第七話 Defrost Minerva
「ディーネはディーネではないか……アルテミスとは違う」
そう放つサラの言葉にガーゴイルはつまらなそうにした。
そして、サラは次の言葉を繋いだ。
「私の友はアルテミスなどではない……其処にいるユリアン=ディーネ=タルミッタだっ!!」
「サラぁ」
「で、どうするのだ? 頼みの武器も姫さんが持っているぞ」
それに対しガーゴイルが冷たく言い放つ。サラはそれを聞き流し魔法の詠唱を行う。
『精霊の名において、雷をも焼き尽くす……』
「はっ! また炎系初級か……まともに扱えぬのによくやる」
つまらなそうに呟いた。
そうサラは炎系を扱うに至っていない。しかし彼女はそれでも右掌を上に向けるよう差し出した。
『ファイ』
炎系初級の名が呟かれる。心を凍り付かせてる彼女は精霊に認められはしたが、力は貸してくれなかった。
だが、ディーネに心を揺さぶられ、自分を受け入れ、彼女を受け入れようとし、全てを受け入れようとした今の彼女なら……。
ヴォォォ!
炎が天高く燃え上がった。右手が放たれたそれは天井を焼き尽くす勢いで延び上がる。
「ん?」
ガーゴイルは目を細めた……。
「……また暴走か」
が、直ぐに同じくつまらなそうに呟く。
サラは深呼吸をし、眼を瞑り神経を尖らせた。徐々に燃え上がる炎は、その存在を小さくしていった。やがて人の頭サイズくらいまで、濃縮され、其処で落ち着いた。
全てを受け入れた彼女は、もう炎系を扱うに至っており精霊も力を貸してくれたと言えよう。
「ほー……制御したか」
ガーゴイルが感心の眼差しを向ける。間髪入れずサラは次の詠唱を行なった。
『氷塊となりて我に力とならん』
得意とする魔法。短縮詠唱で十分……即座に詠唱を終えた。
「ば、バカなっ!」
再び呆れた顔になり言い放った。
サラは右手と同じく、左掌を上に向ける差し出す。
『レイス』
掌から同じく人の頭サイズくらいの氷系初級が放たれてる。
だが、これは逆属性だ。ガーゴイルは呆れるのも当然。逆属性同士では反発し消滅しあうのが必然。
それを同時に放とうという愚か者はいない。いやセイラがクラヴィス相手にやっていたが、あれは雷系魔法があったからだ。しかしサラは雷系魔法を扱えない。
それだけではない彼女は、何をとち狂ったのか、掌を合わせてようとするかのように、そのニ属性を混ぜ合わす。
愚かしいにも程がある。同時に放つのではなく、その場で混ぜ合わせたのだ。もう愚かを越え狂喜と呼ぶのが相応しい。
混ざり合ったはニ属性は、当然消滅……いや消滅等しない。より強い方が残る。
ピキピキ……っ!!
凍り付く音が砦内に響く。
「くっ!」
サラが苦痛に顔を歪ます。彼女の右腕が肩まで凍り付いていた。
元々氷系が得意な彼女は、無意識に氷の方が強くなり、炎を吞み込み右腕を凍らせたのだ。
「さ、サラ?」
ディーネは不安げな声を漏らし心配そうにサラを見詰める。
「……何がしたいんだ?」
呆れを通り越した冷たい視線でサラに向ける。その視線がまた痛々しかった……。
「はっ!!」
サラは気合いの一閃と共に右手に力を込めた。瞬く間に右腕の氷が溶ける。
「くっ!」
彼女の顔が歪む。勢い余って、逆に左腕が燃え上がる。
元々電撃で腕部まで無くなっていた衣服が更に一気に焼き尽くし、肩部まで塵と化とする。氷より炎を強くし過ぎたのだ。
「ダメだこりゃ」
ガーゴイルは両手を広げ天を仰いだ。
「…タ……ワ……ハ…」
サラが顔を歪ませ、それでも一言一言何か呟く。その度に、左腕を燃やす炎が徐々に徐々に弱くなっていた。
だが、何を言っているのか誰にも届かない。
「……ワ…タシ…ハ……ワタシは……」
徐々に声を大きくしていく。それと同時に氷が強くなる。
「くはっ!」
再び苦痛の表情を浮かべた。左腕から、黒く焦げた腕が現れ、炎は消えていった。だが、また右腕を凍らせていく。
彼女はとある一つの想いを描いていた。誰でも一度は考えた事がある……人間なら、当然の感情だ。
そう特定の者の前では良くありたい。しかし、今までの彼女には無縁の感情だった……。
彼女には彼女が女神に見えて仕方なかった。自分ではなく彼女がだ。
昔に女神と呼ばれた事があったが、自分は輝いてもいないし、決して崇められる存在でもない。故に否定し続けていた。
「私は……私は……」
今度は、はっきり発していた。それと同時に右腕の氷が徐々に溶けていく。
彼女は今初めてそうありたいと願った。自分を太陽のように照らしてくれる彼女のように……。
そう友であるユリアン=ディーネ=タルミッタがそうであるのなら……自分自身も……。
だがら、その彼女の前だけなら、はっきりと言える。いや言わなくてはならない。
そう彼女が輝いているのなら、自分も輝かなければならない。故に想いは言葉となり……。
「……私は……私は氷炎の女神マージランサー・サラっ!!」
そして力となる。
右腕の氷が完全に溶けきった。今、氷と炎が一つになる。
両の掌を向かい合わせた間にあるものは、決して無ではない。
均等に炎と氷が混ざりあった時に生まれるモノは彼女の想いそのものだ。
他者を受け入れ、自分を受け入れ、全てを受け入れたその時、新たな属性が生まれる。
右腕の氷を溶かした……いや、心の氷を溶かした瞬間に、彼女は真の得意属性を誕生させていた……。
「何だそれは?」
ガーゴイルの瞳がギラ付く。再び感心を示している。
「一つ言い忘れていた……」
サラはそれを無視し語り始めた。
「アルテミスとやらには感謝しないとな……」
「何の話だ?」
「アルテミスのお陰で私はディーネと出逢えた。それに打倒バルマーラという冒険を楽しめている」
「サラぁ」
ディーネの顔が再び綻ぶ。
「ほ~……此処で朽ちるとしてもか?」
ガーゴイルの瞳が更にギラ付く。サラの言葉に興味津々といった面持ちだ。
「そして今も最高の冒険を楽しめているっ!!」
満面な笑みで言い放った。
両の掌の間にあるモノが、その存在を強くする。サラ自身の心を表すそれが…明滅する透き通る蒼白き輝きを放つ球体が……。




