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戦慄のイクタベーレ ~敗退せし者達の母国奪還の軌跡~  作者: ユウキ
第十章 呪われし血筋
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エピソード サラ

 人は皆、自分が一番可愛い。

 全ての決断は私利私欲で決める。

 私はそんな人間が嫌いだ。


 親に捨てられた私は施設で育った。

 その施設では平気で人を裏切る子供がいた。

 昨日言っている事と今日言っている事が異なってる事が多々あった。


 私は人が信用できない。

 自らの心は凍らせる事で人を寄せ付けないようにした。

 結果、誰もが私を恐れ、自分の居場所すらも失った。

 いや、元よりそんな場所等なかったのだ。

 捨てた親、自分勝手な施設の子供達、私を恐れる村の人達……。


 私は怨みや怒りや哀しみといった負の感情はなかった。

 というより、皆そんなものだと諦めていたのだ。


 ガーゴイルが長々と語る。ディーネの子孫が大陸支配を目論み、生物実験を繰り返した。

 馬鹿げているとは返したが、何処が馬鹿げているのだ? 

 何も馬鹿げていないではないか。

 人間なんてそんなもの。

 全て自分の私利私欲しか考えない。


 なのに、私は何故そんな事を言ってしまったのだ? 

 それでは馬鹿げているのは、私の方ではないか。

 頭が痛い。

 私は何を考えているのだ? 


 気付くと私は立ち上がっていた。

 何故動くのだ? 

 全身、下から天辺まで強烈な痛みが走る。

 先程一か八かで、闘気で全身を覆わらせ無理矢理身体を動かした。


 だが今は違う……自分の意に反している。

 何故立ち上がる? 

 しばし呆然と立ち尽くしていた。


 長々とガーゴイルに語られた。

 アルテミスがイクタを拒んだなどと。

 率直な感想を言えば当然であろう。

 人は自分が一番可愛い。

 その失態とやらを隠すのは、いかにも人間がやりそうな事だ……。


 そもそも私には関係無い(・・・・)

 そう思った瞬間、チクりと胸に刺さる感覚を覚えた。

 心がその思考を拒んでいるように感じた。

 だが、一つだけはっきり思っている事がある。

 それは自然に口にしていた。


「……それがどうした」




 ───私には関係無い。


 言葉が続かない。

 やっぱり何かがそれを拒んでいる。


「それがどうした」


 次はハッキリ発した。

 だが、やはりそれ以降続かない。

 一体なんなのだ? 

 それが関係有るとでも言うのか? 

 思考が回らない。


 何故だ。

 何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故……。

 同じ言葉が頭でぐるぐる回っていた。







 ◆◇◆◇◆◇◆


 白いローブを羽織る少女は見るからに回復魔導士のようだ。

 攻撃魔法は不得意だが、回復魔法に秀でている者だと魔導都市で学んで知ってはいたが、直接話すのは初めてだ。

 しかも実は未熟だとは言え、時空魔導士でもあった。

 時空魔導士は極稀にしかいないと言われる。私も初めて会った。


「ハァハァ……待ちなさいよっ!」


 と回復魔導士が私の手を振り払い、足を止める。口調がやけに不機嫌そうで目尻も吊り上がっていたので、最初は私を警戒しているのだろうと思った。

 無理もない見知らぬ男共に捕まえられた思えば、次は得体の知れない女に手を引かれているのだから……。


「ん? ……どうした?」


 私は足は止め、振り返った。


「どうした? …じゃないでしょうっ!? ハァハァ……貴女は旅人だから良いけど、ハァハァ……私は違うのよっ!」


 更に口調が荒くなり、ますますご機嫌斜めになったように見えた。見るからにひ弱そう少女だ。

 そんな彼女にひたすら走らせるのは、酷な話であると感じた。従って彼女を一休みさせる事にした。


「ところで貴女、良く冷たいって言われるでしょう?」


 睨み付けるように言ってきた。顔には決して出さなかったが内心驚いていた。

 大抵の者は私を怖がる。ましてや初対面となれば、面と向かって嫌味など言う者は皆無だ。

 だというのに彼女はその私に、常につんけんした態度をした上に、堂々と言ってきた。少し懐かしさを感じた……。


 ジェリドという例外がいたが、あれはいつだっただろうか。そう私がまだ心を閉ざす前だ。あれ以来、私にまともな口を聞く者はいなくなった。

 いや、この少女がまともと言ってしまうのは、少々語弊があるな。そう、言うなれば裏表の無い態度だ。


「ああ……よく言われる」


 私は冷たく返すが、内心は心地好く思っていた。


「それに女じゃないって」


 おいおい……そこまで言うか。胸中苦笑した。やけにツンツンしてつっかかる。


「ああ、言われる……お主も同じ事を言われぬか?」


 だから、私も裏表無く返す。


「なななな、何で私がそんな事言われなきゃならないのーっ!?」


 ますます怒りだす。


「そうか……だが勿体無いと思うぞ?」

「はぁ? 何が?」

「せっかく美しい身なりなのに、その言動で台無しだぞ」


 正直な感想だ。身なり本当に美しく、どこか気品を持ち合わせている気さえした。

 それこそ黙っていれば女神にも思える。そう私などではなく……。

 いかんいかん。あいつが死んでからというものの、あいつの言葉がよく頭によぎる。

 もう昔の話だというのについ意識してしまう。どうしたもんかな……。


「えっ!? 美しい? キャーお姉様ったらぁ」


 先程の私の言葉に大袈裟に反応する。

 ………………え? 

 一瞬自分の眼と耳と疑った。先程までつんけんしていたのに、いきなりデレデレし出した。

 最初はこいつ二重人格かと思ったが、これが彼女……ユリアン=ディーネ=タルミッタだったのだ。


 マンデなど偽名を使うは、奇怪な態度を取るは、全くわけのわからない奴だった……。

 そして、何より一番驚いたのはゼフィロスに破れ、傷付いた私を転移魔法により逃してくれた事だ。

 自分だけ逃げれば良いものを……というか、盗賊団に捕まった時点で一人で逃げられたではないかと思った。

 つくづくわけのわからない女である。でも本音を言えば嬉しかった。自分の危険を顧みない行動が……。


 人は誰でも自分が可愛いものだと、ずっと思ってきた。

 しかし、彼女は違うと感じさせてくれた。その後、アルス王子と出会い、ディーネはライアーラ城へ行くと一人転移魔法で飛んでいった。


 心にポッカリ穴が空いた気がした。何故だかわからない。だが、認めたくないがもう一度会いたいと感じていた。

 それは助けられたお礼したいだけ、と心に言い聞かせた。そう私が他人に心を揺さぶられる筈がない……。

 それからアルス王子と行動を共にした。彼女にもう一度会う為に……。


 ライアーラ城に到着し、彼女と再会したが、彼女は忙しく話す機会がない。王女としてきっと私ではわからぬやる事があるのであろう。

 ましてや回復魔導士として、負傷者の手当てに追われるのは必然である。

 気付くとお礼を言うどころか、アルス王子の戦いに巻き込まれている有り様。

 まぁ元々妥当バルマーラに挙兵したアルス王子に興味があったから、別に良かったのだが……。


 やがてディーネに時間を作って貰った。アルス王子の計らいだ。つくづく変わっている二人だと思う。

 二人共王族だというのに、そういった気取りがない。アルス王子は最初に言ったディーネにお礼を言いたいという言葉を受け入れ、確りディーネに話を通してくれた。


 ディーネは王女や回復魔導士としての仕事で明け暮れる中、私の為に時間を作ってくれた。

 本当は、空いた時間は休息を取りたいだろうに……。

 私の前に現れた彼女は、少し窶れていて、見るからにお疲れ様子だった。


 また、そのディーネと話をする機会を作るのに時間がかかってしまった事に二人して、申し訳なさそうに、頭を垂れてきた。

 本当にわけわからん二人だ。私はこの二人に違和感を感じずにはいられない。

 今まで出逢ってきた奴らの中に、こういう奴らはいたか? 否、アルス王子とディーネが初めてだ。


 本当に違和感を感じる。それと同時に何か満たされる感覚を覚えた。今までになかった例えようのない感情だ。

 時間がなかなか取れなかった事に対し申し訳なさそうにするディーネに、


「仕方無いさ。ディーネは回復魔導士として大変だったのだろう? アルス王子があんな事を言うから」


 と言って上げた。

 彼女は窶れた顔で笑みを見せ、礼を言ってきた。私はてっきりつんけんした態度で返しくると思っていた。だから私は自然に口にしていた。


「なんか態度がいつもと違うな」


 するとディーネは、


「うーん? なんかサラの前だと何の気負いもなくいられるからかな」


 と返してきた。

 私の……前だと……? 何故? 


「そう…なのか?」


 少し戸惑い気味で返した。


「私はこれでも王女だから友達って呼べる人がいなかったんだよね。だからかな? ……って私が勝手にサラを友達だと思ってるだけなんだけどね」


 私を友というのか? そんな事を言われたのは初めてだったので困惑していた。


「いや、私もお主を大切な友だと思うぞ」


 しかし、自然に私も友と思っていた。恐らく自分の顔が今、綻んでいただろう……。

 それだけ彼女の存在が私の中で大きくなっていた。だが、何故なのだろう? 

 少しの間、私は呆然と思いに耽っていた。


「ありがとう……ところで話って?」


 しかし、ディーネの方から話を振って来た。


「ああ……スパイシーロードの時、ゼフィロスにやられた私を転移魔法で逃がしてくれたのはディーネだろ? 礼を言いたくてアルス王子に着いて来た」


 戸惑いがちに本題を話した。


 その後、アルス王子の話を聞かされた。彼女はアルス王子を深く信頼している。

 アルス王子には人を惹き付ける魅力があると……。

 私もそれを感じた。実に変わった王子である。

 そう…なんとも不思議な奴だ。そしてやがては、大陸解放という偉業を成し遂げると。彼ならあるいは……と私も思う。


 やがてディーネの口から彼女の強い想いが語られる。


「私は、そんなアルス様の力になりたい」


 王子を余程大切に想っているのだと感じた。


「そしてアルス様の大望実現を間近で見たい……サラも一緒(・・・・・)にっ!」


 思いもよらない言葉が耳に飛び込んだ。目の前が真っ白になるような衝撃的な言葉が発せられた。


「はっ!?」


 困惑した。頭を巨大な氷で叩き付けたような感覚が襲う。正直理解が追い付いていかない。何故私なのだ? 

 だが、私の理解が追い付くのを待ってはくれない。直ぐに次の言葉が繋がられる。


「お願いサラ! アルス様に力を貸してっ!!」


 真剣な眼差し私を見つめてくる。彼女の想いがはっきり伝わっきた。その想いに魅せられ、私も自然に口から言葉が出ていた。


「もとより……そのつもりだ」


 ……と。

 そう……もとよりそのつもりだった……。

 ディーネがどうというわけではない。

 アルス王子が実に面白い人間だったので、妥当バルマーラという冒険に一枚噛みたい。そう思っていただけのこと……。


 だけど、なんだろうこの私の中で揺らぐ気持ちは……? 

 ディーネの言葉が幾度となく私の中で駆け巡る。得にサラも一緒にが。私と一緒……。

 この言葉が心から離れなくなる。まるで私の中の氷を溶かすかのように、熱くなるものを感じた。


 今でもそれは変わらない。いや、今だからこそ、その想いが強くなるような気がした。

 何故なら此処で終わってしまったら、私と一緒にという彼女の想いが遂げらない。いや違う私の想い(・・・・)がだ。もう私の想いになっているのだ。


 大陸解放の先にあるものを彼女と一緒に見たい。そうだから……私には関係無いのではない。しかと有る(・・)のだ。

 ディーネの祖先であるアルテミスの犯したものは、今もディーネの中に深く刻まれている。

 それはディーネを見れば一目瞭然だ。それを関係無いと言えるのであろうか……? 

 否、言える筈がない。言ってしまって、何が友なのだ? 友な筈がない。友なら……。

 私が彼女を本当に大切な友と思っているのなら、彼女を論さなければならない。


「ディーネはディーネではないか……アルテミスとは違う」


 そう思った瞬間、言葉が自然にガーゴイルに放たれていた。

 そう……。


「私の友はアルテミスなどではない……其処にいるユリアン=ディーネ=タルミッタだ!」

「サラぁ」


 ディーネの顔が綻んだ。私もディーネを見つめ優しく微笑みかける。逆にガーゴイルはつまらなそうな顔をしていた……。

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