植物怪人 騎士編
「はぁ、はぁ……」
若く、銀の鎧を纏った女性、騎士は重い甲冑の金属音を鳴らしながら、ぬかるんだ地面を必死になって走っている。
記憶を失い、突如現れた、人間と植物を掛け合わせたような人外から逃げようとしているのだ。
「はっ……はっ……はっ……!」
後ろを一瞬だけ見て様子を伺う。
人外は騎士だけを見つめてひたすら歩を進めている。
相手が僅かに足が速いからか徐々に、じっくりと距離を詰めていく。
そして二人の距離が手を伸ばせば届きそうな所まで来た時、異形の右手が鋭い木製の刃になり、彼女の背中を切り付けた。
「ガァッハ⁉」
鎧、インナーを一気に切り裂き、騎士の体に大きな切り傷が生まれ、そこから血がドクドクと流れだす。
凄まじい痛みに彼女は出した事の無い声を出すが、それでも痛みを堪えてひたすら走る。
一方、植物怪人は刃になった自分の右手を見つめていた。すると、真っ赤に染まった血濡れの刃は一瞬で元の色に戻り、その後に、手の形に戻る。それを確認すると、今度こそ獲物を仕留めようと、再び迫っていく。
怪人が手を見ていたからか再び二人の間に距離が生まれる。しかし、再び斬りつけられるのも時間の問題、そこへ
「騎士さん!」
走る両者の間に治癒師が割って入る。
「せいっ!」
治癒師が手に持っていたカンテラを相手の顔目掛けて投げつけた。
「オオオオオオオオ⁉」
怪人は顔が火だるまになり、腕をやけくそに振り回しつつ辺りをウロウロしだす。やがて、顔の火が鎮火すると、辺りを見渡す。当然、二人の姿はもう無かった。
「大丈夫ですか?」
怪人を撒いて、逃げて行った先にあった家屋に隠れた二人。家屋はそこそこの大きさだが
「ああ、だが君は逃げろ。奴が私を追ってくる可能性があるからな……」
そう言って立ち上がると
「ぐっ……!」
背中の傷の痛みに顔を歪める。
「怪我してるじゃないですか!」
「これぐらいなら……!」
「いいえ! 今助けます!」
騎士の有無を言わさず治癒師は彼女の後ろに回り無理矢理しゃがませると傷の治療を始めた。
「治療が出来るのか?」
「本頼みですけど……」
騎士の疑問にページをめくりりつつ返すと、開いた本を左手にポケットから薬草を取り出し、傷口に塗っていく。
「もう、無理はしないでくださいね」
「ああ、すまない……」
騎士は背中をさすりながら立ち上がる。
「どうですか?」
「楽になったよありがとう」
騎士は彼女に頭を下げ、家屋を出て行こうとした。
「そういえば、赤色の箱は見ましたか?」
「箱?」
治癒師の言葉に足を止め、耳を傾ける。
「はい、さっきのカンテラもその中に入ってたんです」
「じゃあ、箱は調べる。だな」
「待って下さい!」
治癒師に背を向けてままで話を聞き始める。
「一緒に行きませんか⁉」
「いや、それは出来ないな」
「この装備だ。動けば嫌でも音が出る」
「脱ぐというのは……」
「いや、音が出れば奴の気を逸らす事が出来る」
「……危険すぎます!」
「だからだ、君は脱出の手段を確保してはぐれた二人を見つけて欲しい」
「……」
治癒師はそのまま俯いてしまう。
「人は必ず守れ。そうしなければいけないような気がするんだ。……記憶も無いはずなのにな」
乾いた笑いを発すると、治癒師は真剣な眼差しで顔を上げた。
「分かりました。でも……絶対に負けないで下さい!」
「ああ、そっちも気を付けるんだぞ」
「まずは、箱か……」
辺りを警戒しながら独り言をつぶやく騎士。
すると彼女の視線の先に地面に何かの図形が描かれた円を見つける。
「これは……魔法陣?」
「あっ! 騎士さん! 丁度いい所に!」
「戦士!」
戦士は騎士に気が付くと手を振りながら、足元の何かをひたすら踏み続けていた。
その姿が気になった騎士は早速聞きだす。
「何をしているんだ?」
「さっき、出口みたいな所でこれと同じ魔法陣を見たんだ!」
「出口⁉ どっちに!」
「あっち! でも、開いてなかったよ」
別の方向を指差しつつ、地面の赤く妖しく輝く陣を踏み続けている。
「同じ物を全部壊せば出られないかなって」
「なるほど、やってみる価値はあるな。手伝おう!」
戦士の考えに乗って、彼女もまた足元の魔法陣を消す様に踏んづけ始めた。
「せい! せい!」
「ふっ! ふっ!」
声を出しながら陣を踏み続けていると、ヒビが入るような嫌な音が二人の耳に入る。
「……! もう少しだ!」
「うん!」
ヒビは大きくなっていき、それはやがて大きな亀裂になっていく。そして
パアアアアアアアアアン……!
ガラスが割れるような音と共に半透明になった魔法陣が粉々になって宙に舞って消えた。
「……!」
「ヤッター! 壊れた!」
魔法陣の消滅に飛び跳ねるほど喜ぶ戦士とは逆に騎士は焦っており戦士に向かって言う。
「ここを離れるぞ! 奴が来る!」
「何で?」
「こんな大音量だ。それに大事な物なら確実にここに来る!」
騎士は一歩でも離れようと、動きながら自分の推測を語る。
「そうか! 分かった!」
納得した戦士もまた、騎士とは反対の方向を向く。
「そうだ! 最初に逃げた子は?」
村人の事を思い出し振り返って騎士に質問を投げかける。
「……すまない。見つかってないんだ」
「じゃあ、見つけたら教えてあげるよ!」
「私も連絡する」
その言葉を最後に二人はお互いとは反対の方向へ走り出そうとしたその時。
アアアアアアアアアア!!
森中に響くほどの断末魔が鳴る。
「誰かが……!」
「君は魔法陣を! これは私が調べる!」
「わ、分かった!」
ステータス紹介
治癒師(17)
体力:2 速さ:2 器用:4 耐性:4
気質:心優しき癒し手
性格:献身的 心配性 強い心