エピソード ソラ①
俺は生まれも育ちもイクタベーレ。緑豊かで自然に囲まれた場所で、ただただ平凡に暮らす毎日だった。
16の時に自立を考え始めていた。いつまでも親に甘えてばかりではいられない。
だが職を探すにも俺には取り柄ない、正直器用でも無い。ただ、普通の人より力があった。ただ、それだけだ。
二年前…14歳の時に町が海賊に襲われ、イクタベーレ騎士団が駆け付けてくれた。その時の事を今でも、はっきり覚えている。あの勇ましい姿を……。
先代国王ガイルバッハ様は、自ら前戦に出られ指揮を取る。
そして自らも剣を振るう。それはもう力強く、俺の眼には格好良く映った。
これがイクタベーレが騎士大国と呼ばれる由縁である。国王自ら出撃。そして誰よりも強い。
この時、俺はイクタベーレ騎士団を憧れ出していた。いろいろ職に迷ったが、力しか取り柄がなく、イクタベーレ騎士団や王に憧れていたので、イクタベーレ騎士団への入団を決意した。
試験はあったが、全て力任せで通る。この時の俺は力さえあれば良いと思っていた。
扱い慣れてない剣を持っては力任せに振り回すだけで良い。
簡単じゃないか。現に同期達からグンを抜いていた。いやつもりでいたんだ。
たまに聞くあいつの噂。剣を華麗に扱い、見る者を魅力するという。
だが、模範戦等に勝っても笑み一つ見せない嫌な野郎だという……。
ある日の事だ。入団した騎士には皆、馬が与えられた。俺は自分が貰った馬の様子を見に馬小屋に行った。
其処に一頭だけ毛並の揃った綺麗な馬がいて、なんとなく、その馬に触れた。その時だ……。
バコっ!
鈍い音共に俺の頬に激痛が走る。そして俺の体は宙を舞っていた。地面に落ちるまで何が起きたのかわからなかった。
「いってーっ!!」
つまりは殴れていたのだ。俺は殴った張本人を睨み付けた。
あの時のあいつの憎たらし顔を今でも覚えている。澄ました顔で人を見下す、あの憎たらし顔を……。
「何しやがる! てめぇっ!!」
バコっ!
次の瞬間、俺は立ち上がり、奴を殴り飛ばしていた。あの顔が気に食わなかったからだ。
「ふんっ!」
血の混ざった唾を吐き捨て奴が俺を睨み付ける。
その後、俺達は血だらけになるまで殴り合った。後から駆け付けてきた同期の連中が止めなかったら、どちらか死んでいただろう。
それだけ全身傷だらけだった。それが、このクソムカつくリュウザンとの出逢いだった……。
あれから俺は奴と出会うと喧嘩ばかりしていた。新兵の詰所に合った剣を何気なく見ていたら、またいきなり殴られ、喧嘩が始まる。
ちょっと見てただけでだ。あいつ自分の物を他人に触られるのを絶対に嫌う奴だったんだ。
だから馬の面倒も自分でするし、剣や甲冑も同じである。
事ある度に殴り合いをしていた。そして、同期の奴にいつも止められる。
俺に取ってあいつは見てるだけで腹が立つ。でも、剣の腕だけはピカ一だ。俺みたいに力任せではなく華麗に扱っている。
いつしか、俺はリュウザンに模範戦を挑む事をしていた。その度に惨敗だ。
同期の中でグンを抜いていた俺が負けるとは思っていなった。
「そろそろ止めないか?」
模範戦の時は毎回こうやって、あいつに止められる。
「うるせー! まだまだだっ!!」
その度に強がってしまう。こいつだけにはどうしても負けたくなかった。
そんな感じで俺達が一緒にいる事が多かった。そんなある日の模範戦が終わった夜、地べたに寝転がって空を眺めていた。
「なぁリュウザン、お前さ……星空を見てどんな事を考える?」
何気なく呟く。
「どうした? 頭でも打ったか?」
いつもの澄ました態度で人を見下したような眼で俺を見てくる。
「真面目な話だぞ……俺はさ、あの星々の輝き一つ一つが、この大陸に生まれては消えていく英雄の灯火のように思えるだ」
「やれやれこれは重症だな」
リュウザンが天を仰ぐ。構わず俺は続けた。
「イクタ、マルスト一世、アルテミス、フレイヤ、グルノニアス……歴史を作ってきた英雄達が俺達が見詰めている。“一体お前は何ができるんだ”って、そう問い掛けている」
空からリュウザンに目線を移す。
「俺は、そんな英雄のようにはなれない、その器じゃないから……でも、だったら、そんな英雄の為に力になりたいと思う。騎士団に入って、そう思うようになったんだ」
リュウザンが眼を瞑る。
「俺は、自分の存在を肯定してくれる人間がいればそれで良い。そいつに剣を捧げるだけだ」
「例え、そいつが悪人であってもか?」
そう聞いてみた。
「そうだ」
眼を開き、きっぱり答える。
「けっ! クールに出来ているんだな。お前って奴は実際」
本当に嫌な野郎だ。
「何だ…今頃気付いたのか?」
また見下し目線。全くつくづく嫌な野郎だ。
イクタベーレ騎士団に入団してから三ヶ月過ぎた時、遂に出撃の時が来た。
そろそろ実戦も覚えろという事でイクタベーレが陥ちるまで副団長だったジャイロ副団長が、新兵の中から人選した20人を引き連れ、とある貴族の屋敷に向った。
勿論その20人の中に俺だけではなくリュウザンも混ざっていた。
「ちぃ…!」
ジャイロ団長が舌打ちをする。それもその筈、新兵20人なんかが手に終えるレベルではなかったのだ。
「これならベテラン連中も連れて来るべきだでしたね……」
副団長が愚痴る。貴族の屋敷は山賊に占拠されていて守りが強固だったのだ。山賊の人数は情報によると50人はいる。
最初の話では山賊数人と貴族が小競り合いをしていると聞き出撃したのだが、俺達が到着する頃には事態が悪化していたのだ。
「どうしますかな?」
副団長が悩む。新兵を鍛える為にも、戦いには参加させたい。
だが人数が倍以上。ましてやベテラン兵ならともかく、入団して日が浅い連中に何ができると言うのだ、とそう考えている面持ちだ。
「おい、ソラ」
不意にリュウザンに声を掛けられる。
「何だ?」
「ちょっと俺に付き合え」
「は? 何を」
「良いから」
何を考えているのだか、話を勝手に進めて来る。
「仕方無い……」
どうやら副団長が何かを決断をしたようだ。
「……お前ら今回は見ていてください。私一人で終わらせます」
なんと副団長一人で行くと言い出したのだ。
「そんな……」
「副団長一人では危険です」
新兵達が狼狽える。
後から副団長の実力を知ったが、たかが山賊50人なんて副団長一人でも十分なのだ。
副団長の強さは、俺やリュウザンの次元の違う所にいた。
「ジャイロ副団長! 宜しいですか?」
唐突にリュウザンが話し掛ける。
「ん? 何ですか?」
「此処は私、リュウザンとこのソラに任せて頂けませんか?」
「ん?」
訝しげにリュウザンを見る。次に俺を……。
俺はただただ首を縦に振った。リュウザンが何を考えているのか知らないが、このまま指を銜えて見てるのは御免だ。
「どうするのです?」
副団長が訊く。
「まず俺達二人が先行しますので、後方からジャイロ副団長達が突入してください」
おいおいマジかよ。それってほぼ2vs50って事だぞっ!? 一体何を考えているんだよこいつは?
「何を馬鹿な事を!? ヒヨッ子が二人でどうなりますかっ!?」
ジャイロ副団長が怒鳴る。無理もない。
「大丈夫です。策はございます」
自身たっぷりに言い放つリュウザン。
「う~む……お前達の実力は大体知ってますが……」
副団長が口を濁す。
「……それにこの程度、突破できなくてイクタベーレ騎士団と言えるのでしょうか? お願いします。俺達を信じてください」
珍しくリュウザンが真面目な顔で頭を垂れる。
「わかった、では任せます……ただし無理はしないでください」
副団長は了承してくれた。
「「はっ! ありがとうございます」」
二人で右手を握り拳にして左胸に当てる。
「で、どうするんだよ?」
リュウザンに耳打ちをした。
「な~に…いつものようにやれ」
澄ました顔で言ってくれる。
「あのなー俺は1vs多数戦なんて、やった事ないぞ!」
「だが、お前の剣はそれ向きだ」
「はっ!?」
正直何を言っているのかわからなかった。
「フォローは任せて、思う存分暴れて来い」
「あ~もーわかったよ…やれば良いんだろ! やれば」
そう言って俺は馬に股がった。リュウザンも同じく馬に股がる。
「す~……」
大きく息を吸い込んだ。
「行くぜっ! どけどけぇ!!」
俺は露払いのごとく屋敷を守る山賊達に突っ込んで槍を振り回した。
「オラオラっ!!」
不思議とその突進を止められるものは誰もおらず、山賊達は、俺の繰り出す槍と馬の蹄で薙ぎ倒さていく。
しかし、殺りそこねた奴もいた。俺はそいつにトドメを刺そうとする。
「余計なマネすると怪我するぜ! さっさと先に行けっ!」
後に続くリュウザンが皮肉の言葉で叫ぶ。
そして奴は、俺が逃した山賊達を華麗な槍さばきで確実に倒して行った。
本当に嫌な野郎だ。確実に倒していきやがって…しかも、この作戦は明らかに俺が囮じゃねか。つくづく嫌な野郎だ。
こうして貴族の屋敷は解放される。残っていた山賊達はジャイロ副団長や残りの新兵達が始末していた。
・
・・
・・・
「バカ者ぉぉっ!!」
城内の一室にてジャイロ副団長の怒鳴り声が響く。
「一体何を考えているのですか?」
今度はやんわり言い放つ。
「そこのアホーが以外無傷で済みましたが……」
正座したリュウザンが返す。
「なにおー!」
隣には俺がいる。
あの戦いで、少々負傷し左肩に包帯が巻かれている。
「好い加減にしろーっ!!」
目の前に立つジャイロ副団長が再び怒鳴る。俺達は肩を竦ませた。
「何故あんな無茶をしました?」
再びやんわり言って来る。
「無茶ではございません。あの程度の奴等なら行けると思いました」
リュウザンが答える。
「ほー……では、あの者達が他国の訓練された騎士だったらどうしました?」
「ジャイロ副団長にお任せ致しました……自分は自分の力量もわからぬ愚者ではありません。隣の奴はその愚者ですがね」
チラッと此方を見る。
見下すかのような眼差しだ。ムカっ!
「んだとー! 俺を囮にしておいてよく言うぜ!」
「止めなさい!」
コツンコツン!
俺達は副団長のゲンコツを食らう。
「確かにお前達の取った策は最善でした。結果、作戦は成功した。それは褒めておきましょう」
「「ありがとうございます」」
二人で頭を垂れた。
「だが……あの程度で浮かれては困ります。これから私の時間が許す限りお前達をしごきます。覚悟しておきなさいっ!」
こうして俺達は副団長の眼に止まり、副団長自ら鍛えて貰える事になった。
だが、こんな奴と一緒というのは腹ただしい……。
それにあの戦いの後、同期の奴等に俺は、暴れ牛の如く、槍をぶん回す事から豪光の暴牛など不名誉な名を付けられた。
逆にアイツは、一撃一撃に鋭く、華麗な槍さばきで、俺が仕留めそこねた敵を確実にトドメを刺して行った事から閃光の麗豹という名誉的な、名を付けられていた。




