第二話 災いの火種
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新兵達は良からぬ噂をしていた。
「俺達全然出番ないよな」
「ああ…これじゃ戦果を上げられないよな」
「だな」
「そう言えば、この解放軍ってシャルスの戦いで多くの犠牲を出したって知ってるか?」
「ああ…知っている。知っている。俺から言わせれば、これは指揮官の問題だぜ。なんでもアルスエード王子ってのは相当な甘ちゃ……」
「しっー!!」
咄嗟に他の新兵が止めに入る。
「あぁ?」
「あれ」
指を差す。新兵達をじっと見詰める者がいたからだ。
「あっ…ソラさん! 失礼致しました」
新兵達が頭を垂れた。しかし、ソラは何も言わずにその場去った。
「ふービックリした」
「知ってるか? あのソラさんは優れた剣士だったんだけど、聖王国ユグドラシルで親友を亡くし、ああなったらしいぜ」
「そうなのか?」
「ああ……相当恨んでいるんだろうな指揮をしていたアルスエード王子を……」
再び叫び出し、それは全てソラの耳に筒抜けだ。にも関わらず、何も聞かなかったかのようにソラは歩を進めていた……。
・・・・・・・・・・・・
砦のとある一室を会議室にして、アルスとジャイロが席に付く。そして、ジャイロが先に切り出す。
「ホリン殿から聞きました。クラヴィスの事……この軍に“災いの火種”が設定されている可能性があると」
「うん…ジャイロはどう思う?」
「私が言うまでもなくそれが誰かわかっておいでてはありませんか?」
アルスの表情が暗くなる。
「奴は知略に長けた魔導士。その者がこの軍が内部崩壊させようと思った時、誰に眼を付けるか……」
「……ジャイロ」
更にアルスが暗くなる。
「私には、もう何もできません。後はアルス様のお考え一つで。ですが…此処はもうイクタベーレ。あの日より、既に二年が過ぎ、ようやく帰って来た我々の故国です。そして今の我々には二年前に無かったものがあります。アルス様はそれを見つけていらっしゃる筈です」
「……うん。そうだね」
アルスは微笑を浮かべた。
やがて会議室に続々と人が集まって来た……。
普段は顔を出さない…いや普段は呼ばれないミクやイスカ、それにリビティナもいる。
勿論当然の顔ぶれ。ホリン、ゼフィロス、それにサラやセイラもいる。そしてディーネも訪れていた。
円卓のテーブルを囲むように皆が座る。そして最初に口を開くのはアルスだ。
「ホリン……身体はどうだい?」
ホリンに対する安否の言葉を掛けた。
「大丈夫だ……と言いたいとこだけど、此処は休ませて貰うぜ。問題はこの第二関突破後だからな、其処では暴れさせて貰うぜ」
「うん! 頼りにしてるよ」
そうアルスに取ってホリンは本当に頼りになる男だ。彼の剣の師と呼べる人であり、挙兵後の初の仲間であり、幾度も助けられた。
「じゃあ今回の作戦を説明する。第三関門の砦へのルートも、恐らく大した戦力は集中していない。セイラ王女のルーンナイツの偵察によると、それでもバード部隊を含む地上部隊がそれなりにいる」
地図を刺しながら、説明した。
現在の場所から東……イクタベーレ城から見て西に位置する西の砦へ向かう街道が第二関門。そして、西の砦が第三関門。
説明を終えるとアルスはリビティナを見詰めた。
「何でしょうか?」
「空の戦いはセイラ王女のルーンナイツが中心になるだろう。そこで君には地上からの援護を頼みたい」
「はいっ! ……ですがジェリドさんは?」
「勿論彼にも頼みたい……でも今は見張りを頼んでいるから、此処にはいない。だから君から伝えてくれ」
「わかりました」
「さて、問題は……」
アルスは口を濁し、テーブルの地図を指差した。
「この砦……増援が配備されている可能性がある。背後から攻撃を仕掛ける。つまり我々を挟み撃ちにする為に……従って部隊を二つに分ける」
それは西の砦から見て北西に位置する北西の砦。それが西の砦から見て、近い位置にある。
南西にも砦があるが、こちらは距離があるので、まだ警戒する必要は無いと考えていた。
「……それは俺がやろう」
そう言ったのはゼフィロスだ。
「いいや…ゼフィロスは本隊にいて貰いたい……もう誰に任せるか決めてるんだ」
ガチャっ!
其処で会議室の扉が開かれる。そして開けた者、それはソラだ……。
会議室にどよめきが走る。リュウザンの死後、決して会議に参加させなかった彼が現れたからだ。
その場にいた者達が驚いていたが。構わずソラは部屋に入った。
「ソラ…調度良いとこに来た」
一人にこやかに言葉を放つアルス。しかし、ソラは決して視線合わせない。
他の者達は何故ソラが? と騒ぎ始めている。アルスは構わず続けた。
「君は、この北西の砦を叩いて欲しい。人選は全て君に一任する」
「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」
その瞬間、ピタッと静まり返る。
ソラは地図のアルスを指差す部分をチラッと見ると直ぐ様、視線を逸らした。
その場が凍る。何故にソラに? しかも一任? といった面持ちだ。
「て、てめぇ」
その中で真っ先に口を開いたのは、やはりこの男だ。
「何考えていやがるっ!?」
イスカは立ち上がり、今にもアルスに組み付こうという勢いだ。
「これは決定事項だっ!!」
それに対しアルスはきっぱり話を切る。
「はっ!? ふざけ……」
「イスカ!」
セイラの制止の言葉が入る。
「ちっ!」
流石のイスカも舌打ちを溢し席に着いた。
「じゃ、じゃあ…せめて自分をソラさんに同行させてください」
リビティナが名乗りでる。しかし、アルスは首を横に振る。
「言ったよね? 人選は全てソラに一任すると……ソラが君を連れて行くって言うなら、私はそれに従う」
「くっ!」
リビティナが苦虫を噛み潰したような顔をした。
「というわけだ……」
アルスは再びソラを見詰めるが、やはりソラは視線を合わせない。
「……やってくれるな…ソラ…」
アルスの眼差しは真剣なものに変わる。
「……はい」
一瞬だけアルスと視線を合わせ一言返事で返した。
「では、直ぐに準備を済ませ出立してくれ」
ソラは無言で扉に向う。
「それと……」
ソラがドアノブを掴み立ち止まる。
「本隊に影響を及ぼすから聞いておく……この中にいる者とジェリドは必要かい?」
「……要りません」
「「「「「「「「「っ!!」」」」」」」」」
ガチャっ!
そのまま退室して行った。
「本当にこれで良いのか? アルス」
「私も同意見だ」
「私もだ」
ホリンが言い、続けてセイラとサラも納得が行ってないと言う感じで発した。
「アルス様……」
それを不安そうに呟くディーネ。
「良いんだ」
それにアルスは笑みを浮かべながら返す。
「だがよーあいつリュウザンが死んでから、おかしいぜ」
ホリンが再び切り返す。
「ああ……」
「そうだな……」
「リュウザンが死んでから……」
再び会議室がどよめき始めた。
「これが……」
「あの~……」
アルスが何かを返そうとすると、今まで黙っていたミクがアルスの言葉を遮るように挙手をし出す。
「……話が見えませんが、リュウザンさんなら、マルストにいましたよ……あたしを牢屋から出してくれたんです。思い詰めた顔してましたけど」
「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」
再びピタッと静まり返る。
「「「「「「「「何だってっ!?」」」」」」」」
今度は一斉に立ち上がり、全員の声がハモった。
「えっ!? ……だから、マルストにいたって」
その全員の反応に気圧され、ミクは引き気味の答える。
「「「「「「「「誰がっ!?」」」」」」」」
息ピッタリかのように再び全員の声がハモった。
「……リュウザンさん」
「何で今まで黙っていたっ!?」
今度はアルスが一人で返す。
「てか、スパイ任務させてたんじゃないの?」
素っ頓狂にミクは訊き返した。
「そんな事はさせてないっ!!」
アルスが怒鳴る。
「そうなの? ……確かにリュウザンさん…俺は自分の意志で此処にいるって言ってましたね……バリバリ無理してる感じでしたけど」
そう言うとアルスはミクの目の前に駆け寄り、肩を掴み掛かった。
「それは本当なのかっ!?」
力を籠めグングン揺らす。
「イタタタタ……」
「本当にそれはリュウザンなんだなっ!?」
「痛い痛い痛いよ」
そう言いつつもミクは首でコクコクと頷いた。
其処でようやくアルスが手を離した。
「リュウザンが……生きてた……」
半分放心状態のような感じになりアルスは一歩二歩と後退さる。それだけ彼に衝撃を走らせた。いや、彼だけではなく、その場の全員が驚いていた。
「痛かったですよーアルスエード様ー」
そんな中で半泣き状態でミクは自分の肩を揉んでいる。
「あっ! ……ああ…すまない。取り乱してしまった」
「でもよーそれが本当だとしてだ。この場にリュウザンはいないわけだろ?」
「……現状は変わってないな」
ホリンがそう言いゼフィロスが繋げた。
アルスは皆に視線を移す。
「ああ…さっきも言おうとしたが、これがソラに取って最後のチャンスだ」
とは言いつつも、彼の本心は違った。皆を納得させる為にあえて、そう言ったに過ぎない。
「その最後のチャンスで隊が全滅を喰らったら、堪ったもんじゃない」
今度はサラが返す。
「ああ…だから、其処でミクの出番だ」
そう言ってミクに向き直した。
「えっ!? あたし?」
ミクは突拍子もなく振られ驚く。
「うん」
アルスが微笑む。
「え、え~っと…あたしは何をすれば良いのでしょうか?」
「ソラに気づれぬように、彼の監視…それをお願いする為に、この会議に呼んだんだ」
「はぁ…」
「異論はありますか? セイラ王女」
アルスはセイラのに視線を移す。
「本人に一任する」
それに対しセイラは簡素に答えた。
「ありがとうございます」
(自分も王族なんだから私に気を使うな)
胸中文句言うセイラに気付く余地もなくまたアルスは再びミクに視線を戻した。
「どうかな? 頼める?」
「え~…何であたしなんですか?」
「それは君にしかできないから……いや、信頼できる君にしか頼めないからだよ」
手をミクの肩にポンと置き、にんまり微笑む。
「そうですか……了解致しました。アルスエード様の期待に添えられるよう奮闘させて頂きます」
ミクは満面な笑みを浮かべ、敬礼をする。
「ありがとう……では、早速行って来てくれ」
「はっ!」
そしてミクは退室した。
(扱い易い人で良かった)
胸中呟いたアルスは再び皆に向き直す。
「これで異論はないよね?」
「ああ」
代表でホリンが答える。これで話がまとまろうとしていた……。
「……気を使ってるのか?」
が、セイラが水を差す。アルスの方を向かずに呟く。
「えっ!?」
「チカに気を使っているのか?」
セイラが言い直した。
「お見通しですねセイラ王女……それもあります。ですが、彼女を信頼しているのも事実です。仮に敵に奇襲を受けても彼女とチカとの連携なら、きっと切り抜けられると思っております」
ミクの相棒は模範戦の時にジェリドに射抜かれ、まだ本調子ではない事をアルスは知っていた。
「そうか……すまない」
そう言ってセイラは薄く微笑んでいた。
話が落ち着いた所で、アルスは自分の席に戻り座り直した。
「んで……」
その直後にイスカが話始める。
「……他は良いとして、なんで俺様が呼ばれたんだ?」
「あっ! 忘れてた……すまない」
とアルスは間抜けな声を上げる。
「あっ! 忘れてた……って、てめぇ! ふざ……」
「イスカ殿! 王子ですぞ。もう少し控えてください」
遮るようにジャイロが咎めた。
「いや…良いよジャイロ」
しかし、何も気にしていないアルス。そしてこう繋ぐ。
「君には私の護衛をお願いしたくて呼んだんだ」
「はっ!? ……何で?」
「魔導士だから」
にんまり微笑む。
「ユーリは? あいつがいるじゃねぇか」
「彼女は今や司祭……だからロッカ様と同じ、大事な回復の要だからね」
「あっそ」
興味無さそうに返すイスカ。
「セイラ王女、異論はありますか?」
「は~…本人に一任する」
胸中で、気を使うなと思っていれば溜め息付きたくなるだろう。しかもシャルスで会議した時も同じ事を聞かれたのだから尚更だ。
「どうだろう? イスカ」
「てめぇの傍でドンパチしてりゃ良いんだろ?」
「ああ」
「勝手にしろ…何処でドンパチしようが、やる事は変わんねぇ」
「ありがとう」
「ふんっ!」
イスカは鼻を鳴らしそっぽを向いた。
「では最後に……」
そう言ってアルス立ち上がる。
「本当に皆、此処までありがとう」
深々と頭を垂れた。
「だから…まだはえ~っつーの」
それをホリンが水を差す。
そのホリンを見詰め苦笑し、その後、真剣な眼差しで一人一人の顔を見て、再び口を開いた。
「次にこういった会議を開く時は私の城…イクタベーレ城を奪還した時だ。それまで…いやそれからも私に力を貸してくれ! 次回もこの顔ぶれが揃おうっ!!」
アルスは力強く話を締める。一同も真剣な眼差しでアルスを見詰めていた……。
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