沈んでいる。はんと相変わらずな奴だ。
「まあ良い。せっかく来たんだ…ゆっくりしていくが良い……連れて行け!」
「はっ!!」
マルストの衛兵が敬礼してミクを連れて行く。
「あっこら放せー!」
「放せーーっ!」
「放せったらーーっ!!」
「変なトコ触るなぁーーっ!!」
いなくなる時まで騒がしい奴だな。
俺は話が一区切りしたとこでマルスト殿下の前に現れた。
「殿下! 反乱鎮圧の出立は、いつでしょう?」
「今すぐ……だが、その前に…くくく……」
マルスト殿下が不気味に微笑む。
「?」
「ミクを解放してやれ」
「はっ!? それが命令なら、やりますが……しかし何故?」
一体何を考えているのだ?
「くくく……第一に貴様が余所者だから、貴様がやった事なら他の者も、納得するだろう……」
つまり俺を利用しようというわけか。此処の兵だと何かと問題になるからな。
「第二にアイツは、ああ見えてセイラのルーンナイツの主力だからだ」
マルスト殿下がそう続ける。
「はっ!?」
理解し難い。
ミクが主力なら、セイランローヌ王女の元に返すのは得策ではないのでは?
アルス王子率いる解放軍は我軍の敵に値する。その戦力を増強する事は、自分の首を締める事になるのだぞ。
「くくく……リュウザン! 貴様に俺の目的を教えといてやろう……」
マルスト殿下が薄く笑い語り出す。
「俺は、この大陸から人間外生物共を全て排除し、我が国を虐げて来た首都ユグドラシルすらも、我が手に落とし、この大陸の全てを手に入れる」
瞳がギラ付く。野心の燃えている事を象徴してるかのような眼差しだ。
「……それで何故ミクを?」
「利用できるものは、全て利用させてもらう……ただそれだけだ」
つまりアルス王子の解放軍を利用し、人間外生物を駆逐するつもりか。
「わかりました……ではミクを解放致します」
俺は頭を垂れ下がった。
・
・・
・・・
「朝食?」
俺の足音に気付いたミクは、鉄格子の中でそう呟き、此方に向かって来た。
「言っとくけど、私はコーヒーがないと許さない人だかんね~。その辺は、ちゃんとして貰うから……だいたい捕虜の取り扱いは……」
自分の立場がわかっているのか? 俺は胸中呆れた。
「生憎朝食の配膳でもなければ、コーヒーもない」
俺がミクの言葉を遮る。こんな奴の言葉にイチイチ付き合ってられん。
「あっ!! ……リュウザンさんっ!?」
何度か会った事あるからな。直ぐに気付かれたか。
「………」
だが、俺は相手にしなかった。
「うん、合ってる! 間違いない! あたし一度見た美形は絶対忘れない人だもん」
しかし、彼女は俺をマジマジと見詰めて来た。美形は認めるがな。
だが、そこまでマジマジ見なくても、わかっているだろう……。
「………」
「貴方イクタベーレのリュウザンさんでしょ?」
イクタベーレの俺は死んだんだ。
「………」
「は~ビックリ……やっぱり人違いじゃなかった。ねぇ? 何でマルストなんかに? 貴方も捕まったの?」
「いや……」
「じゃあ何で? ……あ! スパイだっ!! スパイしてるんでしょう? いやーもうやり手なんだから。くぬっくぬっ」
彼女は、鉄格子の隙間から手を出し俺を突っついて来る。正直ウザい。
「いや、俺は自分の意志で此処にいる」
「えっ!?」
「解放してやるから、さっさと引き上げるんだ」
牢屋の鍵を放り投げて、俺はその場を後にした。
「え? いや、それは嬉しいけど……本当にどうしたの? だってアルスエード王子に忠義尽くしてたんじゃなかったの? あ、待ってリュウザンさん……」
最後の最後まで煩い奴だ。




