第十一話 続・Cool of Minerva
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アルス達解放軍はシャルス城からイクタベーレに進行を開始していた。
シャルス城で志願してきた兵を含め大部隊となった解放軍は全員馬に股がり街道を突き進む。そんな中、新兵達が妙な話をしていた。
「イクタベーレってさーアルスエード王子の故郷なんだよな」
「みたいだな」
「大変だったらしいぜ…シャルスに裏切られ暗黒魔王軍と挟み撃ちを喰らって」
「そうなのか?」
「でさー……うぐぐっ!」
突然口を塞がれる。
「ホリンさん?」
口を塞いだのはホリンだ。
「そんな話をするなとは言わねぇがもう少し考えろ」
「はぁ」
まるでわかっていない新兵。
「アルスに聞こえるようなデカい声上げやがって……」
「あっ! 申し訳ありません」
そのホリンと新兵が話してる少し後ろにはソラの姿があった。
危なっかしさがある荒んだ眼付で何を考えているかわからないという感じで、それが周りには奇異に映り、ソラの周りを避けるように馬でを走らせていた。
一方馬に乗れないディーネは、アルスの後ろで横座りし、隣に並んで馬で走るサラと話していた。
転移魔法で後から来れば良いのだが、仮に襲撃を受けてユーリの回復だけでは間に合わない事を考えて連れて来ていた。
「ねぇサラ?」
「うん?」
「サラが育った施設って何処にあるの?」
「ああ…イクタベーレだが?」
「えっ!?」
正に此処はイクタベーレ領である。
「何処何処? イクタベーレの何処?」
少し興奮気味で訊き返す。
「此処から少し北に行った所だが……」
「ねぇアルス様」
ディーネはアルスの服を引っ張る。
「クスクス……わかったよディーネ」
微笑を浮かべ、サラに視線を向ける。
「其処ってこの部隊が宿を取れるくらい大きいのかい?」
「まあ昔のままなら、半分は」
「わかった……じゃあ今日は其処で一晩明かそう」
「はっ!?」
サラはあからさまに嫌そうな顔をしていた。
サラが育ったアノス村の宿では貸し切り同然状態で解放軍の面々が賑わっていた。
決戦前だというのに皆、馬鹿騒ぎをしている。いや、決戦前だからこそなのかもしれない……。
その中に珍しい光景が一つ。セイラとユアンが楽しそうに談笑していた。
ユアンはセイラをずっと憎んできた。ユグドラシルが陥ちる最後の一手を加えたセイラを……。
しかし、シャルスの一件でセイラの覚悟を知ったユアンは、そういう気持ちを改めた結果だった……。
やがて夜を迎え、月明かりが大地を照らす。月は満月にはなっていないが、不吉を思わせる紅色をしていた……。
宿の外にホリンが立つ。其処に一人の志願兵がやって来た。見た目は十二、三歳くらいの魔導士を思わせるフードを被った少年である。
「ホリンさん直々にお呼びとは何でしょう?」
フードの奥で微笑を浮かべる。
「色々聞いたんだがよ…どうやらお前さんらしいじゃないか。昔の事を親切にペラペラ皆にお喋りしているのは」
「………」
「別にそれが悪いわけじゃない。ただ今は大事な時期だ。それじゃなくても、うちの指揮官は気苦労が絶えない男なんだ。下手に刺激したくない…弁えてくれないか?」
「………」
少年は何も答えない。
「……悪いけどちょっと顔見せてくれないか?」
そう言うと少年は自らフードから顔を出す。
「っ!?」
ホリンは驚く。その素顔は可愛らしく年齢に相応しい幼い顔立ちだった。
勿論、ホリンはそんな事に驚いたのではない。その少年の瞳の奥にあるものを読み取ったからだ。例えようのない邪悪さに満ちたその瞳の奥を……。
次の瞬間、ホリンは斬り掛かっていた。
「不意打ちとは卑怯じゃないですかホリンさん」
平然とそれを躱し、ホリンの懐に入っていた。
『ファイゴル』
ホリンの土手っ腹に手を当て炎系最上級魔法一点集中型のファイゴルを唱える。
ドゴーンっ!
ホリンは大きく吹き飛ばされた。
「ぐっ! ……やってくれんじゃないか」
「流石にホリンさんともなるとこの姿のままでは敵いませんね」
「なっ何っ!?」
〇●〇●〇●〇●
「ぐわぁぁぁっ!」
「やれやれ…これでも上手く潜り込んでるつもりだったんですけどね……」
「……ア…ルス…」
・
・・
・・・
次の日アルスが部屋に入るとホリンは平然と立ち尽くしていた。
「よう」
昨日の事が嘘みたいな態度だ。其処にディーネが凄い剣幕でアルスに迫ってくる。
「言って上げてっ! 絶対安静なのっ!! 寝てなきゃ駄目だってっ!!」
「あ……」
その剣幕に圧倒されるアルス。
「とにかく生きてたのが奇跡なくらい危険な状態だったんですっ!!」
「バカ言うなよ。格好悪く寝てられっか…なーに怪我っつったって傷がまた増えただけだ」
悪そびれた様子が全くないホリンである。
「なっ! …そんな事言って、もう知りませんっ!!」
バタンっ!
ディーネは勢い良く扉を閉めて出て行った。
「あ……」
呆気に取られるアルス。
「すっかり嫌われてちまったな患者として」
「でも本当に寝てた方が良くないか? ホリン」
アルスが心配そうに見詰める。
「大丈夫だ…心配ねぇ。それより例の件どうなっている」
「クラヴィスが部隊に潜り込んでいた件か……シャルスでの志願兵の中にいたのはわかったが、その目的までは……」
口を濁す。
「ギュスターヴの使いが寄越した情報覚えているか? ライアーラの内乱の黒幕はクラヴィスじゃねぇかって話」
「ああ」
アルスの表情が重くなる。
「奴は人間の負の感情を増幅させる事ができる。俺はそう踏んでいる…こいつは魔法なんかより、ずっと厄介だぜ」
「ああ」
「そして大部隊ってのは、統制が取りづらい。お前さんの理想を信じている者もいれば、時流に乗れば自分も美味しい眼を見られるだろうって動機の奴もいる。この部隊はだいぶ大きくなった。それは諸刃の剣なんだ。一歩間違えれば、一気に崩壊しかねない……そして、クラヴィスが眼を付けてるのも、たぶん其処だ」
「………」
アルスは神妙に考え込む。
「だからアイツはこの部隊に入り込んで、その仕事を終えて去って行ったと思った方が良い。何処かに災いをもたらす人物……言わば災いの火種を仕込み終えている可能性が高いと思う」
「災いをもたらす……人物……」
・・・・・・・・・・・・
「全くもぉ……プンプン」
「随分ご立腹だなディーネ」
宿屋の外にいたサラの前に物凄い剣幕のディーネが現れた。
「聞いてサラぁ! ホリンったらねぇ……」
その後、サラはホリンの愚痴を散々聞かされた。
「あ、そうだ……気分転換したいから、サラの育った施設を見に行こう」
しまいには両掌を打ち付けてそんな事を言い出す。
「いや、それはちょっと……」
サラからすれば十年以上になるので気まずく仕方無いのだ。
「むー……サラまでそうやって聞いてくれないんだ」
完全にご立腹のようでサラにまで飛び火する始末。
「は~……見に行くだけだぞ」
溜息を溢し、サラは機嫌を取る事にした。
・
・・
・・・
「おい! 見に来るだけと言ったではないか……だから私はお主を此処まで案内したのだぞ」
「良いじゃん良いじゃん……せっかく来たんだから、中に入ろうよ……」
「しかし……」
サラが育った孤児院に訪れていた。ディーネの機嫌取りの為に見るだけと言ったのに中に入ろうと言い出しサラが必死に止める。
ガチャっ!
しかし、残念な事に孤児院の扉が開かれ人が出て来てしまった。咄嗟ににサラはディーネの後ろ隠れる。
孤児院から出てきた者は孤児院の門の外にいたディーネと眼が合う。
「あら? 何か孤児院に用ですか?」
「いえ……」
ディーネは口を濁し、後ろに振り返る。
「ほら、サラ!」
肩で突く。
「えっ!? ……サラ? まさかあのサラなの?」
慌てて駆け寄ってきた。
「ああ……久しいなライラ院長」
サラは気まずそうに渋々顔を出した。ディーネの顔が綻ぶ。感動の対面と言わんばかりの満面の笑みだ。しかし……。
パッシーンっ!
ライラ院長の平手打ちがサラに炸裂していた。
「今まで何やってたの!? ……本当に心配したのよ!」
「……すまない」
サラは俯く。
「あの…すみません。サラをあまり責めない上げてください」
ディーネが間に入る。
「サラは……」
「ディーネっ!!」
直ぐ様ディーネを止める。
「でも……」
「良いんだ」
「何の話?」
「何でもない……所で此処の運営はあれからどうなった?」
彼女が曖昧にしようと、咄嗟に出た言葉は、自分が出るきっかけになったものだ。
それが自分の首を絞めるものになるとは気付かず……と其処まで大袈裟なものではないのだが。
「あんまり良くないって現状だけど……何でそんな事を?」
「えっ!? じゃあサラは出て行った意味無いじゃん」
そして、ディーネはバラしてしまった。
「ば、バカ」
彼女はライラ院長に余計な心配をさせぬように決して口にしないようにしていたのだ。
「ま、まさかそれで貴女が出て行ったの? 貴女一人が出て行って変わるもんじゃないでしょう?」
「聞いたんだ……」
諦めたサラは自分のせいで援助金を減らされているという話を聞いた事を話した。
するとライラ院長の瞳に涙が溢れる。涙で顔をくしゃくしゃにしながらサラに抱き付く。
「馬鹿ね。ほんと馬鹿ね……言い掛かりに騙されるなんて」
「はぁー? 言い掛かり?」
「そうよ……何かに理由を付けて援助金を減らしたいだけなのよ……貴女がいなくなった後も、それは変わらなかったわ」
「そ、そんな……」
そうサラが出て行ったのは、全く無意味だったのだ。まあ勿論サラとディーネに取っては、大きな意味があったのだが……。
やがてそっとライラ院長はサラから離れる。
「でも、無事で良かったわ……それに随分逞しくなって」
「ああ……一人で生きるには、これしか思い付かなくてな」
「あのーすみません。さっきの事ですが……本当に経営苦しいんですか?」
会話を中断させるのは申し訳ないと思いながら、遠慮しがちに話すディーネ。
「まあ……でも慣れたから」
ライラ院長は大丈夫と言わんばかりに返した。
「じゃあ、ちょっと待っててください……『ソウテン』」
ディーネは転送魔法を唱え五芒星の魔法陣が彼女の後ろに現れた。
「おいディーネ!」
サラに満面な笑顔だけ向けて魔法陣に吸い込まれてるように消えた。
「全く何を考えているのだ」
「彼女は貴女のお友達?」
ライラ院長も困惑気味の面持ちでそう尋ねた。
「ああ……私が初めて友と呼べた者だ」
「随分破天荒な娘さんね」
「全くだ」
サラが苦笑を浮かべる。
「でも、貴女に笑顔を与えたのは彼女ね?」
「まあ……」
口を濁す。
「あの時のサラは、そうやって笑わなかったわよね」
昔を思い返すように言う。そうしている内にディーネが転移魔法で帰ってきた。
「はい! これ差し上げます」
ポンっとライラ院長の手の上に置いたのは、直径30㎝はある大きな袋だ。
「えっ!? ……あっ!」
咄嗟に来た重みに落としそうになる。中身は……。
「こ、こんなの頂けません」
大量の金貨だった。
「良いって良いって」
「これどうした? ディーネ」
「ラクームから借りてきた」
あっけらかんと答える。
(ラクームからって……)
―――――
「ひーふーみー……またまたも~かりまっか」
お金の計算をしていたラクームの目の前にいきなり魔法陣が出現し其処からディーネが現れた。
「どひゃー!! 姫はん……どないしんでっせぇ?」
ビックリし腰を抜かす。
「これ貰っていくね」
適当な袋を掴む。
「アカン! それはアルスはんより預けられた資金やでぇ」
「なんでよっ!? 私が貰うって言ってんのよっ!!」
いつものツンツン口調をし、ラクームを睨み付ける。
「カンニンしてくだせぇ」
「後で適当に誤魔化しなさいよ!!」
ラクームの首もとを掴みグングン振る。
「あ、アルスはんに言い付けまっせぇ」
「勝手にしなさいよ……『ソウテン』」
そう言って再び転移魔法を唱えて魔法陣に吸い込まれるようにいなくなった。
「とほほ……今日のワテの儲けが……」
―――――
(………ってな感じだったんだろうな)
全く持ってサラの予想通りである。
「本当に頂いて宜しいのですか?」
まだ信じられないと言った感じで言うライラ院長。
「良いですよ……だってサラを助けてくれた人ですから。そのお陰で今の私がいるんですから」
満面な笑みで返す。
「そうですか……ありがとうございます」
深々と頭を垂れる。
「それとアルス様が帰還されましたから、もうすぐイクタベーレが奪還されます。そしたらアルス様に此処の運営資金を上げるように言っておきますね」
「そ、そんな事できるのでしょうか?」
「ディーネはタルミッタの王女だから問題無い」
代わりにサラが答える。
「えっ!?」
ライラ院長の顔が青冷めていき、平服し始めた。
「さ、先程からの無礼な態度、申し訳ありません」
「もうサラ、余計な事言わないで」
「さっきのお返しだ」
そう言ってそっぽを向く。
「顔を上げてください。サラを育ててくださったライラ院長にそのような格好はさせられません」
「は、はっ……恐れ入ります」
ライラ院長は立ち上がった。
「サラ、もしかして今は解放軍にいるのかい?」
「ああ」
「サラは解放軍の大大大戦力なのですよ」
「ディーネ、それは大袈裟だ」
「そう? まぁ良いや……じゃ私はこれで」
「これでって?」
『ソウテン』
再びサラ達の前から転移魔法でいなくなった。
「全く……」
心底呆れるサラ。
「王女様が友達とは立派になったね」
「別に立派ってわけではない。最初は偽名を使われて王女だって知らなかったしな」
「でも……」
ライラ院長は真っ直ぐ優しい眼差しでサラを見詰める。
サラはその眼差しが懐かしく感じた。彼女がこの世で一番最初に信頼できると感じた眼差しに……。
「良い友達を持ったね。それと……」
―――それとお帰りサラ。
戦慄のイクタベーレ 第三部 完
全11話+エピソード2話
今まで一番長かった章かもしれませんね
最初の予定ではOne day③の一部も入っていたのでもっと長い予定でした
まぁヒロインの章という事で……。
なのにサラのせいで霞んでる気がします(笑)
次で遂に最終部突入です




