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鳥狩りの奴隷

 四方全てを真なる海で囲まれたレムリア大陸。

 その中心部に位置する白亜の都アトランティス。


 その美しき都は大海の王ポセイドンによって治められている。

 どこまでも続く強固な外壁は如何なる外敵をも跳ね除け、

 治水と整備の行き届いた街並みは人々に安寧を与えた。

 厳格な法と隅々まで伸びる王の目は街に規律と繁栄を齎らした。


 無数の宙を行く舟。

 街を闊歩する巨人の兵士と巨獣。

 天を突き刺す塔。

 王族らの住う城。


 その街の隅でひっそりと暮らす『小さき民』只人のバード。


 彼は自分に定められた税を納める為に狩をする。

 幾ばくかの賃金を貰い日々の糧を得る。

 それが生業だった。

 いつしかその命をもすり減らし、外壁の外で

 ただ誰も知る事の無い場所で朽ち果てるのだろう。

 いくつか選択肢があった中でも彼にとっては上等だった。


 そして今日も外壁の外へと進む。

 その背には幾分か頼りない木製の弓と矢、

 腰には手に馴染んだ鉈を差し進む。


 生きて獲物を持ち帰る事が出来るよう心の中で祈る。

 今は亡き両親の教えてくれた狩りの神に祈る。

 

 その神の御名など知らぬままに。

 祈り手の願いはどこへ届くと言うのか。

 

 

 創造主はレムリアの野に

 200の牛、200の馬、200の羊、200の蛇……

 数々の巨獣を放った。

 それらを狩り食らう200の巨人と

 その巨人をも食らう200の巨竜。


 外壁の外は混沌に塗れ今も昔も変わらずにいる。



 外壁近辺の巨獣らは街を守護する巨人の兵士らや、

 人間の兵士らが乗る戦闘空中船団が睨みを効かせている。

 街の中に聳え立つ巨塔から巨獣達にとって不快な耳に聴こえない音を出しているのだと言われている。

 史実の中では巨竜すら一度も外壁を越えられた事は無いと言う。


 

 外壁の外、広がる背の低い草原の中。

 バードは弓に矢を番え、狙う。


 獲物は羽根の退化したアホウドリの様な姿をした、

 地上を走る鳥。

 その身の丈は人間程もあり、

 ペンギンと呼ばれる鳥である。


 肉食で人をも喰らう獰猛な鳥である。

 地上を二足で走るその身にはぎっしりと筋肉が詰まっている。

 庶民の味としてレムリア大陸では一般的な肉と言えば

 ペンギンの肉であった。



 バードの放った矢は弧を描き獲物へと突き刺さる。

 しかし矢は心臓に届かず、

 クルリとこちらへと敵意を向ける野生的な瞳。

 二つ三つとバードは矢を放つ。


 「ギャァァァァ!」

 

 その身に矢を浴びながらも気にする事なく

 突進する鳥。その目は赤い。


 バードは弓を放り投げ、腰に差した鉈を抜き、

 その身を屈める。


 深呼吸。


 向かって来る鳥へと走り出す。

 その鳥の嘴と交差する刹那、

 右手に持った鉈を水平に振り抜いた。

 同時に手を離す。


 左側前方へと倒れ込む様に身を転がすと

 彼は低い姿勢のまま獲物へと振り返った。


 鳥の首に深々と突き刺さった鉈。

 突進の勢いのまま、

 やや進んだところで鳥はクルリと振り返る。

 

 ……ドサリ。

 鳥はそのまま倒れ込む様に絶命していた。

 


 「この血が仲間を呼ぶ前に帰ろう」

 

 縄で鳥の脚を結びそれを肩に背負う。

 ズルズルと街の外壁まで引き摺り歩く。

 外壁近くの手頃な木に縄を引っ掛け、

 鳥の首から鉈を抜く。緩やかに流れ地面に染みが出来る。



 血抜きを終える頃には日も暮れ始めていた。


 


 街の灯りが少しづつ灯る。

 その雑踏の中

 ずるずると鳥を引き摺る者達が居る。

 

 ボロ切れを身に纏い、

 つたない狩猟道具を片手にした者達。

 それらの命はとても軽く



 その者達を

 この街に住む者達は、こう呼び蔑んだ。



 鳥狩りの奴隷と。

 

 



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