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戦慄のイクタベーレ ~敗退せし者達の母国奪還の軌跡~  作者: ユウキ
第四部 第十一章 ソラとリュウザン
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第四話 空

 暫くして本隊も動き始めた。目指すは東……第三関門の西の砦を目指して……。


「なぁ本当にこれで大丈夫なのか?」


 未だに不安に感じるホリン。


「どうしてだい?」


 それを平然とアルスは返す。


「聞けば、あいつ新兵達を選んだだろ。言っちゃっなんだが新兵達の意識は俺達と違う。お前さんに忠誠心がある訳ではない」


 きっぱり言い放つ。


「わかってるよ…でも私はソラを信じる」


 そうこれが彼の本心。


「だけどな……」

「私がこれまで運命を共にしてきた仲間を信じられなくなったら……ホリンはそんな人間に着いて行きたいと思うかい?」

「は~……お前さんには敵わないよ」


 ホリンは溜息を溢し、折れた。一度言い出したら聞かないアルスの性分を理解してるからだ。

 こうして第三関門となる西の砦に続く街道である第二関門の決戦場に到着したアルス達一行。


 ソラが新兵のほとんど連れて行ってしまった為に部隊は百にも満たない少数。

 いや逆にゼフィロスやセイラといった精鋭部隊が全員の残っている事は、ある意味好機なのかもしれない。

 それでも敵軍は、地上部隊だけを見ても三倍……三百人以上の部隊だ。


「そんじゃまぁ…今回は下がらせて貰うぜ」

「ああ…わかった」


 ホリンがそう言い、アルスの返事を聞くとホリンが乗る馬は後方に下がって行った。

 敵軍との距離50m程……しばしの睨み合いが続く。そして最初に動いてのはアルス軍の方だ。


「ユアン! リオン!」

「「はっ!」」


 アルスがこの兄妹の名を呼ぶと、二人が前に出てきた。そして……。


「ブレイド」

「ワイルド」


 二人の言葉が被る。息ピッタリで、それぞれの獲物を構える。ユアンは大剣、リオンは斧。


「「スイングっ!! 」」


 二人の言葉がハマると同時に獲物が一気に振るわれる。


 ズゴゴゴゴ……っ!! 


 二人の闘気技が唸りを上げ、50m先の敵兵を襲う。しかし、先頭で馬に股がり、迎え撃つ敵兵は、一斉に槍を横に振るった。


 ヒューン……ドーンっ! 


 相手も闘気技を使ってきたのだ。闘気技同士のぶつかり合い相殺される。

 そして、闘気同士の衝突により、大きな塵旋風が巻き起こり、視界が遮られた。


「風よ力をっ!」


 間髪入れずエルクが風の力が宿った短剣フーリンを振るい、塵旋風を吹き飛ばす。

 本来ならフージンを持つリビティナの役割だが、何故か彼女はいない。

 従って、こういう事態の場合は彼が抜擢されていた。こうして彼のお陰で視界が鮮明になる。


「ちっ! ……此処までくると相手も闘気技を使ってくるんのかよ」


 イスカがボヤく。

 流石に此処まで来ると、敵のレベルも違って来ていた。


「よし! イクタベーレまで目前です……今の我らを止める事なぞ皆無! 皆の者いざ参らんっ!! 」


 続けてジャイロが叫ぶ。


「「「「「「「「「「おおーっ!! 」」」」」」」」」」


 大地が割れんばかりに全軍が応えた。


「我らも行くぞ! 決して地上部隊には手を出させるなよ」


 遅れて上空いたセイラがルーンナイツに支持を送る。


「「「「「「はっ!」」」」」」


 ミクが欠けているとは言え、残りの六名が力強く応えた。

 こうしたアルス達にとって長い長い、終わりが見えぬ一日が始まる。

 此処から先は一息付けてもゆっくり休息など取れる事の無いかもしれない修羅の道に彼等は足を踏み入れた。

 この戦慄を呼ぶイクタベーレで想像を遥かに絶する死闘の幕が切って下ろされたのだ……。



 ・

 ・・

 ・・・



「フォーメーションα」

「「「「「「はっ!」」」」」」

「次! フォーメーションΣ」

「「「「「「はっ!」」」」」」


 セイラはルーンナイツに指示を送る。それは絶妙のタイミングで、敵軍の空の部隊を圧倒していた。

 セイラを含みルーンナイツはわずか七名。それに対し、敵軍のバード部隊は五十を超える。

 それでも一体一体確実に葬る。これもセイラの指揮能力の賜物。

 彼女の確実なフォーメーション指示により、此方のバード部隊の士気は上がる一方。何より、再び彼女の下で戦える事に歓喜していた。


「って俺の出番無いじゃんかよ」


 地上にいたジェリドがボヤく。

 彼女等の連携は完璧。彼の援護をする隙を与えない。

 逆に援護により、連携が崩れる可能性があり、迂闊に手を出せないでいた。

 しかし、それでも極稀に……。


 ヒューン……ブスっ! 


 矢を放つ事がある。

 ルーンナイツの一人の背後に敵か回ったからだ。

 こういう機転にピカ一なジェリドである。

 助けられたバードは満面な笑みでジェリドに手を振った。


「大丈夫か?」


 セイラから案ずる言葉が掛けられる。


「すみません……少しバランスを崩しただけです。大丈夫です…まだ行けます」


 問題無いと力強く応えた。


「うむ……ではフォーメーションΩ! 一気に畳み掛けるぞっ!! 」

「「「「「「はっ!」」」」」」


 ルーンナイツが一斉応える。

 その様子を見ていたジェリドは……。


「やはり、俺は無意味だな」


 とボヤいてしまう。


(しかし、リビティナは何処に行った? 二人で無敗女王達の援護と言いながら、当の本人はどうしたんだよ?)


 ジェリドが胸中呟いた。


「よし今だ! トルネード戦法!」


 セイラが叫ぶ。

 戦況は此方が有利に傾いていると判断したのだ。地上の敵部隊は闘気系の技を持ち入り、当座苦闘中。

 だが、空のバード部隊は、もう半分にも満たない。

 セイラはただフォーメーションの指示をしていたわけではなく、戦況を常に見極めていたのだ。

 其処で今は空の敵に集中するより、地上をなんとかすべきと判断した。


「「「「「「はっ!」」」」」」


 それにルーンナイツのバード部隊が呼応する。彼女等の内三人は待機、残りの三人は地上の敵部隊に急接近。

 シャルスで行ったトルネードアタックだ。ミクが欠け、三人しかいなくても撹乱させ竜巻を起こすのには十分。


「「「はぁぁぁっ!! 」」」


 バードの三人が地上の敵部隊の周りを大きく円を描く。

 そうして竜巻が起き、一部の敵兵達が舞い上がり、待機していた残りのバード三人が、それぞれの獲物で突き刺さして行った。

 そして勿論、残りの空の部隊をセイラは無視していたわけではない。一人で受け持つ事にしたのだ。いや正確にはもう一人いるのだが……。


『ラライヤっ!!』


 セイラは残りの敵バード部隊を殲滅のする為に詠唱破棄による雷系中級(ラライヤ)を放つ。

 それと同時にジェリドに目配らせをする。これだけで終わるような部隊ではない事を良くわかっているからだ。

 そして、今まで我々の邪魔をする事の無い的確の援護に彼女はジェリドを信頼していた。


「あいよ」


 事実その目配りだけで、全てを理解したジェリドが弓を連射した。ラライヤで陣形が崩れたバード部隊を一人一人確実に射抜かれていく。こうして呆気なく敵バード部隊は壊滅させた。

 生き残った地上部隊の方も、トルネードアタックにより、大きく陣形が乱れ、その隙を見逃す事なく、アルス達が一気に突っ込む。


 この第二関門の街道での戦いは、ここぞという時のセイラの見極めが一瞬で勝利へ導いたのだ。そうして此処に一旦野営地を張る事に……。

 休息を取る為ではない。そんな事をしている暇は彼等にはない。おちおちそんな事をしていれば追撃が来る。


 仮に北西の砦をソラが抑えたとしても南西、北東、南東の砦と、三つも増援が予想される砦があるのだ。

 しかし、一旦戦力を整えるのも重要。負傷者の治療や今後の作戦。短時間で様々な事を済ませなければならない。

 まだまだ休む事は彼等には許されないのだ。次は第三関門の西の砦奪還、その次は本命のイクタベーレ城。彼等の長い長い戦いは、まだまだ序章にしか過ぎない……。


 野営地を張る一つのテントでアルス達が次の作戦を立てていた。メンバーはアルス、ホリン、セイラ、イスカだ。


「まぁ第二幕は辛うじて抑えたって感じだな……ちょっと強いぜ今回の敵さん」


 ホリンは後方でじっくり見ていたので敵戦力の事は良くわかっていた。


「ああ」


 アルスが頷く。


「数もそうだが、良く鍛えられているぜ。こっちも作戦を考えないとな」

「作戦なんて考えても始まらないよ」

「やれやれ…そりゃそうだな。お前さんが今更小技を弄するようになったら俺がビックリしちまうか」


 ホリンが苦笑する。


「た、大変ですっ!! 」


 その時、突然ミクがテントに飛び込んでくる。


「アルスエード様、リビティナが……ソラが……」


 相当慌てている様子だ。


「どうしたんだ?」


 アルスが訊き返す。其処に後からジェリドがやってきて、説明する。


「アルスエード王子、リビティナは北西の砦に向かったソラを付けてたんだ……そしてソラにやられた。ソラは、クラヴィスと一緒にいたらしい。ちなみにリビティナなら心配無い、気を失ってるだけだ」


 次に少し落ち着いたミクが状況の説明を行う。


「北西の砦に行った新兵達は、どうやらクラヴィスの操り人形になってしまってます……みんなこ~んな眼を……」


 操り人形と化した放心状態のような眼付の真似をした。


「例のイッちゃった眼付だな……最悪のシナリオだな…悪い予感ってのは当たるとやりきれない」


 ホリンはボヤく。


「ただ少しおかしいんですよ」

「何がだい?」


 ミクが怪訝そうに首を傾げアルスが訊く。


「う~ん…一瞬だったので気のせいだったのかもしれませんが、ソラがリビティナを殴った後、あたしに視線を向けて来たのですよ」

「ミクに気付いていたとしても空には手を出せなかっただけだろ。それよりアルス、覚悟してくれ……こうなったら、直ぐに陣を下げて、まずソラの隊を叩く。新兵ばかりだがクラヴィスの術にかかっているなら侮れない。手遅れになるとヤバい」


 ホリンは真剣な、それでいて焦った感じ眼差しをアルスに向ける。


「……駄目だ」


 しかし彼は頑なにそれを止める。


「アルス、気持ちは分かるが、此処は決断しろ……挟み撃ちにあったら取り返しがつかない!」

「駄目だっ!! ……ソラとは戦わない…ソラは……ソラは私の大切な仲間なんだ」


 アルスは意固地になったかのように大きく首を振った。


「……なあアルス、今のソラはお前さんの知ってるソラとは違う。クラヴィスの術に掛かった操られちまった別人なんだよ……たぶんリュウザンを失った心の隙間を突かれたんだろう……人の負の感情を増幅する悪魔なんだよ。クラヴィスって奴は!」

「どうすんだよてめぇ? 新兵部隊は南東……つまり此方を目指しているんじゃねぇか? あんま時間がねぇ…恐らく南西の砦の軍も、それに呼応しつ動いてくる筈…このままじゃ挟み撃ちでパーだぞ」


 イスカも口を挟む。


「そうだろ?」


 そしてミクに振る。


「はい…このルートを通って来ています」


 ミクが地図に指を差す


「……分かった。今回に関しては勝手にやらせて貰うぜ。判断が遅れて無駄死にはごめんだからな」


 ホリンがアルスの指示を聞かず外に出ようとする。


(本当にクラヴィスに操られてしまっているのか…本当に…本当に戦うしか方法がないのか)


 まだ信じられないという面持ちでアルスは地図を眺める。


「本格的に嵐が来る…騎馬部隊は動き辛いな…これは」


 空を見ていたジェリドが呟く。


「嵐?」


 ホリンも足を止め、空を眺めていた。まだ昼過ぎ……こんなところで雨が降られた、これからの作戦に支障が出てしまう。

 今日の戦いは終わりの見えないような長い長い戦いになると予測されていたからだ。


「我らが空から援護する…心配いらない」


 セイラがフォローの言葉を入れる。しかし彼女等がいたからって戦況は不利になるのは眼に見えていた。








 ・・・・・・・・・・・・


 北西の砦の中でクラヴィスは全てを見ていた。自らの魔力で作り出した鏡で、アルスの理想が崩れる瞬間を見届けようとしていたのだ。

 最初は邪悪な笑みを浮かべながら。しかし、次第に彼の顔は歪んで行った。それは普段の可愛いらしい瞳とは違い、その奥にある闇が剥き出しになった感じだ。


「……くく…まさかこんな簡単な罠に騙されるとは自分の未熟さに腹が立ちます。このボクが…まさかね」


 パリーンっ! 


 鏡が弾け飛ぶ。アルス達を映したそれを壊した。


「でもおかしいですね…貴方は確かにアルスエード王子を憎んでいた。親友に死をもたらしたアルスエード王子に対して相当な苛立ちの波動を感じてたんですが……ねぇ? ソラさん」


 振り返り魔法名破棄の一点集中型のファイゴルを放つ。


 ドォーンっ! 


 桁たましい爆発音と共に内壁が崩れる。そして、その向こうに雨に打たれたソラがいた。


「ねぇ? そうでしょっ!?」


 憎悪を剥き出しにした眼差しで再び問う。


「苛立ちは感じていた……」


 ソラは静かに答え眼を瞑る。

 ソラはずっと今の空のように様々の想いが渦巻いていた。


「ただし、それは自分自身に対してだ。リュウザンは命を賭してアルス様を護り抜いた。それだけの覚悟(・・)が自分にもあるのかと問うと苛立って仕方なかった……」


 眼を開き一呼吸置く。

 先の見えない雲に覆われ、自分に対する苛立ちが雨のように打ち付けて。嵐のように様々な想い絡み合っていた。


「……俺はアルス様の理想を信じている。こんな混迷な時代には、あの人の持つ理想とそれに向かっていく強い意志は掛け替えのないものだ。それを奴は守り抜いた」


 そして、ソラの眼付が一気に変わる。決意の眼差し……。

 成し遂げる(・・・・・)といった想いのものだ。晴れたわけではない。だが彼の中の嵐は止まったのだろう。


「だからっ!! 今度は()が守り抜く!」


 そう……彼は自分に問いた覚悟(・・)の答えを出したのだ……っ!! 

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