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科学は万能だった  作者: はかぜ
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絋さんの言っていた喫茶店にはいった。彼は入ってすぐの分かりやすい場所にいた。


「こんにちは。君なら来てくれると思ってた。」


彼は眩いと思えるような笑顔でそう言った。


「こんにちは。私もあの話には興味がありますので。」

「そっか・・・僕は八王子絋と言います。君の名前も教えてもらいたいのだけど、いいかな?」

「神田陽乃です。」


ここで彼は一回深呼吸をした。それは何か、覚悟を決めているように見えた。


「陽乃さんは、僕と同じ考えを持つ人間であるという認識でいいのかな?」

「・・・仰っている意味が分かりません。」


まぁ、嘘だけど。粗方同じ倫理観であるかどうかの確認を取りたかったのだろう。しかしあまり好きではないのだ、こういうのが。他人を勝手に仲間ときめつけ、初対面であるというのに二言目には「分かるでしょ?」というこの態度が。この人は私の何を知っているというのだ。この国の空気を読むだとか、はっきり言わない文化は嫌いだ。

つまりこれは個人的に好かなかったという独善的な理由による、意図的な嫌がらせだ。意地悪だ。


「言い方を変える。今の日本に人間はいると思うか?これを人間と呼べると思うか?」

「思いませんね。不死身の生物なんて存在していいはずがない。」


彼は神妙な顔をしてうなずいた。


「そうだよね。人間は意識を持ち、思考する生き物だ。人間にとって死が唯一の救済だと思わないか?」


思わないかな、私は。絋さんは私では想像も及ばぬレベルで苦悩したのだろうか。基本的に何も考えたくない性分の私には、この考えは理解しかねる。

ただここで彼の意見に対して口に出して反対するという野暮なことをするつもりはない。


「芥川でしょうか。人間は神に成り下がってしまったということなのですね。」


小説家、芥川は神に対して、それらが自殺できないことを同情している。そして彼もまた自ら死を選んだ者の一人だ。


「なんだ、知ってたんだね。じゃあ命が尊ばれていた時代のことも知っているわけだ。」

「軽く、豆知識程度にしかしりませんよ。戦争というものは、科学技術の進んでいない当時の人類、民意に平和至上主義をもたらしたそうではないですか。」

「そういう世界にしたいとは思わないか?」

「思います。」


これは嘘ではない。自分は真剣にそう思っているということを、私は瞳で語った。


「僕と、僕と似たような考えを持つ人で組織を作った。名前は”Save the world"だ。具体的な目的は国民の遺伝子情報を管理する施設を壊すことだよ。僕は本気だ。」

「なかなかに面白い考えではないですか。しかし何でも、あの施設は政府が莫大なお金を掛けて守っているらしいですね。果たして、そんなことが可能なのでしょうか。それこそ、本当の意味で殺されてしまうかもしれませんよ。」


本当の意味で殺されるーーーそれは呼吸を止められ、その後永遠に復活されない。本当の意味での死である。


「ははっ・・・そうかもね。でも別にそれならそれでいいよ。僕は・・・




こんな世界で飼い殺されるかのように生きているくらいなら、死を切望する。」


目の前のこの男を見て私はぞくっとした。

彼は、最初に見たときは爽やかで物腰柔らかい優男のように見えた。それは間違いである。


瞳孔を開き、口角だけ上げている彼が醸し出しているのは紛れもない殺気。狂気じみていると言えるかもしれない。そんな表情をする人が爽やかで物腰柔らかい優男なわけあるだろうか。


「組織への加入を希望します。」


この組織のやろうとしていることは私の理想にも叶っている。一見無謀とも思えるようなことでも、まず始めてみることが大切なのだ。それでもだめだったらだめだったでいい。ーーーと私はおもう。私は諦めの良さについては一級品なのだ。無理なものは無理だって割りきれる・・・絋さんは違うだろうけど。

デメリットは何もない。それなら入ってみてもいいのではないだろうか。


彼は満足気に笑っている。先ほどまでの迫力はもうどこかへ行ってしまったようだ。


「よろしく、陽乃さん。僕のことは好きによんでくれて構わないから。」

「ええ。よろしくお願い致しますね、絋さん。」

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