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戦慄のイクタベーレ ~敗退せし者達の母国奪還の軌跡~  作者: ユウキ
第十章 呪われし血筋
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第七話 Defrost Minerva

「ディーネはディーネではないか……アルテミスとは違う」


 そう放つサラの言葉にガーゴイルはつまらなそうにした。

 そして、サラは次の言葉を繋いだ。


「私の友はアルテミスなどではない……其処にいるユリアン=ディーネ=タルミッタだっ!!」

「サラぁ」

「で、どうするのだ? 頼みの武器も姫さんが持っているぞ」


 それに対しガーゴイルが冷たく言い放つ。サラはそれを聞き流し魔法の詠唱を行う。


『精霊の名において、雷をも焼き尽くす……』

「はっ! また炎系初級か……まともに扱えぬのによくやる」


 つまらなそうに呟いた。

 そうサラは炎系を扱うに至っていない。しかし彼女はそれでも右掌を上に向けるよう差し出した。


『ファイ』


 炎系初級(ファイ)の名が呟かれる。心を凍り付かせてる彼女は精霊に認められはしたが、力は貸してくれなかった。

 だが、ディーネに心を揺さぶられ、自分を受け入れ、彼女を受け入れようとし、全てを受け入れようとした今の彼女なら……。


 ヴォォォ! 


 炎が天高く燃え上がった。右手が放たれたそれは天井を焼き尽くす勢いで延び上がる。


「ん?」


 ガーゴイルは目を細めた……。


「……また暴走か」


 が、直ぐに同じくつまらなそうに呟く。

 サラは深呼吸をし、眼を瞑り神経を尖らせた。徐々に燃え上がる炎は、その存在を小さくしていった。やがて人の頭サイズくらいまで、濃縮され、其処で落ち着いた。

 全てを受け入れた彼女は、もう炎系を扱うに至っており精霊も力を貸してくれたと言えよう。


「ほー……制御したか」


 ガーゴイルが感心の眼差しを向ける。間髪入れずサラは次の詠唱を行なった。


『氷塊となりて我に力とならん』


 得意とする魔法。短縮詠唱で十分……即座に詠唱を終えた。


「ば、バカなっ!」


 再び呆れた顔になり言い放った。

 サラは右手と同じく、左掌を上に向ける差し出す。


『レイス』


 掌から同じく人の頭サイズくらいの氷系初級(レイス)が放たれてる。

 だが、これは逆属性だ。ガーゴイルは呆れるのも当然。逆属性同士では反発し消滅しあうのが必然。

 それを同時に放とうという愚か者はいない。いやセイラがクラヴィス相手にやっていたが、あれは雷系魔法があったからだ。しかしサラは雷系魔法を扱えない。


 それだけではない彼女は、何をとち狂ったのか、掌を合わせてようとするかのように、そのニ属性を混ぜ合わす。

 愚かしいにも程がある。同時に放つのではなく、その場で混ぜ合わせたのだ。もう愚かを越え狂喜と呼ぶのが相応しい。

 混ざり合ったはニ属性は、当然消滅……いや消滅等しない。より強い方が残る。


 ピキピキ……っ!! 


 凍り付く音が砦内に響く。


「くっ!」


 サラが苦痛に顔を歪ます。彼女の右腕が肩まで凍り付いていた。

 元々氷系が得意な彼女は、無意識に氷の方が強くなり、炎を吞み込み右腕を凍らせたのだ。


「さ、サラ?」


 ディーネは不安げな声を漏らし心配そうにサラを見詰める。


「……何がしたいんだ?」


 呆れを通り越した冷たい視線でサラに向ける。その視線がまた痛々しかった……。


「はっ!!」


 サラは気合いの一閃と共に右手に力を込めた。瞬く間に右腕の氷が溶ける。


「くっ!」


 彼女の顔が歪む。勢い余って、逆に左腕が燃え上がる。

 元々電撃で腕部まで無くなっていた衣服が更に一気に焼き尽くし、肩部まで塵と化とする。氷より炎を強くし過ぎたのだ。


「ダメだこりゃ」


 ガーゴイルは両手を広げ天を仰いだ。


「…タ……ワ……ハ…」


 サラが顔を歪ませ、それでも一言一言何か呟く。その度に、左腕を燃やす炎が徐々に徐々に弱くなっていた。

 だが、何を言っているのか誰にも届かない。


「……ワ…タシ…ハ……ワタシは……」


 徐々に声を大きくしていく。それと同時に氷が強くなる。


「くはっ!」


 再び苦痛の表情を浮かべた。左腕から、黒く焦げた腕が現れ、炎は消えていった。だが、また右腕を凍らせていく。


 彼女はとある一つの想いを描いていた。誰でも一度は考えた事がある……人間なら、当然の感情だ。

 そう特定の者の前では良くありたい。しかし、今までの彼女には無縁の感情だった……。

 彼女には彼女が女神に見えて仕方なかった。自分ではなく彼女がだ。

 昔に女神と呼ばれた事があったが、自分は輝いてもいないし、決して崇められる存在でもない。故に否定し続けていた。


「私は……私は……」


 今度は、はっきり発していた。それと同時に右腕の氷が徐々に溶けていく。

 彼女は今初めてそうありたいと願った。自分を太陽のように照らしてくれる彼女のように……。

 そう友であるユリアン=ディーネ=タルミッタがそうであるのなら……自分自身も……。

 だがら、その彼女の前だけなら、はっきりと言える。いや言わなくてはならない。

 そう彼女が輝いているのなら、自分も輝かなければならない。故に想いは言葉となり……。


「……私は……私は氷炎(・・)の女神マージランサー・サラっ!!」


 そして力となる。

 右腕の氷が完全に溶けきった。今、氷と炎が一つになる。

 両の掌を向かい合わせた間にあるものは、決して無ではない。

 均等に炎と氷が混ざりあった時に生まれるモノは彼女の想い(・・・・・)そのものだ。

 他者を受け入れ、自分を受け入れ、全てを受け入れたその時、新たな属性が生まれる。

 右腕の氷を溶かした……いや、心の氷(・・・)を溶かした瞬間に、彼女は真の得意属性を誕生させていた……。


「何だそれは?」


 ガーゴイルの瞳がギラ付く。再び感心を示している。


「一つ言い忘れていた……」


 サラはそれを無視し語り始めた。


「アルテミスとやらには感謝しないとな……」

「何の話だ?」

「アルテミスのお陰で私はディーネと出逢えた。それに打倒バルマーラという冒険を楽しめている」

「サラぁ」


 ディーネの顔が再び綻ぶ。


「ほ~……此処で朽ちるとしてもか?」


 ガーゴイルの瞳が更にギラ付く。サラの言葉に興味津々といった面持ちだ。


「そして今も最高の冒険を楽しめているっ!!」


 満面な笑みで言い放った。

 両の掌の間にあるモノが、その存在を強くする。サラ自身の心を表すそれが…明滅する透き通る蒼白き輝きを放つ球体が……。

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