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「陽乃ちゃん、こんにちは。」
「こんにちは」
待ち合わせをしていた。今日は”Save the world"の頭に会う日である。
「ここだよ。ここの家にいる。」
とても広く、豪邸と言っても過言ではない程であった。玄関まで行き、インターホンを鳴らす。
「八王子です。」
「あぁ絋と陽乃さんか。今開けに行くから少し待っていてね。」
「ごめんね。待たせてしまって。」
「いや、そんなことは」
第一印象は儚げで美しい人。ただし人は見た目から受ける印象と中身が異なることもある。むしろ絋さん含め異なることの方が多い。
「初めまして。神田陽乃と申します。」
「こちらこそ初めまして。。俺は赤羽千尋と言います。さぁ、上がって。」
手入れが隅々まで行き届いていてとても綺麗だ。こんなに広い家に、一人で住んでいるのだろうか。私なら少し寂しいと思ってしまうかもしれない。決して私が寂しがり屋であるということではないのだ。一人でいる時間こそ至高だと思っているくらいに一人が好きだ。ただ、ここに長く一人でいたいとは思わない。ここは座敷牢の様に薄暗く、葬儀所の様に静かで湿った雰囲気を感じる。外がものすごく遠く感じるのだ。
「ちょっと陽乃さんと二人で話がしたいから絋が向こうのソファーで待っていてもらってもいいかな。」
「了解。」
私は応接間らしき部屋へ通された。赤羽さんと向かいあって座る。
「これから陽乃さんに少しだけ質問をします。まぁ、大したものではないからリラックスしていてください。まず一つ目。この組織に入ろうと思った理由は?」
「絋さんの言葉に共感したからです。」
「嘘だね。他にあるでしょう?陽乃さんは絋と同じような類の人間ではないと思うのだけれど。」
怖い。私は絋さんに初め「私のことを理解しているかのように振る舞っている」と感じて嫌悪した。赤羽さんの場合、そうではないのだ。この人の場合は私を本当に見透かしている。彼の観察眼、洞察力に恐怖を覚えた。
「ああ、ごめんね。リラックスしてくれていいんだよ。別にこれから陽乃さんのことをとって食おうってわけじゃないのだから。」
そういう所が怖いと思うのだが。
私は確信した。この人には敵わない。私が嘘をつこうものなら、この人はすぐさまそれを言い当ててしまうだろう。正直に言う方が楽であると悟った。
「何となく、です。燃えたから。或いはデメリットを感じられたから。ある種の挑発を感じたからかもしれません。自分でもよく分かっていないのですよ、本当の所は。彼の言葉に共感したというのは半分嘘ですが、興味は持っています。」
赤羽さんはクスッと微笑んだ。
「なるほどね、結構だよ。では二つ目。俺のことがどういう人間に見える?」
またどうして返答に困るような質問をするのか。諦めて素直に答えることにした。
「敵対したら絶対に勝てない人だと思いました。」
彼は純粋な瞳のまま、少し馬鹿にするように、こう言った
「まあ、そうだろうね。ーーーしかし、陽乃さんは賢い方だと、俺は思うんだよ。正直、絋のことが頭悪く感じられたでしょう?あなたは飲み込みも諦めも早い人だと読んだ。組織においては忠誠心が低い反面、扱いやすい人だと言えるのかもしれないね。理由、聞きたければはなすけれど、どうする?」
「遠慮しておきます。私は赤羽さんのような超人になりたいわけではありませんから。」
「質問、これで終わりにするつもりだったのだけれど、もう一つだけ追加してもいいかな。」
「・・・何でしょう。」
「どうして絋のことを下の名前で呼んでいるの?」
どうよら赤羽さんは素直な性格な人ではないらしい。憶測ではあるが、この人は絋さんのことになんか塵一つほども興味はないのだろう。私は彼が質問した意図を汲み取って回答することにした。
「さぁ、どうしてでしょう。これもきっとなんとなくですよ。赤羽さんを名字で呼んでいるのは私なりの敬意です。ですので、赤羽さんが望まないのなら変更致しますよ。」
「そう。じゃあお願いするよ。もっと砕けた話し方で話して。出来たらファーストネームで呼んで。」
「分かった、千尋さん。本当にいいのね?」
「うん。当たり前じゃないか。俺がお願いしたのだから。」
「お願いだなんて、冗談でしょ?あれは命令だと解釈したよ。」
私は少し笑って見せた。この観察眼、洞察力お化けとは気が合いそうである。
「よろしくね、陽乃さん。さて、そろそろ絋の所へ行こうか。」
「こちらこそそよろしく。そうね、待たせてしまっているものね。」
二人は部屋を出ていった。