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老兵は死す  作者: ナオ
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老兵は思い出す

 遠方から爆雷の音が鳴り響く。腹に響くその音に顔をしかめつつ老兵は目の前にいる少年兵と会話を続ける。


「儂等が若い頃はこんな戦争はなかった…だが人間の強欲さがこんな状況を呼んじまったんだろうなぁ」


「へぇ、じいさんが若い頃ってどんな感じだったんだ?戦争がなかったってとてもじゃねえけど信じらんねぇよ」


 少年が生まれた頃、すでに彼らの国は隣国と開戦していた。それは別の国同士の争いが飛び火したものであり、国のお偉いさん方からしたら、国益を兼ねて始めたものだったのだろう。少なくとも最初の数年までは。


 いつのまにか戦争は5年を超え、10年を超え、20年目に突入していた。核以外の全ての近代兵器を投入したこの大戦争は、少なくとも数年で終わるものと見積もられていた。しかしその予測は大いに外れることとなった。


 隣国間での牽制や同盟の締結、破棄。すでにどの国が味方で、どの国が敵かも戦っている兵士たちには、いや国民たちにはまともに分かっていないのかもしれない。


「同じ軍服を着てない奴は基本的に敵だって教えられたぜ?」


 教育はおざなりになり、若い世代は思考力を低下させられた。国は命令に従う駒だけを是とし、それ以外を徹底的に排除したのだ。


 彼らはかつて世界がインターネットという1つの技術によって繋がっていたことを知らない。情報は忌むべきものとして真っ先に規制されてしまったからだ。


 彼らはかつて思想や表現が自由であったことを知らない。自我というものは規律を乱すきっかけになりうるものだからだ。書物の検閲が行われ、デモ活動は軍部に完全に禁止させられたのだ。


 彼らはかつて自国が何をしてきたかを知らない。学ぶべきは敵を殺す、命をかけて国家に貢献するという思想のみであり、過去を振り返るのは無意味だと政治家たちが若者から学ぶ機会を奪い去ったからだ。


 目の前にいる少年はまさにその象徴と言えるだろう。愚かなほどに自主的に物事を考えるという行為をしない。他者に自らの命を委ね、死ぬことすら厭わない。どんなに老兵が矛盾を感じようとも、彼らはそれが正義であると信じて疑わず、結果死んでいく。多くの若者が命を落とした。だがもはや誰もそのことに疑問を持たなくなっていた。皆、人が死にすぎて心が麻痺してしまったのだ。


 老兵が再び銃を手に取ったのはお国のためという義務感ではなく、若者たちへの罪悪感からである。老兵は今年70になる。かつては政治家となり、国の政治を司るのに一役買ったことすらあった。


 だが彼は増長していた。自分の手にある物があまりにも眩しすぎて、未来よりも現在を優先してしまったのだ。結果、戦争が始まった。初めは順調だった。戦時中の特需により、利益を得た彼らは戦争から脱するのに失敗した。


 戦争に巻き込まれたことにようやく気がついた彼らが次に取ったのは、休戦を目指すのではなく、責任問題のなすり付け合いだった。そして老兵はそのうちの一人として選ばれ、多くの人々の憎悪を一身に受けることになった。


 だが彼はまだ再起を図ろうとしていた。目が覚めたのは自分の息子と娘が徴兵された時だ。政治家であった自分はその埒外にあると無意識に考えていた。だがそうではなかったのだ。そうなって初めて自分がいかに傲慢な存在であったかを理解した。


 二人が死亡したという連絡を受けたのは、それからたった一年後だった。だが絶望はまだ終わらなかった。まだ10代半ばだった孫にまで徴兵令が出されたのだ。技術が発展した結果、戦争はよりゲーム性を帯びてきた。そのため、若い世代の中でもとりわけ、卓越したゲームの腕を持つ者が集められることになったのだ。そして孫の戦死を告げられたのはその僅か二ヶ月後のことだった。


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