第一話 無敗女王の無双
戦場に舞う一輪の花。とは言うもののその花は薔薇である為に棘がある。
それは天より舞い降りし天使と思わせ……その実、悪魔的細心差を合わせ持つが故に全神経を周囲に張り巡らせている。
それでも悠々堂々と構える彼女の持つ証は絶対の勝利。故に……。
「無敗女王っ!?」
と呼ばれている。
「見張りは二人だけか? ええーいっ! 其方等では役不足だ! 指揮官を出せぇっ!!」
朗々とした声音で叫ぶ。その声は、高くも無く、低くも無い。それでいて透き通るようで気品のある声。
無敗女王と呼ばれる彼女は、シュール=セイランローヌ=マルスト。マルストの王女セイランローヌである。
見張りの一人が奥に引っ込む。それと同時に今の叫びで、続々と兵が集り出す。
それでも砦の塀に立つ彼女は悠然と構えていた。
やがて弓兵の何人かが、至近距離から…距離にして2~3mの位置。それも後ろから矢を放つ。
シュっ!
たった一降りで終わる。悪魔的細心差があるが故に背後だろうと振り向きざまに振られた剣で、全ての矢が折られた。
しかも抜かれた剣は腰にある鞘に確り収まっていた。つまり、眼にも止まらぬ一瞬だったのだ。
「……だから、其方等では役不足と言っておろう」
静に言い放つ。しかし、その瞳は鷹のような眼光を放つ。相手を威圧する鋭きもの。
兵達が一瞬たじろぐが、直ぐに再び弓兵部隊が弓を構える。
「遅いっ! ……『フーガルド』」
バフゥゥゥ~っ!!
演唱破棄の風系上級魔法により竜巻が巻き起こり弓兵部隊を空に舞い上げた。
「ぐはっ!」
「がはっ!」
「くぅっ!」
上級だが魔力を抑えた事で、威力を下げている。それでも地面に叩き付けられてタダでは済まない。
セイラの狙いは戦意を喪失させ無駄な殺生をしないようにしている。
アルスの戦いを理解しているからだ。無駄な殺生を嫌い大将を潰しコトを済ませるという……。
やがて魔導士部隊までもが集まる。魔導士達は一斉に掌をセイラに向ける。
『ファーガっ!』
『フーガルっ!』
一斉に魔法を唱えた。半数は炎系中級、もう半数は風系中級だ。合成魔法により炎の勢いが増す。
流石にバルマーラ三国同盟が目前のイクタベーレとなれば、敵も厄介になって来たと言えよう。
『ウィング』
しかし、セイラのが一枚上手だ。風系上級の飛行魔法を唱え、空に舞い上がり、炎を躱す。
『ラライヤっ!』
続けて演唱破棄で雷系中級を唱えた。
悪魔的細心差で臨むのと、もう一つセイラは、鬼神の如く大胆にコトを運ぶというのがある。
それがクラヴィス相手に一敗してしまったが、無敗女王と呼ばれる由縁の一つにだった。
ドドォーン……ズサァァァっ!!
極太の雷が落ち大地を駆ける。魔導士には魔法に対する耐性があるので、セイラは手加減無しでぶっ放した。
「ぐぎゃーっ!」
「ぐぁぁぁぁっ!」
「ぎゃーっ!」
その結果、魔導士部隊も余裕綽々で壊滅させる。
スっ!
そして、セイラは砦の塀に再び着地。其処を狙っていたかのように剣を持つ兵達が一斉に斬り掛かった。
「ふっ!」
闘気を解放し跳躍で全ての斬撃を躱す。
バコっ!
バコっ!
バコっ!
「ぐふっ!」
「くっ!」
「がはっ!」
そして空中で相手の顔面に回し蹴りをお見舞いした。
瞬発解放型の闘気を扱えるので、必要な時に必要な分だけ闘気を解放しているのだ。
またそれが油断を誘う事になる。最初から闘気を解放していれば、相手は警戒していただろう。
「何度も言わせるなっ! 其方等では役不足だっ!!」
セイラは先程より強く叫ぶ。また鷹の眼を思わせる眼光が、残った敵を後退りさせた。
・・・・・・・・・・・・
砦の指揮官ホリスは、椅子に腰を掛け、傍らに複数の女を侍らせ酒を注がせ余裕寂々といった面構えをしていた。
そのホリスに、目の前に立つ兵が進言する。
「本当に正面を手薄にして宜しいのですか?」
モミモミ……。
「正面から突っ込んでくる馬鹿がどこいる? イクタベーレの王子の率いる反乱軍のなど、こそこそ裏からやって来るに決まっておろう」
サワサワ……。
「ですが……」
目の前の兵と話しながら侍らせている女の胸や尻を触っていた。
こんなんだからセイラが単身で簡単に砦に乗り込めたとも言えよう。
「それに俺は本国から直々に赴いた歴戦の……」
バーンっ!
ホリスの言葉を遮るかのように、この部屋の扉が大きく開かれる。
「た、大変ですっ!!」
「何事だっ!?」
ホリスが椅子から立ち上がり叫ぶ。
「反乱軍が正面から……しかもたった一人で……」
「ば、馬鹿なっ!」
パリーンっ!
手に持つ酒が注がれたグラスが握り割られた。
・・・・・・・・・・・・
「貴様は無敗女王っ!? 反乱軍に与していたのは本当だったのだな」
セイラの前に現れたホリスが叫ぶ。
「其方が此処の指揮官か?」
「貴様等一体何を考えておる? 馬鹿正直に正面から……しかも一人で」
「ふっ…」
セイラが不適に笑う。まるでホリスを見下すかのように……。
「イクタベーレはアルスエード王子の領地……其処に何の遠慮がいるのだ?」
そして嘲笑するからのように両手で天を仰いだ。
「ぬかしたな! 俺は本国より直々に赴いた歴戦の……」
プシューンっ!!
決着の幕は一瞬。
一気に距離を詰めたセイラが華麗なる剣捌きでホリスは斬り倒されていた。
「戦場でいちいち名乗るとは三流以下だ。愚か者めがっ!!」
と、吐き捨ながら剣に付いた血を落とすかのように剣をシュと振った。
「さあ其方等はどうする? 投降するなら命は助けてやらんでもないぞ」
第一関門とされる砦……イクタベーレ領においてイクタベーレ城の者が当地する砦。
此処を越えれば第三関門とした砦があるにせよ、アルスのイクタベーレ城は眼と鼻の先。
この砦には、大きな戦力が配備されているとは、考えられなかった。
第三関門の砦からイクタベーレ城間のルートに想像を絶する戦力が集中しているとアルスは予測していたのだ。結果から言ってしまえばそれは的中だった……。
それと自分が当地する場所……遠慮などいらぬ。そういった理由から、アルスは大掛かりな戦略を立てず、堂々と正面突破決行した。
また敵軍も、まさか正面から来ないだろうと考えているとも予測していた。まさにそれも的中。
イクタベーレに来てからアルスの戦略は相当冴えていた。
ただ予定と違ったのは、セイラが先発で乗り込むと言い出したのだ。いや、正確には独立遊撃隊の権限で……。
「先行する」
と言って勝手に飛行魔法で飛んで行ってしまったのだ。
だがアルスは何も咎めない。それどころか……。
「じゃあ頼みますセイラ王女」
と来たものだ。
それだけ彼は彼女を信任していた。だからこそ独立遊撃隊という特に命令がない限り自分の判断で好きにやって良いという権限を与えたのだ。
結果、セイラがこの砦の指揮官であるホリスを倒した直後に突入できた。つまり指揮系統が乱れており、砦の制圧があっさり済んだのだ。
そうアルスの判断は間違ってなかった。セイラの性分から、自由にやらした方が解放軍に取って都合の良い行動を取ってくれる。
それに無敗女王の名は伊達ではない。その力は物凄く、解放軍一の強さだと思っている。
それだけではない。部下のバード部隊のルーンナイツからの信頼も厚く、セイラが反乱軍いるから自分達も……という感じで、解放軍に加わった。
自分の命すらも捧げているルーンナイツの彼女等を完全に統括するのはセイラしかいないとアルスは考えた。
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・・・
砦の屋上で、東の方角をじっと見詰めるアルスの姿があった。其処にジャイロがやって来る。
「アルス様、捕虜の方はどう致しますか?」
セイラがホリスを倒した後、ほとんど兵達が投降してきた。アルス達が突入した瞬間にこの状況だ。
アルスも流石に此処までやるとは思っていなかった。セイラはシャルス城の一件で病み上がりにも関わらずとアルスは心底驚いた。
「戦意がない者は解放して上げてくれ」
「そう仰ると思っていました」
ジャイロは苦笑を浮かべ、また直ぐに真顔に戻る。
「……しかし、我々の動向が漏れますよ」
「良いんだ。どのみち直ぐに知られる事だよ」
アルスは微笑を浮かべ再び東に視線を戻した。
「……これは荒れるかもしれませんね」
唐突にジャイロが空を眺め呟く。
釣られアルスも空を眺める。雲に覆われていたので、ジャイロは雨を危惧していた。
「ああ…そうだね。だが此処で歩みを止めるわけには行かない」
「そうですね。帰って…来たんですから……」
「ああ…だが此処は所詮イクタベーレ城が当地している場所にしかならない。私の城はまだもう少し先だ」
そう言いつつもアルスは懐かしさを感じていた。二年ぶりの故国に……。
(そう……帰ってきたんだ。それなのに……)
しかし、アルスは大きな悩みの種が一つあった。アルスをの視線が下にいく……悩みの種がいる下へ……。
ジャイロもそれに気付く。彼もイクタベーレ騎士団長として頭を抱えずにはいられない。彼等の視線の先は……。
「てめぇ何を考えていやがるっ!?」
ソラの胸倉を掴み壁に叩き付けるイスカがいた。
「どういうつもりだソラ? てめぇの部隊は裏手口から進入し、挟み撃ちにする作戦だった筈だっ!!」
イスカが怒鳴り散らす。
実はアルスは一応戦略を立てていた。ただ期待出来ない策を……。
こうなる事もわかっていた。だが、アルスは彼を信じたかったのだ。
それは願いに近いものかもしれない。彼はイクタベーレ陥落時からずっと一緒に戦ってきた仲間。その仲間をこのままにしたくなかった。
「なのに何故動かなかったっ!?」
尚もイスカの糾弾の声が響く。
「……この程度の砦なら、そこまでしなくとも楽に陥せると思った」
何かに取り付かれかのような虚ろいだ眼で答えるソラ。決してイスカと視線を合わせない。
「確かにセイラがほとんどカタを付けた……だがよ、ふざけんなよ! 理由になるかよっ! そんな事……おかしいぞ近頃のお前…リュウザンの事があってから……!」
ビクッ!
ソラは一瞬だけ反応したが直ぐに何かに取り付かれたような虚ろな瞳に戻ってしまう……。
「もう良いじゃないですかイスカさん」
背後からリビティナがイスカの肩に手を置いた。
「しかしっ!」
尚も止まらないイスカ。
「もう良いっ!!」
珍しくリビティナが怒鳴った。
次にじっとソラを見詰める。
「ソラさん、今回の事はもう良いです。ですがこれっきりでお願い致します……今はアルス様にとって大事な時だと思います……それはあの時から一緒にいる貴方なら良くわかっているのではないですか? イクタベーレが陥ちた時、自分もいたので良くわかります」
ソラは無言でそっぽを向いたままだ。
「イスカさん! 行きましょう」
リビティナは踵を返す。
「ちっ! クソがっ!!」
イスカは舌打ちをし、悪態を付きリビティナの後を追った。
やっとイクタベーレに帰って参りました。
最初の方から登場していたのに掘り下げをしていなかったソラ達は、やっぱイクタベーレで掘り下げようとプロット段階から考えておりました
故に途中からほとんど登場しませんでしたね(笑)
ちなみに恐らく今までで一番長い章になります




