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81話 おやつは三百円までです

前回更新の80話は、一度書きかけをアップしてしまったものに追加して再アップしてます。

もうほんと申し訳ないです。

「も、もしかしてエルネスも遺跡内の位置関係とか歩いてるだけでわかるの?」

「は? できるわけないじゃない。野獣たちと一緒にしないでよ」

「あ、よかった。こっちではそれが標準なわけじゃなかったんだ……」


 魔法陣を書き写し続けるエルネスにさらっと流された。そうか。野生の力なのであれば私たちがわからなくても不思議はないのかもしれない。


「なんかこいつと一緒にくくられてる気がするんですけど、僕のは訓練の賜物ですからね」

「遺跡の中そんなに探索することあるんですか」


 ここ以外にも国内に遺跡はあるけれど、それらにはヒカリゴケとか呪文の仕掛けとかはないって聞いてる。


「遺跡に限らず、洞窟内とか色々ありますから」


 よし、とメモを閉じたエルネスが、ザギルに片眉をあげて視線を送った。さっきの「何故探索しようと思ったのか」の答えを促してる。


「あーっとだな……おい、何してんだ」

「え、そろそろお茶しようかと」


 背負ってた荷物を降ろして、魔法陣を踏まないように敷物を広げてたら礼くん以外の全員に微妙な顔された。何よ。ちょっと話長くなりそうじゃないの。

 かちゃかちゃと軽い金属音を鳴らす、持ち運び用にコンパクトに重ねられるマグカップを敷物の上に並べていく。


「ティーポットまでかばんに入ってたんですね……」

「和葉、私紅茶がいい」

「ありますよー。お湯お願いします」

「和葉ちゃん和葉ちゃんおやつある?」

「チョコファッジとナッツタルトあるよ」

「チョコがいい!」


 水は魔法で出せるからね。こちらの世界のアウトドアは荷物が少なくていい。

 みんながいそいそと落ち着き始めてるのに、何故かザギルは所在なさげな顔してて。

 チョコファッジを差し出して、いらないの? と首を傾げて問うてみたら、「……いる」と不貞腐れたように受け取った。いるんじゃん。





「襲撃してきた魔族よ、モルダモーデと同じ顔だったんだろ」

「うん」


 あの顔に意表を突かれて腕を切り落とされたことは、当然みんなに話してある。顔布の下は私以外誰も見てはいなかった。

 みんな思い思いの場所に陣取って、紅茶やコーヒーで寛いでる。寛ぎすぎじゃね? 遠足すぎじゃね? って幸宏さんがさっき呟いてた。何気に一番常識人。


「でもあれは当然モルダモーデじゃねぇ。あいつは馬鹿馬鹿しいほどの再生力はあったけど血は通ってた。なのに襲撃してきた魔族は粉になって散ってっただけだ」


 格が違うって言ってたし、北の前線に出てたような魔族はあれと同じなんだろうとか、そのあたりの推測は前にも話し合ったことがある。魔族を殺すには殲滅魔法なりで消し飛ばすしかなくて、その消失を視認できたことはなかったらしいから、粉になったかどうかはわからないし、みんな顔布をつけてはいたけど、角の形や髪の色や体格は違ってたぽいから確定はできないのだけれど。


「その粉がな、あれだ。あのガラクタ、リゼが回収されていったとき、残されてた残骸。あれを拾ったとき、魔力が消える瞬間が見えたっつったろ。あのときと同じ散り方だった。ヒカリゴケそのものとも残骸とも、少し違うけど同質といってもいいくらいによく似てた。ああ、説明しづれぇな」

「そうね。その残骸は調べたけど、ヒカリゴケとは違った。まあ、ヒカリゴケそのものがなんだかわからないままなわけだけど」

「……兄ちゃん言ってたろ、なのなんとか?」

「あー」


 困り顔で頭をくしゃくしゃ掻く幸宏さんは、わかるわけじゃないってエルネスさんにも言ったけどさ、と続ける。


「ヒカリゴケは生物、じゃないと思うよ。俺らの世界でいうナノマシンに近いんじゃないかな。えーと、ひどい大きな括りで言えば蒸気機関みたいな、機械、だよ。作られたものってこと。でもいわゆる勇者の知恵由来じゃない。俺らの世界でもあんな技術はないからね」

「例えば色でいうならよ、ヒカリゴケを青として、残骸が散った時には青と黄色、あの魔族が散った時には青と赤、みたいにな、ヒカリゴケの魔力の他に別の魔力が見えた。それこそヒカリゴケを土台にしてつくられたようなものっつかな」

「リゼはオートマタ、作られた人形、で、ヒカリゴケと同じ色の発光をしてた」


 把握済みのヒカリゴケとリゼの共通点を口にすれば、それはザギルの推測に添う内容で間違いなかったらしく、ヒカリゴケと魔族との繋がりが語られる。


「俺ァ、モルダモーデの魔力も、あの魔族のも喰ってる。同じじゃないけど似てた。あの魔族は、モルダモーデとヒカリゴケを材料にしたオートマタだったんじゃねぇかって思ったわけだ」


 確かにあいつらの動きは定型的だった。

 リゼは元々古代文明の技術で作られたオートマタだって話だから、同じようにあの魔族もオートマタなら古代文明の技術だってことだし、幸宏さんのいうとおり私らの知識の外にあるものだ。

 推測でしかなくても、可能性としてはありだと思う。


「あの魔族とヒカリゴケが関係してるなら、この古代遺跡も魔族が深く関わってる。もともとあのガラクタが操作できるって時点でわかっちゃいたが、関りの深さが違うだろ。あるものを使ってるどころか、魔族の材料そのものなんじゃねぇかってのはよ。ヒカリゴケの研究は神官長サマらがしてるし、俺が手ぇ出してわかるこっちゃねぇ。でもここの探索なら俺ができる。だから試しにやってみようってな。ほんとに開くとは思わなかった」

「だからぁあ! なんでその開いた時に教えてくれないのよ! あんたはいつもいつもいつも!」

「俺だってわかんねぇからだ」


 ザギルの顔はいつもの不機嫌顔ではあるんだけど。そういう意味ではいつも通りではあるんだけど。

 ああ、なるほど。さっきから変な顔してるなって思ってたら。


「あんた、自分が扉を開けられる理由がわかんなくて不安だったの?」

「は!? 薄気味わりぃこといってんじゃねぇよ! なんだそれ! 中途半端なネタ流せねぇって話だろうが」

「そっかそっか。これは後でって思ってたんだけど、よし、羊羹あげようか」

「違ぇ! くそが! 頭撫でんな!」

「食べないの?」

「喰うわ!」


 笑い転げてる幸宏さんに剥いた保存フィルム投げつけながら、もっしゃもっしゃと羊羹齧りだしたザギルにお茶のおかわりを注いであげた。


「……やってみたらできたってのは、お前の定番だろうが。今更だ」

「まあ、そうよね」


 ふん、と鼻を鳴らしたザザさんと、すまし顔のエルネスに、ザギルは舌打ちしてみせた。


「てめぇらがそんなおめでてぇこと言ってどうすんだよ。勇者付だろうが」

「何が? 駄目なの? ザギルがそうなのが今更だなんてその通りじゃない」

「だよね」

「ぼくも羊羹食べたい」


 両手で紅茶のカップをもって、こてんと首を傾げるあやめさんの愛らしさよ。翔太君まで同じように首を傾げてて可愛さ倍増してる。礼くんに羊羹をひとつあげる。どうしてこううちの子たちは可愛い子揃いなんだろう。

 幸宏さんが笑いをおさめきれてないままに、あやめさんたちに答えた。


「ザギルはさ、警戒しろって言ってるんだよ。ザザさんたちの役割が俺らの警護と教育だから」

「何を?」

「誰も開けられないはずの扉を開けられて、敵陣、まあ、こうして寛いでるけど、謎の多い危険地帯に誘導できるなんてさ。罠だと疑われることもあるっていうか怪しまれかねないっていうかね」

「ザギルが? ううん? ザギルがザギルのことを疑えって言ってるの?」

「兄ちゃんうっせぇ」

「そっそ。ツンデレツンデレ」

「ほんっとそれむかつくな! ぐぁああ! 撫でんな!」


 後頭部撫でてあげたら吠えられたけど、振り払わないあたりがもうツンデレ言われてもしょうがないと思う。

 翔太君とあやめさんが納得顔で頷いて、礼くんは私の真似してザギルの頭撫でて。

 ザギルはがっくりと肩落として、ひどく大きなため息をついた。


「全く同じ魔法陣の広場がここの他に四か所ある。全部真上の地上に転移するやつだ。俺が探索終えたのは大体王都と裏の森全域の地下にある分。それ以上外に伸びてる通路はまだ行けてねぇ」

「広いねぇ」

「そりゃ俺がロブたちと最初にここまで来るときに使った入り口自体、結構遠いところだかんな」

「そういやそうか。徒歩で一日半かかるとこって言ってたっけ」

「真上の地上に一方通行とはいえ転移できる魔法陣があるんだ。この近くまで北から魔族が徒歩で来るわけねぇだろ」


 そりゃそうだ。魔獣大量に引き連れて徒歩で遠足とかないな。


 国内にある様々な古い建物にはよくいると言われているゴースト。その全てがリゼではなかろうが、王城に現れたのと同じように、地下に遺跡があり建物の内部につながる通路なりがあったのかもしれない。

 モルダモーデと初めてまみえたあの森は、王城から馬車で数時間ほどの場所。あの地下にもこの古代遺跡とつながる道と転移陣があるのだろう。だから唐突にあの場に現れた。


 どうかすると遺跡の道は北の前線を超えていくほどに張り巡らされているのかもしれないが、外につながる転移陣を設置してるのに、直接遺跡の中にショートカットで跳べる機能がある転移陣をもってないと考える方が無理がある。


 大陸中にあるといわれる古代遺跡。魔族はそのどこにでも姿を現すことが本当はできるのだろう。今までやらなかっただけで。


 ……前線を押し下げてこないのは当然だ。陣取りなどなんの意味もない。いつだって魔獣を従えた軍団を大陸中どこにでも放り込めるのだから。


 なんて傲慢かつ不遜な輩なんだ。魔族だか魔王だか知らないが鼻っ柱をめりこませてやりたくなる。


「見つけたの?」

「違う魔法陣のある広間が、このもう少し先にある。他の転移陣と同じように魔獣ひっぱって陣踏ませたけど、どこに出ていったかは感知できなかったから、俺もまだ踏んでねぇ。一応王都周辺全域の地上確認したけどいなかった」

「魔族の拠点、なんなら本拠地行の魔法陣かぁ」

「可能性は高いな。跳んだら魔王とご対面かもしんねぇぞ」

「あんたはそれを一人で試すつもりだったわけだ」

「試さなきゃわかんねぇからな。わかったとこまでは全部記録してるし図面付きで残してある。俺が戻らなかったら氷壁んとこに届くように手配してあった」

「なんでザザさん宛!? そこは私宛じゃないの!?」


 おかしくないか? 主なのに!


「……お前地図読めんのか?」

「読めるわ!!!」

「どこに出るか次第だけどな、情報持って帰ってこれる確率が一番高いのは、俺が一人で調べにいくことだ。―――どうすっかお前らが決めな」


 お前らが、と言いながら、ザギルはザザさんへと視線を定めている。

 一人で行こうとしてたくらいだもの。私たちを連れていくのは反対なんだろう。間違いなく反対派に回るであろうザザさんに指揮を委ねるのは自然といえる。

 ザザさんはその視線を真正面から受け止めて、何の表情も見せずに騎士団長の顔を崩さなかった。


「何をどうするのでもまだ準備が足りん。一度城に戻る」

「えっ、帰るの!? せっかくおにぎりも持ってきてるのに!?」

「どんだけ遠足気分だったの和葉ちゃん!」





「おにぎりおいしいいい!」

「塩加減絶妙な。さすが」

「ねえ、この佃煮、昆布?」

「昆布じゃないですけどね。山菜に昆布に似たやつあるんですよ。出汁にも使ってますよいつも」

「和葉ちゃん、梅干しって作らないの?」

「まだ手つけてないんですよ。梅というか杏というか、それの旬がそろそろらしいんで作ろうと思ってるんですけどね。みんな好きですか? 梅干し」


 翔太君と礼くんは食べられるけど、あえては選ばない程度で、あやめさんと幸宏さんは割と好きらしい。それでも手伝いを頼むと礼くんが張り切って頷いてくれた。


「これがカズハが探し求めてたコメ? 塩だけでも随分甘味があって美味しいのね」


 エルネスが上品に食んでいるのは塩にぎり。ザザさんとザギルは肉巻きおにぎりをもくもくと食べている。

 納得できる米は、一昨日教国から届いた三種類の米の中にあった。思わず勝鬨をあげたよね。厨房で。


「もち米をつくってる地方の近くで生産してたんだけどね。あの辺りは私たちと食文化が近いのかもねぇ」


 行先不明の転移陣を使うかどうかはとりあえず置いておいて、辺りの魔獣掃除をやりきってしまうことにしようとザギルの監督のもと結構な数を斬り捨てた。

 私は常に首根っこ掴まれたままで働かせてもらえなかった。酷すぎる。


 今はまたお茶していた転移陣、訓練場下の広間に戻っておにぎりタイムだ。


「あちらで召喚された過去の勇者には、カズハたちと同郷の方もいたのかもしれないわね」

「多分そうじゃないかなぁ。味噌とか、調味料ね、調べてみたらやっぱり発祥がその辺りらしいんだよね。気候とか色々条件が揃ったんじゃないかな。あっちは」

「この国は、カズハたちの国の文化とはかなり違うの?」

「影響の強さというか共通点が多いのは、違う国のものだね。ただ、私らのいた国はさ、ここと同じように異文化を取り入れることに抵抗がないというかアレンジしていくのが得意な国だったのよ。だからこの国の文化だって身近というか馴染みはちゃんとあるよ」

「なるほど……カズハの国ではバレエを職業にしたりしないの?」

「うん? するよ? まあ、それだけを生業にできるのは一部の人たちだけどね」

「カルメン、っていった? あれ素晴らしかったわ。あんたあんなに踊れるのにもっと上がいるってことなの? 文化がかなり違うのならバレエは職業にならないのかと思ったのだけど」

「ああ。そりゃあ、勇者補正の身体能力があるからね。向こうにいる時同じように踊れてたわけじゃないもん」


 指に残る米粒を唇でつまむエルネスは少し納得いかなそうな顔している。エロい。

 身体能力の違いだけとも思えませんけどねぇ、と呟いたザザさんに顔を向けたら「すぐに連れ帰りたくなりましたから」なんて、やだもうちょっとこの人、私殺しにきてる。


「勇者補正の能力だけなわけないじゃん」


 ぽりぽりとカリッツァの浅漬けを齧る翔太君。


「そりゃ勇者補正のおかげで僕らは思いのままに身体を動かせるよ? 僕だって前以上に楽に思い通りに演奏できてるし。でも、だったらさ、みんなだって僕と同じように弾けたり和葉ちゃんと同じように踊れてなきゃおかしいでしょ」

「だよなぁ。俺、教えられた通りになぞることはできるけどやっぱり違うもんな」

「ピアノ習う女の子ってさ、小さい頃はバレエも一緒に習ってる子多いんだよ。本格的にやるならどっちかに絞ったりするんだけど」


 まあ、そうだね。何せ女の子人気の習い事上位にはいるし。両方とも。でもどちらも毎日のレッスンが必要だから本腰いれるならどちらかを選ばないといけない。


「母さんのママ友にはさ、娘がバレエやってた人とかもいてね、だから僕も少しは聞いててわかるんだけど。和葉ちゃんは育ててもらえなかっただけでしょ?」

「いや……そんなわけでも、ないと、いうか」

「あ、あー……もしかしてアスリート育てるには家族ぐるみの協力がいるとかそういうのと同じか?」


 つい口ごもってしまうのだけど。いや、本当に才能があったとは思わないし、プロ目指したこともない、のも本当、なのだけど。

 翔太君はなんでかちょっと不満そうな顔しながら、口をとがらせて浅漬けをまたぽりぽり言わせて幸宏さんに頷き返してる。


「子どもの頃は引っ越しであちこち転々としてたって言ってたじゃん。ピアノもそうなんだけどさ、いいトコいくためにはコンクールで入選するとか、それなりの舞台に立たなきゃ認めてもらえないんだよ。んで、舞台にあがるのだって誰でもあがれるわけじゃないし。僕だって教室に通ってるだけじゃなくて有名な先生に個別レッスン受けたりしてたけど、コネ使いまくってやっと受けれるんだ。引っ越しで教室転々としてたんならバックアップしてくれる先生だってつかなかったでしょ。いいトコいくためには絶対に育ててくれる人が必要なんだ。まあ、うちの母さんは育ててはぶち壊しの繰り返しだったけど」


 ぷはぁと、マグカップのお茶を一息で呑んで「腹立つんだよね」と続ける翔太君。


「もったいなくてさ。和葉ちゃんは環境さえあれば絶対にいい線いってたはずだもん。わかるよそのくらい。天才は天才を知るっていうでしょ」

「おい翔太お前なんでいきなりかっこよくなってんの!? ずるくない!?」

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