エピソード ソラ③
エピソード系がこんなに続いたのは初めてですね
ブクマありがとうございます
珍しく俺は会議室に呼ばれていた。
「君は、この北西の砦を叩いて欲しい。人選は全て君に一任する」
「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」
ピタッと場が沈み返る。当然だな。
俺はアルス様が指差す地図の部分をチラっと見た。
北西の砦か……あ、彼処は……。
俺はイクタベーレで育ったからわかる。あの場所は……。
空を見れば今にも雨が降りそうな雲が広がっている。上手く行けば雨が降る。
俺の心がそうであるように。
俺はチャンスだと思った。此処にクラヴィスが必ず現れる。
ありがとうございますアルス様。やっと見つかりました。俺の死に場所がが……。
にしても、みんな何故俺に? とでも思ってるのだろうな。そういう視線を感じる。
「て、てめぇ」
その中で真っ先に口を開いたのは、やはりこのイスカか。
「何考えていやがるっ!?」
イスカは立ち上がり、今にもアルス様に組み付こうという勢いだ。
「これは決定事項だっ!!」
有難い。
「はっ!? ふざけ……」
「イスカ!」
セイランローヌ王女の制止の言葉が入る。
「ちっ!」
流石のイスカも舌打ちを溢し席に着いた。
「じゃ、じゃあ…せめて自分をソラさんに同行させてください」
リビティナが名乗り出るが、アルス様は首を横に振る。
「言ったよね? 人選は全てソラに一任すると……ソラが君を連れて行くって言うなら、私はそれに従う」
「くっ!」
リビティナが苦虫を噛み潰したような顔をした。
悪いが一任された以上、お前は連れて行かない。
お前は弓兵だ……もう弓騎士か。いずれにしろ弓使いは連れて行けない。
「というわけだ…………やってくれるな…ソラ」
アルス様が真剣な眼差しで俺を見て来た。
「……はい」
はい……必ず命賭してアルス様をお守り致します。リュウザンのように。
「では、直ぐに準備を済ませ出立してくれ」
そう言われ俺は出口に向う。
「それと……」
ドアノブを掴み立ち止まる。
「本隊に影響を及ぼすから聞いておく……この中にいる者とジェリドは必要かい?」
「……要りません」
「「「「「「「「「っ!!」」」」」」」」」
そう俺一人で……かつてアイツが一人で護り抜いたように、今度は俺が一人でやる。だから、皆は本隊に残って、きっちりやって欲しい。
俺は、新兵達の詰所に向かった。
「戦果を上げたい者は直ぐに準備しろ!」
新兵達に呼び掛ける。
「ソラさん?」
「何かの任務ですか?」
「戦果を上げられるんですか?」
眼の色変え、俺の傍に集まって来る。
そう新兵達は、俺達とは意識が違う。アルス様の大望実現を願っているわけではない。
この戦に便乗して美味しい汁を啜ろうというのが大半だろう。
「だが弓兵は居残りだ。今回の作戦は白兵戦を主となる…味方の流れ矢に当たるわけにはいかないといわけだ」
そう弓兵がいて貰っては困る。俺の思い通りにクラヴィスを掌握できたなら、本隊に弓兵がいなくてはならない。逆にこっちに弓兵がいたら不味い。
「では、戦果を上げたい者は準備を整え二時間後、表に集合だ」
「「「「「「「「「「はっ!!」」」」」」」」」」
・
・・
・・・
「戦果を上げたい者は全員来たか?」
表に出た新兵達を見回し叫ぶ。
「「「「「「「「「「はっ!!」」」」」」」」」」
新兵達が一斉に応える。
「出撃っ!!」
短い一言を言い放ち馬に股がった。
「「「「「「「「「「はっ!!」」」」」」」」」」
続けて、新兵達も一斉に馬に股がり、俺の通る道を開け来た。
俺がその道を通り、先頭になると新兵達も続く。目指すは北西にある砦……其処にクラヴィスがいる筈だ。
途中でジャイロ団長が待ち構えていた。構わず俺は横切る。
「私が……」
ジャイロ団長が何を呟き始める。俺は止まる事にした。
「私がお前と同じ経験をしなかったと思っているのですか?」
何故かジャイロ団長の言葉に重みを感じた。伊達に団長してるわけではないと言わんばかりの、強い想いのようなものがある。
「友だけではありません。守れなかった者は沢山います……」
ジャイロ団長の言葉一つ一つが重い。いろんな経験を積んで来た者の迫力を感じた。
「尊敬する先輩も……共に入団した同期……」
淡々と語り途中で濁す。
「そして大切な部下も」
「っ!?」
ジャイロ団長……。
やっぱり団長もリュウザンの事を想ってくださってたのですね。
俺は胸中微笑んだ。貴方はやはり良い上司でした。貴方の下にいた事を誇りに思います。
「だが、私は歩みを止めません……だから此処まで来れました……」
「………」
「お前は此処で歩みを止めるのか?」
静かに最後の言葉を呟く。
ありがとうございます。ですが、申し訳ございません。俺はたぶんもう帰って来れないです。アルス様の事、お願い致します。
・
・・
・・・
「良く来てくれましたね…来てくださると思ってしたよソラさん」
再び鳴り止まない警報器が俺の脳髄を刺激する。
コイツハキケン。
コイツハキケン。
コイツハキケン。
コイツハキケン。
コイツハキケン。
コイツハキケン。
コイツハキケン。
コイツハキケン。
コイツハキケン。
コイツハキケン。
コイツハキケン。
コイツは危険だと……。
「………」
だが、俺の答えはもう出た。まだ俺の中は、今のこの空のように曇ってはいるけど、それでも命賭してアルス様をお護りする。アイツのように……。
「アルスエード王子は今頃、西の砦に向う街道で足止めを食らっています。ですが時期に突破されるでしょう……となると西の砦が要となります。其処で挟み撃ちにするのです」
クラヴィスが不適に笑う。そして更に眼が邪悪に煌めく。
「アルスエード王子も、この砦に増援部隊を配置してある可能性は認めているようですが、まさかそれがご自分の部隊そのものだとは思ってないでしょう。アハ、アハハハハハハハハ……」
この高笑いを聞いていると俺の中の警報がより強くなるな。
「貴方達に力を授けます。ボクの持てる極上の力をね……その力で王子を殺すのです」
「……わかった」
俺は素直に答える。此処までは俺の思惑通りだ。
「ですが、その前に邪魔者を始末しましょう」
クラヴィスの邪悪な瞳は、彼女が隠れている場所を見詰める。やはり気付いていたか。
後を付けられていたのは気付いていたが、クラヴィスに見つかるとは……。
なんとかこの場はやり過ごさないと。
「ソラさんっ!!」
彼女……リビティナは俺の目の前に飛び出し弓を構える。俺は平然と歩み寄る。お前は甘い所があるから俺を射抜けないだろう?
バコっ!
腹に強烈なパンチを入れた。悪いな。暫く寝ててくれ。
「良いから此処は俺の任せておけ」
クラヴィスに聞こえないようにリビティアの耳元で呟いた。
「ごふっ! ……そん…な…馬鹿な…こと…やめ」
バタンっ!
彼女は倒れた。これでやり過ごせれば良いが……。
俺は窓の外から此方を見ているミクに視線を向ける。俺の後を付けていた事は気付いていた。
クラヴィスは背後にいるから、俺の視線まではわからんだろ。
ミクに視線を向けた後、再びリビティナに……リビティナを頼むという目配らせを送る。
「アハ、アハハハハハハハハ……」
クラヴィスの気持ち悪い高笑いだけが砦内に響いた。
「では兵達の元へ……」
俺は新兵達が待つ外へ向う。さっさと此処から離れれば、後はミクが助けてくれる筈だ。
「ククク……そうですね」
クラヴィスも続く……が、リビティアの前で止まる。まずい…まさか消す気か?
「ねぇ……ソラさん? このままで良いんですか?」
邪悪な瞳を此方に向けて来た。
「……小娘一人放っておいて問題無い」
通じるか? このままではリビティアが危険だ。
「それもそうですね……ボク達の目的はアルスエード王子を止める事ですからね。急ぎましょうか?」
何っ!? あっさり?
俺は胸中、ふ~と胸を撫で下ろした。これで後はミクがどうにかしてくれるだろう。
砦の外に出ると、新兵達が続々と集まって来た。
「ソラさん! ご無事でしたか?」
「中はどうでした?」
そして俺の隣にクラヴィスがいる事に気付く。
「ソラさん…その子供は?」
クラヴィスは何も答えず右掌を新兵達に向けた。瞳に邪悪な闇が揺らめく。
「「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」」
ただならぬ気配を感じたのか、新兵達が一斉に身構える。
「貴方達に極上の力を与えます」
クラヴィスが右掌からそう言うとドス黒い霧のようなものが発生させた。
それは瞬く間に新兵達を包む。霧が晴れると放心状態のような眼付の新兵達が操り人形化して直立していた……。
……………プルプル……。
クラヴィスの右手が奮えているな。無理に魔導の力を使ったからか?
「どうした? これからなんだよ。これからが面白いんだ」
クラヴィスは奮える右手を左手で抑える。顔が少し青冷めていた。
「顔色が悪い…どうかしたのか?」
その様子を見て俺は声を掛けた。
「何でもありません。さあ反乱軍を攻めましょう。彼の理想主義を瓦礫にする時が来ました。その教訓を持って冥府に渡しましょうアルスエード王子を……最高のショーな始まりです。アハ、アハハハハハハハハ……」
そう言うとクラヴィスは深呼吸をして新兵全員を見回した。
「では、思う存分楽しんで来てください」
そして、瞳の奥で邪悪な闇を揺らつかせ、にこやかに手を振りながら言った。
「……ああ」
そして俺と新兵達はアルス様がいらっしゃる場所を目指して馬を走らせた。
途中、空でバードが一羽飛んで行く。どうやらリビティナを回収したようだな。
俺達が進むのは弓兵部隊の格好の標的となる崖。其処に向かっている事を確り見ているだろう……。
これで良い。あとはアルス様が新兵達をどうにかしてくれるだろう。全て俺の思惑通り。クラヴィスを掌握できた。最後の詰めだ。
ミクが見えなくなるのを確認した瞬間、俺は引き返した。あとはクラヴィスを止めるだけ。たぶん俺の力では敵わないだろう……。
だが、かつてアイツが命賭して護り抜いたのだから、今度は俺が……。
はっきり言って勝算なんてない。俺一人の命なんかで足りるとも思えない。
もし、活路があるとしたら、奴が無理に魔導の力を使っている事。其処に付け入る隙があれば……。
アルス様……すみません。リュウザン……見守っててくれよ。俺も直ぐにそっち行くからな。




