第八話 十一番目の属性
サラが炎系初級と氷系初級を合わせて作り出した球体の中では、無数の氷の粒が発生し舞っては、散っていた。例えるならダイヤモンドダストのように……。
ダイヤモンドダストとは、本来極寒の地において、あまりにもの寒さに空気中の水蒸気が、一瞬にして凍る現象を指す。
その凍った時にできた氷の塵が宝石のよう輝いて見えた為にそう名付けられた。
サラのそれは正にダイヤモンドダストである。しかし、彼女は氷系上級をそう名付けている。故にこう名付ける……。
『ダイヤモンドバスターっ!!』
気合の叫びと共に両の掌を前に突き出す。ダイヤモンドバスターと名付けられた球体はゆっくりと空気中を漂うかのようにガーゴイルに近付く。
あまりにも拍子抜け、呆気無さにガーゴイルは愕然とした。勢いも何もあったもんではない。
人の歩行の半分の速さもないスピードでガーゴイルに迫る。こんなもの避けるまでもないと言わんばかりに、悠然と立ち尽くす。
その奢りが自身を敗北に導くと知りもせず……。
「つまらなぬ」
そう言って近寄ってきた球体を右手の甲で払う。その結果、球体はあっさり消滅した。
サラの想いが込められたそれは糸も簡単に消え去ったのだ。
「さ、サラ」
ディーネの表情が曇る。
「もう良い。さっさと消えろ」
ガーゴイルが払った右腕をサラに向けて突き出す。
『ファイゴ……』
炎系上級のファイゴルを唱えようとした……が、最後まで発しなかった。
「なっ!?」
ガーゴイルは驚愕の顔を示す。最後まで発しなかったのではない、発せられなかったのだ。
何故なら彼女の放ったそれは消滅などしてない。しかとガーゴイルの右手の甲に炸裂していた……。
ガーゴイルの右の指先が崩れる。一度崩れたら止まらない。右手がその存在の維持をするのが、出来なくなってきていた。
いや、崩れるなど生易しいものではない。指から始まり腕が凍解し始めたのだ。例えるなら、ウィルスに感染したかのように浸食し、身体を蝕んでいた。
指先から指へ、指から腕へ。残るのは、毒々しい液体のみ。どす黒い水に変えていった。そして遂に身体も凍解が始まる。
「くっそーっ! なんだこれは? 貴様何をしたっ!?」
ガーゴイルは、先程の余裕とは裏腹に焦りが見えていた。溶け始め思うように身体が動かなくなり、絶え間ない激痛と感じているのだ。
ご自慢の超回復も凍解のスピードには追い付けない。
これがサラの真の得意属性無の驚異。氷と炎が合わせれば無となる。
その無へ向かう絶大なエネルギーを相手に叩き込む。そしてそれが凍解魔法ダイヤモンドバスターだったのだ。
それだけではない。何千年もの昔に、魔導の祖であるフレイヤが提唱して、今まで覆る事のなかった属性……その属性の第十一番目をサラは誕生させたのだ。
そして、サラの攻撃はこれだけでは終わらない。
「ディーネぇぇっ!」
天井を指差し叫ぶ。そう彼女には、もう一手ある。
「えっ!? ……あ、うん」
一瞬何故呼ばれたのか理解できなかった。正確には、初めて見た魔法に驚き、放心状態に陥っていた。
しかし、瞬時に彼女の意図が理解でき頷いた。彼女が魔法を使った後にいつもやる行動……それを思い出せば自ずとわかる。
「サンダースピアーっ!!」
ディーネの叫びと共にサンダーランスが打ち上げられる。槍をやや斜めに傾け、地面に突き出していた。
サンダーランスは槍本体だけでロケットのように天井に向かって飛ぶ。ディーネは叫んだ瞬間に手を離していたのだ。
「だぁぁっ!!」
気合の活と共にサラは全身に力を籠めた。
ドンっ!
足元に亀裂が走る。闘気の開放によるものだ。闘気の扱いを発現させた今の彼女には容易な事である。生命力を転換させるまでもない。
だが、流石にユアンのように地面を抉るまでにはいかない。それでもロケットのように打ち上げられたサンダーランスに追い付くには十分。
闘気で強化された足で大地を割るかのように蹴り上げる。ブゥゥ~っと風を切る音を響かせ瞬時に槍の元に辿り着き、それを掴み取った。凄まじい飛躍力だ。
槍を右手で掴むとグルングルンと片手で振り回す。
「これで終わりだ」
ガチッと槍を確り脇に挟む。
「サンダースピアーっ!!」
叫びと共に身体を反転。刃先から電撃が発せられた。その重圧は彼女の身体を吹き飛ばす。
これがサラの戦い方である。魔法で動きを封じ、電撃を帯びた強烈な一撃繰り出すというものだ。これぞマージランサーの神髄。
ドォォーンっ!!
空気の破裂するような、けたたましい爆音と共にサラが吹き飛ぶ。
「くっ!」
あまりにもの風圧により彼女の顔が歪む。流石にこれは予想外だった。彼女の想いがその電撃を一回りも二回り大きくしていた。
それだけではない。今回のこの電撃にはサラの闘気も籠められていた。
飛び跳ねる為に開放した闘気が無意識にそのまま電撃と共に放出されたのだ。更に重力の力を借りている。
「くのぉぉ!」
ありったけの力を籠め身体を反転、無理矢理元の位置に戻した。
『電光一文字突きーっ!!』
そして、強烈な一撃がガーゴイルに炸裂。無理矢理反転させた為に不格好ではあるが、確り刃先はガーゴイルを捉えていた。
「ぐぁぁぁ……っ!」
ガーゴイルが青白く光る。
永遠にも感じられる一瞬の中で、その光に照らされたサラが輝いていた。不格好でもその容姿は美しくディーネの瞳に映った。神々しく光輝くサラは女神そのものだ。
「……氷炎の女神」
気付くとディーネの口からポツりと溢れていた……。
・
・・
・・・
砦のド真ん中でサラは大の字に伏していた。ディーネは隣に座り込み回復魔法かけている。
二人共あれから何も語らない。余韻に浸っていた。ガーゴイルを倒せた事が不思議でならないのだ。
一時はもうダメだと絶望したにも関わらず二人は生き残っていた。これは夢ではないのかと感じずにはいられないでいるのだ。
「……楽しかった」
開口一番に発したのサラだ。素っ頓狂に出た言葉はディーネを困惑させた。
「ははは……」
そして、堪らず吹き出す。砦中に彼女の笑い声が響く。
「何が可笑しい?」
ムスッとした表情でディーネを睨み付けつける。
「だってぇ……サラらしいなって」
ディーネは涙を流しながら返した。腹を抱え、笑いが絶える事はない。
「ははは……」
釣られサラも笑い出した。今になって、これが現実なんだと実感する。生き残ったからこそ、こうして笑い合えるのだ。
「にしてもお主、今回は私だけを逃がすなど、無粋な真似をしなかったのだな」
唐突にサラが呟く。過去にゼフィロスに敗れ、自分だけ転移魔法で、飛ばされた時の事を思い出して言った。
「あ……」
ディーネが間の抜けた声を漏らした。
「あ……ってお主……」
「うん、忘れてた」
あっけらかんと答える。
「まぁ良い。また私だけ逃していたら、お主を一生恨んでいただろうからな」
サラは心底そう感じていた。それでは態々助けに来た意味が無になるからだ。
「何でサラだけを逃がすの?」
「は?」
今度はサラが間の抜けた声を漏らした。
「私も逃げるに決まっているでしょう」
呆れたように答える。
「も? ……もって、お主の転移魔法は、一人しか飛ばせぬではないか?」
「私の事、馬鹿にしている? 私の魔力が昔のまま……成長してないと思っているんだ?」
一気に眉が吊り上がる。いつものツンツンだ。
「ははは……」
今度はサラが吹き出した。
「何が可笑しいのよ!」
「お主を見ているとほんと飽きないなと思ってな」
「も~」
頬っぺを膨らます。だが、直ぐに再び笑い出した。
「ねぇ…サラ?」
唐突にディーネが問い掛ける。
「ん?」
顔だけをディーネの方に向けた。
「この戦いが終わったら、私の城に来ない?」
「………」
サラは虚空を見詰めディーネの言葉にしばし黙考していた。
「……そうだな……この戦いが終わるまでには考えておくよ」
そのまま彼女は眼を閉じ混沌に溶け込んだ……。
もう一つ属性が増えれば円卓の騎士になりますね(笑)




